かがくのつまみ食い 2014

サイエンス関連のトピックスを集めてみました。このページは2014年に書いたトピックスです。

 

Date: 2014/12/06
Title: LHC 衝突実験で粒子2種を確認
Category: 素粒子
Keywords: CERN、LHC、バリオン、クォーク、QCD


久しぶりに AFPBB News をチェックしたら、次の記事に目が止まった。
「LHC 衝突実験で粒子2種を確認、CERN」

欧州合同原子核研究機構 (CERN) の大型ハドロン衝突型加速器 (LHC) で、理論的に予言されている2種類の粒子の存在が確認されたそうだ。LHC は現在、さらに高い衝突エネルギー (13 TeV = 13兆電子ボルト) で運用するための改修工事が行われているので (稼働は2015年春) 、実験自体は2011年と2012年に LHC の LHCb 検出器で行われたものだ。

今回発見された2種類の粒子は、「Xi_b'-」と「Xi_b*-」と呼ばれるバリオンの仲間の粒子で [1] 、クォーク・モデルによってその存在が予言されていたが、まだ発見されていなかったのだ。バリオンというのは強い相互作用によって結びついたハドロンと呼ばれる複合粒子の仲間で、そのうちクォーク3個からなる粒子 (クォーク同志は強い相互作用によって結びついている) をバリオンと呼んでいて、原子核を構成する陽子や中性子もバリオンの仲間なのだ (ちなみに、ハドロンのうち、クォークと反クォークからなる粒子はメソン (中間子) という) 。LHC はこの陽子を高エネルギーにまで加速させて衝突実験を行っているのだ [2]

「Xi_b」粒子は、1個の「ボトムクォーク (b) 」( " beauty quark " ともいう) と、1個の「ストレンジクォーク (s) 」と、1個の「ダウンクォーク (d) 」からなっているという。「Xi_b'-」と「Xi_b*-」の違いは、これらの粒子を構成する3種類のクォークのうち、軽い方の2つのクォーク「d」と「s」のスピンが重いクォーク「b」と異なるという。「Xi_b'-」は「d」と「s」のスピンが「b」と反対方向で、「Xi_b*-」では同じ方向だそうだ [3] 。この違いによって「Xi_b*-」の質量の方が「Xi_b'-」よりわずかに重くなっているそうで、この質量のわずかな違いを詳細に精度良く測定することで、これら2種類の粒子の存在が確認されたという。

今回の結果は量子色力学 (QCD) [4] に基づいた予測とあっていて、高い精度での QCD の検証にもなっているようだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3032189?pid=14827546
CERNの公式サイトの記事:
http://home.web.cern.ch/about/updates/2014/11/lhcb-observes-two-new-baryon-particles


[1]「Xi」はギリシャ文字 \(\Xi\) (大文字。小文字は \(\xi\) 。グザイとかクシーという風に読む) のこと。「Xi_b'-」と「Xi_b*-」はそれぞれ「 \(\Xi_b^{'-}\) 」、
「 \(\Xi_b^{*-}\) 」を表わしている。

[2] LHC は 4 TeV (4兆電子ボルト) のエネルギーにまで加速させた陽子同士を衝突させて (衝突のエネルギーは倍の 8 TeV) 、2012年に長年見つかっていなかった「ヒッグス粒子」を発見し、去年、ヒッグス機構(BEH メカニズム)の提唱者であるフランソワ・アングレール博士とピーター・ヒッグス博士のノーベル物理学賞受賞につながったことは記憶に新しい。

[3] 「Xi_b'-」では、d クォークと s クォークのスピンは \(1/2\) 、b クォークのスピンは \(-1/2\) で、「Xi_b'-」のスピンは \(1/2 + 1/2 - 1/2 = 1/2\) となり、「Xi_b*-」では、d クォーク、s クォーク、b クォークのスピンはどれも \(1/2\) で、「Xi_b*-」のスピンは \(1/2 + 1/2 + 1/2 = 3/2\) となる。

[4] 量子色力学 (quantum chromodynamics;QCD) は強い相互作用を説明する場の量子論で、クォークとグルーオンはカラーチャージ (color charge; 色荷) と呼ばれる量子数をもっていて、カラーチャージは色の3原色にちなんで R (赤) 、B (青) 、G (緑) で表わされ、カラーチャージをもたない状態は「白色」であるとされている。カラーチャージはグルーオンと呼ばれるゲージ粒子を交換することでやり取りされ、これが強い相互作用の源になっている。

Date: 2014/11/15
Title: 彗星に着陸した「フィラエ」、崖の陰に着陸し、太陽光充電に懸念か?
Category: 太陽系
Keywords: ESA、彗星、フィラエ、着陸


ちょっと前に欧州宇宙機関 (ESA) の彗星探査衛星ロゼッタが、彗星67P/チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星 (Comet 67P / Churyumov-Gerasimenko) から放出されたガスを分析した結果について書いたが、この衛星ロゼッタから放たれた実験用着陸機「フィラエ (Philae) 」が同彗星に着陸したようだ。彗星に衛星を着陸させるのは人類史上初の試みだ。

しかし、その後のニュースをチェックしてみると、着陸はしたが機体の固定には失敗したようだ。
フィラエはゆっくりとした速度 (時速3.5km) で彗星に向かって降下し、2本の銛を彗星表面に打ち込んで機体を固定するように設計されているそうだが、着陸の際に2回バウンドして着陸したため、銛での固定に失敗したようだ。そのため着陸地点が当初の予定地点より数百メートル離れていると見られ、そこは急斜面で、しかも崖の陰の中にあり、バッテリーの充電が十分にできない可能性があるという。
フィラエにはサンプルを採取して化学分析するためのドリルが搭載されているが、このように機体の位置や姿勢が不明な状態のため、ドリルを作動させるには危険が伴う恐れもあるようだ。

今後 ESA はどのような判断を下すのだろうか。報道によるとESAは初期段階で十分なデータが取れていると強弁しているけど・・・。
彗星は現在木星軌道と火星軌道の間にあるようだが、太陽との位置関係が変化して太陽光が十分あたって充電できるようになるまで待つのかな? (それまではフィラエは ”お寝んね” ということになるが)

関連記事はこちら。
AFPBB News: http://www.afpbb.com/articles/-/3031706?pid=14790149

Date: 2014/10/28
Title: 彗星67Pはかなり臭い?
Category: 太陽系
Keywords: ESA、彗星探査衛星、放出ガス分析


AFPBB Newsをチェックしていたら、面白い記事を見つけた。それは、
「彗星67Pはかなり臭い、ESA」
という記事だ。

記事の内容についてもう少し調べてみると、欧州宇宙機関 (ESA) の科学者によると、彗星探査衛星ロゼッタ (Rosetta) が深宇宙で彗星67P/チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星 (Comet 67P / Churyumov-Gerasimenko) にランデブーして以降、ロゼッタはこの彗星の科学的特徴を捉えているようだ。

彗星が太陽に近づくにつれて、核のまわりのコマから放出されたガスを、ロゼッタに搭載されている質量分析計「Rosina」で分析したところ、まず以下の分子が検出されたそうだ。

  • 水 ( \(\rm{H_2O}\) )
  • 一酸化炭素 ( \(\rm{CO}\) )
  • 二酸化炭素 ( \(\rm{CO_2}\) )
  • アンモニア ( \(\rm{NH_3}\) )
  • メタン ( \(\rm{CH_4}\) )
  • メタノール ( \(\rm{CH_3OH}\) )
その後、さらに次の分子も検出されたそうだ。
  • ホルムアルデヒド ( \(\rm{CH_2O}\) )
  • 硫化水素 ( \(\rm{H_2S}\) )
  • シアン化水素 ( \(\rm{HCN}\) )
  • 二酸化硫黄 ( \(\rm{SO_2}\) )
  • 二硫化炭素 ( \(\rm{CS_2}\) )
検出された気体分子のうち、アンモニア、硫化水素、シアン化水素、ホルムアルデヒドの特徴といえば、
  1. アンモニア
    言わずと知れた強い刺激臭をもつ気体だ。ESA の研究者によれば 「 horse stable (馬小屋) 」 だそうだ。
  2. 硫化水素
    腐った卵のような臭いを放つ気体として有名だ。火山ガスや温泉にも含まれ、俗に言う 「硫黄の臭い」 というものは、実は硫化水素の臭いだ (硫黄自体は無臭) 。
  3. シアン化水素
    青酸ガスともいわれ、猛毒の物質だ。この気体は無色だが 「アーモンド臭」 をもつといわれる。
  4. ホルムアルデヒド
    刺激臭をもつ無色の気体。接着剤、塗料、防腐剤などに含まれていて、「シックハウス症候群」 の原因物質のひとつだ (そのため、現在は使用制限が設けられている) 。
う~ん、どれも強烈な気体ばかりだなぁ。
研究チームのブログによると、" If you could smell the comet, you would probably wish that you hadn't. " (もし彗星のにおいを嗅いだなら、恐らく嗅ぐんじゃなかったと思うだろう) だって。納得。

でも、ニュースの記事は何だか臭いばかりが強調されているけど、研究者によれば、これらの物質の濃度はとっても低く、彗星のコマの主要物質は水 (氷) 、二酸化炭素 (一酸化炭素も含む) だ。キーポイントは、この混合物を詳細に解析して彗星の組成を決定することで、ゴールは、太陽系がつくられ、ついには生命も誕生した (原始の) 太陽系星雲の基本的な化学構造への知見を得ることのようだ。

関連サイトはこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3029843?pid=14672378
ESA の彗星探査衛星ロゼッタ関連のサイト:http://www.esa.int/Our_Activities/Space_Science/Rosetta
ESA の研究者のブログ:http://blogs.esa.int/rosetta/2014/10/23/the-perfume-of-67pc-g/

Date: 2014/10/17
Title: 地球温暖化の「停滞」 - 深海による熱吸収ではない?
Category: 地球環境
Keywords: 地球温暖化、深海、熱吸収


ちょっと前に、「地球温暖化の『中断』、深海への熱の貯蔵が原因か?」 という研究結果が発表されたということを書いたが、今回はその 「温暖化の中断-ハイエイタス-」 は深海での熱の吸収によるものではないという、真逆の研究結果が Nature Climate Change 誌に発表されたそうだ。

発表したのは 米航空宇宙局 (NASA)・ジェット推進研究所 (Jet Propulsion Laboratory: JPL) の研究者たちだ。彼らは、2005年から2013年にかけての人工衛星 (NASA の Jason-1、Jason-2、GRACE [1] ) のデータと、3000個のアルゴ・フロート [2] によって水深 2000 m から表層までの海水温を直接測定したデータを使って、深海 (水深 2000 m 以上) の温度上昇に伴う熱膨張が海面上昇にどのくらい寄与しているかを調べたようだ。
具体的にどうやったかというと、大雑把に言えば、海面上昇の総量から、海洋の上半分 (0~2000 m) の温度上昇による熱膨張の寄与分と、氷河や氷床 (南極大陸やグリーンランドなど) が融けて海に流れ込むことによる寄与分を差っ引けば、残りは深海 (2000 m ~) からの寄与分というわけだ。その結果、水深 2000 m 以下の海水の熱膨張による海面上昇への寄与は実質的にゼロだったという。

こりゃ、以前書いた米国ワシントン大学と中国海洋大学の共同研究の結果を否定するような内容だなぁ。
海面はいまだに上昇を続けているけど、まだまだ分かっていないことも多いので、研究を続ける必要があるということかな。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3028312?pid=14557236
Nature Climate Change:http://www.nature.com/nclimate/journal/vaop/ncurrent/full/nclimate2387.html
NASAの記事:http://www.nasa.gov/press/2014/october/nasa-study-finds-earth-s-ocean-abyss-has-not-warmed/


[1] Jason-1、Jason-2は海洋の海面高度を計測する衛星。
GRACE (Gravity Recovery and Climate Experiment) は地球の重力場を詳細に観測する衛星で、重力を測定することで、地球上の質量分布とその時間変化をとらえることができる。GRACE のデータは地球の海洋、地質、気候を研究するツールとして用いられていて、例えば、海面上昇については、それが氷河が融けたことで海の質量が増えたことに起因するのか、それとも海水温の上昇による熱膨張によるものなのかを研究するためにも用いられている。

[2] アルゴ (Argo) 計画:全世界中層フロート観測網 (A Global Array for Temperature/Salinity Profiling Floats、名称Argo) と呼ばれる観測網で、3000個のフロートを配置して、水深 2000 m から表層までの海水温度や塩分濃度を人工衛星を介してリアルタイムで取得して、海洋物理学の研究や海の天気予報の確立を目指した国際的な研究計画。

Date: 2014/09/26
Title: 世界最年長宇宙飛行記録保持者 ― ジョン・グレン
Category: 人物
Keywords: 有人宇宙飛行、ジョン・グレン、最年長記録、オリジナルセブン


とある英語のテキストを読んでいたら、次の一文に出くわした。
Q: Who is the oldest person to travel into space?(宇宙に行った最高齢の人は誰?)
  -Neil Armstrong -John Glenn -Yuri Gagarin -Dennis Tito
  (ニール・アームストロング、ジョン・グレン、ユーリ・ガガーリン、デニス・チトー)
A: John Glenn holds that title. He was 77 when he traveled into space in 1998.
  (ジョン・グレンが記録保持者です。彼は1998年に宇宙に行ったとき77歳でした。)


John Glenn
Image Credit: NASA
ジョン・グレン ― 懐かしい名前だ。
彼が宇宙に行った人の中で最高齢記録保持者だという話は知っていたけど、元々彼はアメリカの最初の有人宇宙飛行計画 ― マーキュリー計画 [1] ― で選ばれた最初の7人の宇宙飛行士の一人だ (彼らは “オリジナル・セブン” と呼ばれた [2] ) 。マーキュリーで最初に飛んだのはアラン・シェパード、2番目はガス・グリソムで、宇宙への弾道飛行だった。3番目に飛んだのがジョン・グレンで、初めて地球周回飛行をしたのだ (マーキュリー計画での彼らの活躍は、映画 「ライト・スタッフ (The Right Stuff) 」 で詳しく描かれている) 。

彼はその後、1964年に実業家に転身し、1974年から1999年までオハイオ州選出のアメリカ議会上院議員を務めたが、1998年にスペースシャトル・ディスカバリー号で再び宇宙へ行き、9日間宇宙に滞在した。このとき彼は77歳で、宇宙飛行の世界最年長記録を樹立し、この記録は現在も破られていないのだ。この飛行で彼は、高齢であっても体力と健康に問題がなければ、宇宙飛行が可能なことを自ら実証したのだ (彼は現在93歳で、オリジナル・セブンの中で唯一存命なのだ) 。

ちなみに、映画 「ディープ・インパクト (Deep Impact) 」 に登場する老齢の宇宙飛行士 (演じたのはロバート・デュバル) は彼をモデルにしたといわれている。

NASA の関連サイトはこちら。
http://www.jsc.nasa.gov/Bios/htmlbios/glenn-j.html
http://www.nasa.gov/content/pioneering-mercury-astronauts-launched-americas-future/


[1] マーキュリー計画はアメリカ初の有人宇宙飛行計画で、1959年から63年にかけて実施された。宇宙船は一人乗りで、ロケットはリトルジョー、レッドストーン、アトラスの3種類が使用され、人間を地球周回軌道に到達させることを目標にしていた。最初のうちは無人飛行や猿を乗せた飛行が行われたが、1961年5月5日にマーキュリー・レッドストーン3号 (フリーダム7) でアラン・シェパードがアメリカ初の有人宇宙飛行を行った。次いで、1961年7月21日にマーキュリー・レッドストーン4号 (リバティベル7) でガス・グリソムも宇宙飛行を行った。どちらも弾道飛行のため飛行時間は15分半ほどと短いものだった。そして、1962年2月20日にマーキュリー・アトラス6号 (フレンドシップ7) で、ジョン・グレンがアメリカ初の地球周回飛行を行い地球を3周した (飛行時間は4時間55分ほど) 。マーキュリー計画での有人宇宙飛行は、その後1963年5月15~16日のマーキュリー・アトラス9号 (フェイス7;飛行士はゴードン・クーパー) まで計6回行われた。

ついでに。
マーキュリー計画の次はジェミニ計画 (1965~66年) で、これは名前のとおり (gemini; 双子を意味する) 2人乗りの宇宙船で、宇宙空間でのランデブーとドッキング、宇宙遊泳を目的としていた。その次が月への到達を目指したアポロ計画 (1966~72年) で、これは3人乗りの宇宙船だ。1969年7月20日、アポロ11号は人類初の月面着陸を成し遂げ、ニール・アームストロングとバズ・オルドリンが初めて月に降り立ったのだ。

[2] オリジナル・セブンの7人の宇宙飛行士は次のとおり。

Original 7
Image Credit: NASA
(1) アラン・バートレット・シェパードJr. (Alan Bartlett Shepard Jr., 1923 - 1998) 、海軍出身。
・マーキュリー・レッドストーン3号[フリーダム7](Mercury Redstone-3 [Freedom 7] ) -1961.5.5-
・アポロ14号 (Apollo 14) -1971.1.31~2.9-
(2) ヴァージル・イワン・ガス・グリソム (Virgil Ivan "Gus" Grissom, 1926 - 1967) 、空軍出身。
・マーキュリー・レッドストーン4号[リバティベル7](Mercury Redstone-4 [Liberty Bell 7] ) -1961.7.21-
・ジェミニ3号 (Gemini 3 [Molly Brown] ) -1965.3.23-
・アポロ1号 (Apollo 1) -1967.1.27- 発射台上でのテスト中の火災事故により死亡。
(3) ジョン・ハーシェル・グレンJr. (John Herschel Glenn Jr., 1921 - ) 、海兵隊出身。
・マーキュリー・アトラス6号[フレンドシップ7](Mercury Atlas-6 [Friendship 7] ) -1962.2.20-
・スペースシャトル STS-95 ディスカバリー (STS-95 Discovery) -1998.10.29~11.7-
(4) マルコム・スコット・カーペンター (Malcolm Scott Carpenter, 1925 - 2013) 、海軍出身。
・マーキュリー・アトラス7号[オーロラ7](Mercury Atlas-7 [Aurora 7] ) -1962.5.24-
(5) ウォルター・マーティー・ウォーリー・シラーJr. (Walter Marty "Wally" Schirra Jr., 1923 - 2007) 、海軍出身。
・マーキュリー・アトラス8号[シグマ7](Mercury Atlas-8 [Sigma 7] ) -1962.10.3-
・ジェミニ6号 (Gemini 6) -1965.12.15~16-
・アポロ7号 (Apollo 7) -1968.10.11~22-
(6) レロイ・ゴードン・クーパーJr. (Leroy Gordon "Gordo" Cooper Jr., 1927 - 2004) 、空軍出身。
・マーキュリー・アトラス9号[フェイス7](Mercury Atlas-9 [Faith 7] ) -1963.5.15~16-
・ジェミニ5号 (Gemini 5) -1965.8.21~29-
(7) ドナルド・ケント・ディーク・スレイトン (Donald Kent "Deke" Slayton, 1924 - 1993) 、空軍出身。
・心臓に持病があることを理由に地上待機となったが、その後復帰。1975年のアポロ・ソユーズ・テスト計画 (Apollo-Soyuz Test Project -1975.7.15~24-) で初飛行を果たした。

Date: 2014/09/16
Title: X1.6 レベルの太陽フレアが発生 - 地球への影響は?
Category: 太陽
Keywords: 太陽フレア、コロナ質量放出、磁気嵐


ネットのニュースをチェックしていたら、次のニュースが目にとまった。
「『太陽嵐が今週末、地球を襲う可能性』と米 NASA 。X1.6 レベルの太陽フレアが発生。」

NASA (米航空宇宙局) によると、9月10日午後 (日本時間9月11日未明) に X1.6 クラスの大規模な太陽フレアが発生し、それに伴い、太陽コロナからコロナ質量放出 (Coronal Mass Ejection; CME) と呼ばれるプラズマの塊が放出されたという。
CME は通常の太陽風と比べてエネルギーが大きく、速い速度で宇宙空間を伝搬していく。これが地球に到達すると、オーロラが発生したり、磁気嵐による地上の送電網や人工衛星に搭載されている電子機器の不具合、無線通信への障害が起こる恐れがある [1] 。今回のフレアは地球に対してほぼ真正面の位置で発生したため、CME がまともに地球に到達する恐れがあり、NASA は到達時刻は現地時間で12日午後 (日本時間では13日未明) と予測し、警戒を呼び掛けていたようだ。


Image Credit: NASA/SDO

Image Credit: ESA&NASA/SOHO
左の画像は NASA の SDO (Solar Dynamics Observatory:太陽観測衛星) による極紫外線画像 (波長 13.1 nm) 。太陽面の中央付近で大規模なフレアが発生している。

右の画像は NASA と ESA (欧州宇宙機関) による SOHO (Solar and Heliospheric Observatory:太陽・太陽圏観測衛星) で観測されたコロナ質量放出 (CME)。

ところで、今回の太陽フレアの規模 X1.6 というのは、どの位の規模なのか。
太陽フレアの規模の指標として、太陽から放射されるX線強度の最大値による等級が用いられている。強度の低い方から A, B, C, M, X の5つの等級に分けられていて、X線の強度が10倍になると、ひとつ上の等級で表わされる。X が一番強度が大きく、A の1万倍 (またはそれ以上) の強度となる。さらに、各等級は1から10未満の小数点以下一桁の数値で表わされ、これらの組み合わせで、例えば「X1.6」という風に表わされる。X1.6 は X1 の 1.6 倍の強度であることを示しているのだ。

X線強度の値は、アメリカの NOAA (アメリカ海洋大気庁) が運用している GOES 衛星 [2] が観測している波長 100~800 pm [3] のX線流束 (単位:W/m2) を基にしていて、各等級は以下のようになっている。

等級  波長 100~800 pm のX線流束の最大値 (W/m2)
A  10-8 ~ 10-7
B  10-7 ~ 10-6
C  10-6 ~ 10-5
M  10-5 ~ 10-4
X  > 10-4

今回の X1.6 レベルの太陽フレアがもたらす影響について、科学者たちは「去年の夏に地球をかすめ去った過去最高規模の太陽嵐に比べれば、大して心配する必要はない」と評価しているようで、まずは一安心といった感じだろうか。ちなみに、観測史上最大の太陽フレアは2003年11月に発生した X28 レベルだそうだ。

その後、週末から週明けにかけて、磁気嵐によって無線通信などに障害が起こったという報道もなく、何事もなかったのかな? イマイチよく分からないけど・・・。

関連記事はこちら。
Biglobe の記事:http://news.biglobe.ne.jp/international/0912/tec_140912_3260937812.html
ナショナルジオグラフィックの記事:
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2014091201
NASA の関連サイト:http://www.nasa.gov/content/goddard/significant-flare-surges-off-the-sun/
SDO の関連サイト:http://sdo.gsfc.nasa.gov/gallery/potw/item/552
NOAA の関連サイト:http://www.swpc.noaa.gov/

[1] 太陽フレアによる影響で無線通信に障害が起こるのは、磁気嵐によるものだけでなく、X線や紫外線の増加によって電離層のD層の電子密度が増加することで、短波の通信障害が起こるデリンジャー現象もある。

[2] Geostationary Operational Environmental Satellite の略。これは静止気象衛星なのだが、気象観測の他に太陽からのX線なども観測している。

[3] pm = ピコメートル。1 pm = 10-12 m (1兆分の1メートル) 。

Date: 2014/09/05
Title: 地球温暖化の「中断」は深海への熱の蓄積が原因か?
Category: 地球環境
Keywords: 地球温暖化、中断、深海、熱貯蔵


ネットの記事をチェックしていたら、興味深い記事を見つけた。
それは「地球温暖化の「中断」、深海への熱の貯蔵が原因か」という記事だ。

気球温暖化によって地表の気温は上昇を続けているが、ここ15年ほどは温暖化が減速しているようにも見える。
まず、世界の気温の上昇傾向について見てみると、気象庁のHPからデータをダウンロードして、1891年以降の世界全体の平均気温偏差をグラフにしてみると次のようになる。


上のグラフは1981~2010年の30年平均値からの偏差を表わしているんだが、たしかに世界全体の年平気温は上昇傾向にあり、近似曲線の傾きから、上昇率は 0.69 ℃/100年程だ。

記事ではここ15年ほど温暖化傾向が減速しているとあるが、このグラフでは見にくいので、1970年以降のデータに絞ってグラフを書きなおしてみると、下のグラフのようになる。

たしかに2000年頃を境に、気温上昇傾向が横ばいになっているように見える。


これについて米国ワシントン大学と中国海洋大学の共同研究では、大西洋と南極海の深海に熱が吸収されていることが原因かもしれないと指摘している。

彼らは、最大水深 2000 m の海水サンプリング調査用のフロートを用いて深海の水温を観測し、その結果、1999年頃から深海に吸収される熱量が増加していることを突き止めたという。たしかにこれは、それまで上昇を続けいていた気温が、 このころを境に上昇傾向が横ばいになり始めた時期と一致している。彼らによると、地球の気温を上昇させている二酸化炭素 (\(\rm CO_2\)) などの温室効果ガスが増えているにもかかわらず、気温の上昇が抑えられているのは、深海に移動している熱量が増大していることで説明がつき、しかも、熱が蓄積されているのは大西洋と南極海の深海で、太平洋では熱は蓄積されていないという (これについては、これまでの研究結果に反しているので、今後議論を呼ぶかもしれない [1] ) 。
この気温上昇の減速はあと10年ほどは続くそうだが、その後はまた急激な気温上昇傾向に戻る可能性が高いという。

なるほど。でも、なぜ海の表層部ではなくて深海での熱の吸収が影響しているんだろう?
僕は気候変動の専門家ではないので、理屈がイマイチよく分からないや・・・。

まぁ、理屈はさておき、深海に熱が吸収されることで気温上昇が抑えられていることが確かなら、今の状態はモラトリアムのようなものだな。温暖化対策によって世界がカーボンニュートラルな状態 (排出される \(\rm CO_2\) と吸収される \(\rm CO_2\) の量が同じで、\(\rm CO_2\) の量が一定に保たれる状態) になるのは、そもそも可能なのかという疑問があるし、可能だとしても相当な時間がかかりそうだ。それまでの時間稼ぎとして、成層圏に微粒子をばらまいて太陽光を反射させるなど、地球工学的なアプローチが提案されているが、どのような悪影響があるのかについては、まだ十分評価されていないようだ。でも、このモラトリアムのような状態が続いているうちに、少なくとも時間稼ぎになるような対策は必要だ。そうしないと、このままでは再び急激な気温上昇が起こるということだ。

ただし、個人的には、地球工学的なアプローチは、あくまで時間稼ぎの対策だと考える。根本対策ははやり \(\rm CO_2\) 排出量の削減と、過剰に排出された \(\rm CO_2\) の回収だと思う。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3023777?pid=14238576
気象庁の解説記事:http://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/db/climate/knowledge/glb_warm/ohc.html


[1] ここ15年程の温暖化傾向の減速が深海の温度上昇が原因という説については、何日か前のTV番組でも解説している科学者が同じようなことを言っていたが、それは太平洋での話だった気がする (記憶が曖昧だけど・・・) 。また、気象庁のHPの解説記事によると、最近の気温上昇率の低下は海洋内部での熱の蓄積の可能性が指摘されているとしているが、必ずしも深海とは限らないようにも読める (気象庁の記事は、気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第5次評価報告書 (IPCC, 2013) が基になっているようだ) 。いずれにしろ、少し食い違いがある。

Date: 2014/08/24
Title: 西アフリカでエボラ・ウィルス感染拡大 ― 治療法の早期確立が待たれる
Category: 医学
Keywords: 西アフリカ、エボラ・ウィルス、感染拡大


西アフリカでエボラ出血熱が猛威をふるっている。
エボラ出血熱とはエボラ・ウィルスによる急性ウィスル性感染症で、発熱、頭痛、下痢、嘔吐、腹痛などの症状が現れ、症状が進むと体のあちこちから出血するので出血熱といわれる疾患のひとつだ (国立感染症研究所のHPによると、必ずしも出血を伴うわけではないことから、近年ではエボラ・ウィルス病 [Ebola virus disease: EVD] と呼ばれることが多いようだ) 。非常に致死率が高く (50~90%といわれる) 、現時点では有効なワクチンや治療法が確立されていない恐ろしい疾患だ。ただ、空気感染はせず、患者の血液や体液に触れることで感染するといわれている。

このウィルスが最初に発見されたのは、1976年にスーダン (現南スーダン) で倉庫番をしている男性が発症して死亡し、そこから血液や医療器具を介して感染が広がったことが始まりだといわれている。この最初の感染者の出身地ザイール (現コンゴ民主共和国) を流れるエボラ川から、エボラ・ウィルスと名付けられ、このウィルスによる疾患もエボラ出血熱と名付けられた。これ以降、エボラ出血熱はアフリカ大陸でたびたび発生・流行しているんだが、これまでは感染者数はそれほど多くなく、1000人を超える感染者が出たのは今回が初めてのようだ [1]

僕はTVの報道を見ていて、1995年に公開されたアメリカの映画 「アウトブレイク (Outbreak)」 (ウォルフガング・ペーターゼン監督、ダスティン・ホフマン、レネ・ルッソ出演) を思い出した (実はこの映画のDVDを持っているのだ) 。
映画では、アフリカのモターバ川流域で発生した出血熱を引き起こしたモターバ・ウィルスという架空のウィルスの宿主であるサルがアメリカに持ち込まれ、このサルに接触した人から感染が広がり、さらにウィルスの突然変異で空気感染するようになって、エボラ出血熱に似た症状の病気が爆発的に広がっていくというストーリーだ。この映画の中で出てきたウィルスの電子顕微鏡写真が、まさにエボラ・ウィルスの写真だった。そう、あのなんとなくケムンパスのような形をしたウィルスだ (下の画像はエボラ・ウィルスの電子顕微鏡写真 [TEM像]、米国CDCのHPより ) 。


Photo credit: Dr. Frederick A. Murphy
ただし、エボラ・ウィルスの形は必ずしもこの形というわけではなく、ひも状だったり、U字状、杖型、コイル型など様々な形をしているようた。

エボラ・ウィルスの宿主は特定されていないようだが、コウモリが有力視されている。宿主であるコウモリの糞などに触れたり、食用にしたりすることで、感染が広がるといわれているようだ。さらに、コウモリからチンパンジーやゴリラのような野生動物に感染が広がり、これらの野生動物の死骸に触れることでヒトへ感染するというような感染ルートも指摘されている。
今回のようにヒトからヒトへの感染は、医療従事者が患者の血液や体液に触れることによる感染の他、死亡した患者を会葬するときに患者の体に触れるという現地の風習が、さらに感染者を増やしているという指摘もある。また、現地の人の病気に関する知識不足、西洋医学や医療機関への不信感も、感染拡大を助長しているという報道もある。
感染を防止するためには、病気についての正しい知識の普及と、病気に対する偏見をなくすことの他に、患者と医療従事者、医療機関、行政の間の信頼関係を築くことが大事だと思う。

現時点ではエボラ出血熱に対する承認されたワクチンや治療薬はないようだが、西アフリカで医療活動に従事していたアメリカ人2人に対して、未承認の薬 ( " ZMapp " という薬のようです) が試験的に投与され、2人とも症状が完全されたという。さらに、日本の富士フィルム傘下の企業が開発したインフルエンザ治療薬『ファビピラル』が、マウスを使った実験でエボラウィルスを排除する効果が確認されたという。これまでは、感染者数がそれほど多くなかったこともあり、 有効なワクチンや治療法の開発がなかなか進まなかったようだが、今回の爆発的流行で、ワクチンや治療薬の開発が一気に加速されることが期待されるし、一刻も早い有効な治療法の確立が待たれる。

関連サイトはこちら。
WHO (世界保健機関) のサイト:http://www.who.int/csr/disease/ebola/en/
CDC (アメリカ疾病予防管理センター) のサイト:
http://www.cdc.gov/media/dpk/2014/dpk-ebola-outbreak.html?s_cid=cdc_homepage_whatsnew_003
国立感染症研究所のサイト:http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/342-ebola-intro.html


[1] その後も感染は拡大し続け、死者の数はついに2000人を越えたようだ。(2014.9.11時点)

Date: 2014/08/12
Title: スーパームーン
Category: 太陽系
Keywords: 月、近地点、満月、視直径



(c) NASA/Bill Ingalls

昨日はスーパームーンを見ることができると、TVのニュースなどでいっていた。
でも、雲が出ていてよく見えなかった。

では、スーパームーンとはどのような現象なのか?
まずは月の軌道から。

左の図は地球が楕円の焦点のひとつにあるときの、月の軌道の概略を表わしたものだ。

地球の周りを回っている月の軌道は楕円軌道で、軌道長半径を \(a\)、軌道短半径 \(b\) とすると、楕円のつぶれ具合を表わす扁平率 \(f\) は
\begin{align} f = \frac{a - b}{a} \end{align} となる。また、円錐曲線の特徴を表わすパラメーターのひとつである離心率 \(e\) は
\begin{align} e = \frac{\sqrt{a^2 - b^2}}{a} \end{align} で表わされる。楕円の場合、\(0 < f < 1\)、\(0 < e < 1\) なのだが、値が 0 に近づくほど円に近くなり、0 の場合は円と一致する。逆に、1 に近づくほど楕円の2つの焦点 (月の軌道の場合は、そのひとつに地球がある) が楕円の中心から離れていって、平べったい楕円になっていく。

楕円軌道上の月が地球と最も近づいたとき、地球と月の間の距離を近地点といい、\(d_p\) で表わし、逆に月が最も遠ざかったとき、その距離を遠地点といい、\(d_a\) で表わすと、離心率は \(d_p\)、\(d_a\) を使って表わすこともできる。
\begin{align} e = \frac{\sqrt{a^2 - b^2}}{a} = \frac{2\sqrt{a^2 - b^2}}{2a} = \frac{d_a - d_p}{d_a + d_p} \end{align} ここで、実際の値を当てはめてみると、月の近地点距離と遠地点距離は NASA のデータ (Solar System Exploration -> Earth's Moon: Facts & Figures) によると、近地点距離 \(d_p = 363,104\,\rm{km} = 3.631 \times 10^5\,\rm{km}\) 、遠地点距離 \(d_a = 405,696\,\rm{km} = 4.057 \times 10^5\,\rm{km}\) なので、その差は \(42,592\,\rm{km} = 4.259 \times 10^4\,\rm{km}\) 、離心率は
\begin{align} e = \frac{d_a - d_p}{d_a + d_p} = \frac{4.259 \times 10^4}{7.688 \times 10^5} = 0.0554 \end{align} となる。ちなみに、これらの値から軌道長半径と軌道短半径を計算すると、
\begin{align} a &= \frac{d_a + d_p}{2} = \frac{7.688 \times 10^5}{2} = 3.844 \times 10^5 \, \rm{km} = 384,400 \, \rm{km} \\ b &= a\sqrt{1 - e^2} = 3.844 \times 10^5 \times \sqrt{1 - 0.0554^2} = 3.838 \times 10^5 \, \rm{km} = 383,800 \, \rm{km} \end{align} となるので、扁平率は
\begin{align} f = \frac{a - b}{a} = \frac{3.844 \times 10^5 - 3.838 \times 10^5}{3.844 \times 10^5} = 1.561 \times 10^{-3} \end{align} という小さな値で、月の軌道はかなり円に近いということになる (それでも、月の軌道の離心率は、太陽に対する地球の公転軌道の離心率 0.0167 より 3.3倍ほど大きい) 。

さて、本題に入り、近地点にある月が満月または新月を迎えることを 「スーパームーン」 と言うのだが、今年の8月11日の午前3時頃 (日本時間) にスーパームーンとなったのだ(残念ながらその瞬間は見ることができなかった) 。

近地点にあるときの満月 (スーパームーン) と遠地点にあるときの満月 (こちらの方は「ミニマムムーン」と言う) を地球から見たときの見かけの大きさ (視直径) がどの位になるのか計算してみよう (話を簡単にするため、地球と月の間の距離は、地球の大きさは無視して、それぞれの中心間の距離を使って計算する) 。


左の図のように地球と月の中心間を結んだ線から測ったときの月の大きさ (半径) を角度で表わしたとき、近地点にあるときの角度を \(\theta_1\)、遠地点にあるときの角度を \(\theta_2\) とし、月の半径を \(r_m\) とすると、\(\theta_1,\,\theta_2 \ll 1\) なので、次のように近似的に表わすことができる。
\begin{align} r_m &= d_p \tan{\theta_1} \simeq d_p \sin{\theta_1} \simeq d_p \theta_1 \\ {} \\ \therefore \theta_1 &= r_m / d_p \end{align} 同様に、
\begin{align} \theta_2 = r_m / d_a \end{align} したがって、近地点と遠地点での満月の視直径は、それぞれ
\begin{align} 2\theta_1 &= 2r_m / d_p \\ {} \\ 2\theta_2 &= 2r_m / d_a \end{align} となる。実際に値を当てはめてみると、月の半径は \(r_m = 1,738\,\rm{km} = 1.738 \times 10^3\,\rm{km}\) なので、近地点での満月の視直径は、
\begin{align} 2\theta_1 = \frac{2r_m}{d_p} = \frac{2 \times 1.738 \times 10^3}{3.631 \times 10^5} = 9.573 \times 10^{-3} \,\rm{(rad)} \end{align} 遠地点での満月の視直径は、
\begin{align} 2\theta_2 = \frac{2r_m}{d_a} = \frac{2 \times 1.738 \times 10^3}{4.057 \times 10^5} = 8.568 \times 10^{-3} \,\rm{(rad)} \end{align} となる。角度の単位はラジアン (rad) なので、これを度 (deg) 、分 (min) 、秒 (sec) で表わすと、それぞれ
\begin{align} 2\theta_1 &= 9.573 \times 10^{-3} \,\rm{(rad)} = 0.5485 \,\rm{(deg)} = 32 \,\rm{(min)} \,54.58 \,\rm{(sec)} \\ {} \\ 2\theta_2 &= 8.568 \times 10^{-3} \,\rm{(rad)} = 0.4909 \,\rm{(deg)} = 29 \,\rm{(min)} \,27.28 \,\rm{(sec)} \end{align} となる。

ちなみに、国立天文台のHPによると、今年の最大の満月 (8月11日) と最小の満月 (1月16日) の視直径はそれぞれ 33分 28.24秒、29分 23.06秒 だそうだ (上の計算値とやや異なるのは、月の軌道は太陽や地球などの影響を受けるので、近地点と遠地点の距離は毎回異なるためだ) 。この値を使って最大の満月と最小の満月の視直径の比をとると 1.14、見かけの面積比は 1.30 となる。つまり、今回のスーパームーンはミニマムムーンの時と比べて約 14% 大きく見え、明るさも約 30% 明るくなるのだ。

関連記事はこちら。
国立天文台のトピックス:http://www.nao.ac.jp/astro/sky/2014/08.html
NASAの月に関するデータ:http://solarsystem.nasa.gov/planets/profile.cfm?Display=Facts&Object=Moon

Date: 2014/08/11
Title: 系外惑星の大気 水は予想以上に低濃度だった!
Category: 宇宙
Keywords: 系外惑星、大気、水


太陽系外で見つかった3つの惑星の大気を詳細に観測した結果、予想に反して水がほとんど存在しないということが判ったという。研究結果を発表したのは、英国ケンブリッジ大学などの研究チームで、ハッブル宇宙望遠鏡を使って太陽系外のガス状巨大惑星3個の大気を詳細に観測したものだそうだ。これら3個の惑星は、HD 189733b、HD 209458b、WASP-12b として知られている惑星で、地球から60光年から900光年離れたところにあり、気温は大体 820℃ から 2200℃ と非常に高温なので、水蒸気を検出するためには理想的な候補と考えられていたようだ。

しかし、観測の結果は 「ほぼ乾燥状態に近い」 もので、検出された水の量は標準的な惑星形成理論で予測された量の10分の1から1000分の1程度だったらしい。


(c) NASA, ESA, G. Bacon (STScI)
and N. Madhusudhan (UC)
現在の惑星形成理論によると、まず、若い星の周りに水素やヘリウム、氷や塵の微粒子でできた原始円盤が形成される。 円盤の中の微粒子は互いにくっつきあって、次第に大きな塊に成長し、円盤の重力によって引き寄せられて固体のコア (核) を形成する。このコアが水素やヘリウムなどのガスや氷や塵の微粒子をどんどん引き寄せていって、最終的に惑星へと成長し、なかには巨大惑星にまで成長するものもある。惑星に含まれる異なった化学成分の比率は、中心にある恒星のそれを反映している。巨大惑星の大気中に含まれる酸素は、大部分が水の形で存在するとこれまで考えられてきた。

今回の観測結果から、大気中に含まれる水蒸気が低濃度であることが明らかになったことで、惑星を形成する化学成分について多くの疑問を投げかけている。

研究者の一人によると、系外惑星について、わかっていないことはまだまだたくさんある。今回の結果は、惑星と太陽系がどのように形成されるかを理解するのに、新しい “章” を開いたのだ。問題は、我々の太陽系と同じくらい水が豊富に存在していると仮定していることだ。今回の研究結果が示していることは、我々が期待しているより水は少ないのかもしれない、ということのようだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3021464?pid=14120503
NASAのプレスリリース記事:
https://science.nasa.gov/missions/hubble/hubble-finds-three-surprisingly-dry-exoplanets/

Date: 2014/08/08
Title: 気象庁 高解像度降水ナウキャスト運用開始
Category: 気象予報
Keywords: 気象庁、降水ナウキャスト、高解像度


TVのニュースでも報道されていたが、気象庁が降水域の分布を高い解像度で解析・予測する「高解像度降水ナウキャスト」の提供を8月7日から開始した。


これは、最近頻発するゲリラ豪雨や雷・竜巻の予報をきめ細かく行うため、従来の 「降水ナウキャスト」 を改良して、より高解像度の情報を提供しようというものだ。どのくらい解像度が上がったかというと、従来の 「降水ナウキャスト」 が 1 km メッシュ (縦横が 1 km 単位) の降水分布の予測だったのに対して、「高解像度降水ナウキャスト」では 250 m メッシュ (縦横が従来の1/4の 250 m 単位) で予測したもので、従来より16倍解像度が上がっている (縦4倍×横4倍=16倍) 。ただし、250 m メッシュで予測されるのは30分先までの5分ごとで、35分から60分先までは従来通り 1 km メッシュのようだ。
解像度がどのように上がったのかを、地図の上に 1 km メッシュと 250 m メッシュを重ね合わせて比較して簡単に説明すると、上の図のようになる。


高解像度降水ナウキャストの画像
(気象庁ホームページより)
実際にはどのように見えるかというと、8月8日16:15現在の高知県香南市の降水分布を表示してみると、左の図のようになり、市内のどこで激しい降水になっているかがわかるのだ。

気象庁はこれを実現するため、全国20カ所の気象ドップラーレーダーの処理装置を更新して、降水強度の観測を 250 m 四方のデータとして処理できるようにしたそうだ。さらに、気象ドップラーレーダーに加えて、気象庁や国土交通省、各自治体が保有する全国に約 10,000 カ所にある雨量計や、ウィンドプロファイラ、ラジオゾンデの高層観測データや、国土交通省の XRAIN データも活用して、精度向上を図ったそうだ。

これはPCだけでなくスマホでも利用できるようなので、これによって、急な雨が予想される気象条件で外出するときなど、外出先で今後の雨の予想を確認できるので重宝しそうだ。


関連サイト:
気象庁ホームページ
・報道発表資料:http://www.jma.go.jp/jma/press/1407/25b/highresorad_140725.html
・高解像度降水ナウキャスト:http://www.jma.go.jp/jp/highresorad/

Date: 2014/07/21
Title: アメリカでダイヤモンドの超高圧圧縮実験 ― 巨大惑星の謎解明に光か?
Category: 物理
Keywords: ダイヤモンド、レーザー、超高圧、圧縮


アメリカの物理学者の研究チームが、ダイヤモンドを超高圧で圧縮することに成功したという。

実験を行ったのは、アメリカのカリフォルニア州にあるローレンス・リバモア国立研究所 (Lawrence Livermore National Laboratory; LLNL) の物理学者のチームで、同研究所の世界最大のレーザー核融合施設である国立点火施設 (National Ignition Facility; NIF) の超高出力レーザー (出力2メガジュール) を使用して、合成ダイアモンドのサンプルに176本ものレーザー光を一斉に照射し、5テラパスカル (5×1012 Pa;約5000万気圧=地球表面の気圧の5000万倍) もの超高圧の圧力波を発生させて、ダイヤモンドを圧縮しようというものだ。5000万気圧というのは土星や木星の中心部の圧力に匹敵するものだ。

ダイヤモンドというのは知られている物質の中でもっとも圧縮することが難しい物質だが、研究者たちはこの方法で通常の4倍近くの高い密度にまで圧縮することに成功したという。

今回の実験は、木星や天王星あるいは太陽系外で発見された巨大惑星の中心部の超高圧状態を再現しようと試みたもので、このような巨大惑星の形成過程を理解する手助けになるものだが、ダイヤモンドを圧縮しているということは、宇宙で4番目に多い元素である炭素 (水素、ヘリウム、酸素の次に多い) に注目しているということだ。比較的メタンが多く存在する天王星や海王星には “ダイヤモンドの海” が存在するという説もあり、超高圧状態の炭素の特性を調べることで天王星型惑星 [1] や炭素過剰 (Carbon-rich) な天体の研究が進展してくことが期待される。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3020757?pid=14057949
Natureの要約記事:
http://www.nature.com/nature/journal/v511/n7509/full/nature13526.html
ローレンス・リバモア研究所のサイトにある記事:
https://www.llnl.gov/news/newsreleases/2014/Jul/NR-14-07-07.html
https://lasers.llnl.gov/news/experimental-highlights


[1] 天王星や海王星は、従来は木星や土星と同じ木星型惑星 (巨大ガス惑星) に分類されていたが、ボイジャー2号による観測の結果、予想以上に水やメタンが豊富に存在することがわかり、木星型惑星とは分けて天王星型惑星 (巨大氷惑星) に分類されるようになったのだ。

Date: 2014/07/18
Title: アメリカの民間無人補給機、2回目の打ち上げ成功
Category: 宇宙開発
Keywords: ISS、無人補給機


先週、米民間の宇宙帆船ライトセールを2016年打ち上げへという記事を見つけたが、今度は、米民間補給機シグナス打ち上げ成功という記事を見つけた。

アメリカの民間宇宙企業オービタル・サイエンス社 (Orbital Sciences Corporation) が、ISS (国際宇宙ステーション) への物資補給のため、13日に無人補給機 「シグナス (Cygnus)」 の打ち上げに成功したという。同社の無人補給機の打ち上げは今回で2回目だそうだ。シグナスは16日には ISS に到着し、ISS のクルーがロボットアームでシグナスを補足し、ドッキングが完了したようだ。同社によると、シグナスは2016年末までに合計8回の打ち上げを行うようだ。
ISS への無人補給機の打ち上げは日本でも行われていて、JAXA (宇宙航空研究開発機構) の 「こうのとり」 がこれまで3回打ち上げられている。

このように、ISS への物資の補給は、複数の無人補給機によって行われているが、宇宙飛行士を運ぶのは、スペースシャトルが引退した今では、ロシアのソユーズに頼っているのが現状だ。ウクライナ情勢によってアメリカとロシアの関係が冷え込んでいて、ISS でのアメリカとロシアの協力関係にも影を落とし始めているようだ (今のところ、当面は協力関係は続けるようだけど) 。アメリカは今後もソユーズに頼るのか、それともスペースシャトルに代わる有人輸送機を開発するのだろうか?今後の米露関係次第では、そうせざるを得なくなるかもしれないけど。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3020439?pid=14044451
オービタル・サイエンシズ(Orbital Sciences)社のサイト:
https://www.orbital.com/NewsInfo/MissionUpdates/Orb-2/
JAXAの「こうのとり」サイト:
http://www.jaxa.jp/countdown/h2bf3/overview/htv_j.html

Date: 2014/07/12
Title: アメリカの民間会社 宇宙帆船を2016年打ち上げへ
Category: 宇宙開発
Keywords: 宇宙帆船、太陽輻射圧


ネットのニュースを検索していたら、面白そうな記事を見つけた。
それは、「米民間の宇宙帆船ライトセール、2016年打ち上げへ」 という記事だ。
米民間宇宙団体の惑星協会が、太陽の輻射圧をセール (帆) で受けて推進するソーラーセール (宇宙帆船) 「ライトセール」 を2016年に打ち上げると発表したという。打ち上げは、米宇宙開発企業・スペースX社のロケット 「Falcon Heavy」 を使って行われるそうだ。

ソーラーセールというのは、太陽の輻射圧 (光の圧力) を受けて進むので、燃料を使わずに遠くの星に行くことが可能な技術として注目されていて、日本の JAXA (宇宙航空研究開発機構) も2010年に世界初の小型ソーラー電力セイル実証機 「IKAROS」 を打ち上げているのだ。

僕らが太陽の光を浴びるとき、太陽からやってくる光子 (光の粒子) から圧力を受けていて、これを輻射圧 (放射圧) というのだが、輻射圧の大きさは、表面が黒く光を吸収する物体より、鏡のように光を反射する物体の方が大きく、完全に反射される場合は、吸収される場合の2倍の値になるのだ。

地球近傍での単位面積当たり、単位時間当たりの太陽の放射エネルギーは \(\rm 1370\,W⁄m^2\) (この値は「太陽定数」と呼ばれている) で、太陽光が吸収される場合では輻射圧は \(\rm 4.6\,\mu Pa\) となり、太陽光を完全に反射する理想的な場合で \(\rm 9.2\,\mu Pa\) となるのだ。

\(\rm Pa\) (パスカル) というのは圧力の単位で、\(1\,\rm{Pa} = 1\,\rm{N⁄m^2}\) という関係がある。重力加速度は \(g = 9.8\,\rm{m⁄s^2}\) なので、\(\rm 9.2\,\mu Pa\) という輻射圧は、
\begin{align} 9.2 \times 10^{-6} \,\rm{Pa} &= 9.2 \times 10^{-6} \,\rm{N/m^2} = \frac{9.2 \times 10^{-6}}{9.8} \,\rm{kgf/m^2} \\ & \cong 10^{-6} \,\rm{kgf/m^2} = 10^{-3} \,\rm{gf/m^2} \end{align} となる。この値は1000平方メートルの面積 (30 m 四方の面積より少し大きいくらい) に 1 g (1円玉の重さ) の重力が働いているのと同じで、輻射圧はとっても小さな圧力なのだ (僕らが太陽の光を浴びても吹き飛ばされないのはこのため) 。

輻射圧を受けてソーラーセールが推進するとき、加速度はどのくらいになるかというと、例えば、帆の面積を 1000 m2、ソーラーセールの質量を 300 kg (IKAROS の質量が大体このくらい) とすると、加速度は
\begin{align} a = \frac{F}{m} = \frac{9.2 \times 10^{-6} \,\rm{(N/m^2)} \times 1000 \,\rm{(m^2)}}{300 \,\rm{(kg)}} \cong 3 \times 10^{-5} \,\rm{(m/s^2)} \end{align} という小さな値だ。小さな加速度でも、初速度を 0 (m/s) として、単純にこの加速度で加速していった場合、1年後にどのくらいの速度になるか計算すると、
\begin{align} v &= at = 3 \times 10^{-5} \,\rm{(m/s^2)} \times 365 \times 24 \times 3600 \,\rm{(s)} \\ &= 946 \,\rm{(m/s)} = 3400 \,\rm{(km/h)} \end{align} という結構な速度にまで加速される (ただし、ここでは太陽や地球の重力の影響は無視している) 。輻射圧を利用するソーラーセールは、小さな加速度で非常に長い時間をかけて加速していくのだ。

この速度の値だと、第二宇宙速度 (地球の重力圏を振り切るために必要な最小速度で脱出速度という。その値は地球表面で約 11.2 km⁄s) より小さいので、地球の重力を振り切れないのではと思う人もいるかもしれない。しかし、実際には地球からロケットで宇宙空間に打ち上げられ、そこから帆を展開して太陽光を受けて加速していくので、ロケットで打ち上げて宇宙空間に放出する段階で脱出速度を上回る速度を与えておけば、地球の重力圏を脱出することは可能だ。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3020208?pid=14025598
JAXA の IKAROS 関連のサイト:http://www.jaxa.jp/projects/sat/ikaros/index_j.html
宇宙研の 「はやぶさ」 関連サイトにも、太陽輻射圧についての記事が載っていた。
http://www.isas.ac.jp/j/snews/2005/1025.shtml

Date: 2014/06/20
Title: 先端技術で脳の秘密を探る
Category: 脳科学
Keywords: 神経線維、格子状構造、ニューロン、微細構造、3D画像、アレン脳地図、CLARITY、fMRI、脳組織の活動、ブレイン・マシン・インターフェイス


何カ月か前のナショナルジオグラフィックに
「先端技術で見えた 脳の秘密」
というおもしろい記事が載っていた。

これは先端技術を駆使して、人間の脳がどのように機能しているかという生物学最大の謎に、研究者たちが挑んでいるという研究内容を総花的に紹介したものだ。これについてかい摘まんで紹介してみる。

1. 神経線維の格子状構造
まずは、米国マサチューセッツ州ボストンにあるマーティノス生物医学画像センターの神経科学者バン・ウェディーンによる、計96個のセンサー付きヘルメットをかぶって脳をスキャンしながら脳が流す微弱電流を検出し、脳内の水分子の動きを調べる研究から。これによって認知機能を支える特定の回路が初めて明らかにされた。

脳内ではニューロン (神経細胞) が無数のネットワークを形成しているが、この結果得られた画像では、情報が伝達される経路 (回路) が色分けされて3Dで表示される。その中の一部分 (例えば言語機能に不可欠な信号を伝達する回路) のみを拡大表示すると、その構造が浮かび上がってくる。驚くことに、脳内の神経線維はただ乱雑に絡みあっているのではなく、格子状の構造になっているのだ。

2012年にこの格子状の構造が発見された時は、一部の科学者は 「たまたまその部分がそうなっているだけで、全体はもっといり組んでいるのでは」 と懐疑的だったようだが、研究が進展していくと、人間だけでなくサル、ラットの脳を調べてもこの格子状の構造が現れたという。この構造を発見したウェディーンによれば、この構造に何らかの法則が潜んでいると確信しているが、その法則はまだ突きとめられていないようだ。

2. ニューロンの微細構造の3D画像
次に、ハーバード大学の神経科学者ジェフ・リクトマンの研究チームが取り組んでいる、樹状突起や軸索を含むニューロンの微細な構造の3D画像の作成についてだ。画像を作成するには、まずマウスの脳の一部を特殊なスライス装置で非常に薄い (髪の毛の1/1000にも満たない厚さ) 切片にスライスし、その断面を電子顕微鏡で撮影していく。そうして得られた画像をコンピューターで重ね合わせていって3D画像にするのだ。研究チームはこうして得られた画像を使ってニューロンの謎の解明に挑んでいるのだ。

ただ、これまで得られた画像はマウスの脳のうち、塩ひと粒程の非常に小さい領域で、それだけで100テラバイトの記憶容量が必要だそうだ (1テラバイト=1兆バイト。100テラバイトは1テラバイトの外付けハードディスク100台分の記憶容量に相当する) 。

チームの研究員の一人、ナラヤナン・カシューリは、その塩ひと粒のさらに10万分の1程の円筒状の領域を選んで、構造を調べている。その中には1000本もの軸索と80個程の樹状突起があり、それぞれが領域内の他のニューロンとおよそ600もの結合をつくっていることが分かった。彼によると、「脳は私たちが考えているよりもはるかに複雑」 だ。それでもその構造は複雑ではあるが無秩序ではないようで、「まるで結びつく相手を選んでいるかのよう」 だという。

この結合のパターンが脳全体に当てはまるのか、彼が分析した小さな領域に特徴的なのかはまだ分からないが、チームは今後2年かけてマウスの脳内にある約7000万個のニューロンをすべてスキャンして調べる予定だという。人間の脳はマウスの1000倍ものニューロンがあるが、人間の脳全体をスキャンすることは可能なのか?
リクトマン曰く、「それは今考えないことにしている。考えただけで気が遠くなる。」
たしかに、膨大な時間と労力、それに莫大な資金も必要になってくる。

3. アレン脳地図
リクトマンによる脳の3D画像の構築は、脳内のニューロンの構造に関するものだが、ニューロンには DNA やタンパク質が詰まっていて、ニューロンは異なる遺伝子群を使って特定の機能を持った物質をつくっている。例えば、脳の黒質という部位のニューロンは神経伝達物質のドーパミンを生成しているが、パーキンソン病では黒質のニューロンのドーパミン生産が低下することが知られている。また、アルツハイマー病ではアミロイド β と呼ばれるタンパク質が脳内に凝集して老人斑として沈着していって、これがやがて神経細胞を死滅させて重い認知症状を引き起こすと考えられているが、その仕組みはまだ完全には解明されていない。こうした物質がつくられる場所を特定できれば、脳の正常な働きや機能障害を理解するうえで大いに役に立つと考えられている。

米国ワシントン州シアトルにあるアレン脳科学研究所では、マウスやヒトの脳の薄くスライスされた切片画像と遺伝子発現パターンなどの情報を詳細に示す3Dマップ 「アレン脳地図 (Allen Brain Atlas)」 をオンラインで公開していて、世界中の研究者が専用のソフトウェアを使って活用できる体制をつくっている。

これまで6人の脳を調査した結果では (死亡直後の患者の脳を遺族了承のもとに調査している) 、脳内の700の部位でタンパク質生産にかかわる2万個の遺伝子発現状況を記録している。それによると、成人の脳では遺伝子の84%が発現しているという (これは他の臓器の遺伝子発現の割合より高いそうだ) 。また、700の部位ではそれぞれのニューロンで異なる遺伝子群が発現していて、一つひとつの遺伝子が発現する領域には個人差がないことも分かったようだ。これは脳の病気の多くが特定の部位の遺伝子発現に異常があることで発生していることを示唆しているのかもしれないという。

4. 脳を消す技術 - CLARITY
さらに、脳の構造を可視化する最先端技術で注目すべきは、スタンフォード大学の神経科学者・精神科医のカール・ダイセロスを中心とした研究チームが開発した技術だ。それは、脳を見るために脳を消す技術 ― CLARITY (透明性) ― だ。

ニューロンは脂肪などの不透明な物質に包まれているため、そのままでは切り刻まないと内部の構造を調べられない。そこで、そうした不透明な物質を取り除いてやれば、切り刻まなくても脳の構造を調べられるというわけだ。研究チームはマウスの脳を薬剤に浸して脂肪などを取り除いて透明にする技術を開発した。透明になった脳に蛍光物質で特定のタンパク質を色付けすると、ある種のニューロンの分布が分かり、使用する化学物質を変えれば、それに応じて様々な種類のニューロンの位置や構造が分かるという。

この技術は、脳科学者たちに衝撃を与えたようだ。研究者たちはゆくゆくは人間の脳の透明サンプルの作製も視野に入れているようだが、人間の脳はマウスの脳より3000倍も大きく、まだまだやることが山積みで、この技術を治療に生かす段階にはなく、現段階では安易な期待はもてないという。まだまだ時間がかかりそうだ。

5. 生きた脳を調べる
透明な脳サンプルで脳の構造を調べる研究は画期的なものだが、この方法では生きた脳の内部を探ることはできない。そこで考えられているのが、fMRI (functional magnetic resonance imaging; 機能的磁気共鳴画像法) を使って活動中の脳の内部を撮影しようというものだ。fMRI というのは、MRI を利用して脳の活動を視覚化する方法のひとつで、これによって、例えば、移動する視覚刺激を目で追ったり、何かの課題に取り組んでいるときの脳の活動の様子を、活動量に応じて色分けするなどして視覚化できるのだ。

しかし、実際のところは、最高性能の fMRI 装置をもってしても、小さくでも 1 mm3 程の単位でしか脳組織の活動を記録できないという。この小さなゴマ粒程度の領域には何十万ものニューロンが信号をやり取りしていて、これが fMRI で観察できる程度の大きなパターンを生む仕組みはまだわかっていないという。

アレン脳科学研究所のグレイ・リードは、現代の科学でもお手上げな、脳についてのごく単純な問いに答えを見出そうとしている研究者の一人だ。彼のチームが取り組んでいるのは、視覚のメカニズムの解明だ。
視覚のメカニズムの研究は随分前から行われているが、まだ断片的なことしかわかっていないという。視覚に関連した作業が脳のどの部分で行われているかはわかっているが、そこにある膨大な量のニューロンがどのようにして瞬時に情報を統合して、どのように識別しているのか、その仕組みはまだわかっていない。
彼らはこの問題を解明するために、マウスの遺伝子を改変して、ニューロンに電位変化が起きた時に光を放つようにした。そうすることで、マウスが特定の物体 (ネコとかヘビとか) を見たときのニューロンの活動を記録して、得られたデータを基にして数学的モデルを構築してくのだという。そのモデルが正しければ、文字どおりマウスの頭の中を読み取ることができるという。

こうした研究が進んでいけば、途方もなく複雑な脳が全体としてどのように働いているかを解き明かす日が来るかもしれない。しかし、現段階では、脳の活動を包括的に説明できる理論の構築にはまだ程遠い状況だという。

6. 脳と機械をつなぐ
脳の活動を包括的に説明できる理論はまだないが、脳の信号を読み取って、機械を操作しようという試みは始まっている。それは、「ブレイン・マシン・インターフェイス (Brain-machine Interface)」という技術で、これによって脳卒中や脊椎損傷などによって体が麻痺した人が、脳が発する信号によって機械を動かし、体の動きを助けようという試みだ。

脳の上部には運動野と呼ばれる領域があり、ここから送られた信号 (指令) が神経を伝って筋肉を動かしている。麻痺患者の中には、脳の運動野は損傷していないが、脳から筋肉に至る途中で神経系の接続が断たれてしまっているため、脳から筋肉に指令が伝わらなくなっているケースがあるという。

こうした麻痺患者の不自由さを軽減するために、米国ブラウン大学の神経科学者ジョン・ドノヒューが行っている研究は、運動野からの信号を検出して、頭の中で考えるだけでコンピューターに文字を入力したり、機械を操作したりできるようにしようというものだ。そのために、脳に埋め込むセンサーを長年にわたって開発してきた。
2005年には、ある麻痺患者の脳の運動野にセンサーを埋め込み、検出したニューロンの電気信号をコンピューターで受信して、コンピューターの画面上のカーソルを動かすことに成功している。さらにプログラム改良して、その2年後にはコンピューターにロボットアームを取り付けて、麻痺患者の脳の信号に従ってアームを動かしたり、アームの先端の指を動かしたりする仕組みを作った。実際に、その患者はアームを動かしてカップを持ち上げて、飲み物を飲むことができるまでになっている。

ブレイン・マシン・インターフェイスは、上に書いたような脳にセンサーを埋め込んで信号を検出する方式 (侵襲式) と、頭にセンサーを取り付けて脳の信号を検出する方式 (非侵襲式) がある。侵襲式の場合、信号を精度よく読みとることが可能なようだが、手術でセンサーを埋め込むため、手術による感染・脳の損傷といった本末転倒なリスクもある。非侵襲式の場合、センサーの脱着が容易だが、頭蓋骨などの影響で脳波が変化してしまい、信号を正確に読み取れるかという課題があるようだ。
日本でも同様の研究はなされていて、頭に装着したセンサーで脳波を読み取って、ロボットアームを動かすというような研究を、TVのニュースで見た記憶がある (記憶があいまいで正確には覚えていないけど) 。
麻痺で苦しんでいる患者さんのためにも、今後、さらに高性能で安全で、操作が簡単な装置 (しかも安価なもの) の開発が望まれる。


ここまで、先端技術を駆使して脳の秘密を解明しようとする研究について書いてきたが、全容の解明と病気の診断・治療への応用にはまだまだ時間がかかりそうだ。記事の著者も述べているように、脳の研究がもたらすことについて安易な未来予測は禁物だということだ。研究が進展していけば期待も膨らむが、過大な期待はそのうち独り歩きしてしまい、現実とのギャップに人々を失望させてしまうことにもなりかねないからだ。

ところで、日経サイエンスの7月号にも「脳地図革命」という特集記事が載っているけど、ここでは触れないでおく (まだ、ちゃんと読んでいないもので・・・) 。
概要についてはこちら。
http://www.nikkei-science.com/201407_033.html

今回はいっぱい書いたなぁ。でも、画像データがないので文章ばかりになってしまったけど・・・。

Date: 2014/06/18
Title: 月形成の謎 ― ジャイアント・インパクト説に新たな証拠か?
Category: 太陽系
Keywords: 月形成、ジャイアント・インパクト、証拠


ネットのニュースをチェックしていたら、面白い記事を見つけた。それは、
「月形成の『巨大衝突説』、独チームが新たな証拠発見」
という記事だ。

月の誕生の謎をめぐっては、いろいろと論争が続いているけど、今回の記事は、原始地球が他の天体と衝突したときに月が形成されたという 「ジャイアント・インパクト説 (Giant Impact; 巨大衝突)」 を裏付ける新たな証拠が見つかったというものだ。


(C) NASA/JPL-Caltech
まずは、これまでの論争について見てみよう。

第1の説:双子説 (兄弟説ともいう)
これは 「地球と月は同じ塵が集まって同時にできた」 とする説だ。しかし、地球の密度は 5.515 g/cm3 であるのに対して、月の密度は 3.344 g/cm3 と、地球の密度の 60% 程しかない。また、地球の中心には鉄の核があるが (内核は主に鉄でできた固体金属の核でできていて、外核は鉄とニッケルが主成分の液体の金属の核からなる) 、 月には地球のような液体の金属核は存在しないと考えられている。したがって、双子説では地球と月のこれらの違いを説明できない。

第2の説:分裂説 (親子説ともいう)
これは 「溶けた原始地球が現在よりも高速で自転していて、大きな遠心力によって分裂して巨大なマグマの塊を宇宙空間にはじき飛ばし、それが月になった」 とする説だ。しかし、現在の地球と月の軌道は、分裂説が予測する軌道のパターンと一致しないという。

第3の説:捕獲説 (他人説ともいう)
これは 「別の場所で形成された月が地球の近くまで漂ってきて、地球の引力に捕獲された」 とする説だ。しかし、アメリカのアポロ宇宙飛行士が持ち帰った月の石を分析した結果、地球のマントルと月の石の化学組成や酸素同位体比 (酸素17と酸素16の比) が類似していて、地球と月はまったく異質なものではないことがわかった。

これら3つの説では、現在の月の特徴を矛盾なく説明することはできず、代わって有力視されたのが 「ジャイアント・インパクト説」 だ。
ジャイアント・インパクト説は1970年頃から提唱され始めたもので、今から約45億年前、誕生間もない原始地球に火星サイズの小天体 (「テイア (Theia) 」と呼ばれる) が激しく衝突し、その時破壊された破片と、地球からえぐり取られた表層部のマントル物質が、地球周回軌道上で再集積して月が形成されたというものだ。つまり、この時の激しい衝突が「月」という置き土産を残したのだ。その際、月を形成した物質の 70~90% は衝突した天体からもたらされたものだという。このことは、月と地球のマントル物質では組成が異なることを意味している [1]

しかし、このジャイアント・インパクト説にも次のような疑問がもたれている。
まず、今も続けられている月の石の分析によって、月と地球のマントル物質の組成はただ似ているだけでなく、ほぼ同一であることだ。月の石や地球のマントルに多く含まれる酸素 (O) やケイ素 (Si) 、チタン (Ti) などの元素の同位体比がかなり一致していて、このことは、月は衝突した側の天体からではなく、ほぼ地球からえぐり取られた破片でできていることを示唆している。
これを回避するために、原始地球は小さな衝突を繰り返すうちに高速で自転するようになり、そこへ火星の 1/10 程度の小さな天体が衝突して軌道上に飛び散った地球のマントル物質が月を形成したとする「衝突+分裂説」や、大きくて速度の速い天体が衝突して地球のマントル物質を宇宙空間にはじき飛ばして去っていき、残された破片が月を形成したとする「当て逃げ説」などのアイデアがだされているが、いずれも十分なものではないようだ。
もう一つの疑問というのは、なぜ月の表側 (地球に向いている側) には “海” と呼ばれる黒っぽい玄武岩質の岩石で覆われた領域が多いのに対して、月の裏側 (地球からは見ることができない) は急峻な地形になっているのかということだ。これに対して、地球は月の他に「もう一つの月」を持っていた時期があり、それが比較的ゆっくりとしたスピードで月の裏側に衝突したため、月の表と裏の違いが生じたとする説がある。しかし、これも十分な証拠はなく、定説となるまでには至っていないようだ。

前置きが長くなってしまったが、ここまでが月形成をめぐる論争の概要だ。

今回発表された研究結果は、ジャイアント・インパクト説裏付ける新たな証拠を見つけたというもので、分析結果を発表したのは、ドイツのゲオルク・アウグスト大学ゲッチンゲン (通称ゲッチンゲン大学) のダニエル・ヘルヴァルツ (Daniel Herwartz) 率いる研究チームだ。
彼らは最新の質量分析器を用いて、アポロ11号、12号、16号が持ち帰った月表面の岩石サンプルの酸素同位体比 (酸素17[ 17O ]と酸素16[ 16O ]の比) を測定した。その結果、月の石の酸素同位体比は、地球のマントルからもたらされた石のそれと比べて 12ppm 高いことがわかったという。
この結果は、「月は地球と衝突した天体からの物質が、大雑把に言って 50 - 50 で混ざったもの」で、高い酸素同位体比 ( 17O ⁄ 16O ) は、「衝突した天体は主にエンスタタイト・コンドライトと呼ばれる希少な物質でできている [2]」ことを示唆しているといい、研究者たちはジャイアント・インパクトが起こった新たな証拠だと確信しているようだ。

しかし、これに対して、「この論文の中には何も目新しいものはなく、この違いは月形成について何か新しいことを言うほど大きなものではない」、「アポロが持ち帰った月の石は必ずしも月全体を代表しているわけではない」、「他の元素の同位体比についても調べるべき。酸素の同位体比が違うなら、チタンやケイ素でも違いがあるはず」といった意見もあり、今回の結果に同意するにしても、反対するにしても、まだまだ検証と議論が必要なようだ。

月形成をめぐる “ミステリー” が解明されるまでには、まだまだ時間がかかりそうということかな。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3016944?pid=13818414
ナショナルジオグラフィックの記事:
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20140606002
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130711001
Science の記事:
http://news.sciencemag.org/chemistry/2014/06/how-did-moon-really-form
Scientific American の記事:
http://www.scientificamerican.com/article/lunar-rock-chemistry-argued-to-reveal-how-the-moon-formed/


[1] 惑星や衛星が形成されるとき、太陽系の中でそれらが形成される場所の環境が岩石やマントルの組成に反映されるため、酸素やケイ素、チタンなどの元素の同位体比も異なってくる。例えば、酸素の同位体比についていえば、16O (酸素16;酸素の大部分を占めている) に対して、17O (酸素17;中性子が1個多い) や 18O (酸素18;中性子が2個多い) の比率が異なる。地球に落下してくる隕石のこれらの元素の同位体比は、その隕石が太陽系のどこで形成されたかで異なってくる。

[2] 地球に降り注いでくる隕石の大部分 (約 90%) はコンドライトと呼ばれる物質でできていて、エンスタタイト・コンドライトでできているのは全体の約 2% だそうだ。

Date: 2014/06/06
Title: 女性名のハリケーンに油断? 死者3倍に
Category: 気象予報
Keywords: ハリケーン、名前、先入観


ハリケーンの名前に関するおもしろい研究の記事を見つけた。
それは、「ハリケーンの名前が人々の備えに深刻な影響を及ぼしている」という記事だ。

アメリカではハリケーンの名前は強さとは関係なく、あらかじめ男女の名前をアルファベット順にいくつか用意して、交互に付けている。例えば、最初は 「Alex (アレックス;男性名) 」、次は 「Bonnie (ボニー;女性名) 」、・・・という風に。元々は女性の名前だけが使用されていたが、男女同権に反するということで、1979年以降は男性名と女性名を交互に付けるようになったのだ。

アメリカの科学誌 「アメリカ科学アカデミー紀要 (Proceedings of the National Academy of Sciences; PNAS) 」 で発表された研究によると、大西洋で過去60年余りに発生したハリケーンを調査した結果、ハリケーンの名前が深刻な結果を招いているという。
それは、ハリケーンによる死者の数が、「比較的男性的な名前」 の場合は 15.15 人であるのに対して、「比較的女性的な名前」 の場合は 41.84 人と3倍近くまで増えているというものだ。この研究では、死者数がけた違いに大きかった 「Audrey (オードリー;1957年) 」 と 「Katrina (カトリーナ;2005年) 」 (ともに女性名) は分析対象から除かれているので、それでもこれだけの差が表れているということになる [1]
この結果に対して論文の共著者は、ハリケーンに対して人々は男女の振る舞い方のイメージを当てはめてしまっていて、それによって女性名のハリケーン、特に 「ベル」 や 「シンディ」 のようなとても女性的な名前のハリケーンは、より凶暴性が低いように思われている、と指摘しているよだ。
また、研究チームによる一般の人々への聞き取り調査で、男性名 (「アレクサンダー」、「クリストファー」、「ビクター」 など) と、それに対する女性名 (「アレクサンドラ」、「クリスティーナ」、「ビクトリア」 など ) を並べて、ハリケーンの威力を想像してもらった結果、いずれも女性名の方が威力が弱いと評価されたという結果になったそうだが、予想通りの結果という感じだ。

これは、名前で先入観を持ってしまい、ハリケーンに対する備えに影響してしまっているということなのだ。
まぁ、たしかに、オードリーという名前は 「オードリー・ヘップバーン」 を想像してしまうし (可憐なハリケーンって思ってしまう?) 、アレクサンダーは 「アレクサンダー大王」 をイメージして 「強そう!」 って思うかもしれない。

日本では台風の名前は発生順に1号、2号、・・・ と番号をつけているけど [2] 、それとは別に2000年からは国際的な呼称としてアジア名も使用されている。アジア名というのは、アジア各国とアメリカの政府間で組織する台風委員会で命名された名前で、それぞれの国と地域の言葉が全部で140個用意されていて、順番に使用される (例えば、1番はカンボジアの 「ダムレイ (象を意味する) 」、2番は中国の 「ハイクイ (イソギンチャクを意味する) 」、・・・ という風に) 。ただ、日本の報道機関ではアジア名はほとんど使用されないので、日本では一般にはあまり浸透していないようだ。

しかし、今回のアメリカでの研究結果を見ると、台風の名前は番号のような無機質な名前をつけた方が、変に先入観を持ってしまわないためにもいいように思う。今回の論文でも「ハリケーンのリスク評価における先入観の影響を抑え、最善の備えをうながす新しい命名法を一考する価値を示している」としているようだけど。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3016757?pid=13768431
アジア名についての気象庁の解説:http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/1-5.html


[1] 死者数がけた違いに大きく、分析対象から除外された 「オードリー」 と 「カトリーナ」 もどちらも女性名なので、死者数には名前による影響もある程度含まれていると個人的には思う。

[2] 気象庁の情報文書や資料では、元号と組み合わせた 「平成25年台風第27号」 や、西暦の下二桁と組み合わせた 「台風1327号 (2013年台風27号) 」 などが使用されている。日本でも第二次世界大戦後の米軍占領下では、台風の名前はアメリカ式に女性名が付けられていたが (カスリーン台風、ジェーン台風など) 、サンフランシスコ講和条約発効後の1953年からは現在のように番号順に付けられている。
また、特に被害の大きかった台風については、番号とは別に 「伊勢湾台風 (昭和34年台風第15号) 」 や 「第二室戸台風 (昭和36年台風第18号) 」 などの名前が付けられている。

Date: 2014/06/05
Title: 「ゴジラ級」の地球型惑星発見、名前は 「Kepler-10c」
Category: 宇宙
Keywords: 地球型惑星、Kepler-10c、質量、岩石質惑星形成、生命の可能性


「『ゴジラ級』の地球型惑星、560光年先に発見」 ― という記事を見つけた。
1ヶ月ちょっと位前に、太陽系以外の恒星のハビタブルゾーン (habitable zone; 生命居住可能領域) に地球に似たサイズの惑星 Kepler-186f が発見されたというニュースを目にしていたが、今度は「ゴジラ級」の地球型惑星発見というニュースで、米国ボストンで開催されたアメリカ天文学会 (American Astronomical Society; AAS) の会議で、ハーバード・スミソニアン天体物理学センター (Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics; CfA) の研究者らが発表したものだ。

NASA (米航空宇宙局) のケプラー宇宙望遠鏡で発見された地球型惑星は、地球から560光年離れた恒星の周りを回っていて、質量は地球の17倍、直径約 29,000 km (地球の2.3倍) という、まさしく「ゴジラ級」の惑星=メガアースだ。名前は 「Kepler-10c」 。
これまでの観測では、Kepler-10c の大きさは地球の2.3倍も大きいことが分かっていたが、質量については分かっていなかった。そこで、スペイン領カナリア諸島にある国立ガリレオ望遠鏡 (Telescopio Nazionale Galileo; TNG) の HARPS-N [1] という装置を使った観測で質量を測定したところ、惑星の質量が予想外に大きく、地球の17倍もあることがわかったたそうだ。これは Kepler-10c が岩石その他の固体のような密度の大きい惑星であることを示している。

これまでは、岩石質の惑星のサイズが大きくなると、より多くの水素ガスを引き寄せるため、木星のような巨大なガス惑星になると考えられていたが、Kepler-10c はこの常識を覆すものだ。CfA の研究者は、惑星の公転周期と、惑星が岩石質からガス質に遷移する大きさの間の相関関係を見つけていて、これは、今後より大きなメガアースが発見される可能性を示唆しているという。

今回の Kepler-10c の発見は、宇宙の歴史と生命が存在する可能性について重要なことを示唆している。

まず、宇宙の歴史については、Kepler-10c が属する惑星系 (Kepler-10系) は今から約110億年前に形成されたようだ。これはビッグバンから30億年も経っていない頃のことだ。この頃の宇宙には岩石惑星の主成分となるケイ素 (Si) や鉄 (Fe) のような重い元素は少なく、主に水素 (H) やヘリウム (He) のような軽い元素で構成されていたと考えられている。
初期の宇宙には水素とヘリウムしかなかったので、岩石質の惑星の材料となるケイ素や鉄のような重い元素は、第1世代の恒星の中で起こっている核融合反応で作られていった。第1世代の恒星の寿命がつきて超新星爆発を起こすと、それら重い元素が宇宙空間にばらまかれ、第2世代以降の恒星や惑星の中に取り込まれていったと考えられている。これらの過程は数10億年程度かかると考えられいて、Kepler-10c は、ケイ素や鉄のような重い元素が少なかった頃の宇宙でも、巨大な岩石質の惑星が形成されるうることを示唆している。

次に生命の可能性については、今回の発見は、地球によく似た惑星を探すとき、古い恒星まで探査の範囲を広げれば、ハビタブルゾーン (生命居住可能領域) に惑星が存在する惑星系を見つける可能性が高まることを示唆していると言える。
残念ながら、Kepler-10c の公転周期は45日なので (これは惑星から恒星までの距離が近いことを意味する) 、生命が生き続けるには高温すぎると見られているようだ。

このように、この「ゴジラ級」地球型惑星発見は、これまでの常識を覆すようなもので、天文学者たちは困惑させられているようだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3016608?pid=13797552
NASA の記事:
http://www.nasa.gov/ames/kepler/astronomers-confounded-by-massive-rocky-world/
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの記事:
http://www.cfa.harvard.edu/news/2014-14


[1] HARPS-N: High Accuracy Radial velocity Planet Searcher in North hemisphere
高精度視線速度系外惑星探査装置 (HARPS) と呼ばれる分光器で、視線速度法と呼ばれる恒星のスペクトルに現れる光のドップラー効果を測定して、惑星の公転が引き起こす恒星の動きを調べる方法で、太陽系外惑星の観測に用いられている。

Date: 2014/05/14
Title: マグネシウムとアルミニウムの粉末が燃焼すると
Category: 化学
Keywords: マグネシウム、アルミニウム、粉末、燃焼


昨日の午後、東京の町田市にある金属加工会社で火災が発生し、今も消火活動が続けられているようだ。ニュースによると、工場にあるマグネシウムやアルミニウムに作業で散った火花が引火した可能性があるという。おそらくマグネシウムやアルミニウムの切り屑や粉末に引火して、激しく燃焼しているのだろう。

では、マグネシウムとアルミニウムが燃焼するとどうなるか。


元素の周期表
ピンクがマグネシウム
青がアルミニウム
まずは、マグネシウムから。
元素記号は Mg 、原子番号は12で、元素周期表の第2族に属する金属元素だ。生体に欠かせないミネラルのひとつに数えられる元素なので、”金属” といわれると違和感を持つ人もいるかもしれないが、れっきとした金属元素なのだ (まぁ、これは鉄などでも同じなんだが) 。ちなみに、スポーツドリンクにも、ナトリウムイオン ( Na+ ) やカリウムイオン ( K+ ) とともに、マグネシウムイオン ( Mg2+ ) も少量含まれている。
マグネシウムは酸素と結合しやすいので、加熱すると炎と強い閃光を発して燃焼して酸化マグネシウムが生成される。さらに粉末状態になると表面積が大きくなるので、酸化されやすく (言いかえれば燃焼しやすく) なるのだ。これを化学式で書くと次のようになる。
\begin{align} \rm{2Mg + O_2 \rightarrow 2MgO} \end{align} この性質を利用して昔は (明治から大正時代) カメラのフラッシュとしてマグネシウムの粉末が使われていた。また、マグネシウムは水とも反応しやすく (水酸化マグネシウムが生成される) 、その際、水素が発生する。化学式で書くとこうだ。
\begin{align} \rm{2H_2O + Mg \rightarrow Mg(OH)_2 + H_2 \uparrow} \end{align} つまり、今回のように火災が発生したら水で消火できないということだ。水をかけてしまうと発生した水素に引火して爆発する恐れがあるのだ。

次に、アルミニウムについて。
元素記号は Al 、原子番号は13で、元素周期表の第3族に属する金属元素だ。アルミニウム合金はいろいろな用途があり、アルミホイル、アルミサッシからPCの筐体など、僕たちの生活に密着した用途から、航空機材料 (ジュラルミン) や鉄道車両の車体にも使われている身近な金属だ (そういえば、一円玉もアルミニウムでできている!) 。
アルミニウムも酸化されやすい金属だけど、空気中では表面に酸化被膜 ( Al2O3 ) ができているので、通常は内部までは酸化されにくくなっている。ただし、粉末になると表面積が大きくなるので酸化されやすくなり、粉じん爆発を起こすことがある。アルミニウムの酸化を化学式で書くとこうなる。


スペースシャトル
\begin{align} \rm{4Al + 3O_2 \rightarrow 2Al_2O_3} \end{align} アルミニウムの粉末は燃焼熱が大きく、燃焼の際にガスが発生しないため、高温になり白く発光する。この性質を利用して火薬などに発熱剤として添加される。固体燃料ロケットやスペースシャトルの固体燃料ブースターの燃料の一部として、アルミニウムの粉末が使われているのだ。

また、マグネシウムと同様に水と反応しやすく、水酸化アルミニウムの他に水素が発生する。
\begin{align} \rm{2Al + 6H_2O \rightarrow 2Al(OH)_3 + 3H_2 \uparrow} \end{align} したがって、この場合も火災が発生したら水をかけると、発生した水素に引火して爆発する恐れがあるのだ。

どちらにしても、粉末の扱いには注意が必要ということだ。

Date: 2014/05/05
Title: 関東で発生した今朝の地震
Category: 地震
Keywords: 震度計測、震度分布、震源、太平洋プレート


今朝関東地方をやや強い地震が襲った。
地震発生時刻が5時18分と早朝だったが、最初の揺れで目が覚め、「あれっ?地震?」 と思っていたら、その後やや強い揺れが襲ってきて、完全に目が覚めてしまった。
首都直下型地震の前触れか?と思ったが、TVをつけたら、震源は伊豆大島近海だった。マグニチュードは 6.2 で、震源の深さは約 160 km、東京・千代田区では震度5弱を観測した(関東で震度5以上を観測したのは、3年前の東日本大震災以来だ (ちなみに、ウチのところでは震度3だった。もっと揺れたような気がしたけど、気のせいかな?) 。震源が深いのでプレートの境界辺りで発生したのかな?とその時は思った。

関東の真下は、陸側のプレート (北アメリカプレート 1)) の下に、東側から太平洋プレートが、南側からフィリピン海プレート (伊豆半島が乗っかっているプレート) の2つの海側プレートが沈み込んでいるという複雑な構造をしているのだ。震源の深さが 160 km ということは、これのどこかで地震が発生したのだろうなという気がしていた。

しかし、気象庁のその後の会見では、今回の地震は太平洋プレートの内部で発生していて、発生が懸念されている首都直下型地震や相模トラフ沿いの大地震とはメカニズムが異なり、「関連性は低い」 とのことのようだが・・・。まぁ、今回の地震は、関連は低いのかもしれないが、「日ごろの備えを怠るな」というメッセージと受け止めるべきなのかな。

ところで、震度分布では、震源から遠く離れた東京・千代田区が震度5弱といちばん強かったが、気象庁のHPであらためて詳細な震度分布を調べてみると、千代田区でも大手町だけが震度5弱を観測したようだ。なんで大手町だけがピンポイントで揺れが強かったんだろう?

東京周辺の震度分布はこちら (気象庁HPより) :
http://www.jma.go.jp/jp/quake/3/350/20140505053129395-050518.html

気象庁の説明では、「深い所からプレート内部を経由して地上に揺れが伝わる経路によって、たまたま揺れが強くなった可能性が高い」 ということで、さらに震度計が設置されているのは大手町の気象庁近くとのことだが、「周辺の地盤が弱くて揺れが増幅されたとは考えられない」 ということのようだが、本当の原因は分からないようだ。

他に考えられる要因として、各地に設置されている震度計の個体差と測定誤差が考えられる (あくまで私見だけど)。
震度計自体は定期的に校正されていると思うが、それでも機差というものがある (これは、震度計に限らず、すべての計測器に言えることだ) 。気象庁が設置している震度計の仕様までは僕は知らないが、一般的に震度計は、3軸加速度計で計測した 「揺れの加速度」 と 「周期」 から震度を算出しているようだ。そのため、例えば、大手町の震度計がたまたま揺れの加速度の感度が少し高め (基準の範囲内で) になっているとしたら、震度の算出結果も高めになってしまうこともあり得る。
また、測定誤差によって揺れの加速度が少し大きめに計測された可能性もある。
まぁ、本当のところはよく分からないけど、こういうこともあり得るという話です。

震度計については、例えばこちらを参照してみてください (明星電気 (株) のHP) 。
http://www.meisei.co.jp/products/earthq/s200.html


[1] 東日本が乗っているプレートは一般に「北アメリカプレート」とされているが、北アメリカプレートとは別の「オホーツクプレート」だとする説もあるようだ。ちなみに、東大地震研の資料ではオホーツクプレートとなっている。
http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/KOHO/KOHO/backnumber/14/14-1.html

Date: 2014/05/03
Title: 太陽系以外の恒星の生命居住可能領域で地球サイズの惑星発見
Category: 宇宙
Keywords: 系外恒星、M型矮星、ハビタブルゾーン、惑星、Kepler-186f、生命存在の可能性


AFPBB News をチェックしていたら、次の記事が目に止まった (ちょっと前にTVでもこのニュースはやっていた) 。あわせて NASA の記事も読んでみた。

それは、太陽系以外の恒星のハビタブルゾーン (habitable zone:生命居住可能領域) に地球に似たサイズの惑星が発見されたというニュースだ。発見したのは NASA (米航空宇宙局) のエイムズ研究センター (Ames Research Center) の研究チームで、ケプラー宇宙望遠鏡を使った観測で見つけたのだ。

その星は、白鳥座の中にある地球から約500光年の距離にある Kepler-186 (いちいち Kepler と書くのが面倒なので、以降、K-186 と書くことにする) を主星とした系 (太陽系ならぬ ”ケプラー186系” ) にある惑星 " Kepler-186f " だ (これも同様に、以降 K-186f と書くことにする) 。主星の K-186 は大きさと質量が太陽の半分程度で、M型矮星または赤色矮星 [1] に分類されているが、このM型矮星は我々の銀河系に存在する恒星の 70% を占めているのだ。このようにM型矮星は最も多く存在する恒星なので、太陽系以外で生命が存在する可能性があるとしたら、M型矮星の周りをまわっている惑星系だと考えられているのだ。

K-186 系には5個の惑星があり (内側から K-186b,c,d,e,f) 、K-186f は一番外側の軌道を回っている。大きさは地球の約1.1倍だが、質量や組成、密度は分からないそうだ (以前の研究から岩石質と考えられている) 。また、K-186f が存在する場所は K-186 のハビタブルゾーンの最外縁部で、130日毎に K-186 の周りを回ってる 2) 。K-186 から受け取るエネルギーは、地球が太陽から受け取るエネルギーの 1/3 ほどで、K-186f の正午の K-186 の明るさは、日没1時間前の太陽の明るさ程度だという。

K-186f がハビタブルゾーンにあるからといって、必ずしもその惑星に生命が存在するわけではない。惑星表面の温度がその惑星の大気の組成に依存するからだが、K-186f には液体の水が存在する可能性があり、その有力な候補ともいうべきものなのだ。K-186f は地球と似た特徴を持っているが、“親” が違う。地球の “双子” の惑星というよりは、 “いとこ” の惑星ともいうべきものだ。

仮に、惑星 K-186f に人間のように高度に進化した生物がいて、同じように科学・技術が発達しているとしても、地球から500光年も離れているので、地球からその惑星に向けて 「もしもし。こちらは地球人です。こんにちは。」 と問いかけたとしても、返事が帰ってくるのは1000年後だ。気の長い話だなぁ・・・。
まぁ、これは 「仮にそうだったら」 の話なので、「生物がいるかも?」 と短絡的に考えてはいけない。これはあくまで 「生命が生存可能な領域」 に地球サイズの惑星が見つかった、という話なのだから。
今後はM型矮星系の惑星の特性をより詳細に調べるミッションを計画中ということなので、それによってより可能性の高い惑星が見つかるかもしれない。それに期待することにしよう。

ちなみに、K-186f の内側にある4つの惑星 (K-186b,d,c,e) はそれぞれ4,7,13,22日で K-186 の周りを回っている。K-186f に比べて周期が非常に短いので、K-186 にかなり近い軌道を回っていることになり、生命にとっては非常に熱い環境といえる。大きさは地球の1.5倍よりは小さいようだ。これらの惑星は、水星のような大気のない星か、大気があっても金星のような灼熱地獄の星なのかな。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3012933?pid=13534938
NASA の記事:
http://www.nasa.gov/ames/kepler/nasas-kepler-discovers-first-earth-size-planet-in-the-habitable-zone-of-another-star/


[1] 赤色矮星 (red dwarf) というのは、主系列星のなかでも特に質量の小さい恒星のグループで、スペクトル型はM型なので、M型矮星ともいい、次の特徴を持っている。
  1. 直径が小さい。
  2. 表面温度が低い。したがって、赤色をしている。
  3. 明るさが暗い。
  4. 寿命が長い。
これらの特徴は、星の中心部の温度が低く、核融合反応が穏やかに進行することを意味する。寿命は短くても数百億年、長いと数兆年にも及ぶとされるが、宇宙の年齢 (ビッグバンから現在までの時間) は約138億年なので、現在の宇宙が誕生して以来、一生を終えた赤色矮星はまだ存在しないことになるのだ。

ところで、恒星のスペクトル型は表面温度によって分けられ (他にも星の明るさによって分類する方法もある) 、表面温度の高い順に並べると次のようになる。

スペクトル型 表面温度
O型 29,000 ~ 60,000 K
B型 10,000 ~ 29,000 K 青 ~ 青白
A型 7,500 ~ 10,000 K
F型 6,000 ~ 7,500 K 黄白
G型 5,300 ~ 6,000 K
K型 3,900 ~ 5,300 K
M型 2,500 ~ 3,900 K

これの覚え方は、「Oh Be A Fine Girl, Kiss Me!」 だ (久しぶりにこんな言葉を書いた。なんか、懐かしいなぁ・・・) 。
Kepler-186 はM型なので、表面温度は 2,500~3,900 K の赤い色の星 (赤色矮星) なのだ。ちなみに太陽は表面温度 5,800 K なので、G型 (もっと細かく言うと、G2V型) で、黄色い星なのだ。

Date: 2014/03/27
Title: 異常気象は人為的な気候変動と「一致」と世界気象機関が警告
Category: 気象
Keywords: WMO、異常気象、気候変動、人為的


ネットのニュースをチェックしていたら、この記事が目にとまった。

世界気象機関 (World Meteorological Organization; WMO) の報告によると、2013年に相次いで発生した異常気象の多くは、人為的な気候変動で予想される結果と矛盾していないということのようだ。
2013年には、フィリピンを襲って甚大な被害を出した超大型台風ハイエン (台風30号) 、オーストラリアを襲った干ばつ、欧州や北米を襲った寒波、その他多くの地域で洪水や干ばつが起こっている。個々の事象はいろんな要因が複雑に絡み合っていて、人為的な要因だけに結びつけることはできないけど、明確な傾向が見られるそうだ。

温室効果ガスによるとされる地球温暖化は、大気の温度だけでなく海水の温度も上昇させている。海水の温度が上昇すると海水が膨張して海面が上昇し、沿岸部の標高の低い場所では水没の危険性が指摘されている (温暖化による海面上昇は海水の膨張によるものだけではないが、主要な要因と考えられる) 。
このまま気候変動が続いて行くと、台風の巨大化/強力化、極端な豪雨、極端な干ばつのような異常気象が増えていくばかりでなく、生態系にも影響を影響を与えて植物や魚類の生育域が変わり、農業や漁業に打撃を与えることが懸念されている。そのため、世界の各地で水や食料を巡って争いが頻発するようになるかもしれない。

温室効果ガスの排出削減については世界の各国が認識しているはずだが、それぞれの国の事情が優先され、削減合意には至っていないのが実情だ。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3011014?pid=13396078
WMO のプレスリリース:http://www.wmo.int/pages/mediacentre/press_releases/pr_985_en.html

Date: 2014/03/21
Title: モスアイ
Category: 生物
Keywords: 昆虫、蛾の眼、表面構造


国立科学博物館のメールマガジンにモスアイについての記事が載っていたので、少し調べてみた。


モスアイ
「モスアイ (moth eye) 」 ― 直訳すると蛾 (moth;モスラの“モス”です) の眼のことだが、物体表面の特殊な構造のことを指すのだ。元々は蛾の複眼の表面で見つかった構造なのでこのように呼ばれているのだ (その後、昆虫表面にはかなり普遍的に見られることが分かってきたようだ) 。

蛾は夜行性なので夜でも飛ぶことができるが、その秘密は眼の構造にあるのだ。蛾の眼は小さな六角形の眼 (これを個眼という) がたくさん集まった複眼をもっているんだが、さらに拡大していくと、表面に小さな突起がたくさん集まった構造をしているのだ。この突起は 「ナノパイル」 あるいは、形状によっては 「ナノニップル」 と呼ばれていて、高さが 200~300 nm (ナノメートル、1ナノメートル=10億分の1メートル) 程で、200 nm 位の間隔で並んでいて、電子顕微鏡でないと見ることができないような微細な構造なのだ。
モスアイ構造は外から入ってくる光を効率よく透過させて反射を抑えるようになっていて、太陽の光に比べてはるかに弱い月の光を効率よく眼の奥に捕らえるようになっているのだ。


モスアイ構造
モスアイの微細構造の物理的特性として
(1)表面に入射する光を効率よく透過する。(高透過性)
(2)表面の光の反射を抑える。(低反射性)
(3)水を強力にはじく。(超撥水性)
(4)天敵の脚が引っ掛かりにくくする。(低摩擦性)
というような特徴をもっている。

また、モスアイ構造はセミやトンボの透明な翅でも見つかっていて、背景の色や模様を透過して自分がいることを見えにくくするカモフラージュ効果もあることが分かってきたようだ。

モスアイ構造のこのようは物理的特性は工業的にもいろいろな応用が考えられ、実際、テレビの液晶画面の表面加工にも応用されていて、映り込みの少ない画面を可能にしているのだ。

Date: 2014/03/15
Title: 巨大隕石衝突による海洋酸性化も恐竜絶滅の一因か?
Category: 古生物
Keywords: 恐竜絶滅、隕石衝突、酸性雨、海洋酸性化


AFPBB News をチェックしていたら、次の記事が目にとまった。
「隕石衝突で海洋酸性化が加速か、大量絶滅 惑星探査研」

今から約6550万年前の白亜紀末期に地球上から突如姿を消した恐竜。その恐竜絶滅の原因として最有力視されているのが「隕石衝突説」だ。隕石衝突によって恐竜が絶滅したとする説を最初にと唱えたのは、物理学者ルイス・アルバレスと地質学者ウォルター・アルバレスのアルバレス父子だ。その説によると、巨大隕石 (小惑星) が地球に衝突した結果、地球規模で大火災が発生して生態系が破壊され、さらに隕石の衝突によって粉塵が大量に巻き上げられ、それが大気を覆って日照が遮られて気温が急激に低下し、光が地上に十分届かないことで光合成生物が死滅して食物連鎖が崩壊し、恐竜を含む生物の大量絶滅に至ったというものだ。
その根拠とされるのが、「T-K 境界層」と呼ばれる約6550万年前の中生代と新生代の境界にあたる地層で、高濃度のイリジウムが検出されたことだが、このイリジウムは地殻の中にはほとんど存在せず、巨大隕石 (小惑星) 由来と考えられることだ。
その後、メキシコのユカタン半島北西端である巨大隕石による巨大クレーター (チチュルブ・クレーター、直径約 200 km もある) が見つかったが、クレーターが形成された年代が T-K 境界層の年代と一致することか分かり、これが恐竜絶滅の原因の有力証拠とされているのだ。

ただ、このような 「衝突の冬」 が原因とする説に対して、確証がなくよく分からないのが現状とする意見もあり、議論が続けられているようだ。そのひとつに 「酸性雨説」 がある。
これは、巨大隕石の衝突によって硫黄を多く含む隕石から三酸化硫黄 ( SO3 ) が大気中に放出され、これが水蒸気と結合して酸性雨を降らせ、地表や海洋表層部を酸性化させて生物を死滅させたというものだ。これに対して、衝突によって放出されるのは二酸化硫黄 ( SO2 ) の方で、長い時間成層圏にとどまるという意見もあるようだ。

今回、千葉工業大学・惑星探査研究センターの研究チームが行った研究では、チチュルブ衝突を小さいスケールで再現する衝突実験を行い、衝突によって放出されるのは二酸化硫黄よりは三酸化硫黄の方が圧倒的に多いことがわかった。三酸化硫黄はすぐさま大気中の水蒸気と結合して硫酸エアロゾルの微粒子を形成する。また、コンピューター・シミュレーションによって、衝突によって放出されたよりおおきなケイ酸塩の粒子が硫酸エアロゾル粒子を効率よくかき集め、数日以内に地表面に硫酸をもたらすことも示された。
このように地球表面に急速に硫酸が降り注いでいくと、海の表層をひどく酸性化させ、そこに生息していた浮遊性有孔虫の大量死滅を説明できるとしている。

つまり、巨大隕石の衝突によって発生した硫酸の酸性雨も、生物の大量絶滅の原因の一つになりうることを示したわけだ。ということは、恐竜の絶滅は 「衝突の冬」 と 「酸性雨」 の複合的な要因によって起こった可能性が高いということかな (それ以外の要因も絡んでいるかもしれなけど) 。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3010071?pid=13310232

Date: 2014/03/01
Title: 電子の質量を過去最高の精度で測定
Category: 物理
Keywords: 電子、質量計測、精度


AFPBB News を見ていたら、次の記事が目にとまった。
「電子の質量、過去最高精度で測定 研究」

測定したのはドイツのマックス・プランク核物理学研究所 (Max Planck Institute for Nuclear Physics) のスベン・シュトルム (Sven Sturm) 氏率いる研究チームで、彼らは静電場と静磁場をもちいて荷電粒子を閉じ込めるペニングトラップ装置を使って、質量が正確に分かっている炭素原子核に束縛された単一の電子の磁気モーメントを測定して電子の質量を測定した。

その結果は \(5.485\,799\,090\,67 \times 10^{-4}\,\rm{u}\) (\(\rm{u}\) は統一原子質量単位:unified atomic mass unit) で、その精度は科学技術データ委員会 (Committee on Data for Science and Technology; CODATA) のデータの13倍も高いという。

ちなみに、CODATA の Web Site で最新 (2010年版) の電子の質量を検索してみると、以下のようになっている。
 electron mass in u: \(m_\rm{e} = 5.485\,799\,0946 \times 10^{-4}\,\rm{u}\)
 standard uncertainty (標準不確かさ=標準偏差) : \(0.000\,000\,0022 \times 10^{-4}\,\rm{u}\)
 (簡略化して表わすと、\(m_\rm{e} = 5.485\,799\,0946\,(22) \times 10^{-4}\,\rm{u}\) )
 ※言葉の定義:
  The standard uncertainty u(y) of a measurement result y is the estimated standard deviation of y.

今回の結果は、測定値の標準不確かさ (=標準偏差) がこの値より一桁小さかったということだ。

ところで、電子のような素粒子の質量は等価エネルギー ( \(E=mc^2\) )で表わすことが多いので、電子の質量を \(\rm{MeV}\) (百万電子ボルト) 単位で表わすと、
\begin{align} m_\rm{e} = 0.510\,998\,928\,\rm{MeV} \end{align} となる。普通は小数点以下何桁も書くことはないので 単に \(0.511\,\rm{MeV}\) と書くことが多い。
ついでに、我々が普段使う質量の単位 \(\rm{kg}\) で表わすと、
\begin{align} m_\rm{e} = 9.109\,382\,91 \times 10^{-31}\,\rm{kg} \end{align} というとっても小さな値 (10のマイナス31乗のオーダー) になるのだ。

Date: 2014/01/27
Title: 火星に突如“ジャムドーナツ”型の石が?
Category: 太陽系
Keywords: 火星探査、オポチュニティー、石


NASA の火星無人探査車オポチュニティー (Opportunity) が今月8日に撮影した画像に、昨年12月26日に同じ場所で撮影した画像には写っていなかった小さな丸い物体が写っていたそうだ。この物体は外側が白く、中央部が赤く、まるで 「ジャム入りドーナツ」 のように見えるという。


Image Credit: NASA/JPL-Caltech/
Cornell Univ./Arizona State Univ.
写真を見ると、たしかに右側の写真 (After) には、左側の写真 (Before) には写っていない白っぽ物体が写っている。でも、僕にはどうしてもこれがドーナツのようには見えなかった。
試しに、ネットで “ジャム入りドーナツ” を検索してみたら、 “ジャム入りドーナツ” というのは、中にジャムが入った揚げパンのようなもので、表面に粉砂糖をまぶしたものだそうだ。形はトーラス型 (輪環体型) ではないようだ。

どうりでドーナツのように見えなかったはずだ。ドーナツというと、どうしてもトーラス型の形をイメージしてしまうからなのだろうけど・・・。

NASA によると、この物体は、「顕微鏡で観察したところ。石であることは明らか」 なようだが、地球に住む我々が見たこともないような石だという。今後は、オポチュニティーを移動させて、石が元々あった場所を確認するようだ。

ところで、NASA の火星無人探査車というと最新のキュリオシティー (Curiosity) を思い浮かべるが、10年前に火星に着陸して活動を開始したオポチュニティーのことはすっかり忘れていた。10年経ってもまだ活動していたんだね。なんだかこっちの方が驚きだったりするけど・・・。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/3007219?pid=12983718
NASA のサイト:
http://mars.nasa.gov/mer/gallery/press/opportunity/20140121a.html
http://mars.nasa.gov/mer/newsroom/pressreleases/20140214a.html
http://mars.nasa.gov/mer/gallery/press/opportunity/20140214a.html

Date: 2014/01/12
Title: 北米を襲った大寒波
Category: 気象
Keywords: 北米、大寒波、極渦、北極振動、ジェット気流、蛇行


北米が凍えている。
北米の広い範囲を20年振りの大寒波が襲っているが、アメリカの気象専門家によると、この大寒波の原因を理解するうえで重要なキーワードとなるのは 「極渦」 と 「北極振動」 だそうだ。

北極 (と南極) の上空には極渦と呼ばれる極寒の空気の渦をもった寒気団があり、その周りにはジェット気流と呼ばれる強い西風 (偏西風) が吹いている。これが中緯度と寒帯の空気の境界をなしていて、ジェット気流によって極域の寒気が閉じ込められているのだ。極渦の流れが弱まるとジェット気流が蛇行して北極域の寒気が南下し、寒波をもたらすのだ。


北極振動とジェット気流
北極振動というのは北極域と北半球中緯度の気圧がシーソーのように相反して変動する現象のことで、例えば、北極の気圧が平年より高いときは、逆に中緯度の気圧が平年より低くなる。この偏差の程度を表わすのに北極変動指数という指標を用いるのだ。
北極振動指数は正 (+) または負 (-) の値で表わされ、指数が正の場合は北極の気圧が平年より低く、中緯度の気圧が平年より高くなる。この時は北極から中緯度への寒気の流れ込みが弱まり、暖冬になることが多いとされる。逆に、指数が負の場合は、北極の方が気圧が高くなり、中緯度の方に寒気が流れ込んで寒い冬になるといわれる。北極振動の周期は複雑で、数週間から数十年程度のさまざまな周期の振動が重ね合わさっていると考えられていて、近年は数年から10年程度の周期の変動が顕著に見られるようだ。

今回は、北極振動指数が負に振れた状態になり、ジェット気流が米中西部あたりまで大きく蛇行して、北米の広い範囲に大寒波をもたらした、ということのようだ。しかし、この原因はまだよく分かっていないようだ。最近は地球温暖化の影響で、夏には北極の氷が解けて海氷面積がだんだん小さくなってきていて、何年後かには北極の氷が完全になくなってしまうと危惧されている。この現象と今回の大寒波は一見矛盾しているように見えるが、温暖化によって気象変動がより大きくなって、激しい気象現象をもたらされるともいわれている。


日本付近のジェット気流の蛇行
日本でも今週この冬一番の寒気が押し寄せているけど、原因は同じで、ジェット気流が大きく蛇行してシベリア方面から強い寒気が流れ込んできたのだ。

それにしても、TVのニュース映像などを見ていると、湖 (ミシガン湖) が凍りつき、火事の消火活動で水浸しになった家が凍り、それからナイアガラの滝も凍っていた。こういう映像を見ていたら、僕は10年位前 (かな?) の映画 「The Day After Tomorrow」 を思い出してしまった。今のアメリカにはまさにこの映画を彷彿させるような光景が広がっている。

ところで、TVのニュースではまるで笑い話のようなこんなニュースも伝えていた。
「刑務所を脱走した受刑者が、あまりの寒さに耐えきれず、刑務所に戻してほしいと出頭」
刑務所の方が暖かかったんだね。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3006102?pid=12891853
CNN ニュースの記事:http://www.cnn.co.jp/usa/35042172.html
NOAA (アメリカ海洋大気庁) の記事:
http://www.climate.gov/news-features/event-tracker/wobbly-polar-vortex-triggers-extreme-cold-air-outbreak