かがくのつまみ食い 2008~2013

サイエンス関連のトピックスを集めてみました。このページは2008年から2013年にかけて書いたトピックスです。

 

Date: 2013/12/09
Title: 反物質への重力作用の謎解明に光か?
Category: 素粒子
Keywords: CERN、反物質、質量、重力


何カ月か前の記事だけど、
「反物質にも物質と同じ重力の法則が適用されるのか」
という重大な疑問に対する答えの探究に前進が見られたという話だ。

僕らの体や周りの物質は原子でできている。原子はその中心に原子核があり、その周りを電子が回っている。原子核は陽子と中性子で構成されていて、その陽子や中性子もクォークで構成されている。つまり、突き詰めていけば、物質はクォークや電子などの素粒子で構成されている。これらの素粒子には質量や角運動量、スピンなどの性質が同じで電荷の符号がまったく逆の (正電荷を持っている粒子なら、負電荷の、というように) 粒子が存在し、そのような粒子を反粒子という。

例えば、クォークに対しては反クォークが存在し、クォークからできている陽中性子には反陽子、反中性子という反粒子が存在し、それらは反クォークでできている。陽子は \(+e\) の電荷を持っているので、陽子の反粒子である反陽子は \(-e\) の電荷を持っている。中性子は電気的に中性なので、反中性子も電気的に中性だ。また、電子 (電荷は \(-e\) ) に対しても反粒子 (電荷は \(+e\) ) が存在するが、これだけは反電子とはいわず、「陽電子」という特別な名前で呼ばれる。

反粒子というのは、歴史的には、英国の理論物理学者ディラック (Paul Adrien Maurice Dirac、1902 -1984) が電子の相対論的な量子力学を記述するため導き出したディラック方程式から得られる解のうち、負のエネルギー状態の電子の解釈からその存在が予言されたものだ。その解釈というのは次のようなものだ (大雑把に言ってですが) 。

真空というのは「何もない」空間ではなく、負のエネルギー状態の電子で満たされていると仮定した (負のエネルギーの電子で満たされた空間を海に例えて 「ディラックの海」 という) 。電子はパウリの排他律に従う粒子なので、負のエネルギー状態が満たされていれば、電子はそれ以上負のエネルギー状態に落ちていけないことになる。そこで負のエネルギー状態にある電子にエネルギーを与えて正のエネルギー状態にすると、それまで負のエネルギーの電子があったところに孔 (Hole) ができ、その孔は電子と同じ質量をもち、正電荷をもつ正エネルギーの電子として観測されることになるのだ (このような理論を 「空孔理論」 という) 。

こうして予言された電子の反粒子は、実際に1932年、宇宙線の研究をしていた米国の物理学者アンダーソン (Carl David Anderson、1905 - 1991) によって発見され、陽電子 (Positron) と名付けられたのだ。その後、加速器による実験で、陽電子だけでなく、陽子の反粒子である反陽子、中性子の反粒子である反中性子も生成されるようになった。
このように反粒子が次々に見つかってきたのだが、これらの反粒子 (反陽子、反中性子、陽電子など) とそれらから構成される物質を反物質と呼んでいるのだ。

さて、前置きが長くなってしまったが、反物質は通常の物質と同じ質量をもつため、通常の物質と同じように重力の法則に従うのか (つまり引力が働くのか) 、それとも斥力 (反力) のようなものが働くのかについて、科学者たちは50年もの間議論を続けてきた。

反物質は約138億年前のビッグバン (Big Bang) によって物質と同じ数だけ生成されたと考えられているけど、現在では我々の周りにはほとんど存在していないのは、物質と反物質が出あうと消滅してしまうからだ (この現象を 「対消滅」 という) 。例えば、電子とその反粒子である陽電子が出あうと、対消滅をおこして光子が生成される (運動量保存の法則から、2個の光子が生成される場合がほとんど) 。しかし、物質と反物質が同数だと、対消滅を起こした後何も残らないので、我々の宇宙が今日のような姿では存在しないことになり、素粒子物理学の大きな謎とされてきたのだ。もし反物質の重力作用が斥力なら、現在の宇宙が通常の物質でできていることを説明できるという説もあるが、確証は得られていないのだ。

今回、欧州合同原子核研究機構 (CERN) のALPHA (Antihydrogen Laser Physics Apparatus) 実験チームが行った実験は、反物質に働く重力の作用を直接的に観測しようと試みたものなのだ。

実験の概要はこうだ。
まず、水素原子の反物質にあたる 「反水素原子」 (反陽子と陽電子で構成される) をつくり、それを強力な磁場を発生させる磁気トラップ装置の中に保持させる。その後、反水素原子をリリースして自由落下させ、反水素原子は装置の壁に衝突してエネルギーを放出して消滅するが、自由落下して壁に衝突するまでの挙動を詳細に解析することで、反水素原子が通常の水素原子と同じように重力の法則に従うのか、それとも別の作用が働くのかどうか 判別できるというものだ。

通常の水素原子であれば重力の法則に従うので、慣性質量に対する重力質量の比 ( \(F \equiv M_\rm{g} / M_\rm{i}\) ; \(M_\rm{g}\) は重力質量、\(M_\rm{i}\) は慣性質量) は 1 になるが [1] 、反水素原子も同じ重力の法則に従うのであれば、\(F=1\) となる。しかし、もし \(F\) が負の値であれば、反水素原子は上向きに 「落下」 (自由落下ならず 「自由上昇」 ) することになり、宇宙の法則についての我々の見方の修正を余儀なくされることになるのだ (反物質には反重力が働くってことになるのかな?) 。

\(F\) の値をどれだけ精密に測定できるかがカギとなるが、今回の初期段階の測定では、\(-65 < F < 110\) (系統誤差がワーストケースで) まで絞り込めたという。今後、装置の改良と精度向上によって、来年にはさらに正確なデータが得られる予定だそうだ。来年になったらおもしろい結果が出るのかな?

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2941688?pid=10671266
CERNのサイト:
http://home.web.cern.ch/about/updates/2013/04/alpha-novel-investigation-gravity-and-antimatter
Nature Communicationsに掲載されている記事と論文:
http://www.natureasia.com/en/phys-sci/research/2168
http://www.nature.com/ncomms/journal/v4/n4/full/ncomms2787.html


[1] 慣性質量とは物体の動かしにくさの度合いを表わす量で、ニュートンの運動の第2法則 (運動方程式:\(F=ma\)、\(F\) は物体に働く力、\(m\) は物体の質量、\(a\) は加速度) で定義される。重力質量とは万有引力による重さの度合いから定義される。現在の物理学では慣性質量と重力質量は等価とされ、等価原理と呼ばれる。言いかえれば、運動による加速度と重力加速度は区別できないとういことで、等価原理はアインシュタインの一般相対性理論の基本原理となっている。

Date: 2013/12/04
Title: 台風に伴う高潮 ― 海水の吸い上げ効果はどの位か?
Category: 気象
Keywords: 台風、高潮、海水の吸い上げ効果、吹き寄せ効果


先月フィリピンのレイテ島に上陸し、甚大な被害をもたらした台風30号 (アジア名:ハイエン、Haiyan) は、中心気圧が 895 hPa (ヘクトパスカル) にまで下がり、最大風速が 87.5 m/s (瞬間最大風速は 100 m/s を超えていたといわれる) という、とてつもない勢力だった。非常に低い気圧と強烈な風によって、まるで津波のような高潮が沿岸部を襲い、想像を絶するような甚大な被害をもたらしたのだ。

このような大きな高潮が発生した原因として考えられるのは、よく言われているように、低い中心気圧による海水の「吸い上げ効果」と、強風が沖から海岸に向かって吹くときに海水が海岸に吹き寄せられる「吹き寄せ効果」だ。

1. 吸い上げ効果について

気圧が 1 hPa 低下すると海水は約 1 cm 吸い上げられる。今回の台風は中心気圧が 895 hPa なので、1気圧 (1013 hPa) に比べて 100 hPa 以上気圧が下がっている。そのため、台風の中心の直下にある海水は約 1 m も吸い上げられたことになる。

これを単純なモデルを使って計算してみよう。


単純なモデル
左の図のように台風の直下で、半径 \(r\)、高さ \(h\) の円筒形の部分が吸い上げられた海水というようなモデルを考える [1]

円筒形の部分の気圧を \(P_1\)、その外側の気圧を \(P_2\) とすると、
\begin{align} P_1 &= 895\,\rm{hPa} = 8.95 \times 10^4\,\rm{N/m^2} \\ P_2 &= 1013\,\rm{hPa} = 1.013 \times 10^4\,\rm{N/m^2}(1気圧) \\ &(1\,\rm{hPa}=100\,\rm{Pa},\,1\,\rm{Pa}=1\,\rm{N/m^2}) \end{align} (円筒形の部分の空気が 895 hPa の圧力で海面を押していて、その外側の部分の空気が 1013 hPa の圧力で海面を押している。)

この圧力差 \(\Delta P = P_2 - P_1\) によって半径 \(r\) の円に働く力と、吸い上げられた円筒形の水に働く重力が釣り合うことになる。この時の円筒の高さ \(h\) を求めれば、海水がどの位の高さまで吸い上げられるかが計算できるわけだ。

圧力差によって半径 \(r\) の円に働く力 \(F_1\) は、
\begin{align} F_1 = \Delta P \cdot \pi r^2 \end{align} 一方、半径 \(r\)、高さ \(h\) の円筒形の水に働く重力 \(F_2\) は
\begin{align} F_2 = \pi r^2 h \rho g \end{align} ここで、\(\rho\) は水の密度、\(g\) は重力加速度。
これらの力が釣り合っているので、
\begin{align} \pi r^2 h \rho g = \Delta P \cdot \pi r^2 \end{align} よって、吸い上げられる海水の高さは、
\begin{align} h = \frac{\Delta P}{\rho g} \end{align} となる。実際に数値をあてはめると、\(\Delta P = 1013 - 895 = 118\,\rm{hPa} = 1.18 \times 10^4\,\rm{N/m^2}\)、\(\rho = 1\,\rm{g/cm^3} = 1000\,\rm{kg/m^3}\)、\(g = 9.8\,\rm{m/s^2}\) なので [2]
\begin{align} h = \frac{\Delta P}{\rho g} = \frac{1.18 \times 10^4 \,\rm{(N/m^2)}}{1000 \,\rm{(kg/m^3)} \times 9.8 \,\rm{(m/s^2)}} = 1.2 \,\rm{(m)} \end{align} となる。つまり、台風の中心気圧が 895 hPa の場合、その下の海水は約 1 m 吸い上げられることになるのだ。


2. 吹き寄せ効果について


吸い上げ効果+吹き寄せ効果の概略図
台風や低気圧によって強い風が沖から海岸に向けて吹くと、海水が強い風によって海岸に吹き寄せられて、海岸付近の海面が上昇するのだが、海面の上昇は風速の2乗に比例するといわれる。つまり、風速が2倍になれば、海面上昇は4倍になるわけだ。また、吹き寄せられる海岸の水深が浅かったり、地形の影響 (吹き寄せてくる方向に開いた湾など) によって海面上昇はさらに高くなるのだ。

また、台風がやってくる時刻と満潮の時刻が重なると、「吸い上げ+吹き寄せ」効果による海面上昇に加えて、満潮による海面上昇が加わるため、さらに大きな高潮になるのだ。

今回は台風の中心気圧が 895 hPa と非常に低く、最大風速も 90 m/s と非常に強かったため、とっても大きな、まるで津波のような高潮が押し寄せてきたのだ。それにしても、今回フィリピンを襲ったスーパー台風による被害の状況を写した写真や映像をみると、言葉を失ってしまう。フィリピンの被災地の復興を切に願うばかりだ。

このように台風が超強烈になった要因として、フィリピン付近の海水温が高かったことが挙げられているが、それは地球温暖化によるものと考えられている。地球温暖化の影響で、日本近海の海水温も上昇してきていて、今世紀末には今回のようなスーパー台風が、勢力を維持したまま日本を直撃する可能性があるという研究結果もある。地球温暖化対策は「待ったなし」なのだ。


[1] 実際には台風直下の気圧は一様ではなく、中心が最も気圧が低く、中心から外側に向かって連続的に気圧が高くなっていくので、吸い上げられる海水は一様ではなく、中心が盛り上がって、外側に向かってなだらかに低くなっていく。

[2] 海水は塩分が 3.5% 程含まれているので真水よりわずかに密度が大きいのだが (1.02 ~ 1.03 g ⁄ cm3 ) 、ここでは簡単のため単に 1 g ⁄ cm3 としている。

Date: 2013/10/07
Title: 国立科学博物館で特別展 「深海 - The Deep」 をみてきた
Category: 海洋
Keywords: 博物館、深海、調査船・探査船、ダイオウイカ、鉱物


上野の国立科学博物館に特別展 「深海 – The Deep」 を観に行ってきた。
前から行こうと思っていたが、土日や夏休み中はかなり混雑していたようだったので、夏休みを過ぎた頃合いを見計らって、平日に行こうと思っていたのだ。しかし、9月は平日は何だかんだと言って忙しくて行けなかったので、時間ができた10月に行くことにしたが、科学博物館のHPで日程を確認したら、10月6日 (日) が最後ではないか。早く観に行かないと終わってしまう。ということで、今日(10/3)行くことにしたのだ。


特別展 「深海 – The Deep」 の
リーフレット (表と裏)
博物館に着いたら、特別展のチケット売り場は平日にもかかわらずけっこう行列ができていた。開催終了日が近いので平日でも混んでいるのかな?
とりあえず列に並んで順番を待つことに。
ところで、僕は科学博物館の友の会会員なので、一応会員証も持ってきたのだが、今まで使ったことがないので使い方がよく分からないや。
しばらく待ってやっと順番が回ってきたので、チケット売り場の人に会員証を見せたら、ここではなく日本館B1階のカウンターで招待券をくれるという。なーんだ、わざわざ列に並ばなくてもよかったんだ。
ということで、カウンターに行って招待券をもらって、特別展が開催されている地球館の方へ。

地球館に入って、まずは1Fの常設展のフロアへ。地球館の常設展は、以前、地下3Fの物理関係の展示と地下2Fの 「地球環境の変動と生物の進化」 は観たことはあるが、その時は時間切れでそれ以上は観られなかったので、常設展も少し観てみようと思ったのだ。1Fの常設展は「地球の多様な生き物たち」というテーマで、海洋生物や陸上生物の多様性や、これらの生物が多様性を獲得するために、どのように進化し、種が別れてきたかというような内容だ。ただ、ここで時間をかけて観てしまうと特別展を観る時間がなくなってしまうので、ざっと観て回るだけにした (いずれ時間をかけて観てみよう) 。


会場内のMAP
その後は一旦外に出て、特別展の入口へ (入口は別になっていたのだ) 。
中に入って地下の展示室に下りて観ると、中はじっくり観れないほどの混みようだ。係員の人が、フラッシュを焚かなければ写真を撮れるというアナウンスをしていたので、スマホを手に持っていつでも写真を撮れる体制で (中で写真が撮れるとは思っていなかったので、この日は一眼レフカメラは持ってきていなかったのだ) 、順番に観て回った。

今回の特別展のテーマは 「深海」 だが、まずは深海の世界について。
深海とはどの位の深さの海のことをいうかというと、水深 200 m 以下の海を深海と呼ぶのだ (普通、海の深さというともっと深いので ― 例えば、太平洋の平均の深さは約 4000 m だ ― 、200 m というとなんだか浅いようなイメージもあるが、通常は水深 200 m 以下の海をそう呼ぶのだ) 。そこは太陽光は届かず、暗闇と低温、高圧の世界が広がっている [1]
その暗闇、低温、高圧の世界を探査するのが潜水調査船なんだが、なかでも注目の的は、深さ 6500 m まで潜れる有人潜水調査船 「しんかい6500」 の実物大模型だ (「しんかい6500」 はまだ現役で稼働しているのだ) 。ほかには、水深 7000 m まで潜れる無人探査機 「かいこう」 や深海生物調査用の探査機 「ピカソ」 の“実物”なども展示してあった。

以下の4枚の写真は「しんかい6500」の実物大模型








しんかい6500の支援母船
「よこすか」 の模型

海中の経路を自力で走行する
探査機 「ゆめいるか」 の模型


深海生物調査用の探査機
「ピカソ」 の実物

水深 7000 m まで潜れる
無人探査船 「かいこう」 の実物


つぎに、深海に生息する生物といえば、まず頭に思い浮かぶのは、エビやカニなどの甲殻類、あんこう、何やら光を放つ生物や妙な魚などだが、他にもタラやキンメダイなど、食卓でけっこう見かける魚も多いのだ。


シャコの仲間と
センジュエビ科の1種の標本

世界最大の節足動物 「タカアシガニ」
ちょっとピンボケになってしまった・・・


「ソコボウズ」 の標本


しかし、今回の特別展の主役は何といっても、全長約 5 m のダイオウイカの標本だ。世界最大の無脊椎動物といわれるダイオウイカは、大きなもので全長 18 m にもなるといわれるが、深海に生息しているため、その生態はよく分からなかったのだ。しかし最近、小笠原近くの深海で動画撮影に成功するなど、その生態もすこしずつ解明されてきているそうだ (深海シアターで、その動画撮影の様子も上映されていた) 。




今回の主役 「ダイオウイカ」 の標本 (左) 。人が多くてこんな写真しか撮れなかった・・・。
ということで、天井から吊り下げられている 「ダイオウイカ」 の模型の写真も (右) 。

最後には深海の開発のコーナーがあり、日本が誇る深海掘削船 「ちきゅう」 の模型や、深海で採取されたレアアース (希土類) 泥やマンガン・ノジュールのサンプル、海底の熱水噴出孔で形成されたチムニーの実物などが展示されていた。


深海掘削船 「ちきゅう」 の模型

レアアース泥のサンプル


鉄マンガンクラストのサンプル

マンガンノジュール (マンガン団塊) の
サンプル - マンガン、鉄などの
金属水酸化物の塊


熱水噴出口で形成されたチムニー


以下はレアメタル (希少金属) 、レアアース (希土類) の例として、単体サンプルも展示してあった。


マンガン単体のサンプル


マンガン ( 原子番号25、元素記号 \(\rm{Mn}\) ) は、一般的には、二酸化マンガン ( \(\rm{MnO_2}\) ) がアルカリ乾電池やリチウム電池の正極などに使われているのだ。


コバルト単体のサンプル


コバルト ( 原子番号27、元素記号 \(\rm{Co}\) ) は、主に合金として用いられ、ドリルの刃などに用いられている。また、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステンなどを添加したコバルト合金は、ガスタービンやジェットエンジンなどの高温で高負荷が生じる装置にも使用されているのだ。
ちなみに、コバルトというと放射能を連想する人もいるかと思うけど、それはコバルト60 ( \(\rm{{}^{60}Co}\) ) というコバルトの放射性同位元素のことで、医療用などに用いられているものだ。通常のコバルト ( \(\rm{{}^{59}Co}\):コバルト59) は安定な元素で放射性はないのだ。


イットリウム単体のサンプル


イットリウム ( 原子番号39、元素記号 \(\rm{Y}\) ) はハイテク産業にはなくてはならない元素だ。イットリウム・アルミニウム・ガーネット (YAG) の結晶は、高出力のレーザー発振器の重要な部品だし、イットリウム・バリウム・銅酸化物 (YBCO) は高温超伝導体 [2] として使われているのだ。

ひととおり見終わったところでちょうど閉館の時間になったので、博物館を後にして上野駅へ。


[1] 水は光を吸収するんだが、赤い光は青い光より吸収されやすいので、10 m より先はすべてが青く見える (これは水中で撮影された映像などを見れば分かるように、深いところや遠くの方が青く見えるのはこのためなのだ) 。さらに水深 70 m では 0.1% の光しか届かない。なので、水深 200 m ではほとんど光は届かないのだが、青い光はわずかながら届いていて (人間の目では分からないが) 、深海の生物でそのわずかな光を感知するものもいるそうだ。

海水の温度は、表層は緯度によって水温はかなり異なるが (低緯度では 25~30℃、高緯度では 2~3℃) 、例えば低緯度では水深が深くなると急激に水温が下がり、水深 3000 m 以下では約 2℃ 程度で一定となる。高緯度では表層から深海までほぼ 2℃ 程度で一定である。

水圧に関しては 10 m 深くなる毎に水圧が1気圧ずつ増えていくので、深海ではものすごい水圧がかかることになるのだ。

[2] 高温超伝導といっても、常温で超伝導になるわけではないので、念のため。YBCO は従来より高い温度の約 93 K (-180℃) で超伝導状態になるので、高温超伝導体と呼ばれているのだ。この温度は液体窒素の沸点 77 K (-196℃) より高いため、冷却材として高価な液体ヘリウムを使わずに済み、安価な液体窒素で冷却できるので、冷却コストを大幅に抑えられるのだ。

Date: 2013/05/03
Title: 「宇宙のごみさらい」は急務
Category: 宇宙開発
Keywords: 地球周回軌道、宇宙ごみ、除去


ネットのニュースをチェックしていたら、興味深いニュースを見つけた。それは、ESA (欧州宇宙機関) で開かれた国際会議で、科学者らが「宇宙ごみ (space debris) 」の除去は急務と訴えたという記事だ。

地球の周りの宇宙空間 (地球周回軌道上) には多数の人工衛星が回っているが、これらの衛星の寿命が尽きた時、大気圏に再突入して燃え尽きるものもあるが、中にはそのまま軌道を回り続けるものもある。さらに、多段式ロケットから切り離された機体などもある。これらの大きなごみが軌道上で衝突を繰り返して、さらに小さなごみとなって地球の周りを回り続けているのだ。軌道上に存在する「宇宙ごみ」は直径数 cm の 小さなものだと数十万個に上るという。

小さなものといっても侮るなかれ。地球周回軌道上を回っているということは、最低限第一宇宙速度 (物体が地球の軌道上を回るための最低速度) で飛ぶ必要があり、これは秒速約 7.9 km = 時速約 28,400 km というとんでもない速さなのだ (言い換えれば、小さなものでも非常に大きな運動エネルギーを持っている) 。こんなものがぶつかってきたら、衛星を損傷させて機能を停止させたり、さらには国際宇宙ステーション (ISS) に穴を開けたりする可能性だってあるのだ。そうなると ISS で活動している宇宙飛行士にも危険がおよぶことになるのだ。

今のままのペースでロケットが打ち上げられ続けると、今後ますます「宇宙ごみ」は増えていくし、何年か前には中国が古い衛星を標的にして衛星を攻撃する実験をして、大量の「宇宙ごみ」を撒き散らして国際的な非難をあびたのは記憶に新しい。

というわけで、「宇宙のごみさらい」が急務となってきたわけだ。

会議ではいろいろと提案がなされたようだが、今後どんな方法で「ごみさらい」が実現されるのかな。
単純に考えると、大気圏に再突入させて燃え尽きさせるとか、何らかの方法で運動量を与えて宇宙空間に「放り投げる」とかかなぁ?それとも、宇宙船で近づいていって「網ですくう」とか・・・。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2940859?pid=10644276
ESA の関連記事:
http://www.esa.int/Our_Activities/Operations/Space_Debris
/Global_experts_agree_action_needed_on_space_debris

Date: 2013/04/28
Title: ニュートリノ振動を国際共同研究チームが確認
Category: 素粒子
Keywords: CERN、グランサッソ研究所、ニュートリノ、世代、ニュートリノ振動


少し前の記事だけど、ニュートリノ振動を国際共同研究チームが確認したという記事だ。

実験を行ったのは、スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構 (CERN) と、そこから 730 km 離れたイタリア国立核物理学研究所 (INFN) のグランサッソ研究所 (Gran Sasso Laboratory) の研究チーム・オペラ (OPERA) で、CERN から放出されたミューニュートリノがグランサッソではタウニュートリノとして検出されたというものだ。オペラ・チームは2001年に実験を開始して以来、過去に2010年と2012年にこのニュートリノの 変化を捕らえていて、今回で3度目の観測に成功したということなる。


CERN とグランサッソの位置関係
Google Earth より

ベータ崩壊


まずは、ニュートリノとは何かということから説明してみようかな。
歴史的には1930年にオーストリアの物理学者ヴォルフガング・パウリ (Wolfgang Ernst Pauli) [1] が、原子核崩壊の一種であるベータ崩壊でエネルギー保存則が成り立つように、中性の何か未知の粒子がエネルギーを持ち去っているという仮説を出したのが始まりで、その後、イタリアの物理学者エンリコ・フェルミ (Enrico Fermi) [2] も、ベータ崩壊は原子核内の中性子が陽子と電子を放出し、さらに中性の粒子を放出するという説を出し、この中性の粒子を「ニュートリノ (neutrino) 」と名付けたのだ。実際にニュートリノの存在が証明されたのは1950年代半ば頃で、アメリカの物理学者フレデリック・ライネス (Frederick Reines) [3] が原子炉のそばで実験して見つけたのだ。
ニュートリノはクォークや電子などと共に物質を構成する基本粒子と考えられていて、ニュートリノは電子と同じくレプトン (lepton) と呼ばれる粒子の仲間なのだ。レプトンというのは元々は軽い粒子という意味で付けられた名前で、ニュートリノの質量は長い間 0 (ゼロ) なのか、非常に小さいけれども有限の質量を持っているのかが問題となっていた。


物質の基本粒子-クォークとレプトン
ちょっと話は飛ぶが、クォークとレプトンはフレーバー (flavor) という性質を持っていて、三つの世代に分けられる。
第1世代のクォークはアップ (up) とダウン (down) 、レプトンは電子 ( \(\rm{e}^-\) ) と電子ニュートリノ ( \(\nu_\rm{e}\) )、第2世代のクォークはチャーム (charm) とストレンジ (strange) 、レプトンはミューオン ( \(\mu^-\) ) とミューニュートリノ ( \(\nu_\mu\) ) 、第3世代のクォークはトップ (top) とボトム (bottom) 、レプトンはタウオン ( \(\tau^-\) ) とタウニュートリノ ( \(\nu_\tau\) ) なのだ。
ニュートリノが電子型・ミュー型・タウ型の間で変化することをニュートリノ振動というのだが、ニュートリノ振動が起こるにはニュートリノが非常に小さいけれど有限の質量を持つことが必要で、電子型、ミュー型、タウ型のニュートリノはそれぞれ異なる質量を持っているとされる。

太陽内部の核融合反応で発生するニュートリノは理論で予測される計算値に比べて、実際に観測されるニュートリノはその 1/3 しかないという問題 (これを太陽ニュートリノ問題という) や、宇宙線が地球大気に衝突して発生するニュートリノが予想より少ないという問題のようなニュートリノ喪失 (missing neutrino) 問題は、ニュートリノ振動によるものなのだということが明らかにされのだ。


ニュートリノ振動
今回確認されたのは、第2世代のミューニュートリノが CERN からグランサッソまでの 730km を飛んでいく間に第3世代のタウニュートリノに変化したというものだが、この他にも、東大宇宙線研や高エネルギー加速器研究機構 (KEK) などの日本の研究機関やアメリカの研究機関などでもニュートリノ振動は確認されていて、ニュートリノが質量をもつことの証拠といえるのだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2936089?pid=10509781
CERNの記事:http://home.web.cern.ch/about/accelerators/cern-neutrinos-gran-sasso
OPERAの記事:http://operaweb.lngs.infn.it/spip.php?article58&lang=en


[1] ヴォルフガング・パウリ (Wolfgang Ernst Pauli, 1900 - 1958) 。オーストリア生まれのスイスの理論物理学者。量子力学の分野で、特に電子のスピンの理論やパウリの排他律などの業績で知られ、1945年にノーベル物理学賞を受賞。

[2] エンリコ・フェルミ (Enrico Fermi, 1901 - 1954) 。イタリアの物理学者。統計力学、原子核物理学の分野で顕著な業績をあげ、1938年にノーベル物理学賞を受賞。米国シカゴ大学で世界初の原子炉を完成させ、核分裂の連鎖反応の制御に成功したことでも知られる。また、理論と実験の両面で世界的な業績をあげた最後の人ともいわれる。

[3] フレデリック・ライネス (Frederick Reines, 1918 - 1998) 。アメリカの実験物理学者。原子炉からのニュートリノの検出に成功し、理論で予測されていたニュートリノの存在を証明。1995年にノーベル物理学賞を受賞。

Date: 2013/03/25
Title: 火星に生命に適した環境があった証拠が発見された
Category: 太陽系
Keywords: 火星探査、キュリオシティー、岩石、生命の可能性


NASA の火星無人探査車キュリオシティー (Curiosity) が採取した火星の岩石サンプルを分析したところ、生命の材料となる主要元素 ― 硫黄 (S) 、窒素 (N) 、水素 (H) 、酸素 (O) 、リン (P) 、炭素 (C) ― があること、つまり火星にはかつて生命が存在可能な環境が存在した可能性を示す証拠を確認したという。

これまでの探査衛星による調査で、火星にはかつて水が存在していた証拠が見つかっていて、生命が存在していた可能性があることが指摘されていたが、今回のキュリオシティによって岩石のサンプルを直接分析したことで、地球以外にも生命が存在した可能性がさらに高まったのだ。

キュリオシティがサンプルを採取した場所は、ゲールクレーター (Gale Crater) の縁の着陸地点に近いイエローナイフベイ (Yellowknife Bay) エリアと呼ばれるところだ。そこはかつて川が流れていたか湖底だった場所で、そこに堆積している岩盤を掘削して採取したものだ。解析の結果、岩石には粘土鉱物や硫酸塩鉱物などが含まれていて、古代にここに存在した水場の環境はひどく酸化されたり、極端に酸や塩を含むものではなく、微生物にとって好ましい環境であったという。
キュリオシティはイエローナイフベイでさらに数週間探査を続け、その後はクレーター中央にそびえるシャープ山 (Mount Sharp) への長い旅の後、シャープ山の麓にある堆積地層の調査を行うそうだ。そこは周回衛星からの分析で粘土鉱物や硫酸塩鉱物があることが分かっていて、生物が生存するのに適した条件の持続期間や変化について、さらに情報が得られると期待されているのだ。
今回の調査で、火星にはかつて生命に適した環境が存在した可能性が見つかったんだが、キュリオシティは約2年間の探査を予定していて、今後、もし生命の痕跡である有機物が見つかると、ますますもって生命が存在した可能性が高くなるのだ。


タコみたいな火星人
なんか覆面レスラーみたいな
頭になってしまった・・・。
ただし、生命が存在したとしても微生物のようなもので、タコみたいな火星人 (^o^) がいたかも・・・ということでは ないので念のため。
僕が子供のころは、「火星 ⇒ 生命 ⇒ タコ星人」という図式が頭の中に出来上がっている人がいたけど、今時いないか、そんな人・・・。

ちなみに、タコみたいな火星人は、イギリスのSF作家 H.G.ウェルズが1897年に発表した小説「宇宙戦争」に登場した火星人のイメージが世間に定着したものなのだ。

う~ん。話が変な方向に行ってしまった・・・。ま、いっかぁ。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2933608?pid=10427052
NASAの記事:http://www.nasa.gov/home/hqnews/2013/mar/HQ_13-073_Curiosity_Rock_Analysis.html
科学雑誌「ニュートン」の2013年2月号にも特集記事が載っていた。

Date: 2013/03/23
Title: ヒッグス粒子を強く示唆する新たなデータが
Category: 素粒子
Keywords: CERN、LHC、ヒッグス粒子、スピン、パリティ


去年、欧州合同原子核研究機構 (CERN) で発見された「ヒッグス粒子 (Higgs boson) 」の可能性がある新粒子は、その後の解析で「ヒッグス粒子」であることを「強く示唆する」新たなデータが得られたという話だ。

CERN の大型ハドロン衝突型加速器 (Large Hadron Collider; LHC) の2つの実験グループ ATLAS と CMS によって行われた実験で、新たに見つかった素粒子がヒッグス粒子なのか、それとも別の未知の素粒子なのかが問題となっていた。そこで ATLAS と CMS は素粒子の2つの量子的な特性 ― スピンとパリティ ― を解析した。

それでは、スピンとパリティというのはいったいどういうものなのかというと、まずはスピンから。
スピンというのは素粒子の持つ量子力学的な内部自由度の一つで、スピン角運動量とも呼ばれるものだ。歴史的には電子が大きさを持っていて、それが自転しているという古典的なイメージから、自転の角運動量として導入されたものなんだが、実際には電子は大きさを持たない点電荷として扱われるので、文字どおり自転しているかどうかはわからないが、角運動量は観測されるのだ。
電子は角運動量の固有値のうち半整数の値のみが許され、この半整数の固有値をスピン角運動量というのだ。クォークや電子など物質を構成する粒子は半整数のスピンをもち ― このような粒子をフェルミ粒子、あるいはフェルミオン (Fermion) という ― 、具体的にはクォークと電子は \(-1/2\) または \(1/2\) のスピンを持っているのだ (\(1/2\) のスピンを「上向き」、\(-1/2\) のスピンを「下向き」ということもある) 。
これに対して光子やウィーク・ボソン、グルーオンなど力の媒介粒子は整数スピンをもっていて ― このような粒子をボース粒子、あるいはボソン (Boson) という ― 、例えば光子は \(-1\) または \(1\) のスピンを持っている。ヒッグス粒子はボソンなので整数スピンを持つのだが、そのスピンは \(0\) とされているのだ。

つぎに、パリティというのは素粒子の持つ属性の一つなんだが、空間を反転した時に物理法則が不変かどうかを表わしている (そのため、鏡像イメージとも呼ばれる) 。パリティが正 (\(+1\)) なら物理法則は不変で ― これをパリティ対称性という ― 、パリティが負 (\(-1\)) ならパリティ非対称 (パリティ対称性が破れている) という風にいうのだ。例えば弱い相互作用 (原子核崩壊の一種であるベータ崩壊も弱い相互作用によって引き起こされる) はパリティ非対称であることが知られている。素粒子の標準モデルではヒッグス粒子はパリティは正とされているのだ。

そこで、解析の結果はどうだったかというと、まさに”スピン \(0\)”、”パリティ正”という結果で、これはこの粒子が「ヒッグス粒子」であることを「強く示唆」しているという。しかし、この新粒子が本当に「ヒッグス粒子」なのかを決定するには、さらなるデータ解析が必要で、こうやって一つ一つ問題をクリアにしていくしかないのだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2934158?pid=10443964
CERNの記事:
http://home.web.cern.ch/about/updates/2013/03/new-results-indicate-new-particle-higgs-boson

Date: 2012/07/13
Title: 経験したことのないような大雨 ― 時間雨量 100mm の雨 水の量はどの位か
Category: 気象
Keywords: 気象庁、雨量、大雨、警戒情報


「過去に経験したことのないような大雨。厳重に警戒を。」
熊本県と大分県を中心に記録的な大雨が降って、大変な水害が発生したが、気象庁は今回このような短文で災害への警戒を喚起する情報を発表していた。
これまでは雨量や気圧配置などのを詳しく説明した長文形式の情報を発表していたが、「気象情報で総雨量が何ミリと書かれても危険度が分からない」という意見が寄せられていたことに対応するため、6月下旬から短文形式の情報発信の運用を開始したが、今回の大雨で初めて発表されることになったのだ。

雨量を表わすのによく1時間当たり何ミリの雨量という言い方をするが、たしかに何ミリの雨量といわれてもピンと来ないかもしれない。それでは具体的にどの位の水の量かというと、正確には雨量計を使って測るのだが、つぎのようにイメージすると分かりやすい (かな?) 。

例えば1時間の雨量が10ミリの場合、降った雨が地中にしみ込んだり、川などに流れて行かなかったとして、1時間で 10 mm (= 1 cm) の高さまで水がたまるということだ。
面積 10 m2 (= 105 cm2:大体六畳の広さ) の空間に 10 mm の雨が降った場合、この空間にたまる水の量は 105 cm2 × 1 cm = 105 cm3 だ。1リットルは 103 cm3 なので、100リットルの水がたまるということだ。これは L サイズのバケツ (amazon で売っているやつ。間口直径約 28 cm / 底直径約 20 cm / 高さ約 28 cm / 容積約 10 L) 10杯分だ。100 mm の雨が降ったらバケツ100杯分だ。1時間は 3,600 秒なので、36秒ごとにバケツ1杯分の水を6畳間にぶちまけていくと、1時間で溜まった水の高さが大体 100 mm になる。本当にこれをやったら途中で疲れて嫌になってしまいそうだ。100 mm の雨量というのは6畳間位の狭い空間を考えただけでも相当な水の量ということだ。これが熊本や大分の広い地域に降ったのだ。

例えば、熊本市全域に同じように1時間に 100 mm の雨が降ったとしたら、熊本市の面積は約 390 km2 = 3.90 × 108 m2 (1 km2 = 106 m2) 、1時間に 100 mm の雨は 10 m2 の面積に1,000リットルの水がたまるので、熊本市全域では 3.90 × 107 × 1,000 = 3.90 × 1010 リットル、つまり 390 億リットルの水がたまるということだ。東京ドームの容積は 1,240,000 m3 = 1.24 × 109 リットル = 12億4,000万リットル (1 m3 = 1,000リットル) なので、390億リットルの水というのは東京ドーム31~32杯分に相当する水の量なのだ。これだけの量の雨が1時間に降るということだから、想像を絶する雨量だ。

気象庁では降雨の強さを時間雨量によって次のように分類している。

 ・弱い雨 ― 3 mm 未満
 ・やや強い雨 ― 10 mm 以上 20 mm 未満
 ・強い雨 ― 20 mm 以上 30 mm 未満
 ・激しい雨 ― 30 mm 以上 50 mm 未満
 ・非常に激しい雨 ― 50 mm 以上 80 mm 未満
 ・猛烈な雨 ― 80 mm 以上

ふつう 20 mm から 30 mm の雨で土砂降り、30 mm から 50 mm の雨がバケツをひっくり返したような雨、50 mm から 80 mm で滝のような雨といわれていて、80 mm 以上降ると息苦しくなるような圧迫感があって、恐怖を感じるらしい。今回の雨は時間当たり 100 mm を超えているので、まさに経験したことのないような恐怖の雨だ。

Date: 2012/07/07
Title: 「ヒッグス粒子発見か」というニュース駆け巡る
Category: 素粒子
Keywords: CERN、LHC、ヒッグス粒子、質量


スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構 (CERN) の大型ハドロン衝突型加速器 (LHC) で続けられていた実験で、ヒッグス粒子と考えられる新たな粒子が発見されたというニュースが駆け巡っている。

ヒッグス粒子 (Higgs boson) は素粒子に質量を与えると考えられている素粒子で、物質にはなぜ質量がある (重さがある) のかということを説明するために、1964年にヒッグス (Peter W. Higgs) らによって提唱されたヒッグス場理論によって予言されていたものだ。
2011年12月頃に、CERN で行われた実験でその兆候と考えられる結果が得られていたが、その時点ではまだ確定的なことは言える段階ではなかった。それから半年後、今回の CERN の発表によると、ATLAS と CMS という2つのグループによって行われた実験では (ATLAS には日本の東大や高エネルギー加速器研究機構 (KEK) なども参加) 、4 TeV (4テラ電子ボルト = 4兆電子ボルト) [1] もの高エネルギーにまで加速された陽子同士を衝突させ (衝突のエネルギーは倍の 8 TeV) 、質量 (= エネルギー) が 126 GeV (126ギガ電子ボルト = 1260億電子ボルト) [1] 付近に新しい素粒子が存在する強い兆候が得られ、実験の確度からヒッグス粒子と考えても矛盾がない結果が得られたという。
ただ、今の時点では「未知の粒子」の可能性も捨てきれないので、本当にヒッグス粒子なのかを見極めるには、さらに実験や分析による検証が続けられるのだろうけど。

もし今回見つかった粒子が本当に「ヒッグス粒子」なら、今世紀最大の発見ということになるし (といっても、今世紀はまだ12年しか経っていないけど) 、物理学に大きな変革をもたらすといわれる。その変革とは「素粒子の質量の概念の変更」だ。
そもそも質量というのは何かというと、物体の動きにくさを表わす指標だ。重い (= 質量が大きい) 物体は軽い (= 質量が小さい) 物体より動かしにくいし、動きを止めるのも難しい。ニュートンの運動の第2法則 \(F = ma\) (\(F\) は力、\(m\) は質量、\(a\) は加速度を表わす) を見ればわかるように、大きな質量の物体を動かしたり止めたりする (加速度を与える) には大きな力が必要になる。アインシュタインの相対性理論によれば、質量を持った物体をどんなに加速しても光速を超えることはできない。しかし、質量が \(0\) の光子 (光を粒子として表わす場合はこのように言います) は一旦放射されると文字通り光速度 (秒速約 30万 km) で突っ走って止まることはない。

僕らの体や周りのモノは原子でできているけど、原子はその中心に原子核があり、その周りを電子が回っている。原子核は陽子と中性子で構成されていて、陽子と中性子はそれぞれ 1 GeV 弱の質量を持っている (もう少し正確にいえば、陽子の質量は 938 MeV 、中性子の質量は 940 MeV) [1] 。素粒子物理学によれば、陽子や中性子は3つのクォークでできていて、クォークも固有の質量を持っている。クォークだけでなく電子やその仲間の粒子も質量を持っている (電子の質量は陽子の約2000分の1で、511 keV) [1] 。このように物質を構成している素粒子はどれも質量を持っていることになる。これは力を加えれば動かしたり、止めたりできることを意味している。
しかし、もしヒッグス粒子が発見されれば、そもそもクォークなどの素粒子は質量を持っていなくて、質量はヒッグス粒子と相互作用することで獲得した性質ということになるのだ。素粒子が質量を獲得することがなかったなら、宇宙の中を動き回るだけで止まることはなく、原子核をつくることもなく、原子もつくられないことになる。そうすると星もつくられず、地球もできることはない。地球ができなければ 生命も誕生せず、僕ら人間もこの世には存在しないということになってしまう。つまり、僕らが今存在しているのは素粒子が質量を獲得したからなのだ。

それはそうと、マスコミはこぞって 「神の粒子発見」 と報道していたようだけど、僕はどうも 「神の粒子」 という言葉が好きになれない。もっと別の言い方があるだろうにと思ってしまうが、やはりマスコミはセンセーショナルな見出しの報道にしたいのかなぁ。たしかにヒッグス粒子は質量の起源を説明するものだが、ヒッグス粒子が見つかってもそれですべてが解決するわけではないし、「神の粒子」 というのは言いすぎだよなぁ。
まぁ、たしかに物理学の知識に明るくない人に「ヒッグス粒子」と言っても、「なに、それ?」って言われるだけだろうし・・・。

ヒッグス粒子が「神の粒子」とマスコミでもてはやされるようになったのはなぜか?

調べてみると、どうもアメリカの物理学者レオン・レーダーマン [2] の本の題名「神がつくった究極の素粒子」に由来するようだ。レーダーマンは当初ヒッグス粒子のことを " goddamn particle " (いまいましい粒子) と紹介しようとしたが、編集者の意向で却下されたらしい。これがもとで「神の粒子」という呼び名がマスコミに広まっていったらしいが、レーダーマンをはじめ、多くの物理学者はヒッグス粒子を「神の粒子」とはこれっぽっちも思っていないと思う。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2887933?pid=9215772
CERN の Web サイト:http://public.web.cern.ch/Public/Welcome.html


[1] 素粒子の質量は静止エネルギー ( \(E = mc^2\) ) で表わすのが一般的で、単位は \(\rm{eV}\) (電子ボルト) を使う。\(\rm{1\,eV}\) というのは、電荷 \(e\) (電気素量という。\(e = 1.602 \times 10^{-19}\,\rm{C}\) (クーロン)) をもつ荷電粒子を \(\rm{1\,V}\) の電位差で加速したときに粒子が得るエネルギーで、\(\rm{1\,eV} = 1.602 \times 10^{-19}\,\rm{J}\) (ジュール) という値になる。ただ、\(\rm{1\,eV}\) といのは非常に小さい値なので、通常は \(\rm{k}\) (キロ:\(10^3 = 1000\)) 、\(\rm{M}\) (メガ:\(10^6 = 100\)万) 、\(\rm{G}\) (ギガ:\(10^9 = 10\)億) 、\(\rm{T}\) (テラ:\(10^{12} = 1\)兆) といった接頭語をつけて表わす。

[2] レオン・レーダーマン (Leon Max Lederman, 1922 - ) はアメリカの実験物理学者で、フェルミ国立加速器研究所 (Fermi National Accelerator Laboratory; FNAL) の所長を務め、1988年には「ニュートリノビーム法、およびミューニュートリノの発見によるレプトンの二重構造の実証」によりノーベル物理学賞を受賞している。

Date: 2012/06/09
Title: 光より速いニュートリノは誤り ― やっぱりアインシュタインは正しかった!
Category: 素粒子
Keywords: CERN、LHC、ニュートリノ、速度、相対性理論


これは2011年9月にスイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構 (CERN) で行われた実験で、CERN から 730km 離れたイタリアの Gran Sasso 研究所に向けて発射されたニュートリノの到達時間を測定したら、ニュートリノの方が 60ns (ナノ秒、1ns は10億分の1秒) だけ速かったというものだった。

しかし、とっても小さいけれど有限の質量を持っているニュートリノの速度が光の速度より速いということは、「質量を持っている物体は光の速度 (ここで言っているのは “真空中の” 光の速度のことです) を超えられない」 とする相対性理論と矛盾することから大きな波紋を呼び、その後検証実験が続けられていた。
その結果、ニュートリノの速度は光速を超えられないことが確認された。

やっぱり 「アインシュタインは正しかった」 のだ。

でも、なんか予想通りの結末だなぁ・・・。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2882839?pid=9078706
CERN のプレスリリース:http://press.web.cern.ch/press/PressReleases/Releases2011/PR19.11E.html
ちなみに今回の結果は京都で開催されている第25回ニュートリノ・宇宙物理国際会議 (NEUTRINO2012) で発表されたそうだ。
http://www.kek.jp/ja/NewsRoom/Release/20120601150000/
http://neu2012.kek.jp/index.html

Date: 2012/05/19
Title: 星を飲み込むブラックホール 一部始終を観測
Category: 宇宙
Keywords: ブラックホール、赤色巨星、潮汐力


久しぶりに AFPBB News をチェックしていたら、この記事がにとまった。
アメリカの研究チームが超巨大ブラックホールが近くの星を飲み込む一部始終を観測するしたという話だ。

観測したのはハーバード・スミソニアン天体物理学センター (Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics) の研究者ライアン・チョーノック (Ryan Chornock) 氏とジョンズ・ホプキンス大学 (Johns Hopkins University) の Suvi Gezari 氏率いる研究チームだ。

研究チームはハワイ・マウイ島のハレアカラ (Haleakala) 山にある望遠鏡や NASA の衛星を使って、ブラックホールに吸い込まれるガスのフレアを1年間にわたって観測を行った。その結果、27億光年離れた 銀河の中心にあるブラックホールを特定したという。このブラックホールは太陽の300万倍ほどの質量を持っていて、僕らが住んでいる銀河 (天の川銀河) の中心にあるブラックホールと同じくらいのサイズだそうだ。

ブラックホールに吸い込まれた “犠牲者” はおそらく赤色巨星 (晩年に達した星で) と思われ、1天文単位 (太陽と地球の平均距離で、約1億5000万 km) の 1/3 位の距離までブラックホールに近づきすぎたため、ブラックホールの 強烈な潮汐力によって引き裂かれ、吸い込まれてしまったらしい。
潮汐力はその名の通り、地球上では太陽や月の引力によって海水が引っ張られて潮の満ち引きを引き起こしている力なんだが、巨大ブラックホールによって赤色巨星に働く潮汐力は巨星を引き裂くほど巨大なのだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2875745?pid=8884038
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの記事:
http://www.cfa.harvard.edu/news/2012/pr201213.html
NASA の関連記事:
http://www.nasa.gov/home/hqnews/2012/may/HQ_12-144_GALAX_Black_Hole_Swallows_Star.html
http://hubblesite.org/newscenter/archive/releases/2012/18/full/
また、NASA の Web Site では、巨大ブラックホールに恒星が引き裂かれてガスが飲み込まれる様子をコンピュータ・ シミュレーションした動画を見ることができる。
http://www.nasa.gov/mission_pages/galex/galex20120502.html

Date: 2012/03/18
Title: 「光より速いニュートリノ」― やっぱり誤りの可能性が
Category: 素粒子
Keywords: CERN、LHC、ニュートリノ、速度、光ファイバーケーブル、接続不良


半年くらい前に、スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構 (CERN) で行われた実験で、ニュートリノの速度が光の速度より速いということが観測されてその真偽のほどが話題になっていたが、このほど測定上の不具合が原因の可能性が出てきたそうだ。

そのひとつは、CERN から 730 km 離れたイタリアのグランサッソ国立研究所に向けて発射された ニュートリノの速度を測定するため、ニュートリノの飛行時間を補正するために使われている GPS 受信機とコンピュータの電子カードをつなぐ光ファイバーケーブルの接続不良があったとするものだ。前回の測定では光よりニュートリノが60ナノ秒 (1億分の6秒) だけ速く到達したという結果だったのだが、接続不良を直して光ファイバーの長さをデータが到達する時間を計測したところ、データは予想より60ナノ秒速く到達したという。つまり、前回の結果は信号の到達時間が遅くなった分、ニュートリノの飛行時間を過小に見積もっていた (言い換えれば、速度を過大に見積もっていた) ことになる。

もう一つは、GPS 信号と同期して時刻を刻む発振器も影響していた可能性もあるという。

いずれにしても、これらの影響について今後明らかにされるだろう。その結果、「やっぱりアインシュタインは正しかった」ってことになるのかな?
そうなるだろうな・・・。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2860332?pid=8526292
Science Insider の記事:
http://news.sciencemag.org/scienceinsider/2012/02/breaking-news-error-undoes-faster.html
http://news.sciencemag.org/scienceinsider/2012/02/official-word-on-superluminal-ne.html

Date: 2012/03/04
Title: 衛星 LARES 一般相対性理論を検証へ
Category: 物理
Keywords: 一般相対性理論、検証、フレーム・ドラッギング効果


ちょっと前に見つけたナショナルジオグラフィックの記事について。
それは、「衛星 LARES、相対性理論を検証へ」という、欧州宇宙機関 (ESA) が2月13日打ち上げに成功した新型の「ベガロケット」に搭載されているイタリアの衛星「LARES」について書かれたものだ。

LARES はアインシュタインの一般相対性理論で予測される「フレーム・ドラッギング効果 [1] 」をこれまで以上の精度で測定して、一般相対論を検証しようというものだ。

フレーム・ドラッギング効果について僕はよく知らないのだが (一般相対論の帰結についての僕の乏しい知識ではこの言葉はなかった) 、地球の自転にともなって周りの時空が引きずられる現象で、一般相対性理論で予言されていることのようだ。これまでフレーム・ドラッギング効果の検出に成功したのは、2000年代半ばの NASA の「重力探査機 B (GB-B) 」ミッションなのだが、40年以上もの開発期間と8億ドル (約640億円) もの 巨費を投じたにもかかわらず、技術的な問題で誤差が20%程度の精度でしか測定できなかった。今回のイタリアの衛星「LARES」は開発費1000万ドル (約8億円) と NASA の 1/80 にもかかわらず、誤差1%の精度が達成される見込みだそうだ。

LARES は直径わずか 36 cm のタングステン合金の球体だが、重さは 390 kg もあるそうだ。表面は金属リフレクターで覆われていて、まるで昔のディスコによくあったミラーボールのような外観をしている。名付けて “ミラーボール衛星” (って正式に言われているかどうかわからないけど) 。ちなみに、LARES というのは " Laser Relativity Satellite " の略称で、直訳すると ”レーザー相対性衛星” という意味だが、レーザーを使った観測で相対性理論を検証するための衛星ということでつけられたのだろう。

LARES の地球周回軌道は赤道に対して一定の角度で傾いていて、地球による時空の歪に引きずられるため LARES の軌道面がゆっくり歳差運動する (自転軸が回転運動する) と予測されている。歳差運動 (すりこぎ運動ともいう) というのはコマのように自転軸が首振り運動することをいうのだが、LARES の自転軸の首振り運動による角度のずれを、地上にあるレーザー測距システムの国際ネットワークでミリ単位の精度で位置を追跡して観測しようというものらしい。その角度のずれは1年間でわずか100万分の数十度程度だそうで、自転軸が1回転するのにざっと1000万年位かかる計算になる。しかし、距離に直すと1年間の移動距離は4mになり、レーザー測距システムが1%未満の精度で測定できるという。

一般相対性理論が発表されてから100年近くが経っているが、これまで様々な検証に耐えて実証されてきた。今回のフレーム・ドラッギング効果の検証結果がどうなるかはまだわからないが、今後もさまざまな検証がされ続けるのだろう。

関連記事はこちら。
ESA (欧州宇宙機関) およびその他関連サイト:
http://www.esa.int/esaMI/Vega/SEMEMCWWVUG_0.html
http://www.asi.it/en/activity/cosmology/lares


[1] ニュース記事ではフレーム・ドラッギング効果とあるが、上記サイトでは " Lens-Thirring effect " (レンズ・サーリング効果) と書いてある。

Date: 2011/12/17
Title: ヒッグス粒子発見へ大きく前進?
Category: 素粒子
Keywords: CERN、LHC、ヒッグス粒子


スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構 (CERN) に建設された大型ハドロン衝突型加速器 (LHC) は、ヒッグス粒子が発見されるかもしれないということが期待されていた。ヒッグス粒子 (Higgs boson) というのは、素粒子の質量を与えると考えられている粒子で、1964年にエディンバラ大学のヒッグスらによって提唱された、素粒子が質量を獲得するメカニズム (ヒッグス機構) に現れる場 (ヒッグス場) を量子化して得られる粒子のことなんだが、これまでの実験ではヒッグス粒子は発見されていなかった。LHC の実験でヒッグス粒子が発見 されればヒッグスらの仮説が証明されることになるのだが、今回行われた実験の中間結果を分析したところ、125 GeV (1250億電子ボルト) 付近でヒッグス粒子が存在するかもしれないという兆候が得られたという。

ただ、これでヒッグス粒子を発見されたなどと確定的なことは言えないし、さらにデータを集める必要がある。実験グループのある研究者によると、12ヶ月以内にはヒッグス粒子の存在の有無についての結論は出せそうだという。来年の今頃にはいい話が聴けることを期待しよう。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2845796?pid=8199003

Date: 2011/12/14
Title: 科学者のドリームマシーン 火星へ
Category: 宇宙開発
Keywords: 火星探査、キュリオシティー


ちょっと前に AFPBB News で見つけた記事だけど、NASA が火星に向けて史上最大にして最も高価な無人探査車を送りだすそうだ。

探査車の名前は 「キュリオシティー (Curiosity:好奇心) 」 で、火星にかつて生命が存在していた痕跡を探すのが目的だ。25億ドル (約1900億円) もの巨費を投じて開発されたもので、搭載されているビデオカメラやいろんな分析装置で火星の土や岩石を分析するのだそうだ。まさに火星を研究している科学者の「ドリームマシーン」だ。

打ち上げは 2011/11/26 に行われたらしいが、地球から火星まで 5億7000万 km の旅をしたのち、火星に着陸するのは 2012年8月 になるという。無事火星に着陸したら、キュリオシティーは地上走行して、カメラやロボットアームを使って火星探査活動を開始することになるのだが、今回の目的は現存する生命を探すというより、かつて生命が存在した痕跡を探すことに重点が置かれていて、キュリオシティーが送ってくる分析結果や火星の居住環境、放射線レベルなどの情報は、NASA の今後の火星探査計画 (将来的には有人探査を見据えているのかな?) に重要な役割を果たすことになりそうだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2840128?pid=8064722

Date: 2011/09/23
Title: 光より速いニュートリノ? ― ホントか?
Category: 素粒子
CERN、LHC、ニュートリノ、速度、相対性理論、大マゼラン雲、超新星爆発


ネットのニュースをチェックしていたら、次の記事が目に止まった。
「ニュートリノの速度は光の速度より速い、相対性理論と矛盾 CERN」
ニュートリノの速度を測定したら、光の速度よりチョットだけ速かったという記事だ。

ニュートリノは原子核崩壊の一種であるベータ崩壊に伴って放出される電気的に中性の素粒子で、太陽などの恒星の中心部で起こっている核融合反応や、大質量の星が一生を終えるときに起こす超新星爆発などでも放出される。長い間ニュートリノの質量についてはよく分からなかったんだが、近年になってとっても小さいけれど有限の質量を持っていることが分かったのだ。

アイシュタインの相対性理論によれば質量を持っている物体は光の速度を超えられないので、有限の質量を持っているニュートリノは光の速度を超えられないことになる。けれど、今回 行われた実験ではニュートリノの速度の方が速かったというから、実験結果は相対性理論と矛盾することになる。

では、今回行われた実験はどんな実験かというと、スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構 (CERN) から 730km 離れたイタリアのグランサッソ国立研究所に向けて ニュートリノを発射して、その到達時間を精密に測定することで、ニュートリノの速度を測定したようだ。
それで、その結果はというと、光の到達時間が2.3ミリ秒 (1000分の2.3秒) だったのに対して、ニュートリノの 到達時間はそれより60ナノ秒 (1億分の6秒) だけ速かったという。速度でいうと、光速 (秒速約 30万 km) に対して 0.0025% 速かったことになる。これだけ聞くと測定誤差じゃないのと思うかもしれないが、別の記事によれば、研究チームは3年間にわたってニュートリノの速度を 15000 回測定して測定ミスや誤差じゃないことを確認したようだ。

いやぁ~、思ってもみない結果が出てきてしまったもんだなぁ~。

ということで、今回の結果を公表して、世界中の物理学者に意見を聴くことにしたのだそうだ。もし今回の結果が本当に正しいと確認されれば、相対性理論を修正する必要に迫られるかもしれないけど、確認するのにも相当時間がかかるんじゃないかなぁ。いろんなところで検証実験も行われるだろうし。

それに、TVの報道なんか見てると、騒ぎすぎだよなぁ。
そもそも相対性理論は様々な実験によってその正しさが検証されてきたので、今回のような結果が出たからといって、即覆されるということにはならないが・・・。

ところで、ニュートリノは物質とほとんど相互作用をしないので地球を突き抜けて進んでいく。そのため、ジュネーブの CERN からイタリアの研究所までやってきたニュートリノの到達時間を測定することは、スイスからイタリアまで地面を突き抜けてやってきたニュートリノを捕まえて いるんだろうけど、光の到達時間はどうやって測ったんだろう?スイスとイタリアの間にはアルプス山脈が横たわっているし・・・。トンネルでも掘ったのかなぁ?

そういえば、この実験結果と矛盾する観測事実があるのを思い出した。

1987年に大マゼラン雲で超新星 (SN1987A) が爆発したとき、東大宇宙線研のカミオカンデでこの超新星からやってきたニュートリノを観測した。もし今回の実験結果のようにニュートリノの速度が光の 速度より 0.0025% だけ速いことになると、超新星から放出されたニュートリノが先に地球に到達して、その後超新星からの光が地球に届くことになる。

地球から大マゼラン雲のこの超新星までの距離は 16.7 万光年なので、実際に超新星から放出された光とニュートリノが地球に到達するまでの時間差がどの位になるかを計算してみると、大体4年の時間差になる。つまり、ニュートリノが地球に到達してから4年後に光が到達することになるのだ。しかし、実際には超新星からの光とニュートリノはほぼ同時に観測されていたので、今回の実験結果はこの観測事実と矛盾することになる。

まぁ、今後の検証実験などでどのような結論がくだされるのかわからないが、当面は事態の推移を見まもることになるのかな。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2830135?pid=7817623

Date: 2011/07/10
Title: スペースシャトルの航跡をリアルタイムでトラッキング
Category: 宇宙開発
Keywords: スペースシャトル、Google Earth、トラッキング


Google Earth を使ってスペースシャトル 「アトランティス」 の航跡を打ち上げから着陸までリアルタイムでトラッキングできるというニュースを何かで見たので、早速やってみた。


"Real-Time Space Shuttle in Google Earth"
NASA の Web サイトより


まずは NASA の Web サイトから「KMZファイル」というのをダウンロードして、その後 Google Earth を起動すると航跡が黄色い線で表わされていて、先端にはシャトルの絵がプロットされている。デフォルトの状態だと自動追尾になっていて、刻一刻と航跡が延びていくのが分かる。もっと詳しく見ようと思って拡大しようとしても、自動追尾だと元の表示状態に戻ってしまうので、その場合はマニュアル追尾にした方がよさそうだ。

以下はリアルタイム・トラッキングの画像。

北アフリカを抜けて地中海上空を
飛行しているところ。

拡大するとシャトルの絵もリアルになります。
イタリアからクロアチア辺りを飛行しています。


もっと拡大するとこうなります。


逆に倍率を下げて地球全体が見えるようにすると、今どこを飛んでいるかがよくわかります。

ヨーロッパ上空を飛んでいます。


NASA の Web サイトの説明を読むと、ミッションのイベントが色つきの点で表示されるようだが、僕が見たときは打ち上げから時間が経っていたので、航跡だけが表示されていた。う~ん、イベントに合わせて見た方がよさそうだが、肝心のイベントのスケジュールが分からないや・・・。

関連記事はこちら。
NASA の " Real-Time Space Shuttle in Google Earth " のページ: http://www.nasa.gov/mission_pages/shuttle/shuttlemissions/shuttle_google_earth.html

Date: 2011/07/09
Title: スペースシャトル 30年の歴史に幕
Category: 宇宙開発
Keywords: 有人宇宙飛行、スペースシャトル


1981年の初飛行以来、30年にわたって有人宇宙開発をリードしてきた NASA (米航空宇宙局) のスペースシャトルが最後のフライトを迎えた。


Image Credit: NASA
これまでの宇宙船とは異なり、繰り返し飛行が可能な宇宙船として設計され、実に総計134回の 発射が行われてきた。機体は全部で6機が製造されたが、初号機のエンタープライズ (Enterprise) は滑空試験のみに使用され、実際に宇宙飛行に使用されたのは、コロンビア (Columbia) 、チャレンジャー (Challenger) 、ディスカバリー (Discovery) 、アトランティス (Atlantis) 、エンデバー (Endeavour) の5機だ。

スペースシャトルの30年の歴史では、1986年のチャレンジャー号打ち上げ時の爆発事故、2003年のコロンビア号の大気圏再突入時の空中分解事故のような痛ましい事故も起きたが、数々の宇宙実験、ハッブル宇宙望遠鏡の軌道投入、国際宇宙ステーションの建設など多くの重要なミッションを遂行してきた。また、毛利衛さんをはじめ、多くの日本人宇宙飛行士も搭乗してきた。

今回、7月8日 (日本時間で7月9日) のアトランティスの打ち上げが最後のミッションとなり、スペースシャトルの歴史に幕を下ろすことになった。その背景としては、機体が古くなってきたことと、当初は繰り返し使用可能なことから打ち上げにかかる費用が少なくて済むといわれていたが、チャレンジャーとコロンビアの事故で安全に人員と費用がかかるようになり、打ち上げに莫大な費用がかさむようになってきたためといわれる (1回の打ち上げにかかる費用は10億ドル = 約800億円ともいわれる) 。

スペースシャトルが引退した後は、有人宇宙飛行に使用できる宇宙船は当面はロシアのソユーズだけになってしまうが、新しい有人宇宙飛行船はいつごろ登場するのかな?アメリカは2030年代までの火星への有人宇宙探査計画を公表しているようだけど・・・。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2810764?pid=7455925

Date: 2011/06/25
Title: 太陽活動が17世紀以来の休止期に突入か?
Category: 太陽
Keywords: 太陽活動、休止期


太陽活動は11年周期で変動していて、活動が活発になってくると太陽表面の黒点が増加し、逆に活動が低下していくと黒点が減少していくのはよく知られている。最近では2004年から2007年頃にかけて黒点数が減少して極小期を迎え、その後は黒点数が増加していって2012年 頃には極大期を迎えると予想されていた。しかし最近では太陽活動は異様な静けさを見せていて、17世紀のマウンダー極小期 (Maunder Minimum Term) 以来の休止期に入り、その時期には地球の気温がわずかに低下する可能性があるという。

マウンダー極小期とは17世紀後半から18世紀初め頃にかけて (1645 ~ 1715年頃) 太陽黒点数が著しく減少した時期で、ヨーロッパや北米などでは、冬は著しい酷寒となり、逆に夏はぜんぜん夏らしくない時期が続いたという。その頃のロンドンのテムズ川などでは、冬季は完全に凍結して氷の上を馬車が走ったり、人々がスケートなどに興じていたそうだ。

マウンダー極小期と地球の寒冷化の因果関係については明確な証拠は提示されていないそうだが、そのなかでも最も寒かった時期とマウンダー極小期が一致していることから、太陽活動と地球の気温との間には何らかの因果関係がありそうだ。

ただ、太陽黒点数は2009年が極小で、その後増加に転じているという観測結果もあり、しばらく様子をみていく必要があるのかな?

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2806591?pid=7348973

Date: 2010/11/28
Title: 「はやぶさ」が持ち帰った微粒子は「イトカワ」起源のものだった
Category: 宇宙探査
Keywords: JAXA、小惑星探査、はやぶさ、イトカワ、微粒子


今年の6月に小惑星「イトカワ」から地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」のカプセルの中に、地球起源ではない物質が見つかったそうだ。「はやぶさ」は「イトカワ」に着陸した時に岩石のサンプルをカプセルに採取する計画だったが、システムがうまく作動しなかったため、カプセルの中は「空っぽ」ではないかと危惧されていたが、大きさ約数十 μm (マイクロメートル:1 μm は百万分の1メートル) の微粒子が1500個程見つかったらしい。まさに執念で探したという感じだ。地球以外の天体から物質のサンプルを持ち帰ったのは、約40年前のアメリカのアポロが月の石を持ち帰って以来の快挙だが、無人の探査機が月以外の天体から物質を持ち帰ったのは、世界初の快挙だ。

今回何とか「イトカワ」からサンプルを持ち帰ったことで、太陽系形成の謎や惑星形成過程を解き明かすカギとなることが大いに期待されている。というのも、地球には大気が存在するために、地上の岩石は風雨にさらされてどんどん風化していってしまうため、地球誕生時の状態を留めていないが、小惑星には大気がないため、小惑星上の岩石は小惑星誕生時の状態を留めていると考えられているからだ。

それじゃ、わざわざ小惑星まで行かなくても、一番近い月から持ってくればいいじゃないかと言われそうだが、ところがそう簡単に問屋は卸さないんだな。
地球や月などの天体は原始太陽系の周りに漂っている塵がぶつかって小さな岩石になり、それらがまたぶつかりあってだんだん大きくなっていって、惑星や衛星に成長していったと考えられているんだが、惑星形成過程を調べようとすると、月のような大きく成長した天体ではなく、原始惑星である小惑星からサンプルを持ってくる必要があるからなのだ。そこで今回その標的になったのが小惑星「イトカワ」なのだ。(詳しくは下記補足を参照してください。)


小惑星帯の位置を示した大雑把な図
では、小惑星はどこにあるのかというと、もっともよく知られているのは、太陽系の中の火星と木星の間には多数の小惑星が存在する領域があり、これを「小惑星帯」というのだが、小惑星はこの領域にしか存在しないのかというと、そんなことはなく、地球近傍の軌道を回っている小惑星も多数存在するし、冥王星軌道の近くにもたくさんの小惑星が見つかっている (冥王星付近の小惑星が多く存在する領域を、エッジワース・カイパー・ベルトという) 。ちなみに地球近傍の軌道を回っている小さな岩石が地球大気に突入すると、大気の摩擦で燃え尽きてしまうが、地上にいる人にはこれが流れ星として見えるのだ。小さな岩石であれば大気圏に突入した時に燃え尽きてしまうが、大きさが何kmもあるような小惑星が地球に衝突してきたら地球に生息しているあらゆる生物にとって危機的状態となる。今から約6500万年前に、メキシコのユカタン半島に直径10~15kmの小惑星が衝突したのだが、この衝突で地球環境が激変し、恐竜を含む多くの生物種が絶滅した最も有力な証拠とされているのだ。


地球と火星とイトカワの軌道
話がそれてしまったが、小惑星「イトカワ」はこのような地球の軌道に近いところを回っている小惑星なのだ。地球の近くを通る軌道を回っている小惑星にはいくつかのグループがあるのだが、「イトカワ」はそのうち「アポロ群」と呼ばれるグループに属している。
左の図は地球と火星とイトカワの軌道を簡単に描いたものだが、イトカワの軌道は、近日点では地球の内側に、遠日点では火星の外側に来るのだ。

今回その「イトカワ」から極めてクリーンな状態で微粒子を持り帰ることに成功したことで、今後の詳細な分析が待たれる。

[補足]
1. まずは、惑星形成過程を調べようとすると、月のような大きく成長した天体ではなく、原始惑星である小惑星からサンプルを持ってくる必要があるということに関して。

天体がある程度の大きさまで成長すると、内部で熱がこもって温度が上昇していくため、天体内部の岩石が溶融する。内部が溶けていくと軽い物質は天体表面に上がって行って地殻を形成し、重い物質は沈んでマントルとなる。さらに、マグマが表面に噴出するというような火山活動も起こる。そうすると物質の組成などが変わってしまうため、表面のサンプルを採取しても、太陽系初期のことはわからなくなってしまう。そのため、月よりもっと小さい小惑星からサンプルを採取してくる必要があるのだ。

2. つぎに、サンプルを持って帰るためには、天体に着陸してサンプルを採取して、その後離脱しなければならないが、着陸する天体が大きいと重力も大きくなるのでその分脱出速度が大きくなり、そのための推進剤が余計に必要になる。しかし 「はやぶさ」 のような小さな探査機にはそんなに大量の推進剤を積むだけのスペースはない。

月は地球に比べて重力が小さく、その重力加速度は 1.62 m ⁄ s2 で地球の6分の1 (0.165G) なんだが、それでも脱出速度は 2.38 km ⁄ s と大きい。それに比べて 「イトカワ」 の重力加速度は大体 0.07 ~ 0.1 mm ⁄ s2 (地球の約10万分の1) 位で、脱出速度は大体 0.0002 km ⁄ s 位ととっても小さいので、着陸してから離脱するときに必要な推進剤は少なくて済むのだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2775477?pid=6470491
宇宙研 (ISAS) の記事:http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2010/1116.shtml

Date: 2010/09/08
Title: 円周率を小数点以下5兆桁まで計算
Category: 数学
Keywords: 円周率、計算、パソコン


日本人のシステムエンジニアと米国の男子学生のチームが、パソコンを使って円周率を小数点以下5兆桁まで計算したそうだ。それも地元の電気店などで部品を調達して作った手製のデスクトップパソコンを使って、90日かけて計算したそうだ。計算が正しければ、同じく家庭用のデスクトップパソコンで打ち立てられた世界記録の約2兆7000億桁を大幅に更新することになるという (検算するのもとっても大変そうだけど、一体どうやってやるんだろう?) 。

これまで円周率の計算といえば、数学者がスーパーコンピュータを使って何億桁まで計算したという話題ばかりだったと思うが、何十億円もする非常に高価なスーパーコンピュータを使おうとすると、使える人が限られてくるし使用料もばかにならない。しかし、そんな高価なスーパーコンピュータを使わなくても、お金をかけずに (今回のケースではかかった金額は150万円ほどらしい) パソコンで時間をかけて計算すれば、世界記録を樹立できることを証明したのだ。

考えてみれば、10数年前に僕が最初に買ったパソコンの CPU のクロック周波数は確か 30 MHz 位だったと思うが、今では 3 GHz 位にまでなっている (ちなみに何年か前に買った今使っているパソコンは 1.66 GHz です) 。単純計算で10数年で100倍処理速度が上がっていることになる。このように、昔に比べてパソコンの性能が格段に上がったことと、計算のアルゴリズムをうまく考えたから、パソコンでも小数点以下5兆桁までも円周率の計算ができたのだと思う。昔のパソコンの性能 (処理速度が 1/100) だと、単純に計算して、90日かかった計算が100倍の9000日、つまり約25年かかることになり (その前にパソコンが壊れてしまう) 、小数点以下5兆桁の円周率の計算なんかとてもじゃないけど実現できなかったのだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2746373?pid=6048985

Date: 2010/06/17
Title: 「はやぶさ」無事に地球に帰還
Category: 宇宙探査
Keywords: JAXA、小惑星探査、はやぶさ、イトカワ


JAXA (宇宙航空研究開発機構) が小惑星「イトカワ」の岩石のサンプルを採取するために2003年に打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ」が、「イトカワ」までの往復約50億km、7年に及ぶ宇宙の旅を終えて地球に帰還した。「はやぶさ」本体は大気圏に突入して燃え尽きたが、その前に切り離されたカプセルは着陸予定地点のオーストラリア大陸の砂漠地帯に着陸し、カプセルも無事回収されたようだ。

思えば、「はやぶさ」の宇宙飛行は、「イトカワ」に着陸した時にサンプルを採取するシステムがうまく作動しなかったり、途中で通信が途絶えたり、イオンエンジンが故障したりと、数々の致命的なトラブルに見舞われたが、JAXA のスタッフの懸命な対応で何とか無事に地球に帰還することができたのは奇跡に近い出来事だ。

これで、回収されたカプセルに「イトカワ」の岩石の破片のサンプルが入っていれば、地球外天体のサンプルを持ち帰ったのはアポロが持ち帰った「月の石」以来のことになるが、月以外の天体のサンプルということになれば、世界初の快挙となる。分析可能な「イトカワ」の岩石の破片が採取できれば、太陽系誕生の謎や惑星形成過程を解明する手がかりになると考えられ、カプセルの開封結果に期待が膨らむ。

仮にカプセルが空っぽだったとしても、「はやぶさ」は赤外線やX線で「イトカワ」の表面を撮影して、表面物質の分析も行っているので、「はやぶさ」は偉大なミッションを十分成し遂げたと思う。それに、月以外の天体に行って地球に帰還するという、世界初の快挙を成し遂げたのだから。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2735969?pid=5878475

Date: 2010/05/26
Title: 現生人類とネアンデルタール人に交雑した可能性が
Category: 古人類
Keywords: 現生人類、ネアンデルタール人、交雑


ちょっと前の記事だけど、「現生人類」と「ネアンデルタール人」が交雑していた痕跡が見つかったという話だ。

約2万8000年前に絶滅したネアンデルタール人は、我々現生人類 (ホモ・サピエンス) と約30万年前に共通の祖先から枝分かれし、ある期間は共存していたことが知られている。今回、クロアチアの洞窟で 発見された約4万年前のネアンデルタール人の骨の化石から DNA を抽出し、ゲノム解析を行ったところ、現生人類のゲノムの 4% がネアンデルタール人に由来するものだという。これは一時期共存していた現生人類とネアンデルタール人が交雑していた可能性を示すものだ。

また、今回比較された現生人類のゲノム配列は、アフリカ南部と西アフリカ、中国、フランス、パプア・ニューギニアの人たちから採取したものだそうだが (アフリカはまだしも、それ以外の地域は どういう基準で選んだんだろう?) 、アフリカ以外の地域の人たちのゲノムの方が、よりネアンデルタール人に近かったという。この結果から、旧人類から枝分かれした現生人類は、アフリカを離れた後、中近東でネアンデルタール人と交雑し、その後ネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子を持つ現生人類がユーラシア大陸に広がったと推定されているそうだ。

なるほど。ネアンデルタール人はなんとなく他人とは思えないと思っていたが (冗談です) 、我々はネアンデルタール人の遺伝子の一部も受け継いでいたというわけね。

ということは、先頃化石が発見された、現生人類やネアンデルタール人とは別種の人類「デニソワ人」も現生人類と共存していたと考えられているので、現生人類とデニソワ人も交雑していた可能性もあるのかな?

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2723748?pid=5723800

Date: 2010/04/28
Title: ハッブル宇宙望遠鏡、打ち上げ20周年
Category: 宇宙観測機器
Keyword: 宇宙望遠鏡



[Hubble Space Telescope]
Image Credit: NASA
NASA (米航空宇宙局) が開発した史上初の宇宙望遠鏡「ハッブル宇宙望遠鏡 (Hubble Space Telescope: HST) 」が、打ち上げから20周年を迎えたそうだ。

ハッブル宇宙望遠鏡が登場する以前の大型天体望遠鏡といえば、大気の揺らぎの影響を避けるために高い山の山頂周辺 (例えば、ハワイのマウナケア山など) に建設されることが多かったが、宇宙空間 (地球周回軌道上) から観測できるハッブル宇宙望遠鏡は、大気の揺らぎの影響を受けないため鮮明な画像が得られると期待された。

ところが打ち上げていざ天体の画像を撮ってみたら、ピンボケの画像しか撮れなくて「えらいこっちゃ!」と大騒ぎになった経緯がある。とはいっても宇宙空間にあるので簡単には修理できない。そこでスペースシャトルでわざわざ修理に出かけて、やっとのことで鮮明な画像が得られるようになったんだな。

まぁ、打ち上げ当初はすったもんだしたけど、ハッブル宇宙望遠鏡で撮った鮮明な画像は、天文学者だけでなく一般の天文ファンにも感銘を与えてくれた。あれから20年経ったということか。

ハッブル宇宙望遠鏡の後継機はジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (James Webb Space Telescope: JWST) というやつで、2014年に打ち上げられるらしい。それまではまだまだハッブル宇宙望遠鏡には頑張ってもらわないと。

関連記事・サイトはこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2721605?pid=5662067
NASA のハッブル宇宙望遠鏡関連サイト:
http://www.nasa.gov/mission_pages/hubble/main/index.html#.VLUZLtKsWSo
http://hubblesite.org/

Date: 2010/04/19
Title: 最近の気温の急激な変化は一体なに?
Category: 気象
Keywords: 偏西風、位置、気温変化


4月ももう半ばだというのに金曜日の夜から都心でも雪が降り、この時期としては41年振りの降雪だったらしい。土曜日も肌寒い一日だったが、今日になって和らいだ。明日は今日より気温が上がりそうだが、週の後半もまた寒くなるようだ。今年の春は異常に暖かくなったかと思うと、急に寒くなって冬に逆戻りということが繰り返し起こって、例年と違ってなんか異常だよなぁ。


ジェット気流の流れ
この時期になっても寒い日が続くのは、偏西風 (対流圏上層のジェット気流) の影響が考えられると思う。通常ジェット気流は中緯度を蛇行して北極を中心に地球を西から東に取り巻くように流れているんだが、冬は南下して南側を流れるのに対して、春になるとだんだん北の方に移動していって、夏には日本の北側を流れる。

左の図はジェット気流の流れを表わしたもので、ジェット気流は日本付近の中緯度を取り巻くように蛇行して流れている (図では蛇行の様子は適当に描いている) 。

ところが、この時期何かの理由でジェット気流が南下すると、シベリアの方から寒気が日本に流れ込んできて気温が下がる (左下の図) 。それに対してジェット気流が北上すると太平洋側から暖気が流れ込んできて気温が上昇する (右下の図) 。


ジェット気流が南下すると
北から寒気が流れ込む

ジェット気流が北上すると
南から暖気が流れ込む


北からの寒気と南からの暖気がぶつかったところで前線が発生して天気が悪くなるが、上空のとっても冷たい寒気が関東辺りまで流れ込んでくると都心で雪が降ることになるのだ。

ジェット気流が南下したり北上したりすることで、最近の急激な温度変化も説明できるが、ではなぜジェット気流が急に南下したり北上したりするのだろう?
はっきりした理由は僕にはよくわからないが、考えられる理由としては、
1.地球温暖化の影響
2.太陽活動の影響
などが考えらるのではないかと思うが、詳しくは調べてみないとよくわからないや。

Date: 2010/04/05
Title: CERNのLHCで 7 TeV の衝突に成功
Category: 加速器
Keywords: CERN、LHC、陽子、エネルギー


欧州合同原子核研究機構 (CERN) の大型ハドロン衝突型加速器 「LHC」 がついにエネルギー 7 TeV の衝突実験に成功したようだ。

衝突のエネルギー 7 TeV (一つの陽子ビーム当たり 3.5 TeV) は過去最大のエネルギーでの衝突実験となるが、これで宇宙生成 「ビッグバン (Big Bang) 」 直後に近い状態を作ったことになり、まさに新時代の物理学の幕開けだ。
ヒッグス粒子は見つかるかなぁ?
今後の成果に期待しよう。

関連記事はこちら。
http://www.afpbb.com/articles/-/2714967?pid=5554026


[参考までに]エネルギーの単位 \(\rm{eV}\) (電子ボルト) とは。

陽子は正電荷を帯びていて、その電荷は \(+e\) で表わされる。\(e\) は電荷の最小単位で電気素量というんだけど、具体的には \(e = 1.602 \times 10^{-19}\,\rm{C}\) (クーロン) という値になる。(ただし、クォークは \(2e/3\) や \(-e/3\) のような半端な電荷をもっているので、\(e/3\) が電荷の最小単位というべきという人もいるかもしれないが、ここでは触れないでおく。)

電荷 \(e\) をもつ荷電粒子を \(1\,\rm{V}\) の電位差 (例えば、電極間に \(1\,\rm{V}\) の電圧を印加した状態) で加速すると、粒子が得るエネルギーは \(1\,\rm{eV}\) (電子ボルト) というように表す。LHC で加速された陽子のエネルギーはビーム当たり \(3.5\,\rm{TeV}\) なので、このエネルギーは3兆5000億ボルトの電圧で加速したエネルギーに相当するのだ。

Date: 2010/03/28
Title: 恐竜を絶滅させたのは?
Category: 古生物
Keywords: 恐竜、絶滅、隕石衝突


とあるニュース記事から。
「恐竜絶滅の原因は『ユカタン半島の地球外天体衝突』― 国際グループが『論争に終止符』」という話だ。

今から約2億5000万年前から約6500万年前の中生代 (三畳紀 ~ ジュラ紀 ~ 白亜紀) に地球上を闊歩していた恐竜は、約6550万年前の白亜紀末期に突如として絶滅した。恐竜絶滅の原因についてはこれまで伝染病説や温度低下説、火山活動説など様々な説が唱えられてきたんだが、その中で最有力とされていたのが巨大隕石 (小惑星) の衝突説だ。

隕石衝突説による恐竜絶滅を最初に唱えたのは、物理学者のルイス・アルバレスと息子の地質学者ウォルター・アルバレスだった。彼らは1980年代に、巨大隕石が地球に衝突したことによる地球規模の大火災で生態系が破壊され、さらに衝突によって吹き上げられた粉塵が大気を覆って日照が遮られることで起きた急激な寒冷化が、恐竜絶滅の原因だという説を唱えた。

その根拠とされるのが、約6500万年前の中生代と新生代の境界の地層 (これを「K-T 境界層」というそうだ) に、地殻の中にはほとんど存在していない「イリジウム [1]」が大量に含まれていることが発見され、これが「地球外由来」と考えられることだ。
さらに、メキシコのユカタン半島で、直径 180 km もの巨大クレーター「チチュルブ・クレーター (Chicxulub crater) 」が発見されたんだが、これは約6550万年前に直径 10~15 km の小惑星が約 20 km/s の速度で衝突した跡と考えられていて、これも恐竜絶滅の「有力証拠」とされている。

これまで色々と論争が続けられてきたんだが、今回世界12カ国の専門家による研究では、

  1. 世界で約350カ所の地点で報告された白亜紀末の地層にチチュルブ衝突起源の物質が含まれること。
  2. 小惑星の衝突と恐竜の絶滅のタイミングが厳密に一致していること。
  3. 数値計算から、衝突によって大気中に放出された粉塵や、森林火災によるススは、光合成生物の活動を長期間停止させうること。
という根拠から、チチュルブ衝突による環境変動で、食物連鎖の底辺にある植物プランクトンなどの光合成生物が死滅したことで、恐竜などの大型生物の食料がなくなり、大量絶滅に至ったと結論づけている。

研究グループはこれにより長年の論争に 「終止符」 が打たれるとしているそうだ。

[1] イリジウム:原子番号 77、元素記号 \(\rm{Ir}\) 。白金族元素のひとつで、貴金属、レアメタル (希少金属) として扱われている。工業的には点火プラグの電極に使われている。

Date: 2010/03/28
Title: 4万年前のシベリアに新種の人類?
Category: 古人類
Keyword: デニソワ人


ロシアのシベリア南部、アルタイ山脈にあるデニソワ洞穴で見つかった、約4万年前の人類の小指の骨を DNA 解析したら、我々現生人類 (ホモ・サピエンス) やネアンデルタール人などとは別系統の新種の人類だということがわかったそうだ。名付けて「デニソワ人 (Denisova Hominid) 」。

この「デニソワ人」は約100万年前に現生人類やネアンデルタール人と共通の祖先から枝分かれして、 現生人類と共存していたと考えられていて、これまで人類はアフリカ大陸を起源として世界中に広まっていったという従来のシナリオが書きかえられるかもしれないそうだ。

なるほどね。ホモ・サピエンスと共存していたのはネアンデルタール人だけではなかったのね。
ということは他にもいた可能性もあるってことかな?

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2713491?pid=5535489

Date: 2010/03/15
Title: アインシュタインの一般相対性理論の手書き原稿
Category: 人物
Keywords: アインシュタイン、原稿


アインシュタインの一般相対性理論の手書きの原稿全文が今回初めて一般公開されているそうだ。

一般相対論ではないがアインシュタインの手書きの原稿は、イスラエルのヘブライ大学などが運営している Webサイト " Einstein Archives Online " で見たことはあるが、さっぱり読めなかった記憶がある。そもそもドイツ語自体が大学を出てからほとんど読むことがないので、活字ならともかく、手書きの原稿は読めなくて当たり前か・・・。

考えてみたら、昔は手書きで論文を書いていたが、今は論文そのものが電子化されていて、原稿もワープロソフトなどでつくったファイルになっているので、そもそも手書き原稿自体がなくなってきているのではないかな。

ということは、今でこそ昔の手書き原稿が見つかったり、公開されたりして話題になるけど、そのうち手書き原稿そのものがなくなってしまうのではないかな?
それとも、草稿段階のファイルが見つかったというようなのがニュースになったりするのかな?
でも何十年も経ったら、ソフトそのものが変わってしまって、昔のファイルが読めないなんていうことになりそうだけど。

関連記事・サイトはこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2706744?pid=5456767
Einstein Archives Online:http://www.alberteinstein.info/

Date: 2010/03/07
Title: 月の北極に大量の氷を発見
Category: 太陽系
Keywords: 月、北極、クレーター、氷


月の北極付近にあるクレーターの内部に6億トン程の氷があるらしい。ニュース記事によるとインドの月探査機「チャンドラヤーン1号 (Chandrayaan-1)」に搭載された NASA (米航空宇宙局) の Mini-SAR レーダーが観測したデータを分析したら、北極付近に内部が氷で覆われた直径 2~15km のクレーターが40個以上あり、氷の総量は少なくとも6億トンはあることがわかったそうだ。
今回の発見は、NASA の他の観測機器による調査結果と符合し、月面に水が存在することが明らかになったといえる。

40年前のアポロ計画以来人類は月に行っていないが、最近は日本の JAXA (宇宙航空研究開発機構) による月の無人探査計画 などのように、まずは無人探査が行われ、いずれは有人月探査が再開されるだろう。さらに月にある資源を獲得するために人が活動するための施設がつくられるようになるのだろう。人類が月で生活するようになるためには、水と空気、食料の確保が必要になるが、月に水が存在するということになれば、将来の有人月探査に弾みがつきそうだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2704848?pid=5433819
NASA の記事:
http://www.nasa.gov/home/hqnews/2010/mar/HQ_10-055_moon_ice.html
http://www.nasa.gov/mission_pages/Mini-RF/multimedia/feature_ice_like_deposits.html

Date: 2010/02/27
Title: 4兆度という超高温の世界
Category: 物理
Keywords: 相対論的重イオン加速器、超高温、クォーク・グルーオン・プラズマ


ネットでニュースをチェックしていたら、この記事が目にとまった。それは、
米国のブルックヘブン国立研究所 (Brookhaven National Laboratory) が、1周約 3.8 km の相対論的重イオン加速器「RHIC」[1] で光の速度近くまで加速した金イオン同士を衝突させて、約4兆度というとてつもない高温状態の「クォーク・グルーオン・プラズマ」を発生させたという記事だ。

4兆度 [2] というとてつもない温度のプラズマは、約138億年前のビッグバン直後の数百万分の1秒 (KEK の解説によれば、数十万分の1秒のようだ) というごく短い間の宇宙の状態を再現していると考えられていて、この温度では陽子と中性子はそれらを構成する「クォーク」と、クォーク間に働く強い相互作用を媒介する粒子「グルーオン」がバラバラになった状態で存在する (これを「クォーク・グルーオン・プラズマ」という) 。その後、宇宙の膨張によって温度が下がっていき、クォークとグルーオンは陽子や中性子に凝縮していって、今日宇宙を満たしている物質の元となっていったのだ。

今後は加速器や測定器の性能向上により、クォーク・グルーオン・プラズマをより詳細に研究できるようになり、宇宙の創生直後の状態の研究に弾みがつきそうだ。それだけでなく、素粒子の基本的な相互作用の一つである強い相互作用と、それを記述する理論である「量子色力学」の検証にも役立つという。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2696900?pid=5349751
KEK (高エネルギー加速器研究機構) の記事:http://www.kek.jp/ja/news/press/2010/PHENIX.html


[1] 光速の 99.9999・・・ % という速度にまで加速された粒子に対しては、相対論的効果が無視できないので、このような粒子を「相対論的粒子」と呼ぶ。今回の場合は、金イオンのような重イオンを光速近くまで加速するので、そのような加速器を「相対論的重イオン加速器」と呼ぶ。

[2] 太陽の中心部の温度は約1500万度なので、4兆度という温度はその25万倍という想像を絶する超高温だ。

Date: 2009/11/26
Title: CERNのLHCでビーム衝突に成功
Category: 加速器
Keywords: CERN、LHC、ビーム衝突


つい何日か前に欧州合同原子核研究機構 (CERN) の大型ハドロン衝突型加速器 " LHC " で鳥が落としたパン屑でトラブルが発生したという記事を目にしたばかりだったが、今回はトラブルではなく、やっとビーム衝突に成功したという記事だ。それも再稼働からわずか3日で成功したらしい。

去年の9月に稼働を開始して以来、紆余曲折があったようだが、やっと陽子のビーム衝突実験にこぎつけたようだ。でも計画されている実験をスタートさせるためには、まだまだやるべきことは 多いという。宇宙誕生の謎やヒッグス粒子の発見のような、世界を 「あっ!」 といわせるような成果をあげられるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

またトラブらないよう祈ることにしよう。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2666872?pid=4952097

Date: 2009/11/12
Title: CERNのLHC でまたトラブル発生 ― 今度は鳥が落としたパンくず
Category: 加速器
Keywords: CERN、LHC、トラブル、パン屑


スイスのジュネーヴ近郊にある欧州合同原子核研究機構 (CERN) の大型ハドロン衝突型加速器 " LHC " は去年の9月に稼働を開始ていて以来トラブルが続いているが、今回はこんなトラブルが発生したらしい。

鳥が落としたフランスパンのパンくずが原因で外部の電気系統がショートとして安全装置が作動し、冷却システムが停止。

今度は鳥ですか・・・。
そもそも何でパンくずが落ちたくらいで電気系統がショートするような構造になっているんだろう? こっちの方が問題のような気がするけど・・・。
今月中に再稼働するようだけど、大丈夫かな?

最後にこんなオチが。
”鳥にケガはなかったが、落としたフランスパンは戻ってこなかった。”

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2662368?pid=4882740

Date: 2008/12/31
Title: 特殊相対性理論の「 \(E = mc^2\) 」ついに証明される
Category: 物理
Keywords: 特殊相対性理論、公式、証明、素粒子、質量


アインシュタインの特殊相対性理論の有名な公式「 \(E = mc^2\) 」が、1905年の発表から1世紀余りを経た今年、ようやく証明されたそうだ。証明したのは、フランス理論物理学センター (Centre for Theoretical Physics) の Laurent Lellouch 氏率いるフランス、ドイツ、ハンガリーの合同チームで、スーパーコンピュータを使って原子核の中の陽子と中性子の質量を計算したものらしい。

僕は学生時代、\(E = mc^2\) を当たり前のように使っていたが、証明されていなかったとは知らなかった。陽子と中性子の質量の値もこれまた当たり前のように使っていたが (陽子の質量は約 938 MeV/c2 、中性子の質量は約 940 MeV/c2 ) 、考えてみればこれは実測値だ。

\(E = mc^2\) とえいば、原子核の核分裂や核融合の際の質量欠損を計算したり、陽子や中性子、中間子、電子などの素粒子の質量を表すのによく使われるが (日常よく使う質量の単位である " kg " で陽子や中性子の質量を表すと「10 のマイナス 27 乗のオーダー」というとっても小さい数値になるので、普通は \(E = mc^2\) を使って静止エネルギーとして表す) 、量子色力学を使って素粒子レベルで \(E = mc^2\) を解くのは非常に難しいこととされてきたようだ。

素粒子物理学によれば、ハドロンのうち陽子や中性子などのバリオンは3個のクォークからなっていて、中間子はクォークと反クォークからなっている。そして、クォーク間には強い相互作用が働いてクォーク同士が結び付けられているが、強い相互作用はグルーオンと呼ばれる媒介粒子をやり取りすることで作用する。記事によると、グルーオンの質量は 0 、クォークの質量は全体の 5% しかなく、残りの 95% はどこにあるのかとうことだが、その答えはクォークとグルーオンの動きや相互作用によって発生するエネルギーにあるということだそうだ。これによって質量とエネルギーは等価であるということになる。

ん?でもグルーオンの質量って 0 なんだっけ?
僕が大学で素粒子物理学を勉強していたのはずいぶん昔のことなので、もうすっかり忘れてしまっていて、最近の話題についていけなくなっているということなんだろうなぁ・・・。
もう1回勉強しなおしてみるかぁ。

[追記]
グルーオンの質量について
随分後になって、電車の中で読んでいたブルーバックスに、やはりグルーオンの質量は光子と同じく " 0 " だと書いてあった。やっぱり 0 なんだ。そうなんだ・・・。

原子核レベルでみると、核子間に働く核力は核子どうしがパイ中間子を交換することによって作用していて、パイ中間子の質量はたしか 140 MeV/c2 程の質量を持ち、力の到達距離は核子の大きさ程度 (~10-15 m) だ。しかし、クォークレベルでみると、クォーク間に働く強い相互作用はクォーク同志がグルーオンを交換することによって作用するが、グルーオンの質量は 0 ということらしい。しかも、クォークは核子の中に閉じ込められている。
う~ん、もう少し勉強し直してみないとよくわからないや。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2541360?pid=3546071

Date: 2008/08/19
Title: CERNの大型ハドロン衝突型加速器 9月10日稼働いよいよ稼働開始
Category: 加速器
Keywords: CER、LHC、稼働、エネルギー、計画差し止め訴訟


スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構 (CERN) で建設されていた1周27kmの巨大加速器「大型ハドロン衝突型加速器 (LHC:Large Hadron Collider) 」が9月10日に稼働を始めるらしい。

LHC についてちょっと前にかかれた記事について僕なりのコメントを書いたが、ここであらためて書くことにする。
その記事とは、LHC で生成されるミニ・ブラックホールに地球が飲み込まれる恐れがあるとして、ハワイ在住の元米国政府職員らが、CERN や米エネルギー省を相手に計画の差し止めを求める訴訟を起こしたというものだ。
僕はこの訴えの理由自体はナンセンスだと思う。LHC では陽子同士をお互いに 3.5TeV まで加速して衝突させるので、衝突のエネルギーは2倍の 7TeV になるが、このエネルギーで仮にミニ・ブラックホールが生成されたとして、地球が飲み込まれるという深刻な事態になるのか?ということだ。

地球が誕生して以来ずっと、地球には宇宙線 (高エネルギーの原子核) が降りそそいでいるが、宇宙線のなかには LHC で生成されるエネルギーよりはるかに高いエネルギーの粒子が含まれている (粒子のエネルギーが高くなればなるほど、その数が激減するが) 。この宇宙線粒子は地球大気に入った時に空気分子の原子核と衝突して壊れてしまうが、この衝突のエネルギーでミニ・ブラックホールができて地球を飲み込んでしまうなら、地球はとっくの昔になくなっていてもおかしくないはずだ。しかし現実には地球はちゃんと存在していて、僕たちは地球上でちゃんと生活している。

僕がこの記事を目にしたのが4月1日だったので、”エイプリルフール” かと思ったが、元ネタの記事をニューヨーク・タイムズが報道したのが3月29日だったので、どうも本気だったらしく、計画の差し止めが現実にならないように祈るしかないかと思っていたが、やはり差し止めにはならなかったようだ。

ということで、LHC は9月10日に稼働を開始することになったが、LHC ではさまざまな実験が計画されているようで、そのなかで僕が注目しているのは、ヒッグス粒子の存在が確認されることが期待されていることだ。ヒッグス粒子は素粒子の標準理論で存在が予言されいてる粒子で、物質がなぜ質量をもつのかというメカニズム (ヒッグス機構) を説明するものだが、これまで行われてきた数々の実験ではヒッグス粒子は見つかっていなかったのだ。これが見つかったら、人類はこの根源的な問いに答えを見出すことができるのだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/2502526?pid=3194538

Date: 2008/07/26
Title: スーパースター銀河系「ベビーブーム」
Category: 宇宙
Keywords: 銀河、星生成


NASA (米航空宇宙局) ジェット推進研究所 (Jet Propulsion Laboratory: JPL) は、スピッツァー宇宙望遠鏡 (Spitzer Space Telescope) でとらえた宇宙の果てにある「星生成マシーン (Star-Making Machine) 」の写真を公開した。この銀河は「ベビーブーム」銀河とよばれ、年間4000個も星を生み出しているという。我々の天の川銀河で生み出される星は年間10個位というから、これは驚異的な数字だ。しかも、これは従来からある銀河形成理論では説明つかないらしい。

この銀河は地球から123億光年離れた距離にあるが、宇宙の年齢は約138億年といわれているので、宇宙ができて15億年位たった頃にできたということになる。人間の年齢に例えるならば、現在の宇宙の年齢を人間が定年を迎える頃の年齢 (60歳として) だとすると、この銀河は6歳という ”宇宙が子供のころ” に生まれたことになる。

銀河形成に一石を投じたこの発見は、理論の修正を迫ることになるのかな?

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2418891?pid=3136865
NASA の記事:http://www.nasa.gov/mission_pages/spitzer/news/spitzer-20080710.html

Date: 2008/07/14
Title: 一般相対性理論、連星パルサーが実証
Category: 物理
Keywords: 一般相対性理論、実証、連星パルサー


連星パルサーが一般相対性理論の検証に一役買っているという話だ。

パルサーは超新星が爆発した後に残された高密度の中性子星と考えられていて、高速で自転していて磁極から強力な電波を放射している。中性子星の自転軸の方向と磁極の方向は一般的に一致していないため、地球から見るとパルス状に電波 (中には可視光線やX線を出しているものもある) を出しているように観測されるので、「パルサー (pulsar) 」と呼ばれているのだ。
銀河系ではこれまでに1700個ほどのパルサーが見つかっているが、連星パルサーは1個しか見つかっていない。一般相対性理論によれば、このような連星パルサー (中性子星) は、強力な重力場のために、お互いの周りを回っているうちに、自転軸が歳差運動をするようになるらしい。

カナダのマギル大学 (McGill University) の研究者らは、連星パルサーからの電波を観測してパルサーの運動を解析することで歳差運動を確認し、一般相対論がテストを “パス” したことを確認したそうだ。

アインシュタインが一般相対論を発表した後の1919年に、アーサー・エディントン卿が皆既日食を利用して太陽の傍を通った光が曲がることを確認して以来、多くの検証が行われてきたが、これまでのところ一般相対論はすべてのテストをパスしてきた。今回の検証で星取表にまた ”○” が一つ増えたことになる。

[補足]
一般相対性理論の検証、ブラックホールの予言について

1. エディントン卿による皆既日食観測
皆既日食を利用して太陽の近傍を通った光が曲がることを観測したのは、イギリスの天文学者アーサー・エディントン卿 (Sir Arthur Stanley Eddington, 1882 - 1944) で、1919年のことだった。
彼はアフリカ西海岸のギニー湾に浮かぶプリンシペ島に遠征して、1919年5月29日の皆既日食を観測した。このとき彼は太陽の近傍に見える恒星の写真を撮影したが、この星の位置が本来の位置からわずかにずれて写っていたことから、「太陽の重力場によって光の経路が曲げられる」という一般相対性理論の予測を裏付けるものとなった。
このニュースは世界中の新聞で大きく取り上げられ、アインシュタインの名前が一躍有名になるきっかけとなった。

2. カール・シュバルツシルトによるブラックホールの予言
1916年にドイツの天文学者・天体物理学者カール・シュバルツシルト (Karl Schwarzschild, 1873 - 1916) が導き出したのは、球対称・真空の条件のもとでの一般相対性理論のアインシュタイン方程式 (重力場方程式) の解の一つで (これを「シュバルツシルト解」という) 、それはブラックホールの存在を予言するものだった。
彼は一般相対性理論の発表直後の第一次世界大戦の東部戦線に従軍中にこの解を導き出した。この解の意味するところは、非常に小さくて重い星があった場合、その星の中心からある半径の内側では脱出速度が光速を超え、光さえも脱出できなくなるほど曲がった時空が出現するということだ。この半径を「シュバルツシルト半径 (Schwarzschild radius) 」といい、シュバルツシルト半径より小さい半径に収縮した星を「ブラックホール」と呼んでいるのだ。
彼はロシアに従軍中に病気で死去したといわれていて、論文の原稿はアインシュタインのものとに送られ、アインシュタインの手によって学会に報告されたという。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/2415054?pid=3101970
米国立電波天文台 (National Radio Astronomy Observatory) の記事:
http://www.nrao.edu/pr/2008/doublepulsar/

Date: 2008/03/06
Title: 太陽系に未知の「惑星X」?
Category: 太陽系
Keywords: 未知の惑星、存在の可能性


太陽系外縁部の理論的研究から、地球の3割から7割位の質量をもつ未知の惑星クラスの天体「惑星X」が存在する可能性が高いことが分かってきたそうだ。

もともと太陽系外縁部にはこれまでに1000個以上の小天体が見つかっているが、これらの小天体群の中には、大きな離心率や軌道傾斜角を持つものがあるという。中には飛びぬけて大きな軌道長半径を持つ天体も見つかっていて、このような特徴を矛盾なく説明することができなかった。

そこで神戸大学の研究者たちが、これらの特徴を矛盾なく説明するには、海王星軌道の外側に未知の惑星クラスの天体が存在すると仮定してシミュレーションをしたところ、天王星や海王星のような大きな惑星の重力によって散乱されて、海王星の近くにあった「未知の惑星X」が、外縁天体の存在する範囲より外側に飛ばされて外側に移動する過程で、周りにあった外縁天体の軌道を変えていったと考えると辻褄があったという。

計算の結果、未知の惑星Xの軌道は、近日点距離が80天文単位 (1天文単位は太陽と地球の間の平均距離で、約1億5000万 km) 、軌道長半径が 100~175 天文単位、軌道傾斜角が 20~40 度となり、その質量は地球の質量の 0.3~0.7 倍になるらしい。この惑星Xが近日点付近にあるとすると、その明るさは 14.8~17.3 等級と考えられていて、現在計画されている大規模サーベイが始まれば「見つかる可能性が高い」らしい。また、この大きさであれば、発見されたら「惑星」に分類される可能性が高いという。

2006年夏の国際天文学連合総会で惑星の定義が変更されて、冥王星が惑星には分類されなくなり (「矮惑星」というそうだ) 、太陽系の惑星は従来の9個から8個になってしまったが、今回予測された「惑星X」が見つかれば、太陽系の惑星がまた9個に増えるので、何としても見つけてほしいものだ。