かがくのつまみ食い 2016

サイエンス関連のトピックスを集めてみました。このページは2016年に書いたトピックスです。

 

Date: 2016/12/14
Title: 誕生日のパラドックス
Category: 数学
Keywords: 同じ誕生日、確率、パラドックス


部屋の中に何人かいるとしよう。例えば、教室の中に生徒が40人。この中に同じ誕生日の人が少なくとも2人いる確率はどの位になるのか? これは意外と高い数字になる (よく知られていることだけど) 。

「なーんだ、これって、この前TVでたけしが言っていたことじゃないか」という人もいるかもしれない。
そのとーり!
これは「誕生日のパラドックス」と呼ばれているもので、「何人集まれば、その中に誕生日が同一の2人 (または以上) がいる確率が 50% を超えるか?」という問題からきたパラドックスだ。TVを見てから頭の片隅にずっと残っていたので、実際に計算してみようと思ったのだ。

まず前提条件として、1年は365日とし (閏年は考えない) 、誕生日がどれかの日になる確率は、いずれの場合も 1/365 とする。そして、366人集まればその中に必ず同じ誕生日の人がいるので、確率は 100% になる。そこで、部屋の中の人数 \(n\) は \(n \leqq 365\) の場合を考える。

具体的に計算していくと、
(1) 2人目が1人目と誕生日が異なっている確率は \(364/365\)
(2) 3人目が1人目と2人目と誕生日が異なっている確率は \(363/365\)
(3) 同様に4人目の場合の確率は \(362/365\)
…………
(4) そして、\(n\) 人目の場合の確率はどのようになるかというと、
\begin{align} \frac{365-(n-1)}{365} \end{align} となる。
したがって、\(n\) 人の誕生日がすべて異なる確率 \(P_1\) はこれらを全て掛け合わせて
\begin{align} P_1 & = \frac{364}{364} \cdot \frac{363}{365} \cdot \frac{362}{365} \cdot \, \cdots \, \cdot \frac{365-(n-1)}{365} \\ & = \frac{{}_{364}P_{n-1}}{365^{n-1}} \\ & = \frac{{}_{365}P_n}{365^n} \end{align} となる。
ここで、\({}_{365}P_n\) は365個の中から \(n\) 個を選んで並べる数のことで、順列と呼んでいるものだ。一般的に \(n\) 個の中か \(r\) 個を選んで並べる順列の計算は次の公式で与えられる。
\begin{align} {}_nP_r &= n(n-1)(n-2) \cdots (n-r-1) \\ &= \frac{n!}{(n-r)!} \end{align} これを当てはめると、確率 \(P_1\) は
\begin{align} P_1 = \frac{365!}{365^n (365-n)!} \end{align} となる。よって、\(n\) 人の中に同じ誕生日の人が少なくとも2人いる確率 \(P_2\) は、
\begin{align} P_2 &= 1 - P_1 \\ &= 1 - \frac{365!}{365^n(365-n)!} \end{align} この結果から人数100人までの確率をグラフにすると下図のようになる。

グラフから、23人で確率 \(P_2\) が 50% を超える (図の赤い線) 。40人学級の場合、確率は 89.1% とかなりの確率で同じ誕生日の人が少なくとも2人いることになる (図の水色の線) 。さらに、70人もいれば確率は 99.9% 以上 (図の緑の線) となり、同じ誕生日の2人組がほぼ確実にいることになるのだ。

直感的に考えると、この確率は大きく感じるかもしれない (それゆえ、「パラドックス」と呼ばれているのだが、決して矛盾しているわけではないのだ) 。それは、この確率はただ単に「同じ誕生日であるような二人組が存在する確率」を計算しているからだ。


次に「自分と同じ誕生日の人がいる確率」となると事情が違ってくる。
この場合は、自分以外の人同士の誕生日が同じであるということは考慮されないので、確率はぐっと低くなってしまう。具体的に計算すると、自分以外のn人一人一人が自分と誕生日が異なる確率は \(364/365\) なので、\(n\) 人全員が自分と誕生日が異なる確率 \(P_3\) は
\begin{align} P_3 = \left( \frac{364}{365} \right)^n \end{align} なので、\(n\) 人の中に自分と同じ誕生日の人がいる確率 \(P_4\) は、 \begin{align} P_4 &= 1 - P_3 \\ &= 1 - \left( \frac{364}{365} \right)^n \end{align} となる。\(n=23\) のとき \(P_4 = 0.06115 \cdots\)、つまり23人では確率 6% ちょっとと先ほどよりかなり低くなる。さらに、\(P_4\) が 0.5 を超えるのは \(n \geqq 253\)、つまり253人以上いなければ確率は 50% 以上にはならないのだ。

久しぶりにこんな計算をした。ふぅ~。

Date: 2016/10/19
Title: 太陽系に最も近い恒星系に「生命生存可能」な惑星発見か?
Category: 宇宙
Keywords: 太陽系に最も近い恒星系、ハビタブルゾーン、惑星、生命存在の可能性


ナショナルジオグラフィックと AFPBB News をチェックしていて、興味深い記事を見つけた。
それは、「太陽系に最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリの周りで地球型惑星が見つかった」という記事だ。

まずは、プロキシマ・ケンタウリについて。
太陽系に最も近い恒星系といえば、ケンタウルス座α星 (アルファ・ケンタウリ:Alpha Centauri) が知られている。太陽系からの距離は4.39光年だ。このケンタウルス座α星は実は1つの星ではなく、3個の恒星からなる三重連星なのだ。主星はケンタウルス座α星A (Alpha Centauri A) と呼ばれる、太陽よりやや大きい (半径は太陽の約1.3倍、質量は太陽の約1.1倍) 太陽に似た黄色の主系列星だ。次に、第1伴星はケンタウルス座α星B (Alpha Centauri B) と呼ばれる、太陽よりやや小さい (半径、質量ともに太陽の約0.9倍) 橙色の主系列星だ。
さらに、A星とB星のペアから0.2光年離れたところに、プロキシマ・ケンタウリ (Proxima Centauri) と呼ばれる第3の星 (第2伴星) がある。太陽系からの距離は4.24光年で、太陽系に最も近い恒星として知られている。この星はA星、B星と比べてかなり小さく (質量、半径ともに太陽の1/7ほど) 、赤色矮星に分類される。表面温度も 3000 K 程度で、太陽 (5800 K) に比べるとかなり低い。

この太陽系と目と鼻の先ほどの距離にある恒星プロキシマ・ケンタウリの周りで、地球ほどの大きさの惑星が発見されたという。名前はプロキシマb (Proxima b) 。記事によると、この惑星は、公転軌道の大きさから推測される温度は、表面に液体の水が存在できる程の暖かさだという。

プロキシマbを発見したのは「ペール・レッド・ドット (Pale Red Dot: 淡い赤色の点) 」プロジェクトと呼ばれる研究チームだ。この名前は、米国の天文学者でSF作家でもあったカール・セーガン (Carl Edward Sagan, 1934 – 1996) が、はるか彼方から見た地球を「ペール・ブルー・ドット (Pale Blue Dot: 淡い青色の点) 」と呼んだのにあやかったものだという。

それでは、プロキシマ・ケンタウリの周りを惑星プロキシマbがまわっていることを、研究チームはどうやって確認したのか?

彼らは惑星があることを確認するために万全を期したようだ。
というのも、ケンタウルス座α星に惑星が発見されたという報告はこれが初めてではない。2012年にB星の周りに地球程度の質量を持つ惑星があるかもしれないという発表があった。しかし、この発表は十分な観測が行われないうちに先走って行われたもので、後に惑星の存在は否定されてしまったのだ。研究チームとしては、このような「ヘマ」をやるわけにはいかなかったのだ。

研究チームは計54日間にわたって収集されたデータに基づいてプロキシマbの存在を確認した。
2000年から2014年にかけて散発的に行なわれた観測から、プロキシマbの周りを約11日の周期で公転する惑星の存在が示唆されていたが、信号が不明瞭で、このときは「惑星」と断定するには至らなかった。そこで研究チームは、2016年初めに南米チリにあるヨーロッパ南天文台 (European Southern Observatory:ESO) の高精度視線速度系外惑星探査装置 (High Accuracy Radial Velocity Planet Searcher: HARPS) を使って、主星プロキシマのふらつきを観測した。
惑星が主星の周りを公転すると、重力によって主星がわずかに引っ張られてふらつくが、惑星の大きさが小さくなると、惑星が主星を引っ張る力も弱くなるためふらつきの程度も小さくなり、高感度の測定装置で長期にわたって観測しなければならない。研究チームは辛抱強く観測を行ない、データを蓄積していった。そして、ついに惑星と認められると結論づけられる結果を得たのだ。

観測データから、プロキシマbの質量は地球の1.3倍、公転周期は11.2日で、主星からは約 700万 km しか離れていないことがわかった。この距離は、太陽と地球の間の距離 (約1億5000万 km) に比べると約1/21とあまりにも近い。
しかし、主星からの距離があまりにも近いからといって、そこがハビタブル・ゾーン (Habitable Zone:生命居住可能領域、ゴルディロックス・ゾーン (Goldilocks Zone) とも呼ばれる) から外れていると考えるのは早計だ (主星から惑星までの距離が 700万 km というのは、太陽と水星の間の距離 (平均で約 5800万 km) に比べてはるかに近いので、距離だけを考えれば、そこは灼熱の世界と考えたくなるけど…) 。というのも、主星プロキシマ・ケンタウリは赤色矮星で、表面温度は 3000 K と太陽 (表面温度は 5800 K) よりかなり低い。そのため、新発見の惑星プロキシマbの表面温度は、水が蒸発するほど高温ではなく、氷結するほど低温でもなく、液体の水が存在できるハビタブル・ゾーンにあるという。ただし、ハビタブル・ゾーンにあるからといって、必ずしも生命が居住できる環境であるとは限らない。

そもそも主星のプロキシマ・ケンタウリは太陽と似ている点が全然ない (しいてあげれば年齢くらいだ。プロキシマ・ケンタウリの年齢約48.5億年に対して、太陽の年齢は約46億年だ) 。質量は太陽の 12% 程だが、磁場の強さは太陽の600倍もあり、そのためプロキシマの表面では巨大なフレアが発生しているという。さらに、太陽に匹敵するほどのX線も放出していて、太陽より弱いものの、大きさが小さい分、相対的に強い恒星風 (太陽の場合は太陽風という) も吹いているという。そのため、すぐ近くをまわっているプロキシマbには高エネルギー粒子が降り注いでいると考えられる。仮にプロキシマbに大気があったとしても、これらによってはぎ取られているかもしれない。そうすると、強力な放射線が地表に直接降り注いでいる可能性もある。
これらを考え合わせると、プロキシマbは生命が存在するにはあまりにも過酷な環境と考えられ、生命が存在する可能性は限りなく低いのではないかと思われる。

ただ、AFPBB News の別の記事では、フランス国立科学研究センター (Centre national de la recherche scientifique:CNRS) などの研究チームの研究によると、プロキシマbの表面が海で覆われている可能性があるという。
彼らはシミュレーションに基づいてプロキシマbの大きさと表面特性を算出した。計算の結果、プロキシマbの半径は地球の半径の0.94~1.4倍 (地球の平均の半径は 6371 km なので、5990~8920 km) の範囲にあることがわかったという。
最小と最大のそれぞれの場合について見ていくと、まず、半径が最小値の 5990 km の場合、プロキシマbは
・非常に高密度で、質量の2/3を占める金属のコアが岩石のマントルに覆われている。
・表面に水があるとしても、質量への寄与は 0.05% を超えない (地球の場合は 0.02% で、これに近い) 。
と考えられる。
一方、半径が最大値の 8920 km の場合、
・プロキシマbの質量は、岩石質の中心部とそれを覆う水とで半々の割合になっている。
と想定される。CNRSによると「この場合、プロキシマbは深さが 200 km に及ぶ液体の海で覆われていると考えられる」という。
そしてどちらの場合も、地球のように希薄なガス状の大気が惑星を取り巻いていて、潜在的に生命の生存が可能な状態になっている可能性があるという。

プロキシマ・ケンタウリのハビタブル・ゾーンに位置していると考えられる惑星プロキシマbは、本当に生命が生存できる環境なのか、はたまた、生命が生存するには過酷な環境なのかは、今のところわからない。
しかし、太陽系と目と鼻の先ほどの距離にあるプロキシマbは、いずれは探査機が送り込まれるかもしれない。その時には本当の姿が明らかになる (相当先の話になるだろうし、実現の可能性もわからないが) 。

関連記事はこちら。
ナショナル・ジオグラフィックの記事:http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/082600316/
AFPBB News の記事 (その1):http://www.afpbb.com/articles/-/3098634
AFPBB News の記事 (その2):http://www.afpbb.com/articles/-/3103547
Nature の記事:http://www.nature.com/news/earth-sized-planet-around-nearby-star-is-astronomy-dream-come-true-1.20445

Date: 2016/09/14
Title: ハァ~とフゥー 科学的に考えると
Category: 物理
Keywords: 息、温度、風速、ベルヌーイの定理


大分前の文庫本を見つけて読み直していたら、面白いエッセイを見つけた。
それは、口の前に手をかざして、ハァ~と息を吹きかけると暖かいのに、フゥーっと息を吹きかけると冷たいのはなぜか?ということについて書かれたものだ。

これは次のような理屈によるものだ。
まず、ハァ~と息を吹きかける場合、口を大きく開けてゆっくり吹きかけるので、口の中の体温で温められた空気がそのまま吐き出されて手に当たるので、暖かく感じるのだ。ただし、この場合、風速が大きくないので、口の近くに手をかざさないと暖かさは感じない。
これに対して、フゥーっと息を吹きかける場合は、鍵となるのは空気の速度だ。この場合、口をすぼめて速い速度で息を吹きかけるが、速い速度の空気の流れがあると、その周りの冷たい空気を巻き込むので、その冷たい空気が手に当たるため、冷たく感じるのだ。

これはベルヌーイの定理で説明することができる。
速い速度の空気の流れがあると、その部分の気圧が下がるが、周りの空気は1気圧のままだ。空気は気圧の高い方から低い方へ流れるので、速い空気の流れの方に、周りの空気が流れてくるからだ。同じようにフゥーっと息を吹きかけても、手を口の近くにかざしたときより、少し離した方が幾分冷たく感じるのは、離した方がより多くの空気を巻き込むからだ。

ところで、フゥーっと息を吹きかける場合、口をすぼめるため、口の中の気圧が高くなり、その高い気圧の空気が吐き出された時、(周りから熱エネルギーをもらうヒマがないほど) 急激に膨張するので空気の温度が下がる。これを断熱膨張というのだけれど、これによって吐きかけた空気が冷たく感じるという説明もできなくはないが、実際のところは、これによる温度低下は 0.01℃ 以下という計算結果もあるようで (ネットでそんな数字を見かけただけだけど) 効果は小さいようだ。
また、風速を上げれば体感温度は下がるが、それは風速 1 m/s あたり 1℃ 低下する程度で、ふつうにフゥーっと息を吹きかけるときの風速は 1 m/s もないので、これによる体感温度の低下は小さいと考えていい。
結局のところ、周りの冷たい空気が巻き込まれることの効果が一番大きいと考えていいとということになる。

とまぁ、ハァ~と息を吹きかけるのと、フゥーっと息を吹きかけるというたわいのないことでも、そこには科学的な話が詰まっているのだ。

Date: 2016/08/21
Title: 近赤外線を利用した新たながん治療法の研究
Category: 医学
Keywords: 近赤外線、がん治療法、免疫機能、活性化


ネットのニュースで気になるニュースを目にした (この話題はTVのニュースでもやっていた) 。それは、
「<がん光治療>転移に効果 免疫機能を活性化」
というニュースだ。

がん細胞を免疫の攻撃から守っている仕組みを壊すことで、がんを治す動物実験に成功したという。発表したのは米国立衛生研究所 (NIH) の主任研究員・小林隆久氏らの研究チームだ。

そもそもがん細胞が増殖を続けるのは、がん細胞のまわりに「制御性T細胞」という細胞が集まって、がん細胞を攻撃する免疫細胞の活動にブレーキをかけてがん細胞を守っているからだという。

研究チームが行った実験の仕組みはこうだ。
制御性T細胞に結びつく性質を持つ抗体に、特定の波長の近赤外線を当てると化学反応を起こす物質をつけ、ガンを発生させたマウスに注射する。その後、体外から近赤外線を照射すると、化学反応を起こした物質によって制御性T細胞が破壊される。そうすると、免疫細胞のブレーキが外れてがん細胞を攻撃し始める。免疫細胞の一部は血流に乗って遠くに転移したがん細胞を攻撃する。そうして身体中のがんが消えるという理屈だ。

実験では、肺がんや大腸がん、甲状腺がんをそれぞれ発症させた計70匹のマウスに、この化学物質を注射して、体外から近赤外線を照射。すると、ほぼ1日ですべてのマウスからがんが消えたという。これは、光を当ててから約10分後には制御性T細胞が大幅に減って、免疫細胞である「リンパ球」のブレーキが外れて、がん細胞への攻撃が始まったとみられている。

また、1匹のマウスに同じ種類のがんを同時に4ヶ所に発症させて、そのうち1ヶ所に近赤外線を当てたところ、この1ヶ所だけでなく、すべてのがんが消えたという。光を当てた場所で攻撃力を得たリンパ球が血流に乗って全身を巡って、他の場所のがんを攻撃したと考えられているのだ。

免疫機能を利用した治療では、生体内の免疫機能が活発になると、自らの組織や臓器を攻撃する「自己免疫反応」が起こって副作用が発生する恐れがあるし、実際にそのような報告がなされている。しかし、今回の実験では、光を当てたがん細胞だけが小さくなり、臓器には異常はなかったという。つまり、光を当てたことでがんを攻撃するリンパ球の「ブレーキ」だけが外れ、他の組織や臓器は攻撃しないことが確認されたのだ。

この研究結果はがんの治療に画期的な効果をもたらすと考えられる。今はまだ動物実験の段階だが、いずれ患者への臨床試験も始まるのだろう。臨床試験で明らかに効果が認められれば、がんに苦しんでいる患者にとって光明が差したようなものだし、がん撲滅への大きな一歩になると思う。
この研究の今後の進展に期待したい。

関連記事はこちら。
毎日新聞 (電子版) の元記事:http://mainichi.jp/articles/20160818/k00/00m/040/194000c

Date: 2016/08/12
Title: 運動とアルコールの親密すぎる関係
Category: 脳科学
Keywords: 運動、アルコール、脳


Newsweek を読んでいたら、面白い記事に出くわした。それは、
「運動とアルコールの親密すぎる関係」
という記事だ。

運動をした後は、喉が渇いてビールでも一杯飲みたくなるという人も多いだろう。僕も運動をして一汗かいた後は、やはり無性にビールを飲みたくなるのだ (もっとも、そのあと車を運転する予定があるときは我慢するかノンアルコールビールにするけど) 。普段お酒を飲まない人は、何もビールじゃなくて、水やスポーツドリンクでいいじゃないかと思われるかもしれない。確かにそれでも運動をした後の喉の渇きは癒されるけど、ビール好きの人間にとっては、やっぱり一汗かいたあとの冷たいビールは格別のものがあるのだ。

しかし、健康のために運動をするということと酒を飲むことは、相反することのように思える。だが、最新の研究では、運動の後で酒を飲みたくなるのは、脳が報酬を求める仕組みと関係があるかもしれないという。

米ペンシルバニア州立大学の研究チームが、18~89歳の男女150人を対象に、運動とアルコール消費について行った調査によると、運動と飲酒の関係には特徴的なパターンが見られたという。そのパターンとは、「普段より多く体を動かした日は、普段より多く飲酒する」というものだそうだ。

また、別の研究チームが行った、脳の活動領域に注目した研究によると、マウスとラットを使った実験から、運動と飲酒のどちらも報酬に関連する脳の領域を活性化させることが分かったという。激しい運動をしたマウスやラットは、エタノールを盛んにすするのだそうだ。エタノールとはアルコールの一種で、エチルアルコールともいわれ、酒類の主成分でもあるものだ (飲料用だけでなく、殺菌・消毒や燃料などにも使われている) 。つまり、マウスやラットがエタノールをすするというのは、彼らにとって酒を飲んでいるようなものだ。ただし、運動とアルコール消費が脳に報酬をもたらすプロセスは、それぞれ別の回路を活性化させて処理されていたそうだ。そこで研究者は運動とアルコール消費のどちらかが報酬の回路を活性化させてハイになると、両方の行為を促すのではないかと考えたようだ。

人間の場合は、運動をして高揚感を味わうと、その感覚をさらに高めて長続きさせるために、脳が無意識にある行動を求めているのかもしれない。それが、冷えたビールに手が伸びるということなんだろう。

「『運動した後にご褒美のビール!』には科学的根拠がある、のかもしれない」と記事は結んでいる。

Date: 2016/07/26
Title: 世界最高感度でも暗黒物質検出できず
Category: 宇宙
Keywords: 暗黒物質、大型地下キセノン実験


日経電子版をチェックしていたら次の記事に出くわした。それは、
「世界最高感度でも暗黒物質検出できず 欧米チーム」
という記事だ。

宇宙にある目に見える物質よりはるかに多く存在するといわれながら、未だに見つかっていない謎の物質「暗黒物質」をなんとか検出しようという試みが世界のいくつかの研究機関でなされているが、そのうち欧米の大学で進められている「大型地下キセノン実験 (LUX: The Large Undergroud Xenon experiment) 」の研究チームは、2014年から2016年にかけて行われた20ヶ月にわたる観測実験で「暗黒物質は検出されなかった」と発表したというちょっと残念な記事だ。

まずは暗黒物質について簡単な説明を。
宇宙にある銀河と銀河の間には重力が働いているけど、銀河団の近くにある銀河の運動から銀河団の全質量を見積もると、光学的な観測から見積もられる質量よりはるかに大きいことがわかった。また、その他の観測からも、同じように光学的に観測される物質よりはるかの大きな質量を持つ物質の存在がだんだんと明らかになってきた。これらのことから、宇宙には「光では見えないけれど質量は持つ未知の物質」があると考えられるようになってきて、その見えない物質を「暗黒物質 (dark matter) 」と呼んでいるのだ。

暗黒物質の正体は今もってわからないのだが、暗黒物質の候補として、素粒子物理学と天体物理学のそれぞれの立場から様々なアイデアが出されていて、素粒子物理学側からのひとつのアイデアとして「暗黒物質には超対称性粒子が含まれている」というのがある。スイスのジュネーヴ近郊にある欧州原子核研究機構 (CERN) では、大型ハドロン衝突型加速器 (LHC) の第2期実験でも、超対称性粒子の探索実験が計画されていて、もし超対称性粒子が見つかれば、それをもとに暗黒物質の正体について手がかりが得られるかもしれないと期待されているのだ。

次に、大型地下キセノン実験とはどういうものなのか?
この実験施設は米国サウスダコタ州の地下1マイル (約 1500 m) にあるサンフォード地下研究施設 (The Sanford Underground Research Facility: SURF) と呼ばれる施設で、大型の水槽に 370 kg もの超高純度の液体キセノンを満たして、水槽中に飛び込んできた暗黒物質 (WIMP と呼ばれるが暗黒物質の候補とされる粒子) がキセノン原子と衝突した時に発するシンチレーション光を捉えようというものだ。
WIMP は通常の物質とは非常に稀にしか相互作用しないと考えられていて (言いかえれば、WIMP とキセノンの衝突は稀にしか起きない現象) 、発する光も非常に微弱だと予想されている。そのため、地上では WIMP との衝突による信号が宇宙線によるノイズの中に埋もれてしまうため、それを避け得るため地下深くに設置されているのだ。

LUX 以外では、先に述べた CERN の LHC での超対称性粒子探索実験のほか、日本の東大宇宙線研究所では、神岡鉱山跡地にある地下実験施設で XMASS と呼ばれる実験で、LUX と同様に液体キセノンを使って暗黒物質の検出実験が続けられていて、暗黒物質検出にしのぎを削っているのだ。

LUX の検出器の感度は現時点で世界最高といわれていて、暗黒物質発見の期待が高まっていたけれど、今回の実験では「検出できず」という残念な結果になったようだ。しかし、研究チームは感度を70倍にまで高め、2020年頃から再挑戦するという。

5年後位にはいい話が聞けるかもしれないのかな?
その間にライバルの研究チームに先を越されなければいいけれど…。日本人としては XMASS に期待したいが (重力波の初検出で米国の LIGO に先を越されてしまったので) 。

関連記事、サイトはこちら。
日経電子版の記事:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG22H17_S6A720C1000000/?n_cid=NMAIL001
LUX 公式サイト:http://luxdarkmatter.org/
PHYS.ORG の記事:http://phys.org/news/2016-07-world-sensitive-dark-detector.html
東大宇宙線研究所の XMASS 公式サイト:http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/xmass/index.html

Date: 2016/07/04
Title: アルマ望遠鏡が観測史上最遠方の酸素を捉えた
Category: 宇宙
Keywords: アルマ望遠鏡、銀河 SXDF-NB1006-2、宇宙再電離、電離酸素ガス


国立天文台からのメールマガジンで、興味深いニュース記事が載っていた。それは、
「アルマ望遠鏡が、観測史上最遠方の酸素を捉えた」
という記事だ。

メールの記事よると、大阪産業大学、東京大学、国立天文台の研究者をはじめとする研究チームは、アルマ望遠鏡を使って、地球から約131億光年かなたの銀河「SXDF-NB1006-2」に電離した酸素ガスがあることをつきとめたという。これは観測史上最も遠い距離にある (言い換えれば、最も古い時代) の酸素を検出したということで、宇宙の初期 (宇宙誕生から数億年から遅くとも10億年程度) に起こった「宇宙再電離」の頃の酸素を捉えたと考えられていて、その頃の宇宙で何が起こったのかを解明する手がかりになると考えられているのだ。

まずは、宇宙の初期に何が起こったのかザックリ見ていってみよう。
今から約138億年前、宇宙はビッグバンによって誕生した。その頃の宇宙は非常に高温で、陽子と電子がバラバラに存在する「電離」したプラズマ状態にあった。その後宇宙が膨張するにつれて温度が下がっていき、陽子と電子が結合した「水素原子」がつくられた。これによって光は陽子や電子に邪魔されることなく直進できるようになった。これが「宇宙の晴れ上がり」だ (宇宙の初期に作られた元素は、水素だけでなくヘリウムもつくられ、さらにはわずかながらリチウムもつくられた) 。そして、数億年が経過するうちに水素やヘリウムガスが互いの重力によって凝縮していって星が形成された。その星が放つ強烈な紫外線によって、宇宙空間に漂っている水素ガスが再び電離されるようになったのだ。これが「宇宙再電離」と言われる出来事だ。この宇宙の再電離は宇宙空間の物質の状態が一変した一大イベントなんだが、どんな天体が宇宙再電離を引き起こしたのかは明らかになっていないようで、これは宇宙初期に残されたミステリーの一つなのだ。

次に研究チームはどの元素が放つ光を狙うべきかを検討したそうだ。最初は炭素が候補にあがったようだが、「宇宙再電離」が起こった130億年前の宇宙にある銀河には、炭素からの光は検出できないほど弱いことがわかったそうだ。次に狙いを定めたのは酸素だ。というのも、宇宙初期の若い銀河に似た環境をもつ大マゼラン雲の星形成領域では、酸素の光がとても強いからだという。さらにコンピューターシミュレーションによって、宇宙再初期の銀河からの電離した酸素の光の強さを予想してみたところ、アルマ望遠鏡で簡単に検出できるほど強いことも確認されたそうだ。


すばる望遠鏡で発見された SXDF-NB1006-2 の画像
[Credit:国立天文台]
そこで研究チームは、くじら座の方向の約131億光年の距離にある銀河「SXDF-NB1006-2」を観測ターゲットに選んだ。この銀河はすばる望遠鏡で2012年に発見された銀河で、米国のケック望遠鏡でもその当時観測史上最遠の場所にある銀河であることが確認されていた銀河だ。そして2015年6月にアルマ望遠鏡を使った観測が行われ、「SXDF-NB1006-2」から電離した酸素からの光を検出することに成功したのだ。これは人類が目にした最も遠いところにある酸素からの光であり、宇宙誕生後7億年という最初期の宇宙に酸素が存在したことを証明しているのだ。

さらに、その光の強さから水素に対する酸素の存在比率を計算した結果、太陽における比率の10分の1程度 (質量割合で 0.05%) であることがわかったという。これは宇宙初期なので恒星の中心部で起こっている核融合反応での元素合成で、酸素が十分作られていない頃のことなので、太陽より少ないのは当然の結果といえる。しかし想定外のこともあったようで、それは「塵」が少なかったことだ。塵の材料となる重元素は現在の宇宙の10分の1程度あるにもかかわらず、塵はそれ以上に少なかったという。


SXDF-NB1006-2 の想像図
[Credit:国立天文台]
今回検出された光は、電子が2個剥ぎ取られた酸素からのものだというが、酸素原子から電子を2個剥ぎ取るには大きなエネルギーを持った強烈な光が必要だ。このような酸素が存在するということは、太陽の数十倍の質量を持つ巨大な星が多数存在することを示しているという。さらにそこから放たれた強烈な光が銀河の外にまで達して、広範囲のガスを再電離させたと推測されている。

今回の観測結果は研究の第一歩に過ぎず、今後、アルマ望遠鏡を用いた観測で、どのような性質を持った銀河が宇宙の再電離をもたらしたのかを解明する手がかりが得られるかもしれないと期待されているそうだ。今後の研究結果の発表に期待しよう。


関連記事はこちら。
国立天文台のプレスリリース:
http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/news/pressrelease/201606177957.html



アルマ望遠鏡山頂施設空撮写真
[Credit: Clem & Adri Bacri-Normier
(wingsforscience.com)/ESO]
[アルマ望遠鏡について]
アルマ望遠鏡とは、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計 (Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA) と呼ばれる、パラボラアンテナを66台を組み合わせる干渉計方式の巨大な電波望遠鏡で、ヨーロッパ南天天文台 (ESO) 、米国立科学財団 (NSF) 、日本の自然科学研究機構 (NINS) がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設なのだ。

ところで、アルマ望遠鏡の「アルマ」って「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」の英語の頭文字のことで、「あれま」とか「アロマ」ではないのだ。なんだかテレ朝の朝の情報番組「グッド!モーニング」の林先生の言葉検定の「緑のボケ」みたいだけど…。

Date: 2016/05/28
Title: とんびに油揚をさらわれる - とんびが餌を見つけるのは 視覚?嗅覚?
Category: 生物
Keywords: 寺田寅彦、とんび、油揚げ、視覚、嗅覚


溜まっている国立科学博物館からのメールマガジンをチェエクしていたら、面白い記事を見つけた。
その記事は、明治の終わり頃からから昭和初期にかけて活躍した物理学者で随筆家でもある寺田寅彦の随筆「とんびと油揚」を題材にしたものだ。それによると、

俗に「とんびに油揚をさらわれる」というけど、実際にそんなことが起こるのかはわからない。しかし、とんび (学名はトビ) は高空からネズミの死骸などを見つけてまっしぐらに飛び降りてくるというのは本当らしい。これは視覚によってネズミの死骸を判別しているのではなく、嗅覚によって判別しているという説を寺田はこの随筆で展開している。その根拠となっているのは、例えば 150 m の上空から体長 15 cm のネズミの死骸を見ると、とんびの網膜映るネズミの像は 5 μm 程度にしかならないので、死んだネズミなのか石塊なのかを判別するのは困難だと述べている。

では視覚ではないなら嗅覚が問題になるが、寺田はダーウィンや他の学者が行った鳥の嗅覚が鈍いことを証明する実験の不備について指摘している。そこでもう一度嗅覚説について考え直している。そして、鳥が上空を滑翔する時に利用している上昇気流によって、ネズミの死骸から発せられる臭気を含んだ空気の流線束がトビのいる上空まで達し得ると結論づけている。ただ、最後にこうも記して鳥類学者に問いかけている。

「もし一度とんびの嗅覚あるいはその代用となる感官の存在を仮定しさえすれば、すべての問題はかなり明白に解決するが、どうしてもこの仮定が許されないとすると、すべてが神秘の霧に包まれてしまうような気がする。 これに関する鳥類学者の教えをこいたいと思っている次第である。」

では、実際のところはどうなのかというと、現在では次のように説明されている。
(1) トビに限らず鳥類の嗅覚はヒトより鈍感である。
(2) 高速で飛行する鳥類はヒトより優れた視力を持っていて、特にトビなどの猛禽類は非常に優れているといわれている。実際、タカなどはヒトの約7.5倍もの視細胞を持っているという報告もあるようで、これはヒトよりはるかに高解像度の映像を見ていることになる。

これらのことから、トビは嗅覚ではなく視覚でエサを探しているということになる。結果的には寺田の仮説は間違っていたが、鳥類の研究がまだそれほど進んでいなかった当時 (1930年代) の状況を考えれば、これは仕方のないことだったのかもしれない。

次に、俗に「とんびに油揚をさらわれる」と言われるけど、トビは本当に油揚を食べるのか?ということだが、トビの食性については次のように説明されている。
日本で見られる猛禽類のうち、最も身近に見られるトビは、郊外に生息する個体は、主に動物の死骸や、カエル、トカゲ、ヘビ、魚などを捕食しているので、肉食性と考えられていた。しかし、都市部に生息する個体はゴミを漁って生ごみを食べたり、さらには公園で弁当やハンバーガーをさらわれる被害の報告もあり、現在では雑食性の可能性が高いと考えられているようだ。

ということは、油揚が好物なのかどうかは別にして、雑食性なので油揚も食べる可能性は高いということだ。昔の人もトビから油揚をさらわれたことがあって、その経験から「とんびに油揚をさらわれる」という言葉が生まれたのかな?

Date: 2016/05/06
Title: 人間活動の痕跡が残されている地衣類標本
Category: 生物
Keywords: 地衣類、標本、人間活動、痕跡、アントロポシーン


連休中に溜まっていたメールをチェックしていたら、国立科学博物館からのメールマガジンで興味深い記事が載っていた。それは、
「人間活動の痕跡が残されている博物館の地衣類標本」
というエッセイだ。

地球の歴史を考えると、人間の活動が自然環境に大きな影響を及ぼしていて、地層にもその痕跡が数百万年後でも残されているという。このことから、最近では人間が影響を及ぼした地質年代を区別して、「アントロポシーン (人新世) 」を定義しようという議論がなされているそうだ。それによると、アントロポシーンの始まりは、産業革命が始まった20世紀 (記事では20世紀となっているが、産業革命の始まりは18世紀半ばでは?単なる書き間違い?) や、人口が急増し核兵器が開発された20世紀半ば、などとする意見があるそうだ。

アントロポシーン?
初めて聞く言葉だが、これからは人間の活動の影響が地球規模で痕跡を残し、それが何百万年後の地層でも確認できるということを意識していかなければならないということのようだ。また、地層への影響だけでなく、人間活動が自然環境に及ぼした影響の痕跡が、博物館に保管されている地衣類標本にも残されているそうだ。

まずは、地衣類についてザックリ復習しておこう (僕は生物学は専門外なので) 。
地衣類というのは、菌類の仲間のうち、必ず藻類と共生しているもののことをいう。コケ類と混同されることが多いようだが、菌類の仲間だ。藻類と共生することで”地衣体”という特殊な体を作って、菌類は藻類に安定した住み家と水分を与え、代わりに藻類は光合成で作った栄養分 (炭水化物) を分け与えてるというように、お互いに助け合って生きているそうだ。また、地衣体の形態や、生理機能、分布などは単独の生物と同じように遺伝し、あたかも独立した生物のように見えるという。

地衣類は世界中に広く分布し、3万~5万種が存在すると見積もられていて、日本では約1200種が知られているそうだ。生育環境は、コケとよく間違われることから、コケと共通するものも多く、地表や岩の上、樹皮上に生育するものが多いようだが、都会ではコンクリートの表面に出るものもあり、僕らの身近に普通に生育している。さらに、極地などの寒冷な地域や、火山周辺の有毒ガスが出る地域など、他の植物が生育できないような厳しい自然環境でも生育するそうだ。しかし、その一方で、大気汚染や環境の変化に弱い種類が多く、大都市の周辺からは姿を消しつつあるそうだ。

これを踏まえて、エッセイの内容に戻ると、地衣類は大気汚染に対して敏感に反応することが知られていて、汚染が進むと衰退していくが、逆に汚染が改善されると個体や多様性が回復するという性質を持っているそうだ。このことから、ある地域で過去に採取された標本を調べると、現在の大気汚染の悪化や回復状況を推定できるという。また、地衣類には重金属や放射性物質を蓄積する性質があり、核実験による放射性降下物が日本で最も多かった1963年の翌年に採取された標本からは、今でも放射性物質が検出されるそうだ。さらに2011年の福島第一原子力発電所の事故の際には、事故前後に採取された標本を比較して、放射性物質による汚染の状況の把握も行われているという。

なるほど。一見地味な地衣類だけど、環境に敏感な性質を利用することで、環境汚染状況の把握に一役買っているということだな。

Date: 2016/03/30
Title: 初観測に成功した重力波は「初代星」が起源?
Category: 物理
Keywords: アインシュタイン、一般相対性理論、重力波、初観測、初代星、ブラックホール連星、合体


またまた重力波の話題だ。
日経電子版をチェックしていたら、次の記事を見つけた。
『重力波のもとは「初代星」 ブラックホール連星の謎』

先月中頃、アインシュタインの予言から100年を経て、米国の重力波観測施設 LIGO (新型レーザー干渉計重力波検出器) が重力波の直接観測に初めて成功したというニュースが駆け巡ったが、このとき検出された重力波は、約13億年前に起こった2つのブラックホールの合体によって発生したものといわれている。記事によると、その重力波の発生源として有力視されているのは、宇宙誕生から数億年後に誕生した第1世代の星「初代星」を起源とした2つのブラックホールからなる連星の合体によって生じたものだという。

ブラックホールは今から100年前にアインシュタインが一般相対性理論の帰結として予言していたものだが、これまで様々な天体観測によって間接的にその存在が確認されてきたが、決定的な証拠はまだなかった。それが今回の重力波の直接観測によって、ブラックホールの存在そのものが確認されたばかりか、ブラックホール連星の存在も裏付けられたのだ。しかも連星の存在だけでなく、連星の合体によってより大質量のブラックホールが形成される現場を捉えたことになるのだ。その連星の質量は、片方が太陽質量の36倍、もう片方が29倍だが、この値に研究者たちは驚いているという。

というのは、まず、現在知られているブラックホールには次の2種類がある。
(1) ブラックホールは太陽の30倍以上の質量をもった重い星が超新星爆発を起こして誕生すると考えられているが、ブラックホールの質量は重くても太陽質量の10倍程度と見積もられている。
(2) 一方、様々な研究結果から、我々の天の川銀河を含むほとんどの銀河の中心には、太陽質量の百万倍から数億倍以上にも達する超巨大質量のブラックホールが存在することも確実視されている。
しかし、それらの間にある太陽質量の10倍から百万倍の質量については、ブラックホールの空白地帯になっている。
そして、今回重力波が観測されたブラックホール連星の質量がそれぞれ太陽質量の29倍と36倍で、まさに空白地帯にあり、しかも連星という形で2つ同時に見つかったことは、星の進化の過程を考えるうえで、非常にインパクトのある出来事といえるものなのだ。

今回の重力波源と見られているブラックホール連星は「初代星」が起源だと考えられているが、初代星とは宇宙誕生から数億年後に生まれた第1世代の星のことで、初代星が誕生したころの宇宙には、元素はまだ水素とヘリウムしかなく、重い元素はまだ作られていない段階で、初代星には重い元素は含まれていない。より重い元素は初代星の中で核融合反応によって合成され、初代星が超新星爆発をしたときに宇宙空間にまき散らされたのだ。その後、それらまき散らされた物質を原料として第2世代以降の星が形成されていったと考えられているのだ。
そして初代星が一生を終えたなれの果てのブラックホールの質量が、従来考えられていた質量よりはるかに大きいということは、初代星はその後の世代の星よりはるかに重かった可能性が高い。質量がはるかに大きかったということは、初代星はその分寿命も短かったと考えられているのだ。

なるほど、なかなか興味深い話ですなぁ。今回の重力波が「本当に初代星起源のブラックホール連星によるものかどうかは、今後重力波を出す天体が続々と観測されてくれば、答えが出てくる」と記事は結んでいる。それに期待しよう。

ところで、YouTube に合体するブラックホール連星のイメージ映像が公開されていた。
こりです。


それから、日経サイエンスの5月号の特集記事は「重力波」のようだ。これもチェックしておかなければ (なんてことを書いているが、買ったはいいがまだ読んでないや・・・) 。

Date: 2016/03/19
Title: 体重の900倍の力に耐えられるゴキブリは叩き潰せるか?
Category: 物理
Keywords: ゴキブリ、力積、撃力、瞬間的な力


前回のトピックスに書いた「“嫌われ者”ゴキブリの驚異の能力に着目して、ゴキブリの身体構造を模したロボットの開発が行なわれている」という話の中で、開発者が行なった実験で、ゴキブリに体重の900倍もの力で押しつぶしても無傷だったということが出てきた。これについて、「でも、丸めた新聞紙で叩けばゴキブリは潰れるじゃないか」と思う人もいるかもしれない (先日、日曜お昼の某TV番組でも同じニュース記事が紹介されていて、この話が出ていた) 。

実験に使われたワモンゴキブリの体重はどの位かというと、ネットで調べたところ、体長 40~48 mm ほどで体重は 2~3 g 程のようだ。仮にゴキブリの体重を 3 g とすると、その900倍の力は 3×900=2700 g (2.7 kg) となる。これは水を一杯に入れた 500 mL のペットボトル 5.4 本分の重さに相当する力だ。ただし、この場合はゆっくりと力をかけていると思う。

しかし、丸めた新聞紙でゴキブリを叩く場合、叩いた瞬間にゴキブリに非常に大きな力が加わることになる (これを「撃力」という) 。丸めた新聞紙で叩いたらゴキブリが潰れたということは、瞬間的に少なくとも体重の900倍を超える力がかかったということだ。


そこで、例えば蠅たたきのようなもので叩いたときに、床にいるゴキブリにどの位の衝撃が加わるかざっくり計算してみよう (丸めた新聞紙ではなく蠅たたきにしたのは作図の都合のためです・・・) 。

右の図のように先端部分が質量 \(m\) の蠅たたきで、床にじっとしているゴキブリを叩く場合を考えてみよう (柄の部分の質量は考えない) 。蠅たたきを振り下ろすとき、実際には先端部分は孤を描いて振り下ろされるが、話を簡単にするため、高さ \(h\) から時間 \(t\) で直線的に振り下ろされるとする。

鉛直上方に \(z\) 軸をとったとき、蠅たたきで床を叩く直前の速度を \(v_1 = - v\) とする。叩いた直後は動かないので速度は \(v_2 = 0\) だ。このとき、蠅たたきの先端部分の運動量変化 \(\Delta p\) はその時先端部分にかかる力 \(F(t)\) と、力がかかっている時間 \(\Delta t = t_2 - t_1\) の積に等しい (これを力積というのだ) 。式で書くと、
\begin{align} \Delta p = mv_2 - mv_1 = \int_{t_1}^{t_2} F(t)dt \quad\quad\quad\quad (1) \end{align} となるが、左辺は
\begin{align} \Delta p = mv_2 - mv_1 =mv \end{align} となるので、式 (1) は
\begin{align} mv = \int_{t_1}^{t_2} F(t)dt \quad\quad\quad\quad (2) \end{align} となる。ここで、力 \(F(t)\) は非常に短い時間 \(\Delta t = t_2 - t_1\) の間だけ働く力で、この力を撃力というのだ。


右の図のようにインパクトの瞬間、蠅たたきには \(+z\) 方向に撃力 \(F\) が働くが、この反作用で床にいるゴキブリにも大きさは同じで逆向き (\(-z\) 方向) の力が働くので、ゴキブリが受ける撃力 \(F'\) は、
\begin{align} F' = - F \quad\quad\quad\quad (3) \end{align} となる。ところで、力積の式の右辺の積分は時間的に変化する力 \(F(t)\) が決まらないと計算できないので、\(\Delta t\) の間の平均の力を \(F_0\) とすると、
\begin{align} mv = F_0 \Delta t \end{align} となるので、力 \(F_0\) は、
\begin{align} F_0 = \frac{mv}{\Delta t} \quad\quad\quad\quad (4) \end{align} となるので、床にいるゴキブリに働く力は、
\begin{align} F' = -F_0 = -\frac{mv}{\Delta t} \quad\quad\quad\quad (5) \end{align} となる。マイナス符号は力が下向きに働くことを表しているので、以降は大きさだけを考えて計算することにしよう。

ここまで準備したところで、具体的な数値を当てはめてみよう。
蠅たたきの先端部分の質量を \(m = 100\,\rm{(g)} = 0.1\,\rm{(kg)}\) 、蠅たたきが振り下ろされる高さを \(h = 1\,\rm{(m)}\) 、振り下ろされる時間を \(t = 0.1\,\rm{(s)}\) とすると、蠅たたきで床を叩く直前の速度は \(v = h⁄t = 1⁄0.1 = 10\,\rm{(m⁄s)}\) となるので、撃力が働いている短い時間を仮に \(\Delta t = 0.05\,\rm{(s)}\) とすると、平均の力は、
\begin{align} F_0 = \frac{mv}{\Delta t} = \frac{\rm{0.1\,(kg) \times 10\,(m/s)}}{\rm{0.05\,(s)}} = \rm{20\, (N)} \end{align} となる。これを重力加速度 \(g = 9.8\,\rm{(m⁄s^2)}\) で割ると、撃力の大きさは \(2.0\,\rm{(kg)}\) となる。

ありゃ?ゴキブリの体重(3 (g) とする)の900倍の力(3 (g)×900 = 2700 (g) = 2.7 (kg))より小さいではないか!
でも大丈夫! (なんか、○○銀行カードローンのCMの台詞みたいだけど [1])
ここで考えている撃力 \(F_0\) は平均の力なので、瞬間的にはこれの2倍くらいの力がかかるのだ。


時間的に変化する撃力 \(F(t)\) として、例えば以下のような形を考えてみる (ただし、この仮定に根拠はなく、ただ計算がやり易いのでこの形を考えただけです) 。
\begin{align} F(t) = F_1 \cos^2{\omega t} \end{align} ここで、\(\omega\) 、\(F_1\) は定数で、そのうち \(F_1\) は力のピーク値を表している。
力がかかっている短い時間を
\begin{align} \Delta t = t_2 - t_1 = \pi/2\omega - (-\pi/2\omega) = \pi/\omega \end{align} とすると、式 (2) の右辺の力積は
\begin{align}\ \int_{-\pi/2\omega}^{\pi/2\omega} F_1\cos^2{\omega t}dt = \frac{\pi}{2\omega} F_1 \quad\quad\quad\quad (6) \end{align} となる。これが平均の力との力積 \(F_0 \Delta t\) と等しくなるので、
\begin{align} F_0 \cdot \frac{\pi}{\omega} = \frac{\pi}{2\omega} F_1 \end{align} したがって、
\begin{align} F_1 = 2F_0 \end{align} と、力のピーク値は平均の力の2倍となるので、ゴキブリには瞬間的に 4.0 (kg) (40 (N)) の力が加わることになる。

この力はゴキブリの体重の 1680 倍に相当するのだ。つまり、体重の 900 倍の力にも耐えられるゴキブリであっても、蠅たたきや丸めた新聞紙で叩き潰せるのだ。ただし、ふつうに「ポン」と叩いただけだと (v が小さくなり、Δt が大きくなる) 瞬間的にかかる力が体重の 900 倍に満たない場合があるので、ゴキブリを確実に仕留めるためには素早く「バシッ!」と叩かなくてはいけないのだ。

ところで、式 (6) の積分は以下を参考にしてください。

[式 (6) の積分]
\begin{align} \int_{-\pi/2\omega}^{\pi/2\omega} \cos^2{\omega t}dt &= 2\int_{0}^{\pi/2\omega} \cos^2{\omega t}dt = \int_{0}^{\pi/2\omega} (1 + \cos{2\omega t})dt \\ &= \left[ t + \frac{1}{2\omega} \sin{2\omega t} \right]_{0}^{\pi/2\omega} = \frac{\pi}{2\omega} \end{align} 三角関数の倍角の公式
\begin{align} \cos{2ax} &= \cos^2{ax} - \sin^2{ax} = 2\cos^2{ax} - 1 \\ \cos^2{ax} &= \frac{1 + \cos{2ax}}{2} \end{align} 三角関数の不定積分の公式
\begin{align} \int \cos^2{ax}dx = \frac{x}{2} + \frac{1}{4a} \sin{2ax} + C = \frac{x}{2} + \frac{1}{2a} \sin{ax}\cos{ax} + C \end{align}


[1] 女優の吉高由里子が出ている三井住友銀行カードローンのCM「卓球編」の、「口座がない」「口座がある」「口座がない」「口座がある」「口座が・・・ない」・・・「でも大丈夫」という例の台詞だ。
個人的には「ドミノ倒し編」の「口座が・・・なぁ~い!」と言っている方が気に入っているけど・・・。

Date: 2016/03/17
Title: 憎きゴキブリの驚異の能力に学べ
Category: 工学
Keywords: ゴキブリ、身体構造、ロボット


Newsweek を読んでいたらまたまたおもしろい記事に遭遇した。それは、
「憎きゴキブリの驚異の能力に学べ」
という記事だ。

みんなの嫌われ者のゴキブリ。台所の隅っこをチョコマカと這いまわっていたかと思うと、今度は居間に出没したりと、神出鬼没で何かと鬱陶しい存在だ。ひとたびゴキブリが現れれば「キャーっ!」と悲鳴をあげて逃げ回る人もいれば、新聞紙を丸めて叩き潰そうとする人もいる。しかし、ゴキブリは素早く逃げ回って狭い所に入り込んで新聞紙攻撃から身をかわしてしまう。何とか仕留めたと思っても、もう1匹出てきたりする。
俗にゴキブリを1匹見かけたら、家の中に100匹はいるといわれている。そうなると人は、台所の隅っこのゴキブリの通り道になりそうな所に「ゴキブリホイホイ」を仕掛けたりして、ゴキブリ退治に躍起になる。


しかし、“嫌われ者”ゴキブリの驚異の能力に着目して、ゴキブリの身体構造を模したロボットの開発が行なわれている。
研究しているのは米カリフォルニア大学バークレー校とハーバード大学ウィルス研究所の研究者だ。彼らは高さ 3 mm まで狭められる透明なプラスチック製のトンネルを製作し、その中にワモンゴキブリを放ってその様子を高感度カメラで撮影した。その結果、トンネルの高さを狭めると、ゴキブリは体の厚さを圧縮して自分の体高 (12 mm 程) の4分の1にまで平らになれることが分かったそうだ。
この実験で、ゴキブリに体重の 900 倍もの力で押しつぶしても無傷だったそうで、これはゴキブリの体を覆っている硬い外骨格が、柔軟な関節でつながれているためだという。これは人間でいえば、例えば体重 70 kg の人が 6.3 トンの力で押しつぶされているようなもので、ゴキブリは驚異的な体をしているといえる。
また、ゴキブリの素早い動きについてもその仕組みが分かったそうだ。ゴキブリは体高が半分になった時、脚を横方向に広げて、1秒間に体長の20倍もの速度で移動するという。これは人間でいうと時速約 110 km に相当するスピードだが、これはウサイン・ボルトが走るスピードの約3倍に相当する。これは凄すぎる。

研究者たちはこれらの結果をもとに、電池や電子装置、プラスチック板といった簡単に手に入る材料を使って手のひらサイズのロボット " CRAM " (関節機構を備えた圧縮型ロボット) を製作したという。このロボットは、高さは 7.5 cm ほどで、ゴキブリと同様に体高を半分日縮めて、横方向に脚を広げて移動することができるという。ロボットの製作費はわずか75ドル (日本円で8500円弱) で、大量生産すればコストはさらに下がると考えられる。
彼らはこのロボットについて、「低コストの探索・救助ロボットへの需要に応えることができるかもしれない」と期待を寄せているようだ。たしかにこのような柔軟な体をしたロボットであれば、瓦礫の中に入り込んで埋もれている人を探したりするのに役立ちそうだ。また、このような圧縮型ロボットは、体内検査用の医療デバイスとしても応用が可能と考えられている。

今はまだ開発が始まったばかりだけど、そのうち災害現場などでゴキブリのように壁をよじ登ったり、コソコソ這いまわるロボットが、人の探索や救助で活躍する姿が見られる日が来るのかな?
そうなれば、嫌われ者のゴキブリも少しは役に立ったと思えるようになるかな?

Date: 2016/03/07
Title: あなたの愛犬のIQ測ります
Category: 知能
Keywords: 犬、IQ測定


Newsweek を読んでいたらおもしろい記事に遭遇した。それは、
「あなたの愛犬のIQ測ります」
という記事だ。

犬は「人間の最良の友」といわれているけど、我が家の犬はいったいどれくらい賢いのだろうか気になる人もいるだろう。その疑問に応えるべく、最近では犬の IQ を測定する試みがなされているようだ。

研究に取り組んでいるのは、英ロンドン大学とエディンバラ大学の研究者チームで、彼らは英ウェールズの複数の牧場で飼われている牧羊犬のボーダーコリー68頭を対象に知能検査を行なったそうだ。今回、犬の知能を測るために、次のようなテストが行なわれたという。

(1) 2つの皿を並べて、より多くのエサが入った方を選ばせる。
(2) 迷路のような道を進ませて、障害物の先にあるご褒美にたどり着かせる。
など。

その結果はというと、人間と同じように犬の場合も、1つの課題を上手に解決できる犬は他の課題にもうまく対処できる傾向がみられるという。人間と犬の知能にこのような類似性があることが示されたのは今回が初めてだそうだ。さらに、犬が刺激に反応するまでの時間が短いほど、正しい答えを出す傾向があることも分かったそうだ。

一方、獣医や調教師など犬とかかわっている専門家の経験則によれば、一部の犬は他の犬よりもより迅速に課題を認識し、学習して問題を解決できるだろうと予測していた。そして今回の実験結果は彼らの経験則と合致していたそうだ。

研究チームによれば、犬の IQ 測定は、愛犬家の興味を満たすことだけでなく、遺伝子と知能の関連を解き明かす手掛かりになると考えられるという。というのは、人間の IQ の場合、飲酒や喫煙などの生活習慣や教育、収入といった社会的・経済的な要因に左右される可能性もあるが、犬の場合はそのような外的要因の影響を受けにくいと考えられるためだという。そして、犬も人間と同様に認知症を発症するため、犬の知能の解明が進めば、人間の認知症の研究にも役立てられる可能性もあるという。

なるほど。人間の知能や認知症の研究にも、犬の知能の研究が役立つ日が来るかもしれないというわけか。そういう意味でも「犬は人間の最良の友」というわけだ。

Date: 2016/02/27
Title: 睡眠にとって酒は吉か凶か?
Category: 健康
Keywords: 睡眠、飲酒の影響、アルコール依存


ナショナルジオグラフィック (Web版) をチェックしていたら、おもしろい記事を見つけた。それは、とある睡眠研究者による
「睡眠の都市伝説を斬る」
という連載記事で、睡眠の科学は急速に進歩してきているけど、その一方で誤解も流布していて、睡眠科学の第一人者が「睡眠の都市伝説」を一刀両断するという内容だ。連載記事のうち僕が読んだものは第44回の「寝酒がダメな理由」という記事だ。

まずは、睡眠にとって酒は吉か凶か?
それに対する答えは、「晩酌はよいが、寝酒はダメ」だそうだ。
でも、「オレは晩酌はしているが、寝酒なんかしていない」と思っている人もいると思うけど、そもそも「晩酌」と「寝酒」の違いは何なのか?
著者によると、「晩酌は就寝の3~4時間前に終えてください」だそうだ。
早い時間に帰宅できる人はいいけど、夜遅くまで残業して帰宅して、それから遅い夕食をとりながら一杯飲むというような人にとってはそんなの無理な話だ。でも、実際のところは寝る少し前まで酒を飲んでいると、睡眠への悪影響は避けられないそうだ。

こういうデータがある。10ヶ国、35,327人を対象に「眠れないときどうするか?」という調査を行なって、そのうちスペイン、中国、ドイツ、ブラジル、ベルギー、日本を比較したグラフが掲載されている。それによると、 スペイン、ドイツ、ブラジル、ベルギーは5割近くの人が「医師に相談」し、あとは「カフェインを控える」とか、「睡眠薬」を飲むなどしているという。中国は「カフェインを控える」と「睡眠薬」がそれぞれ 35% 位で、「医師に相談」が 25% 位だ。それに対して日本は「アルコール」が断トツに多くて 30%、「医師に相談」、「カフェインを控える」、「睡眠薬」はどれも 10% 前後で、他の5ヶ国と比べて酒に頼る人が断然多い。医者には相談したくないし、カフェインを控える工夫もせず、「やるのは寝酒だけ」ということらしい。

では、アルコールが睡眠に与える影響はどんなものか?
著者はいくつかのケースで説明している。

[ケース1:たまに晩酌するが、酒量もほどほどという人の場合]
厚生労働省が設定している「節度ある適度な飲酒」の指標によると、「1日当たり純アルコールに換算して約20グラム程度」が節度ある飲酒の目安だそうだ。ちなみに、アルコール20グラム程度が含まれるお酒の量はどの位かというと、

  1. ビール (中瓶1本 500 mL) ・・・ 20 g
  2. 清酒 (1合 180 mL) ・・・ 22 g
  3. ウィスキー・ブランデー (ダブル 60 mL) ・・・ 20 g
  4. 焼酎 (35度、1合 180 mL) ・・・ 50 g
  5. ワイン (1杯 120 mL) ・・・ 12 g
だそうだ。
著者によると、晩酌もたまにやる分には寝る少し前でもそれほど心配はいらないという。「節度ある適度な」量であれば、睡眠前半の深い睡眠 (徐波睡眠というそうだ) を増加させて「ぐっすり」眠ることができるという。ただし、睡眠の後半になると、アルコールの血中濃度が急激に低下して「リバウンド」が起こって、早期に覚醒してしまうことも少なくないという。平均的な大人のアルコール代謝量は1時間に 7 g 程度なので、ビール中瓶1本程度であれば計算上3時間程で消失してしまう。そうすると、寝酒をしてしまうと深夜にアルコールが体から抜けてしまって、催眠効果がなくなるだけでなく覚醒してしまうので注意が必要だという。

そうかぁ、例えば僕の大好きなビールだったら、缶ビール1本にしとけっていうことか。でも普段は晩酌するといっても 350 mL の缶ビールしか飲まないし (たまに 500 mL の缶ビールを飲むこともあるが) 、最近は週末くらいしかお酒は飲まないので、僕の場合は全然余裕かな。たまに、夜TVを見ながら缶ビールや缶チューハイを飲むこともあるけど。それでも寝る2時間ほど前だけど。

[ケース2:日々晩酌、酒量もやや多めという人の場合]
日々晩酌を続けているうちに、耐性ができて、せっかくの催眠作用もだんだんと弱くなっていくそうだ。そうすると、酒量を増やさないと眠気が生じなくなってくる。アルコールも睡眠薬と同じようなもので、古いタイプの睡眠薬では、耐性に加えて、離脱症状 (禁断症状) の危険もあり、そうなると、不眠、発汗、動悸、震え、イライラ、不安、知覚異常などの他、重症になると意識障害やけいれんが出ることもあるという。

このような症状は、映画や小説に出てくるアルコール依存症 (いわゆる「アル中」) 患者の特徴そのままだという。
飲酒歴が長い人では、イライラ、不安、軽い震えなど軽度の離脱症状がしばしば見られ、夕方過ぎには晩酌 (寝酒) をやりたくなって落ち着かなくなってくるという。

う~ん、僕も飲酒歴が長いけど、イライラや不安、震えのような症状は出たことはないなぁ。まぁ、夕方 (というか夜) 仕事が終わったら飲みたくはなるけど。でも、これって、普段から飲まない人を除けば、多くの人がそうなんじゃないかな?なかには「飲まなきゃやってられないよ」という人もいるだろうし。

「オレは依存症なんかじゃない」と思っている人でも、次のようなことに思い当たる節があるとヤバいようだ。すでにアル中に片足を突っ込んでいる状態だそうだ。
  • 寝付けないときに寝酒を追加する (耐性による増量) 。
  • 冷蔵庫を開けたらビールを切らしていて、「チッ!」と舌打ちをして (不安とイライラ) 、キッチンの周りをウロウロする (薬物の探索行動) 。
  • それでも見つからないと近くのコンビニに買いに行ったりする (強い探索行動) 。
さすがに僕はこんな症状が出ることはないけど、気をつけよう。

[ケース3:長年の愛飲家、健康診断で肝機能異常を指摘されるような人の場合]
このケースでは、かなりコワい話になってくる。まさに 「ホンモノのアル中」 の話だ。
毎晩晩酌を欠かさず、健康診断で肝機能異常が見つかって医者から節酒を強く指導されるレベルの人の場合、簡単には晩酌生活から抜けられなくなってくる。というのは、「休肝日」を設けようとしても、食欲がない、集中できない、イライラして家族にあたる、チェーンスモーキング、眠れないなどの離脱症状 (禁断症状) が強烈に出てきてしまうからだそうだ。
アルコール依存症の段階になると、催眠作用はおろか、徐派睡眠 (睡眠前半の深い睡眠) が大幅に減少して熟眠感が乏しくなって、途中覚醒や早期覚醒が増えて酒量が増えるという悪循環にはまってしまうという。このような状態が長く続くと、その後に禁酒してもなかなか改善しないそうで、不眠が苦痛でまた飲酒を始める人も少なくないそうだ。このようなステージになってくると、節酒・禁酒も慎重にやる必要があるそうだ。

さらに、アルコール依存症の人が「酒も飲めなくなるほど」体が弱ってくると、断酒後数日から1週間程で「振戦せん妄」という症状に陥るそうで、頻脈、発汗、意識混濁に加えて、極度の興奮や小動物幻視 (天井から虫やネズミが落ちてくるのが見えるなど) などによって大暴れすることがあるそうで、時には自殺をしようとすることもあるという。振戦せん妄は最重度のアルコール離脱症状で、適切な医療を行なわないと死に至ることもあるという。

やっぱり、「平日はなるべく休肝日、晩酌は週末、酒量もほどほど、でも時には飲み会」という今の生活を崩さないようにするのがよさそうだ。

関連記事、サイトはこちら。
ナショナルジオグラフィック: http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/403964/021700033/

Date: 2016/02/13
Title: 重力波の直接観測に初成功!
Category: 物理
Keywords: アインシュタイン、一般相対性理論、重力波、直接観測、LIGO、ブラックホールの合体


ちょうど1か月前、「ある物理学者のチームが重力波の検出に成功した可能性がある」というウワサを、米国アリゾナ州立大学 (Arizona State University) の宇宙論学者ローレンス・クラウス (Lawrence Krauss) 氏が Twitter につぶやきを投稿したことについて日記に書いたが、このウワサは単なるウワサではなく本当だった。

発表したのは全米科学財団と国際研究チームで、LIGO (Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory、ライゴと読む) と呼ばれる米国の新型レーザー干渉計重力波検出器を使って、2つのブラックホールが合体した時に発せられた重力波を検出したというものだ。時空のさざ波「重力波」は100年前にアインシュタインの一般相対性理論によってその存在が予言され、これまで間接的な証明はなされていたが、直接観測に成功したのは今回が初めてだ [1]

今回初めて検出された重力波は、約13億年前に起こった2つのブラックホールの合体によって発生したもので、合体後1つになったブラックホールの質量は太陽の質量の29~36倍にもおよび、合体の瞬間に太陽の質量の約3倍ものエネルギーが重力波に変換されたという。このとき放出された重力波が地球に到達し、2015年9月14日に検出されたそうだ。重力波はまずルイジアナ州リビングストンに設置してある検出器で記録され、その7ミリ秒後にワシントン州ハンフォードにある検出器でも捉えられたことから、重力波を放出したブラックホールは南天のどこかにあるという。

アインシュタインからの「最後の宿題」ともいわれる重力波の観測だけど、これまでなかなか検出に成功してこなかったが、100年経ってやっと検出に成功した。しかし、これで終わりということではなく、「重力波天文学」という新たな領域の始まりなのだ。今から400年ほど前、ガリレオが自ら製作した望遠鏡で星空を観測して以来、人類は長い間可視光によって宇宙を観測してきた。その後20世紀の後半になって気球、ロケット、人工衛星などの飛翔体やそれらに搭載される観測機器が開発され、さらには地上での観測では電波望遠鏡などが開発された結果、観測に利用できる波長領域が大幅に増えて、現在では波長の短い方からガンマ線、X線、紫外線、可視光、赤外線、電波と、あらゆる波長の電磁波を使って宇宙を観測するようになった。電磁波以外では20世紀前半から宇宙線による観測が行なわれていて、その後、1960年代頃からニュートリノの観測も行なわれるようになった。1987年には大マゼラン雲に超新星 SN1987A が出現し、SN1987A の重力崩壊に伴うニュートリノバーストが日本のカミオカンデによって観測されたことがニュートリノ天文学の幕開けとなった [2] 。そして今回観測手段として新たに重力波が加わったのだ。

日本としては米国の LIGO に先を越された格好になってしまったが、日本でも岐阜県神岡鉱山跡の地下深くに東大宇宙線研究所が大型低温重力波望遠鏡 (LCGT: Large-scale Cryogenic Gravitational wave Telescope、愛称 KAGRA) を建設中で、2016年にも試験観測を開始する予定だそうだ。これが稼働を開始すれば、日本も重力波天文学の重要な一翼を担うことができるし、KAGRA はスーパーカミオカンデと同じ場所に建設されているので、ニュートリノと連携した観測も期待される。

重力波が観測できるようになると、これまで観測できなかった銀河中心や星の内部で起こっている現象や、中性子星やブラックホールの合体の研究、そして宇宙の始まりが観測できるかもしれないという。その他これまでよくわかっていなかったことが解明されるようになるかもしれない。
今後どんな観測がなされるかワクワクするし、なんか期待しちゃうなぁ~。

関連記事、サイトはこちら。
AFPBB News: http://www.afpbb.com/articles/-/3076643
KAGRA 公式サイトの記事: http://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/archives/2274
国立天文台公式サイトの記事: http://www.nao.ac.jp/news/topics/2016/20160212-gw.html


[1] 1960年代に米国メリーランド大学 (University of Maryland) の物理学者ジョセフ・ウェーバー (Jpseph Weber, 1919-2000) が共鳴型検出器 (彼の名をとって「ウェーバー・バー」と呼ばれる) を用いた検出実験で重力波の検出に成功したと発表しているが、その後、多くのグループによる追試では検出には成功しておらず、現在は否定されている。

[2] これは2002年の小柴昌俊さんのノーベル物理学賞受賞につながった。

Date: 2016/02/11
Title: 史上最大の恒星系発見! 恒星と惑星の距離は1兆キロ
Category: 宇宙
Keywords: 史上最大の恒星系、距離1兆キロ


観測史上最大の恒星系を発見したという研究結果が発表されたようだ。
発表したのは英国ハートフォードシャー大学 (University of Hertfordshire) のニール・ディーコン (Dr. Niall Deacon) 氏を中心とした英、米、オーストラリアの天文学者の研究チームで、「英国王立天文学会月報 (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) 」に研究結果が発表されたようだ。

この恒星系にある惑星は、これまでは恒星系に属さず宇宙をさまよっている“孤独な”惑星と考えられてきたが、今回の研究で恒星の周りを回っていることが分かったそうだ。驚くことに恒星からこの惑星までの距離は約 1兆 km もあるという (これは太陽から地球までの距離の7000倍程もある) 。
この恒星と惑星は8年前から知られていて、それぞれ " TYC 9486-927-1 " 、" 2MASS J2126 " と呼ばれていたが、これら2つの星に関連があるということは、これまで誰も考えてこなかった。しかし、研究チームはこの恒星と惑星が同じ方向に動いていること、どちらも太陽から104光年の距離にあることを見つけた。このことから、これら二つの星は関連していることを暗に示しているという。
また、研究チームは主星のスペクトルの分析から、主星の年齢は10億年から45億年としていて、これから 2MASS J2126 の質量を見積もると、この惑星は質量が木星の 11.6~15 倍もある巨大惑星であるという。

主星からの距離が太陽と地球の間の距離の 7000 倍もある 2MASS J2126 の軌道は、他の恒星に軌道も含めて、これまで発見された惑星の軌道の中で最大のもので、公転軌道を1周するのに約90万年かかるという。これはこの惑星が誕生して以来、50回足らずしかまだ軌道を回っていないことを意味しているのだ。しかし、このような巨大な惑星系がどのようにして形成され、また存続してきたかについては謎が残っているようだ。

でも、この惑星は主星からの距離が約 1兆 km と、とんでもなく離れているところを周っているので、ハビタブルゾーン (生命居住可能領域) の外に存在している (つまり生命が存在する可能性はほぼない) と思うけど、仮にこの惑星に人間のような生命がいたとしても、主星は地球から見た太陽のようにはとても見えず、「なんか遠くの方に明るい星があるな」という風にしか認識されないだろうし、自分たちの星 2MASS J2126 が主星 9486-927-1 の周りを回っているなど思いもしないだろう。そこには「母なる太陽」なんて言葉は存在しないんだろうな。

関連記事、サイトはこちら。
AFPBB News: http://www.afpbb.com/articles/-/3074829
英国王立天文学会の記事:
https://www.ras.org.uk/news-and-press/news-archive/264-news-2016/2770-1-trillion-kilometres-apart-a-lonely-planet-and-its-distant-star

Date: 2016/01/26
Title: PCB汚染で欧州のシャチに絶滅の恐れ
Category: 環境
Keywords: PCB汚染、シャチ、絶滅


欧州の海に生息するシャチが絶滅に危機に瀕しているそうだ。
欧州各地の工場や建築現場で広く利用されていた PCB (ポリ塩化ビフェニル) の廃棄物が原因のようだ (1987年には使用が禁止されている) 。廃棄された PCB が食物連鎖を通じてシャチやイルカの脂肪組織に蓄積されていき、母乳を介して子供の個体の体内にも蓄積されていく。これが後の世代にまで引き継がれていくのだ。

ところで、PCB とはどんなものか大体知っているつもりだけど、具体的にどのような物質かと問われると、有機化学の専門家ではない僕には詳しくは説明できない。
そこでまずは、PCB についてざっとおさらいしておこう。


PCBの化学構造
PCB (ポリ塩化ビフェニル;polychlorinated biphenyl) とは、ベンゼン環が2つつながったビフェニル構造の水素 (H) が塩素 (Cl) に置換されたものの総称で、置換された塩素の数と位置によって計算上209種類の化合物が存在するそうだ (実際に市販されたものでも100を超える PCB が確認されていて、世界中で約120万トンが生産されたと推定されているそうだ) 。

PCB には、①不燃性で、しかも加熱・冷却しても性質が変わらない 、②絶縁性、電気的特性に優れている、③化学的に安定で、酸・アルカリに侵されない、④水に溶けないが有機溶媒によく溶ける、⑤粘着性に優れている、といった特徴があり、トランスやコンデンサー・電線の絶縁油、食品・製紙・化学会社における熱媒体、潤滑油、可塑剤、難燃剤、船舶塗料、インクやノンカーボン紙などの溶媒などに使用されてきた。

しかし、化学的に安定なことから、自然環境の中では分解されず残留してしまう。そのため、PCB を製造、使用している工場からの排水・大気への放出、PCB を使用している製品の焼却や廃棄、違法投棄などによって自然界に放出されると、環境破壊引き起こし、汚染された物質を取り込んだ生物の体内の脂肪組織に蓄積されて多くの生物に悪影響を及ぼす。そして体内に蓄積された PCB は代謝・排出されずに、胎盤や母乳を通じて母親から子へと、次世代にも影響が引き継がれていく。

日本では1968年にカネミ倉庫製食用米ぬか油に PCB と PCDF (ポリ塩化ジベンゾフラン、ダイオキシン類の一種) 混入して深刻な健康被害を引き起こした「カネミ油症」事件が発生し、PCB汚染が深刻な問題になった。そのため1972年には製造・使用が禁止され、その後、廃棄物処理法により特定化学物質に指定されて厳重な管理が必要になった。さらに、過去に製造され使用され続けている PCB の無害化処理技術の開発が進められている。
国際的な取り組みとしては、2001年5月に PCB を2028年までに全廃することを含む国際条約である POPs 条約 (残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約) が調印され (日本は2002年に受諾している) 、取り組みが進められている。

話を元に戻そう。
英ロンドン動物協会の研究者によれば、西ヨーロッパの沿岸には、シャチはほとんど生息しておらず、さらに、地中海や北海では既にほぼシャチは姿を消したという。さらに、西ヨーロッパ沿岸でも、生き残っているシャチは非常に小型で、繁殖能力が全くないか、あってもほとんど衰えているという。また、数十年にわたって海洋学者が観察してきたポルトガル沿岸に生息する36頭のシャチの群れでは、10年以上も出産が確認されていないという。

PCB が海洋生物にとって有害であることは以前から指摘されてきたが、これはその具体的な影響を初めて示した研究だそうだ。産業革命以降、急激な工業化などの人間の活動による廃棄物による環境汚染で、多くの生物の生態系が脅かされているが、それは、海の食物連鎖の頂点にいるシャチでも例外ではないということだ。今回の研究はヨーロッパでの例だが、シャチは世界中の海に生息している。世界中で PCB が全廃されるまでに汚染が進んでしまうと、他の海域に生息しているシャチにも同じような運命が待ち受けている。

イルカの仲間で最大の種であるシャチは、肉食性で、海のギャングと恐れられているけど、その一方で、知能が高く、非常に社会性のある動物だということも知られている。水族館ではイルカと同じように芸をして僕たち人間を楽しませてもくれる (僕も、むかーし、鴨川シーワールドで見たことがある) 。しかし、近い将来、シャチのそのような姿が見られなくなるかもしれない。

人間が作り出したものによってシャチが絶滅の危機に追いやられている。悲しい話だ。

関連記事、サイトはこちら。
AFPBB News: http://www.afpbb.com/articles/-/3073581

Date: 2016/01/22
Title: 太陽系の果てに「第9惑星」か?
Category: 宇宙
Keywords: 太陽系、カイパーベルト、第9惑星


日経電子版をチェックしていたら次の記事が目にとまった。それは、
太陽系の果てに「第9惑星」か? 米大が論文
という記事だ。

2006年の国際天文学連合 (IAU) 総会で、冥王星は惑星から準惑星に格下げされて、太陽系の惑星は9個から8個に減ってしまう事態になっていた。しかし、米カリフォルニア工科大学 (Caltech) の研究グループが、太陽系の果てに海王星より20倍遠い軌道を回る惑星が存在する可能性があると発表したそうだ。実際に発見されれば太陽系の「第9惑星」になる可能性があるという。

太陽系の海王星の軌道より外側には、「カイパーベルト (エッジワース・カイパーベルトともいう) 」と呼ばれる天体が密集している領域がある。今回、研究グループはカイパーベルトにある6個の小さな天体が同じ方向に動いていることを発見し、コンピューターでシミュレーションしたところ、これらの天体の軌道が偶然一致する確率はわずか 0.007% で、未知の惑星の重力の影響を受けている可能性が高いと推定したという。その「惑星」と推定される天体の質量は地球の10倍ほどあり、太陽のまわりを1周するのに1~2万年かかるそうだ。

まぁ、この結果については、コンピューターによる計算で第9惑星が存在する可能性が示された段階で、実際に存在するのかどうかはまだ分からない (これまでにも、海王星の外側に未知の惑星があるのではないかという研究結果を目にしたことがある) 。惑星と推定される天体は海王星より20倍も離れたところにあるので、非常に暗い天体と考えられ、実際に観測するのはとても大変なことだろう。

発見されるかなぁ?
実際に発見されたらうれしいけど、あまり「第9惑星」という言葉にこだわらないようにしよう。カイパーベルトには、現時点では発見されていないだけで、将来“惑星”として数えられる未知の天体がもっとあるのかもしれないし。
今後の観測に期待しよう。

関連記事、サイトはこちら。
日経電子版: http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG21H31_R20C16A1CR0000/
The Astronomical Journal: http://iopscience.iop.org/article/10.3847/0004-6256/151/2/22/meta;jsessionid=AA87916395A4C60D9E180A768D8C3009.ip-10-40-2-75

Date: 2016/01/15
Title: 「重力波検出」というウワサ
Category: 物理
Keywords: 重力波、アインシュタイン、一般相対性理論、直接観測


ここしばらくはサイエンス関係の日記を書いていなかった。今年最初のサイエンス日記は何について書こうかと考えながらAFPBB Newsをチェックしていたら、次の記事に出くわした。

「重力波検出」のうわさ、科学界に波紋広がる

え~っ、ホントー?重力波検出だって?
「ある物理学者のチームが重力波の検出に成功した可能性がある」という噂が、科学界で波紋を広げているそうだ。噂の元は、米国アリゾナ州立大学 (Arizona State University) の宇宙論学者であるローレンス・クラウス (Lawrence Krauss) 氏が Twitter に投稿したつぶやきのようだ。

まずは、重力波について簡単に復習しておこう。
アインシュタインの一般相対性理論によると、巨大な重力源の周りの時空の曲率 (ゆがみ) が時間的に変化するとき、その時間変動が光速で伝播していく。これが重力波 (gravitational wave) と呼ばれるもので、時空の“さざ波”ともいえるものだが、これまで直接重力波の検出に成功した者は誰もいないのだ (間接的に検出した例はあるが [1] ) 。
理論的には重力波は質量を持った物体が加速度運動をすると発生するが、観測にかかるほどの大きな振幅を持った重力波が発生するのは、例えば、ブラックホール、中性子星などのコンパクトで巨大な質量を持った天体が、光速に近い非常に大きな速度で加速度運動をするような場合だ。 そのため、重力波源の有力な候補として、

(1) コンパクトな連星 (ブラックホール、中性子星、白色矮星など) の公転
(2) コンパクトな連星の衝突合体
(3) 超新星爆発
(4) 中性子星の自転
(5) 初期宇宙からの重力波

などがあげられている。
もし重力波の直接検出に成功すれば、一般相対性理論が正しいという証拠がまた一つ加わることになるし、重力波によって宇宙を見る“重力波天文学”という新たな学問分野が生まれることになるのだ。

重力波の検出は困難を極めるが、世界中の研究者が挑んでいる。歴史的には、重力波の検出は1960年代に米国メリーランド大学 (University of Maryland) の物理学者ジョセフ・ウェーバー (Jpseph Weber, 1919-2000) が共鳴型検出器を用いた検出実験に始まる (ウェバーは重力波の検出に成功したと発表しているが、多くのグループによる追試では検出には成功していない) 。現在では、レーザー干渉計型検出器を用いた実験が主流となっていて、日本、アメリカ、ドイツ、フランスなどで運用されている。例えば、日本では国立天文台に基線長 300 m のレーザー干渉計 TAMA300 が設置されている。

さて、クラウス氏のツイートだが、次のような内容だ。
" My earlier rumor about LIGO [2] has been confirmed by independent sources. Stay tuned! Gravitational waves may have been discovered!! Exciting." (私が以前耳にした LIGO についてのうわさは、第三者の情報筋による裏付けが得られている。これは目が離せないぞ!重力波が発見されたかもしれない‼ わくわくする)

もしこれが本当なら、100年前にアイシュタインが予測した一般相対性理論からの帰結の中で、未解決だったものが検証されたということになるし、日本はアメリカの LIGO に先を越されたということになってしまうかもしれない。しかし、現時点ではうわさに過ぎないし、正式な論文が発表されて詳細のすべてが明らかになるまでには、まだ時間がかかりそうだ。いたずらに騒ぎ立てるのは避けて、正式な発表があるまでは静観しているほうがよさそうだ。

ところで、これを書いているとき、学生時代に受けていた講義の1コマをふと思い出してしまった。
それは、大学1年生向けの物理学の入門的な講義で、担当されていたK教授 (著名な実験物理学者です) が僕ら学生に向かって、「物理の中でどんな話題に興味がある?重力波?」とかナントカいって (なにぶん昔のことなので、うろ覚えだけど・・・) 、ニヒルな笑みを浮かべられていたのだ。
僕らは物理学科の学生とはいってもまだ1年生だったので、重力波という言葉は聞いたことはあったけど、「重力波ってどんなの?なんかおもしろそう!」という程度で、イマイチよく分かっていなかったんだが。

関連記事、サイトはこちら。
AFPBB News: http://www.afpbb.com/articles/-/3073018
国立天文台・重力波プロジェクト推進室: http://tamago.mtk.nao.ac.jp/spacetime/aboutGW_j.html
クラウス氏のツイート:https://twitter.com/LKrauss1/status/686574829542092800
LIGO:https://ligo.caltech.edu/


[1] 重力波の存在の間接的な証明は1980年代になされている。ジョセフ・テイラーとラッセル・ハルスは、中性子星の連星パルサー PSR1913+16 の軌道を10年以上にわたって観測して、軌道周期とパルスの放射周期を精密に測定することで、連星が重力波の放出によって徐々に近づいていくことを発見した。この業績によって彼らは1993年にノーベル物理学賞を受賞したのだ。

[2] LIGO: Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory ― 米国の新型レーザー干渉計重力波検出器。ワシントン州とルイジアナ州に2台稼働していて、米国立科学財団 (National Science Foundation, NSF) によって設立され、カリフォルニア工科大学 (Caltech) とマサチューセッツ工科大学 (MIT) で運営されているようだ。