Novel Prize

ノーベル賞の科学部門3賞 (物理学賞、化学賞、医学生理学賞) に関するトピックスを集めてみました。

 

Date: 2020/10/11
Title: 2020年のノーベル物理学賞は英米独の3氏に ― ブラックホールが受賞対象
Category: 物理


10月6日に今年のノーベル物理学賞の受賞者が発表された。

受賞するのは英オックスフォード大学のロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)名誉教授と独マックス・プランク地球外物理学研究所のラインハルト・ゲンツェル(Reinhard Genzel)教授、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のアンドレア・ゲズ(Andrea Ghez)教授の3名だ。受賞理由は、ペンローズ氏に対しては「ブラックホール形成が一般相対性理論の確固たる予測であることの発見に対して(for the discovery that black hole formation is a robust prediction of the general theory of relativity)」、ゲンツェル氏とゲズ氏に対しては「銀河の中心にある非常に重くてコンパクトな天体の発見に対して(for the discovery of a supermassive compact object at the centre of our galaxy)」というものだ。


去年の4月に史上初めてブラックホール撮影に成功したということが発表されて大きな話題になっていたので、今年のノーベル物理学賞はブラックホールに関係する受賞者かなという気がしていたが、受賞者の顔ぶれは、予想を裏切るものだった。ブラックホール初撮影という快挙を成し遂げた国際研究チーム「EHT: Event Horizon Telescope」の関係者からは誰も選ばれなかったのだ。今回の賞は、ブラックホール理論の基礎をつくったペンローズ氏と、銀河の中心にある超大質量ブラックホールの先駆的観測を行ったゲンツェル氏とゲズ氏に送られたのだ。たしかに、彼らの先駆的研究がなかったら、EHTチームの偉業もなし得なかったのかもしれないので、今回の受賞者の顔ぶれは納得いくものだ。特にペンローズはブラックホールの存在を数学的に証明したことでも知られ、今まで受賞していなかったのが意外なくらいだ。


1915年にアイシュタイン(Albert Einstein)が発表した一般相対性理論のアインシュタイン方程式(重力場方程式ともいう)の解の1つとして現れるのがブラックホールだ。この方程式を最初に解いたのが、ドイツの天体物理学者シュバルツシルト(Karl Schwarzschild)で、静止している球対称のブラックホールを表すものだった(シュバルツシルト解という)。その後、1963年にニュージーランドの数学者カー(Roy Kerr)は回転しているブラックホールの解を発見した(カー解)。ただ、このような解は、均一で等方な宇宙という仮定や、完全な球形というブラックホールの仮定という極めて理想的な条件下で得られるもので、混沌とした現実の宇宙では生じないという見方もあったし、アイシュタイン自身もブラックホールの存在を信じていなかったようだ。


これに対してペンローズは、そのような理想的な条件を考えなくても正のエネルギーがあればアインシュタイン方程式には普遍的に特異点が生じる、つまりブラックホールは普遍的に生じることを数学的に厳密に証明したのだ(特異点定理)。さらにホーキング(Stephen William Hawking)はペンローズとともにこの定理を宇宙に当てはめ、宇宙初期の特異点の存在などを証明した。そのため、この特異点定理は「ペンローズ=ホーキングの特異点定理」とも呼ばれるのだ。もしホーキングが存命だったなら(彼は2018年に亡くなった)、今回の受賞者はペンローズとホーキングと他に1人ということになったかもしれない。


一方、天の川銀河の中心方向から電波がやってきていることに気が付いたのは、アメリカのベル研究所の無線技術者カール・ジャンスキー(Karl Jansky)で、1930年代初頭のことだった。その後、1974年に、米国立電波天文台の電波干渉計による観測で、天の川銀河の中心に電波で明るく輝く非常にコンパクトな電波源が見つかった。そしてこの電波源が巨大ブラックホールである可能性が指摘されるようになった(この電波源は1982年頃から「いて座A*(いて座エー・スター)」と呼ばれるようになった)。


1990年台になると、ゲンツェル氏とゲズ氏をリーダーとする米独2つの研究チームが、大型の可視光・赤外線望遠鏡を使って、天の川銀河の中心いて座A*付近にある多数の天体の動きを約10年という長期にわたって観測を行った。そして軌道の解析からそれらの天体はきちんと楕円軌道を描いて回っていることがわかった。特にS2と呼ばれる天体はいて座A*の周りを公転周期16年未満で回っていて、いて座A*に最も近づいた時の距離はわずか”17光時”(光時は光が1時間で進む距離。17光時は約120AU、つまり太陽から地球までの距離の120倍)であることがわかった。その後の観測や、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)を中心とした研究グループなどによる研究で、いて座A*の質量は太陽質量の大体400万倍程度と見積もられている。これらの結果から、天の川銀河の中心には、大質量ブラックホールがあるのは間違いないと考えられるようになってきたのだ。


この観測結果を踏まえて、2010年代に入って世界中の多数の電波望遠鏡を連携させて、地球サイズの口径の望遠鏡を実現する国際共同プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」で銀河中心の巨大ブラックホールの観測が試みられた。そして、昨年発表された、地球から5500万光年の距離にある、おとめ座銀河団の楕円銀河M87の中心にある巨大ブラックホール(質量は太陽質量の65億倍)の影(ブラックホール・シャドウ)の初撮影成功につながったのだ。なお、EHTを使って天の川銀河の中心にある、いて座A*の巨大ブラックホールの撮影も試みられており、現在も解析が進められているようだ。


EHTによるブラックホール初撮影という快挙は今回の受賞対象にはならなかったが、将来この結果に基づく研究が進んだとき、これが先駆的研究として受賞対象になるのかもしれない。それを期待しよう。


関連記事はこちら。

日経サイエンスの記事:

http://www.nikkei-science.com/?p=62392

日経電子版の記事(1):

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64685950W0A001C2CR8000/

日経電子版の記事(2):

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64699360W0A001C2000000/

ノーベル財団Webサイトのサマリー:

https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2020/summary/

ノーベル財団Webサイトの記事:

https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2020/popular-information/

Date: 2017/10/03
Title: 2017年のノーベル物理学賞は米国の3氏に - 重力波初観測が対象
Category: 物理


今年もノーベル賞の季節を迎えた。昨日の生理学・医学賞は残念ながら日本人の受賞はならなかった。

今日は物理学賞の発表だが、スウェーデン王立科学アカデミーは、米マサチューセッツ工科大学 (MIT) 名誉教授のレイナー・ワイス (Rainer Weiss) 氏、米カリフォルニア工科大学 (Caltech) 名誉教授のバリー・バリッシュ (Barry C. Barish) 氏、同大名誉教授のキップ・ソーン (Kip S. Thorne) 氏の3氏に授与すると発表した。

去年、重力波の直接観測に初めて成功したので (観測自体は2015年に行われ、2016年に重力波の初観測に成功したということが確認された) 、今年のノーベル賞は重力波が受賞対象になるかもしれないと思っていたが、予想どおり、今年のノーベル物理学賞は重力波の初観測に成功したLIGO (Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory、米国のレーザー干渉計重力波検出器) プロジェクトのリーダーであった三人が選ばれた。

受賞理由は、"for decisive contributions to the LIGO detector and the observation of gravitational waves" (LIGO検出器と重力波の観測への決定的な貢献に対して) ということだ。

以前にも書いたが、LIGO で初観測に成功した重力波は、約13億年前に起こった2つのブラックホールからなる連星が合体したことによって発生したものだった。合体した2つのブラックホールの質量はそれぞれ太陽質量の29倍と36倍で、合体によって太陽質量の3倍ものエネルギーが重力波に変換されたという。この時に放出された重力波が地球に到達し (地球に到達する頃には微弱な波に減衰してしまっている) 、LIGO によってその微弱な重力波が検出されたのだ。これによって、100年前のアインシュタインからの「最後の宿題」である重力波の直接検出に成功したのだ。

それだけでなく、この重力波の直接観測の成功は、電磁波や宇宙線、ニュートリノなど、これまでの宇宙の観測手段に重力波が加わり、光では見ることのできないブラックホールの観測など「重力波天文学」という新たな学問領域の始まりでもあるのだ。

残念ながら、物理学賞は日本人の受賞はならなかったが (そういつもいつも日本人が受賞するわけではないし、期待しすぎという気もするが) 、明日は化学賞の発表だ。今年は誰が受賞するのかな?

関連記事はこちら。
ノーベル財団のプレス・リリース:
https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2017/press.html
LIGO の記事:https://www.ligo.caltech.edu/news/ligo20171003
日経電子版の記事:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21841750T01C17A0EA2000/?dg=1&nf=1

Date: 2016/10/06
Title: 2016年度のノーベル賞 ― 化学賞は欧米の3氏に
Category: 化学


2016年のノーベル化学賞が発表された (残念ながら日本人ではなかった) 。

受賞したのはJ.-P. ソバージュ氏 (Jean-Pierre Sauvage、仏ストラスブール大学名誉教授) 、J. F. ストッダート氏 (Sir J. Fraser Stoddart、米ノースウェスタン大学教授) 、B. L. フェリンガ氏 (Bernard L. Feringa、蘭フローニンゲン大学教授) の3氏で、受賞理由は「分子機械の設計および合成 (for the design and synthesis of molecular machines) 」というものだ。(ノーベル財団のHPより)

3氏がつくりだした分子機械とは、これまでの微細加工された部品からなる小さな機械よりはるかに小さく (髪の毛の太さの1000分の1ほど) 、有機化合物などの分子を組み合わせて作られた機械なのだ。

分子機械の第1歩は、1983年にソバージュ氏によってもたらされた。彼はリング状の分子を2つ組み合わせて「カテナン」と呼ばれる鎖状の分子集合体を作ることに成功した。通常、分子は原子が電子を共有する共有結合によって強く結びつけられているが、この鎖状の分子集合体では、分子はより自由な機械的結合によって結びつけられているという。分子の集合体が機械として機能するためには、お互いのパーツが相対的に動くようになっていなければならないが、彼が作り出した2つの輪はこの要求を満たすものだったという。

第2のステップは、1991年にストッダート氏が開発した「ロタキサン」という分子集合体によってもたらされた。これはリングに軸を通したような構造の分子集合体で、軸に沿ってリングをエレベーターのように上下に動かすことができるものだった。ロタキサンをベースに彼が開発したものには、「分子リフト」、「分子筋肉」、「分子ベースのコンピューター・チップ」があるそうだ。

最後に、フェリンガ氏は1999年に史上初めて「分子モーター」を作製したのだそうだ。これは分子の回転翼が同じ方向に連続的に回転するもので、彼はこの分子モーターを使って「ナノカー」も設計したという。

ノーベル財団のプレスリリースによると、分子モーターは、現状では1830年代の電気モーターと同じ段階にあるという。当時の科学者は、電気モーターがその後電車や洗濯機、ファンなど、様々な機器へとつながることに気がつかなかった。分子機械は、新素材やセンサー、エネルギー貯蔵システムなどの開発に使用される可能性が最も高いという。

関連記事はこちら。
ノーベル財団のプレス・リリース:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2016/press.html
日経サイエンス:http://www.nikkei-science.com/?p=51312
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3103358?act=all

Date: 2016/10/05
Title: 2016年度のノーベル賞 ― 物理学賞は米国の3氏に
Category: 物理学


2016年のノーベル物理学賞が発表されたが、残念ながら日本人の3年連続受賞はならなかった。

受賞したのは米国の3人の物理学者 (3人とも英国出身) 、D. J. サウレス氏 (David J. Thouless、米ワシントン大学名誉教授) 、F. D. M. ホールデン氏 (F. Duncan M. Haldane、米プリンストン大学教授) 、J. M. コステリッツ氏 (J. Michael Kosterlitz、米ブラウン大学教授) で、受賞理由は「トポロジカル相転移と物質のトポロジカル相の理論的発見 (for theoretical discoveries of topological phase transitions and topological phases of matter) 」によってというものだ。(ノーベル財団のHPより)

3氏は超伝導体や超流動体、磁性薄膜などの物質の相をトポロジー (位相幾何学) という数学理論を用いて研究し、エキゾチック物質と呼ばれる奇妙な性質を持ち得る未知の物質への扉を開いたのだ。
3人のうちコステリッツ氏とサウレス氏は、1970年代初め、超伝導の研究にトポロジーの考え方を導入して、それまでの2次元薄膜では超伝導は起こらないとしていた考えを覆した。さらに、低温で生じた超伝導状態が、高温になると常伝導になる相転移を説明することにも成功した。

さらに、サウレス氏は1980年代に、「量子ホール効果」と呼ばれる現象をトポロジーの考えを導入して説明することに成功した。量子ホール効果というのは、半導体と絶縁体の界面やヘテロ接合など、非常に薄い導電層 (2次元電子系と呼ばれる) に対して、極低温で強い磁場をかけると、電気伝導率 (ホール伝導率と呼ばれる) が整数倍のとびとびの値をとる (量子化されている) 現象なんだが、その理由はよくわかっていなかった。サウレス氏はトポロジーを用いてこの謎を解いたのだ。またほぼ同じ頃、ホールデン氏は固体中に並んだ一列の原子の磁気的な性質を説明するのにトポロジカル相の考え方を利用できることを見出した。

彼らの研究が発端となって、物質が新しい状態を取り得ることが広く認知されるようになり、「トポロジカル絶縁体」、「トポロジカル超伝導体」、「トポロジカル金属」などの研究へと広がっているようだ。物質科学としての研究から新しい材料の開発が進み、高性能電子デバイスなどへの応用、さらには次世代の「量子コンピューター」への活用も期待されているようだ。

物理学賞は、2013年は素粒子 (ヒッグス粒子) 、2014年は半導体 (青色発光ダイオード) 、2015年は素粒子 (ニュートリノ振動) という流れできていたので、今年はその流れに則して凝縮系の研究に対しての受賞となった (のかな?) 。この流れでいくと来年は (もう来年の話をしている!) 素粒子・宇宙物理関係の分野かなぁ? (もしかして重力波?) 。

P.S. これを書いている間に化学賞の受賞者が発表された。残念ながら日本人ではなかった。

関連記事はこちら。
ノーベル財団のプレス・リリース:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2016/press.html
日経サイエンス:http://www.nikkei-science.com/?p=51294
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3103192?act=all

Date: 2016/10/04
Title: 2016年度のノーベル医学生理学賞 大隅良典氏が受賞
Category: 医学・生理学


今年もノーベル賞授賞者発表ウィークを迎えたが、さっそく驚きのニュースが飛び込んできた。

2016年のノーベル医学生理学賞は、東京工業大学栄誉教授・大隅良典氏に授与されるという。医学生理学賞での受賞は、昨年の大村智氏に続き、2年連続の快挙だ (物理学賞も含めると3年連続) 。受賞理由は「オートファジーのメカニズムの発見に対して(for his discoveries of mechanisms for autophagy)」だ。
(ノーベル財団のHPより)

ぼくは医学関連分野の専門家ではないので、「オートファジー」という言葉も、「そんな言葉、聞いたことあるような、ないような」という程度で、どんな意味なのかはよくわからない。
そこで日経サイエンスほか、いくつかの記事を読んでみると、「オートファジー (autophagy) 」はギリシャ語由来で、" auto- " は " self (自分自身) " 、" phagein " は " to eat (食べる) " を意味している。したがって、" autophagy " は「自分を食べる (自食作用) 」という意味があるそうだ。例えば、栄養不足状態になると、細胞内部に脂質の膜でできた小さな袋が現れる。この袋が使わなくなったタンパク質や細胞小器官などを呑み込んで、生きていくのに必要なアミノ酸などに分解して再利用するのだ。

大隅氏はこのオートファジーという現象を分子レベルで解明し、この働きに不可欠な遺伝子を酵母で特定して、生命活動を支える最も基本的な仕組みを明らかにしたのだそうだ。酵母で発見されたオートファジーの機構や遺伝子は、単細胞生物からヒトのような高等生物まで共通して持っていて、生命が生き延びるための基本戦略となっているという。

最近では、オートファジーが、パーキンソン病やアルツハイマー病などで神経細胞での異常なタンパク質の蓄積を防ぐ働きをしていることや、がん細胞の増加や老化の抑制にも関係していることが分かってきていて、これらの疾患の原因究明や治療など、医学的研究につながったことが高く評価され、今回の受賞につながったのだ。

次は物理学賞だが、日本人の受賞はなるのか?こちらも期待しちゃうなぁ。

関連記事はこちら。
ノーベル財団のプレス・リリース:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2016/press.html
日経サイエンス:http://www.nikkei-science.com/?p=51273
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3103034?act=all

Date: 2015/10/08
Title: 2015年度のノーベル化学賞 DNA修復機構解明の先駆者3氏が受賞、日本人の受賞はならず
Category: 化学


今年のノーベル賞は、一昨日の大村智さんの医学生理学賞、昨日の梶田隆章さんの物理学賞と、二日連続で日本人が受賞したので、今日発表される化学賞にも期待が集まっていたけれど、さにがにそうはならなかった (もしそうなっていたら、科学部門を日本人が総なめということになっていたけど・・・) 。まぁ、そんなに都合よく事が運ぶわけではないし、化学賞は来年に期待しよう。

今年のノーベル化学賞は、スウェーデン人研究者で英フランシス・クリック研究所の名誉グループリーダー、トマス・リンダール (Tomas Lindahl) 氏、米デューク大学教授のポール・モドリッチ (Paul Modrich) 氏、トルコと米国の国籍を持つ米ノースカロライナ大学教授のアシス・サンニャール (Aziz Sancar) 氏の3氏に贈られるようだ。

受賞理由は「DNA 修復の機械論的研究」(for mechanistic studies of DNA repair) だそうだ。
(ノーベル財団のHPより)

生物はみな “生命の設計図” である遺伝子を DNA の形で持っているけど、DNA は紫外線や放射線などの外的要因で損傷を受けたり、細胞が分裂・増殖するときにコピーミスが起こる場合がある。このような損傷やコピーミスによって、細胞が死んだり変異したりすることがある。しかし、生物にはこれをうまく修正して “正しい DNA” を維持する機能が備わっている。

今回受賞した3氏は、この DNA 修復のメカニズムを分子レベルで解明した先駆者たちだそうだ。リンダール氏は DNA 修復の基本となる「塩基除去修復」と呼ばれるメカニズムを発見し、サンニャール氏は紫外線や発がん性物質などによって生じた損傷を認識・修復する「ヌクレオチド除去修復」と呼ばれるメカニズムを解明、モドリッチ氏は DNA のコピーミスによって生じたエラーを修復する「DNA ミスマッチ修復」というメカニズムを解明したのだそうだ。

プレスリリースによると、3氏によるこうした分子レベルでの DNA 修復メカニズムの解明は、「生きている細胞がどのように機能するかについての基礎的な知識をもたらし、たとえば新たながん治療の開発などのために使われている (Their work has provided fundamental knowledge of how a living cell functions and is, for instance, used for the development of new cancer treatments.) 」という。

明日は文学賞だが、毎年のように期待されている「あの人」は今度こそ受賞するのだろうか。
でも、騒いでいるのはファンやマスコミで、本人は気にも留めていないのかもしれないけど・・・。

関連記事はこちら。
ノーベル財団のプレス・リリース:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2015/press.html
日経サイエンス:http://www.nikkei-science.com/?p=48444
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3062496

Date: 2015/10/07
Title: 2015年度のノーベル物理学賞 梶田隆章氏ら2氏が受賞 - ニュートリノ振動発見に対して
Category: 物理学


昨日の大村智さんのノーベル医学生理学賞受賞のニュースの興奮覚めやらぬ今日、またもや凄いニュースが飛び込んできた。
今年のノーベル物理学賞は東大宇宙線研究所長の梶田隆章氏とカナダのクイーンズ大学名誉教授のアーサー・ マクドナルド氏に贈られるというニュースだ。日本人のノーベル物理学賞受賞は去年の赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3氏に続き2年連続だし、科学部門ダブル受賞は2008年の物理学賞 (南部さん、小林さん、益川さん) と化学賞 (下村さん) 以来の快挙だ。

授賞理由は「ニュートリノに質量があることを示したニュートリノ振動の発見」(for the discovery of neutrino oscillations, which shows that neutrinos have mass) だ。 (ノーベル財団のHPより) 。

まず、ニュートリノというのはどういうものかというと、1930年に原子核崩壊の一種であるベータ崩壊でエネルギー保存則が成り立つように、中性の何か未知の粒子がエネルギーを持ち去っているという仮説をパウリが出したのがそもそもの始まりで、その後、フェルミもベータ崩壊は原子核内の中性子が陽子と電子を放出し、さらに中性の粒子を放出するという説を出し、この中性の粒子を「ニュートリノ (neutrino) 」と名付けたのだ。実際には1950年代半ば頃、ライネスが原子炉のそばで実験してニュートリノの存在を証明したのだ。

ニュートリノは電子と同じく「レプトン」と呼ばれる粒子の仲間で、「クォーク」と「レプトン」が物質を構成する基本粒子と考えられているのだが、素粒子の標準理論ではニュートリノの質量は厳密に 0 (ゼロ) とされてきたのだ。しかし、本当にゼロなのか非常に小さいけれども有限の質量を持っているのかということは問題となっていたのだ。
さらに、ニュートリノは太陽内部の核融合反応や、宇宙線が地球大気と衝突して発生するが、太陽からやってくるニュートリノが実際に観測される数が理論値の1/3しかないという問題 (太陽ニュートリノ問題) や、地球大気と衝突して発生するニュートリノが予想より少ないという問題 (ニュートリノ喪失) があった。


クォークとレプトン
ところで、クォークとレプトンはフレーバー (flavor) という性質を持っていて、次の三つの世代に分けられるのだ。
第1世代のクォークはアップ (up) とダウン (down) 、レプトンは電子 ( \(\rm{e^-}\) ) とニュートリノ ( \(\nu_\rm{e}\) )、
第2世代のクォークはチャーム (charm) とストレンジ (strange) 、レプトンはミューオン ( \(\mu^-\) ) とミューニュートリノ ( \(\nu_\mu\) ) 、
第3世代のクォークはトップ (top) とボトム (bottom) 、レプトンはタウオン ( \(\tau^-\) ) とタウニュートリノ ( \(\nu_\tau\) ) から成っているのだ。

ニュートリノが電子型・ミュー型・タウ型の間で変化することを「ニュートリノ振動」というのだが、ニュートリノ振動が起こるにはニュートリノが非常に小さいけれど有限の質量を持つことが必要で、電子型、ミュー型、タウ型のニュートリノはそれぞれ異なる質量を持っているとされるのだ。

今回の授賞対象となった梶田さんの研究は、岐阜県の神岡鉱山跡地に建設されたニュートリノ観測装置「スーパーカミオカンデ」を使って、宇宙線が大気と衝突して発生したニュートリノに含まれるミューニュートリノを観測した結果、地球の裏側からやってきたミューニュートリノは、上からやってきたミューニュートリノの半分しかなく、地球を突き抜けてやってくる間にタウニュートリノに変化したためだ、というものだ。これによって、ニュートリノに質量があることが証明されたのだ。
一方のマクドナルド氏の研究は、カナダの Sudbury Neutrino Observatory で太陽からやってくるニュートリノを観測して、ニュートリノ振動を確認したというものだ。
そのほかにも、2013年にもCERN (欧州合同原子核研究機構) とイタリアのグランサッソ研究所の研究チームもニュートリノ振動を確認している。
いずれもニュートリノ振動を確認してニュートリノに質量があることを証明したわけで、標準理論は完璧なものではないことを明らかにし、理論に修正を迫るものだ。

次は化学賞だが、医学生理学賞、物理学賞と日本人の受賞が続いたので、いやが上にも期待が高まるなぁ・・・。

関連記事はこちら。
ノーベル財団のプレス・リリース:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2015/press.html
日経サイエンス:http://www.nikkei-science.com/?p=48409
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3062381

Date: 2015/10/06
Title: 2015年度のノーベル医学生理学賞 大村智氏ら3氏が受賞
Category: 医学・生理学


今週は今年のノーベル賞が発表されるんだが、いきなり凄いニュースが飛び込んできた。
スウェーデンのカロリンスカ研究所は、今年のノーベル医学生理学賞を北里大学特別栄誉教授の大村智氏とアイルランド出身で米国ドリュー大学のウィリアム・キャンベル (William Campbell) 氏 、さらに中国中医科学院の屠ゆうゆう (と・ゆうゆう、Youyou Tu) 氏に贈ると発表したのだ。去年の物理学賞の赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3氏に続き、日本人が2年連続での受賞で、医学生理学賞は、1987年の利根川進博士、2012年の山中伸弥教授以来の3人目だ。

受賞理由は大村氏とキャンベル氏については「寄生虫の寄生に起因する感染症の新治療法の発見」(for their discoveries concerning a novel therapy against infections caused by roundworm parasites) によって、屠氏については「マラリアの新治療法に関する発見」(for her discoveries concerning a novel therapy against Malaria) によるものだ。 (ノーベル財団のHPより) 。

僕は大村氏と今回の授賞対象になった研究内容については全然知らなかったのが、TVのニュースやネットのニュースを総合するとだいたい次のような内容のようだ。


大村氏は70年代から各地で土を採取してその中に生息している微生物を分離・培養して、微生物が作る化学物質に有用なものがないか調べていた。そんな中、伊豆半島のゴルフ場周辺の土から採取した微生物が出す物質に、寄生虫に効果のある抗生物質「エバーメクチン」を発見し、その抗生物質は家畜に効果があることがキャンベル氏によって確認された。
その後、アメリカの大手製薬会社・メルク社と共同で駆除薬「イベルメクチン」が開発された。当初はその薬は家畜に使われていたが、「オンコセルカ症 (河川盲目症) 」や「リンパ系フィラリア症 (象皮病) 」などのヒトの病気の特効薬として使われるようになった。

オンコセルカ症は「六大熱帯病」の一つに数えられ、80年代には中部アフリカを中心に多くの人が感染していたが、87年に WHO (世界保健機関) がメルク社の協力で薬の無償配布に乗り出したことで、近い将来撲滅される見通しだ。イベルメクチンを1年に1回服用することで寄生虫による感染から約3億人もの人が救われたという。


大村氏の「微生物の力を借りているだけで、私が偉いことをしたのではない。人のためになることを基準に考えてやってきた。」という謙虚な言葉は、氏のお人柄を表しているようで印象的だった。

ちなみに、もう一人の受賞者の屠氏は、中国伝統の生薬からアルテミシニン (Artemisinin) という化合物を発見したのだそうだ。これによってマラリアの死亡率が大幅に下がったのだそうだ。

次は物理学賞だが、今年は誰が受賞するのかな?

関連記事はこちら。
ノーベル財団のプレス・リリース:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2015/press.html
日経サイエンス:http://www.nikkei-science.com/?p=48391
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3062238

Date: 2014/10/08
Title: 2014年度のノーベル物理学賞は日本人3氏が受賞
Category: 物理学


今年もノーベル賞受賞者発表の時期を迎えているが、嬉しいニュースが飛び込んできた。
今年のノーベル物理学賞は、青色発光ダイオードを開発した赤崎勇 (名城大学終身教授) 、 天野浩 (名古屋大学教授) 、中村修二 (米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授) の日本人3氏 (ただし、中村教授は現在はアメリカ国籍) に贈られるというニュースだ。

受賞理由は 「明るく省エネ型の白色光源を可能にした効率的な青色発光ダイオードの発明に対して (for the invention of efficient blue light-emitting diodes which has enabled bright and energy-saving white light sources) 」 というものだ (ノーベル財団のHPより) 。

発光ダイオード (Light Emitting Diode; LED) というのは光を発する半導体素子なのだが、 赤色と黄緑色の光を発する LED は早くから実用化に成功していたが、青色の光を発する LED を作ることは困難を極めていた。そのため、20世紀中には実現困難とさえいわれていた。LED で白色光源やフルカラーディスプレイを実現するには光の三原色である赤、緑、青色が必要なのだが [1] 、青色は実現できていなかった。しかしその後、窒化ガリウム (GaN) 単結晶の製作技術の実現、青色 LED の開発に成功し (20世紀中に間に合った!) 、白色光実現のための三原色の LED が揃ったのだ。(実は“純”緑色の LED も同じ GaN 系材料を使うため、青色 LED の後に実用化された)

ノーベル物理学賞は、これまではどちらかというと素粒子や宇宙物理、凝縮系物理のような基礎研究に対して贈られることが多いという印象を持っていたが (去年も、日本人の受賞ではないが、ヒッグス粒子の発見に対してだった) 、今回は青色 LED の発明という実用的な発明に対してノーベル賞が贈られたのは非常に意義深いことだし、日本の物づくりの底力を見た思いだ。

今や LED は住宅用照明だけでなく、LED ディスプレイ、ディスプレイ用のバックライト、信号機、車のライト、はたまた漁船の集魚灯 (こんなところにまで使われているとは知らなかった!) まで、いろんなところに 使われているけど、今後ますます用途が増えていくのだろう。消費電力の少ない LED にどんどん置き換わっていけば、エネルギー消費量も抑えられ、地球環境にやさしく地球温暖化対策にも貢献できるのだ。さらに、電力網が十分に整備されていない途上国の人々に、安価で安定した光源を提供することにもなる。これはノーベル賞のプレスリリースでも指摘されていて、この点が評価されて今回のノーベル賞受賞につながったのだと思う。

ところで、日本人のべーベル賞受賞は2012年の山中伸弥さん (生理学・医学賞) 以来だが、物理学賞に限って言えば、2008年の小林誠さん、益川敏英さん、南部陽一郎さん以来で、計10人が受賞したことになるが、そのほとんどが日本の物理学のお家芸ともいえる素粒子物理学の研究によるものだが、今回のような半導体デバイスに対しての受賞は1973年の江崎玲於奈さん (半導体内におけるトンネル効果の発見に対して [2] ) 以来の、実に41年振りのことだ。

関連記事はこちら。
ノーベル財団のプレス・リリース:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2014/press.html
日経サイエンス:http://www.nikkei-science.com/?p=44285


[1] LED で白色光を実現するには、赤、緑、青の3原色のLEDを組み合わせる方法の他にも、 いくつか方法がある。
[2] トンネル効果を使った半導体デバイスをトンネルダイオード (またはエサキダイオード) という。

Date: 2013/10/09
Title: 2013年度のノーベル物理学賞はヒッグス博士ら2氏に
Category: 物理学


今年のノーベル物理学賞の受賞者が発表された。

ノーベル賞が授与されるのは、素粒子に質量を与えるメカニズムである 「ヒッグス機構」 の提唱者であるベルギー・ブリュッセル自由大学名誉教授のフランソワ・アングレール (François Englert) 博士と英エディンバラ大学名誉教授のピーター・ヒッグス (Peter W. Higgs) 博士の二人だ。
受賞理由は 「素粒子の質量の起源を理解することに貢献したメカニズムの理論的な発見に対して」 ということだが、さらに 「このメカニズムは、CERN (欧州合同原子核研究機構) のLHC (大型ハドロン衝突型加速器) での ATLAS とCMS の実験によって予言されていた基本粒子 (ヒッグス粒子) の発見をとおして近年確認された」という一文も付け加えられている (" for the theoretical discovery of a mechanism that contributes to our understanding of the origin of mass of subatomic particles, and which recently was confirmed through the discovery of the predicted fundamental particle, by the ATLAS and CMS experiments at CERN's Large Hadron Collider" ) 。

昨年7月に CERN の LHC を使った実験で見つかった 「新粒子」 は、その後検証が続けられ、今年3月にこの新粒子は 「ヒッグス粒子」 であるとの見解が CERN から出されていた。その後、ノーベル賞発表の前日の10月7日、ヒッグス粒子であることが確定したとして 「Physica Letters B」 に正式報告するという記事を目にしていたので、なんかすごい タイミングでの報告という感じがした。

素粒子に質量を与えるメカニズムは1964年にヒッグスが提唱したので 「ヒッグス機構」 と普通はいわれているけど(僕もそう思っていました) 、いろんな記事を読んでみると、このメカニズムは1964年にまずアングレール博士と彼の共同研究者でブリュッセル自由大学の同僚であるロベール・ブラウト (Robert Brout) 博士が提唱し、その後、ヒッグス博士が彼らとは独立に同様のメカニズムを発表したもので、彼らの名前を取って " Brout-Englert-Higgs mechanism (BEH mechanism) " というのが正式な名前らしい。CERN やノーベル財団の記事でもそう表記されている。

ん?それじゃ、なぜ今回の受賞者にブラウト博士の名前がないのかと思って調べてみたら、ブラウト博士は2011年に死去されていた。ノーベル賞は生存している人にしか与えられないのだ。

今回の受賞はヒッグス機構 (BEH メカニズム) の提唱者であるアングレール博士とヒッグス博士が受賞したが、それを裏付ける CREN でのヒッグス粒子の発見には、東大や高エネ研 (高エネルギー加速器研究機構) なども加わっていて、日本の科学・技術も大きな貢献をしていることも忘れてはいけないと思う。

それにしても、科学関連のニュースでは、最近はヒッグス粒子の記事で賑わっていたので、もしかしたらと 思っていたが、やっぱり今年のノーベル物理学賞はヒッグス粒子に関連するものだった。

関連記事はこちら。
ノーベル財団の記事:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2013/
CERN の記事:
http://home.web.cern.ch/about/updates/2013/10/CERN-congratulates-Englert-and-Higgs-on-Nobel-in-physics
日経サイエンスの記事:
http://www.nikkei-science.net/modules/article/index.php?id=99

Date: 2012/10/13
Title: 2012年度のノーベル賞 ― 京大・山中教授にノーベル医学・生理学賞
Category: 医学・生理学


かねてよりノーベル賞最有力候補と目されてきた京大・山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞した。 英国ケンブリッジ大学のジョン・B・ガードン教授との共同受賞だ。日本人のノーベル賞受賞はこれで19人目だが、 医学・生理学賞受賞は1987年の利根川進博士以来25年ぶりの快挙だ。

受賞理由は「成熟細胞が初期化され多能性をもつことの発見 (" for the discovery that mature cells can be reprogrammed to become pluripotent ") 」というもののだが、言い換えれば、 皮膚などの体の細胞から、いろいろな細胞になる能力を備えた iPS 細胞 (人工多能性幹細胞) の作製に世界で初めて成功し、 難病の原因の解明や新薬開発、再生医療の実現に向けた新しい道を切り開いたことが評価されたのだ。

とはいっても、iPS 細胞は創薬や再生医療に大きな可能性を秘めているが、実用化されるにはさらに研究が必要だ。 難病で苦しんでいる多くの人のためにも、早く実用化されるといいね。

ところで、山中教授は2006年にマウスで iPS 細胞の作製に成功、翌2007年にはヒトでも成功しているが、 それから6年余りでのノーベル賞受賞となった。 通常ノーベル賞は受賞対象となる発明・発見の研究がなされてから20~30年位 (長い人だと半世紀位!) 経ってから受賞することが多いのだが、今回の山中教授の受賞は異例の速さだ。 やはり新薬開発や再生医療への期待が大きいからなのかな。

共同受賞したガードン教授は、1960年代に脊椎動物で初めて体細胞からクローンを作製、その後、 オタマジャクシの体細胞から取り出された核を、核を取り除いた未受精卵に入れると初期化されることを突き止めた人だ。 ガードン教授のこの研究が突破口となって、その後、山中教授の iPS 細胞の研究へとつながって行ったのだ。

関連記事はこちら。
ノーベル財団の記事:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2012/

Date: 2010/10/07
Title: 2010年度のノーベル賞 (科学部門3賞) ― 化学賞は日本人2二人も受賞
Category: 医学・生理学、物理学、化学


今週、今年のノーベル賞の受賞者が続々と発表されているが、iPS 細胞 (人工多能性幹細胞:Induced Pluripotent Stem cells) を世界で初めて作り、 医学生理学賞で有力候補とされていた 京都大学の山中伸弥教授は惜しくも受賞はならず、 世界初の体外受精児 (いわゆる試験管ベビー) を誕生させた英国のロバート G. エドワーズ (Robert G. Edwards) 博士が受賞した。

続く、物理学賞は炭素をシート状にした伝導性の高い「グラフェン (graphene) 」と呼ばれる素材を開発した 英国マンチェスター大学のガイム (Andre Geim) 博士とノボセロフ (Konstantin Novoselov) 博士が 受賞した。 ともにロシア生まれの物理学者だそうだ。 グラフェンとは、炭素原子1個分の厚さしかない炭素のシートで、常温では現在知られているどんな物質より電子の移動速度が速く、 超高速トランジスタの素材として利用すれば、コンピュータの高速化・ 小型化への応用など、 さまざまな応用が期待されている。

今年は日本人の受賞はないのかなと思っていたところへ、今日、化学賞で日本人二氏が受賞したというニュースが飛び込んできた。 受賞したのは米国パデュー大学の Herbert C. Brown 特別教授の根岸英一博士と北海道大学名誉教授の鈴木章博士の二人の日本人と、 米国デラウェア大学名誉教授のリチャード・ヘック (Richard Heck) 博士だ。 同一の賞で複数の日本人が同時受賞したのは2008年の物理学賞 (南部陽一郎博士、小林誠博士、益川敏英博士) 以来だし、 化学賞で日本人が受賞したのも同じく2008年の下村脩博士以来だ。
今回の受賞対象となったのは、「パラジウム触媒を使ったクロスカップリング反応による有機物合成 (" for palladium-catalyzed cross couplings in organic synthesis ") 」の研究に対してで、 これにより多くの有機化合物を作ることが飛躍的に可能になり、液晶や医薬品など さまざまな分野で応用されているそうだ (僕はこの分野については詳しくは知らないので これ以上詳しくは書けないけど・・・) 。

最近日本ではあまりいいニュースはなかっただけに、久しぶりの明るいニュースだ。来年も期待できるかな?

といっても、喜んでばかりはいられない。
最近の若い人たちの間で理科離れが進んでいる現状から、将来にわたって日本人がノーベル賞を取ることができるのかと少し心配になる。 ノーベル賞は基本的に10年前、20年前、30年前といった昔の研究業績に対して贈られるからだ (つまり過去の栄光なのだ) 。 これから10年後、20年後、30年後に日本人がノーベル賞を取るためには、 今の若い人たちが如何にすぐれた研究業績をあげられるかにかかっているのだ。
しかし、理科離れが進んでいるからといっても、今の若い人たちの中にもものすごく優秀な人たちは多いと思うので、 そう悲観してばかりいることはないのかもしれないが、理科に興味を持って、 将来科学者や技術者になるような人がもっと増えるようになることは、日本の将来にとって必要なことだと思う。 そのためには、今の若い人たちに、科学は一見つまらなさそうに思えるかもしれないけど、じつはとっても 面白く、 わくわくするものなんだ、ということを伝えていくことが必要だと思う。 しかし、ただ単に伝えるだけだと一方通行になって、伝えられる側も受け身になってしまうので、 双方向のコミュニケーションや、実際に体験する場をもっと増やすことが必要だと思う。

関連記事はこちら。
ノーベル財団の記事:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2010/
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2010/
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2010/

Date: 2008/10/09
Title: 2008年度のノーベル賞 ― 物理学賞に続き化学賞でも日本人が受賞!
Category: 化学


昨日のノーベル物理学賞で日本人3人が受賞というニュースで興奮もさめやらぬ今日、 今度はノーベル化学賞でも日本人が受賞したというニュースに触れた。

受賞したのは米国ウッズホール海洋生物学研究所とボストン大学医学部名誉教授の下村脩博士だ。 僕はこの方は存じ上げなかったが、なんでも、緑色の蛍光色素タンパク質をオワンクラゲから発見・単離した方だそうだ。

日本人による物理学賞と化学賞のダブル受賞は、2002年の小柴昌俊さん (物理学賞) と田中耕一さん (化学賞) 以来の快挙だ。

関連記事はこちら。
ノーベル財団の記事:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2008/

Date: 2008/10/07
Title: 2008年度のノーベル物理学賞は日本人3氏!
Category: 物理学


今年のノーベル物理学賞が発表されたが、何と日本人の3氏が受賞した。 日本人のノーベル物理学賞は2002年の小柴昌俊博士以来だが、3人同時受賞というのは初めての快挙だ。

今回の受賞理由となった研究はともに「対称性の破れ」がキーワードになっている。

まずは、シカゴ大学名誉教授の南部陽一郎博士。南部博士といえば素粒子論の大家で、 強い相互作用や 超弦理論の元になった理論などの先駆的研究で知られ、ノーベル賞候補といわれ続けていた人だ。 今回の受賞は 「対称性の自発的破れ」 に関する理論で素粒子物理学に貢献したことが評価されたそうだ。
そういえば、大学時代、素粒子物理を勉強していた時、その時使っていた教科書に南部さんのことが書かれていたのを思い出した。 また、これも何年も前のことになるが、南部さんが書かれた本 (ブルーバックスの「クォーク」) をむさぼり読んだ覚えがある。

南部博士と共同受賞された小林誠博士 (高エネルギー加速器研究機構名誉教授) と益川敏英博士 (京都産業大教授、京都大学名誉教授) は、 「小林・益川理論」 によって、クォークが3世代 (6種類) 以上 存在することを予言し、 対称性の破れを理論的に説明できることを示した。
南部博士と同じく、小林博士と益川博士もノーベル賞をとってもおかしくないと言われ続けていただけに、 今回の受賞は何で今頃という感がしないでもないが、何はともあれ、喜ばしいことだ。

今回の受賞は素粒子物理学の発展に大きく貢献したことが評価されたものだが、これは湯川秀樹博士、 朝永振一郎博士以来の日本の物理学のお家芸ともいえるものだと思う。

関連記事はこちら。
ノーベル財団の記事:
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2008/