かがくのつまみ食い 2017

サイエンス関連のトピックスを集めてみました。このページは2017年に書いたトピックスです。

 

Date: 2017/12/16
Title:地球温暖化の航空機への影響 - 猛暑で離陸できない!
Category: 地球環境
Keywords: 地球温暖化、航空機、猛暑、離陸


今年も残すところあと半月になってしまったが、このところ、日本は大変な寒波に見舞われていて、この時期としては異例の降雪量を記録しているところもある。関東でも天気はいいんだが、真冬並みの寒さが続いている。

が、寒さの話はさておき、今年の夏を振り返ってみよう(何で今頃夏の話なのか、と突っ込まれそうだが・・・)。
今年の日本の夏は、猛暑というほどではなく、むしろ一時的に冷夏だったりして、あまり夏という感じがしなかったけど、アメリカでは西部を記録的な熱波が襲った。カリフォルニア州では熱波が原因とみられる大規模な山火事が発生したことも記憶に新しい(その後12月になっても、カリフォルニアでは大規模な山火事が続いているが、最近発生した山火事の原因は他にあるようだ)。しかも、熱波の影響はそれだけではなかったようだ。

今年6月20日、アメリカ西部を記録的な熱波が襲ったが、アリゾナ州フェニックスのスカイハーバー国際空港では、気温が 48 ℃ を超え、飛行機が離陸できなくなる事態が発生して欠航や遅延が相次いだそうだ。さらに、最悪の熱波が去った後でも、離陸するためには「重量制限」が課されたという。これは、気温が高くなると空気が薄くなるため、離陸に必要な十分な揚力が得られなくなるためだ。重量を減らして機体を軽くするには、乗客か貨物か燃料を減らすしかない。


離陸滑走する旅客機[福岡空港にて]
こうした事態は今後頻繁に起こりそうだ。米コロンビア大学ラモン・ドハティ地球観測所 (Lamont-Doherty Earth Observatory, Columbia University) の研究チームは、地球温暖化による異常高温が航空機に与える影響を分析した。それによると、今世紀半ばから終わりまでに、世界中の空港で1日のうち気温が最も高い時間帯に離陸する航空機の 10~30% が重量制限を迫られるようになるという。特に影響が大きいのは、気温の高い地域の空港、滑走路の短い空港、もともと空気の薄い高地にある空港だ。

これに対して、対応策として考えられるのは(個人的に思いついたことだけど)、
①滑走路を長くする。しかし、これは立地条件の制約を受ける。特に市街地にある空港は用地の確保が難しく、実質的に滑走路を長くするのは困難だ。
②フライトスケジュールを涼しい時間帯にシフトさせる。そうすると、特定の時間帯に離着陸が集中してしまい、離着陸の枠を確保できずにその空港から撤退する航空会社が続出しそうだ。
③より強力なエンジンを搭載する。
④今以上に軽い機体の新型航空機を導入する。
③④については、開発に時間と費用もかかるし、すぐにできることではないし、コストアップにつながりそうだ。 そうすると、当面は乗客や貨物を減らすしか策はないようだ。

コロンビア大学の研究者たちは、今のペースで温室効果ガスを放出し続ければ、最も暑い日で 4% の積載重量(燃料や貨物、乗客)を減らす必要があると見積もっている。仮に何とかして二酸化炭素の放出を急激に減らすことができれば、重量削減は 0.5% ほどですみそうだが。4% の重量削減というのは、今日の平均的な航空機の運用では、定員160人の航空機で12人から13人の乗客を下ろすことに相当する。

また、温度の許容範囲の低いある種の航空機は他の機種に比べて温暖化の影響が大きい。空港に関しては、滑走路の短い空港、世界で最も暑い地域の空港、高地にある空港(ここはそもそも空気が薄い)がそうだ。例えば、ニューヨークのラガーディア空港 (LaGuardia Airport) は滑走路が短いため(2134 m、2135 m)、ボーイング737-800は最も暑い日では半分の時間で重量を減らす必要があるかもしれず、アラブ首長国連邦のドバイでは、滑走路は長いが、そこはすでに非常に気温が高いので、悪化しそうだという。
しかし、温暖な気候の地域にあり、滑走路も長いニューヨークのジョン・F・ケネディ空港、ロンドンのヒースロー空港、パリのシャルル・ド・ゴール空港ではほとんど影響を受けないかもしれないという。

この研究では日本の空港については調べられていないようだが、温暖化がこのまま進行していくと、日本でも近い将来、猛暑の日には、離陸時の重量削減などの処置が取られるようになってくるかもしれないし、海面上昇で沿岸や海上空港の運用に影響を及ぼすようになるかもしれない。

関連記事はこちら。
Newsweek の記事:http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/08/post-8141_1.php
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/3135767
朝日新聞(デジタル版)の記事:http://www.asahi.com/articles/ASK7F4FWYK7FUHBI00V.html
コロンビア大学の記事:https://www.ldeo.columbia.edu/news-events/surging-heat-may-limit-aircraft-takeoffs-globally

Date: 2017/12/09
Title:靴ひもは何故いきなりほどけるのか? - アメリカの大学が実験で解明
Category: 科学一般
Keywords: 靴ひも、ほどける、メカニズム


仕事がら、実験室で仕事をすることがほとんどなので、職場では靴を履き替えているんだが、靴ひもがよくほどけてしまう。しっかり結んだはずなのに、いつの間にかほどけているのだ。

なぜ靴ひもはほどけやすいのかと、ネットで検索してみたら、AFPBB Newsで興味深い記事を見つけた(記事自体は今年の4月のものだけど)。それは、
「なぜ靴ひもはいきなりほどけるのか 長年の謎を実験で解明 米」
という記事で、 なぜ靴ひもは歩いているときにいきなりほどけるのか──長年の謎がこのほど解き明かされた、という内容のものだ。

これまで、この仕組みの解明を真剣に試みられてこなかったようだが、このほど、米カリフォルニア大学バークレイ校 (University of California, Berkeley) の機械工学の研究者らがこの謎の解明に挑んだ。そして、研究者たちが英学術専門誌の英国王立協会紀要 (Proceedings of the Royal Society) に発表した論文によると、靴ひもは次のようなメカニズムでほどけるようだ。

人が歩いたり走ったりするときの足の動きのうち、
①地面を踏みつけたときの衝撃(重力の7倍の力)
②素早く脚を前後にスイングすることによって、紐の先端に加わる慣性力
という2つの力が「目に見えない手」のように作用することで、結び目紐を緩め、紐の端を強く引っ張って、最後には紐をほどいてしまうのだ。

研究者たちはトレッドミル(ランニングマシン)を使った実験で、走っている間に紐がほどけている様子を超スローモーション映像で撮影し、しっかり結んだ結び目に2つの力が働いている様子を捉えることに成功している。そして、ものの数秒で紐がほどけてしまうことを示した。2つの力の相互作用で紐がほどけるのだが、この2つの力のどちらかだけ、例えば、床を蹴るだけ、あるいは椅子に座って脚を揺らせるだけでは、紐がほどけることがないという。また、紐の結び方や紐の種類によってほどけにくいものはあるものの、絶対にほどけないものはないという。

ランニングマシンを使った実験の映像は YouTube にも登録されていた。


研究者によれば、この研究によって、靴ひものことを理解し始めることができれば、他のことにも適用できると指摘している。例えば、動的な力が働いている状況下でほどけるDNAや微細構造など。これは、特定の結び目が他のものよりも優れている理由を理解するための第一歩で、誰も実際に行っていないものだという。

歩く時より走っている時の方が、地面を踏みつけるときの衝撃と脚のスイングによる慣性力は大きくなるので、紐がほどけやすくなるのは分かるが、歩いている時でも地面を踏みつけるときの衝撃とスイングによる慣性力は働くので、いずれは紐がほどけてしまうということのようだ。

僕の場合、仕事中は走ることはなく、歩くことがほとんどだが(実験室は地下にあるので階段の上り下りもある)、いずれは紐がほどけてしまうことかもしれないが、やたらと紐がほどけやすいのは、紐そのものにも問題があるということなのかな? 例えば、表面が滑りやすい材質でできているなどの要因が影響しているかもしれない。この点に関しては、継続して研究していく必要がありそうだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News:http://www.afpbb.com/articles/-/3124868?cx_position=3
UC Berkeley のWebサイトにある記事:http://www.me.berkeley.edu/about/news/me-graduate-students-team-oreilly-lab-test-their-shoe-string-theory
Proceedings of the Royal Society A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences に掲載されている論文:
http://rspa.royalsocietypublishing.org/content/473/2200/20160770

Date: 2017/11/15
Title:チバニアン - 地球史に「千葉時代」誕生か
Category: 地質
Keywords: チバニアン、地質年代、第四紀更新世


ネットのニュースを検索していたら、次の言葉が目にとまった。
「チバニアン」
なんだこりゃ?
チバニアンと言うくらいだから、千葉となんか関係があるんだろうが、千葉の新手のゆるキャラの名前か?
いやいや、記事をよくよく読んでみると、どうやら地質年代の話らしい。

地質年代とは地球の地質の歴史を区切るものだが、そんなものは昔地学の時間に習ったっきりですっかり忘れている。
まずはおさらいから。

地質時代は、大雑把にいって、まず大きく「代」で分け、これを「紀」で細かく分ける。さらに細かく「世」で分けている。「代」は古い方から古生代(約5億4200万~約2億5100万年前)、中生代(約2億5217万年前~約6600万年前)、新生代(約6,500万年前~)だ(古生代以前もあるが、ここでは省略する)。

次に、「古生代」は古い方から「カンブリア紀」「オルドビス紀」「シルル紀」「デボン紀」「石炭紀」「ベルム紀」に分けられる(石炭紀は、この時代の地層から石炭が多く産出されることから、この名前がつけられた)。同じように「中生代」は古い方から「三畳紀」「ジュラ紀」「白亜紀」に分けられる(ジュラ紀と白亜紀は恐竜が栄えた時代で、約6550万年前の白亜紀末期に絶滅したことでも知られている)。古生代と中生代は「代」と「紀」の2つで分けらる。新生代は古い方から「古第三紀」「新第三紀」「第四紀」に分けられ、さらにそれぞれの「紀」が「世」で分けられるのだが、さらに細かい区分は未定のものがあるようだ。

今回新たに命名される見通しになった区分は、約77万~12万6000年前の年代で、ネアンデルタール人が生きていた「第四紀更新世」中期にあたる年代だという。この年代の境界にあたる約77万年前は、地磁気の南北が逆転した時代だ。地磁気が南北のどちらの方向を向いているかは、火成岩の磁気を調べることで、磁化されている方向がわかるのだ。地球の歴史を見ると、地磁気は南北逆転を繰り返してきたが(過去360万年の間に11回逆転したことがわかっている)、この年代に最後の南北逆転が起こったことが知られている。

今回の地質年代の命名をめぐっては日本とイタリアのチームが争っていたが、決め手となったのは、千葉県の地層が約77万年前の最後の地磁気の南北逆転を明確に示していることだという。イタリアの地層はこの点を示すデータが不十分だったという。
そして、日本の国立極地研究所と茨城大学などのチームは、この年代の基準値として千葉県市原市の地層を申請し、「チバニアン(ラテン語で千葉時代を意味する)」と命名される見通しだという。正式決定すれば地質年代に初めて日本の地名がつく快挙となるのだ。

関連記事はこちら。
国立極地研究所の記事:http://www.nipr.ac.jp/info/notice/20171114.html

Date: 2017/10/21
Title: 音速の壁を静かに破る未来の飛行機 - ポスト・コンコルドはどんな飛行機か?
Category: テクノロジー
Keywords: 超音速旅客機、コンコルド、ソニックブーム、次世代型、QueSST


久しぶりに羽田空港で飛行機の写真を撮ったついでに、未来の飛行機 ー 超音速旅客機について書いてみたい。 ネタになったのはちょと前に Newsweek で読んだ「音速の壁を静かに破る未来の飛行機」という記事だ。

空気中を伝わる音波の速度 (音速) は大体秒速 340 m (時速 1226 km) だ [1] 。現在世界中で運行されているジェット旅客機の巡航速度は大体時速 900~1000 km で、音速以下の速度だ。しかし、かつては超音速旅客機が運行されていた。そう、あの「怪鳥」コンコルドだ。


コンコルド [Wikipediaより]
コンコルドは英仏で共同開発され、1969年に初飛行を行なった。巡航速度はマッハ 2.04 (時速 2160 km) を誇ったが、超音速で飛行するゆえ、機体からソニックブーム (衝撃波) が発生するため、ほとんど洋上飛行しか認められていなかった (地上の上空を飛行すると、衝撃波によって、地上の建物などに被害が及ぶことが懸念されたのだ) 。このソニックブームの問題のような環境問題とオイルショックによる燃料費の高騰、開発の遅れなどによって価格が高騰していった。さらに追い討ちをかけたのが、ジャンボジェット機 (ボーイング747) の就航によって、航空業界は大量輸送・低コスト化にシフトしていって、定員が100人と少なく、燃費が悪く航続距離の短いコンコルドはますます不利な状況に追いやられていった。結果的に、コンコルドを運行させたのは開発国の航空会社であるエールフランスとブリティッシュ・エアウェイズの2社にとどまってしまい、機体も量産機16機のみが製造されただけで1976年には製造が中止された。そして、コンコルドにとどめを刺したのが、2000年7月25日、エールフランス機がパリのシャルル・ド・ゴール空港を離陸した直後に墜落した事故だ。この事故は地上で巻き込まれた犠牲者を含めて113人が死亡するという大惨事であった。この事故を受けて、2003年にはエールフランス機、ブリティッシュエアウェイズ機ともに営業運行が停止され、世界の空から超音速旅客機は姿を消した。

それ以降、超音速旅客機は登場していないが、研究自体は続けられていた。
昨年2月には、NASA はロッキード・マーティン社と共同でソニックブーム問題の解決に向けてプロジェクトを開始した。このプロジェクトの目標は、静かな次世代型超音速旅客機を開発して超音速での空の旅に再び扉を開くことだという。そして開発チームによると、低騒音の超音速機「QueSST (Quiet Supersonic Transport) 」[2] の基本設計において、超音速飛行に伴うソニックブームによる破壊的な騒音をソフトな「ゴツン」という音に抑えることが可能になったという。これによって、NASA は、そう遠くない将来、これまでアメリカでは洋上飛行しか認められていなかった超音速飛行の、陸上での飛行への道が開けることを期待しているようだ。


QueSSTのイラスト
[Credits: NASA / Lockheed Martin]
今年2月には100分の9サイズの模型を使って、米クリーブランドの NASA グレン研究センターの 2.4 m × 1.8 m 超音速風洞での実験が行われた。実験では風速を時速 240 km から 1520 km (マッハ 0.3 から 1.6) まで変化させて、X-plane の空気力学と推進システムの特性が調べられた。期待通りの機能を発揮するかを検証するため、異なる迎え角で機体にかかる揚力や効力、横力が調べられた。これによって、開発チームは超音速機の低騒音化という目標は達成可能と結論づけたという。

もちろん、従来の”筒と翼”という航空機の形から外れた革新的な航空機設計 (非常に長いノーズとデルタ型の翼 [3] ) から、開発チームが目指しているのはソニックブームによる騒音問題の解決だけではない。燃料消費や排気の低減も目指している。今後は試作機の製作に取り掛かり、2021年の早い時期に実験機が実際に試験飛行を行うと見られていて、超音速旅客機の実現へまた一歩近づいて行くと考えられる。それには現状の陸上での超音速飛行の禁止という規則の変更も含まれる。

超音速旅客機は、NASA/ロッキード・マーティンだけでなく、米デンバーの航空ベンチャー Boom Technology社、日本の JAXA を始め世界中で開発が進められていて、各国がしのぎを削っている。そう遠くない将来、より「静かな」超音速旅客機が実現されれば、これまでのような洋上だけでなく、陸上での超音速飛行も可能になるだろうし、これまで数時間から10時間ほどかかっていた遠くの目的地まで短時間で行くことができるだろう。そうなると、例えば、ニューヨークからロンドンへの日帰り出張、東京からハワイまで日帰り旅行なども可能になるかもしれない (まぁ、個人的には、日帰りでハワイに行きたいとは思わないけど) 。

ただし、問題はコストだと思う。QueSST はコンコルドほどは燃料を大量に消費しないかもしれないが、100人程度しか乗れないとなると、料金がバカ高くなり、結局はセレブのための飛行機になってしまわないだろうか?そうなると、庶民は相変わらず窮屈な席で何時間も我慢しなければならない。セレブは超音速旅客機、庶民は従来の旅客機と二極化してしまわないだろうか、ということが気にかかるが。

ともあれ、2020年代には約20年ぶりに実際に空を飛ぶ超音速旅客機を僕らは目にすることができるようになるのかな?

関連記事はこちら。
NASAのプレスリリース他:
https://www.nasa.gov/press-release/nasa-completes-milestone-toward-quieter-supersonic-x-plane
https://www.nasa.gov/press-release/nasa-wind-tunnel-tests-lockheed-martin-s-x-plane-design-for-a-quieter-supersonic-jet
https://www.nasa.gov/feature/the-quesst-for-quiet
ロッキード・マーティン社の QueSST のサイト:
http://www.lockheedmartin.com/us/products/QueSST.html
Boom Technology社のサイト:
https://boomsupersonic.com/
JAXA の SST 関連サイト:
http://www.aero.jaxa.jp/research/frontier/sst/concept.html


[1] この値は気温 15 ℃ での音速を表している。高度 10,000 m (気温 -50℃) ではマッハ 1 は時速約 1084 km となる。

[2] QueSST は NASA が計画した低ブーム飛行デモ (LBFD: Low Boom Flight Demonstration) 実験機の初期の設計段階のもので、別名「Xプレーン (X-plane) 」とも言われているものだ。

[3] NASA のWebサイト上のイラストを見ると、コンコルドに比べてノーズが非常に長く、デルタ翼もスッキリした感じだ。

Date: 2017/09/23
Title:最大と最小サイズの脊椎動物、絶滅危険性が深刻に
Category: 生物
Keywords: 最大と最小サイズ、脊椎動物、絶滅危険性


ネットのニュースを検索していたら、興味深い記事に出くわした。それは、
最大と最小サイズの脊椎動物、絶滅危険性が最も深刻になっている
という内容の記事だ。

ちょっと前に、最も速く走る動物は体のサイズが最小でも、最大でもなく、中間のサイズの動物だという内容のブログを書いたが、今回は体のサイズが絶滅の危険性に関係しているという話だ。

米オレゴン州立大学の研究者らが行なった研究によると、脊椎動物の中で、体の大きさが中間のサイズの動物に比べて、体のサイズが最大と最小クラスの動物は絶滅の危険性に直面しているという。彼らは国際自然保護連合 (IUCN:International Union for Conservation of Nature) のレッドリスト (絶滅の恐れのある野生生物のリスト) の評価対象の27,000種以上の脊椎動物を調査し、約4,400種が絶滅の危機にあるという。

評価対象の動物のグループは、鳥類、爬虫類、両生類、硬骨魚類、軟骨魚類 (多くはサメとエイ) 、哺乳類だ。これらのうち、大型の動物は人間によって殺され、消費されている。そして、体重が1kg以上の絶滅危惧種の約90%は人間による狩猟によって生存が脅かされている。

一方で、絶滅の危機に瀕している最小サイズの種は、概ね体重が35g未満の小ちゃな脊椎動物で、多くは生息地の消失や変化によって生存が脅かされている。研究者は、これらの小ちゃな動物の例として、クラークのバナナガエル (Clarke's banana frog、どういう種類のカエルかよくわからん!) 、ルリハラハチドリ (sapphire-bellied hummingbird) 、ハイイロチビヤモリ (gray gecko) 、ブタバナコウモリ (hog-nosed bat) 、ウォーターフォール・クライミング・ケーブ・フィッシュ (waterfall climbing cave fish) を挙げているが、淡水が必要な小さな種ほど危険にさらされているという。

最大級の哺乳類 (クジラ、ゾウ、サイ、ライオンなど) は保護プログラムの対象になっているのはよく知られている。しかし、哺乳類ではない体の大きな種にも注意を払う必要がある。それらの中には、大型の魚類、鳥類、両生類、爬虫類、例えば、ジンベイザメ (whale shark) 、タイセイヨウチョウザメ (Atlantic sturgeon) 、ソマリアダチョウ (Somali ostrich) 、チュウゴクオオサンショウウオ (Chinese giant salamander) 、コモドオオトカゲ (Komodo dragon) が含まれている。

人間の行動は最大と最小クラスの動物をすぐにでも絶滅させてしまうように見える。そして、それは生態系を根本的に変えてしまうだろうと、研究者は述べている。そうならなようにするには、これまでとは違った保護戦略が必要とされるだろう。

関連記事はこちら。
ScienceDaily の記事:https://www.sciencedaily.com/releases/2017/09/170918132732.htm
オレゴン州立大学のサイトの記事:
http://oregonstate.edu/ua/ncs/archives/2017/sep/when-it-comes-threat-extinction-size-matters
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/3143367?cx_position=9
Proceedings of the National Academy of Sciences (概要) :
http://www.pnas.org/content/early/2017/09/12/1702078114

Date: 2017/09/18
Title:万能オリーブオイル 認知症予防に期待か?
Category: 医学
Keywords: アルツハイマー病、アミロイド斑、細胞外排出、エクストラバージンオリーブオイル


Newsweekで興味深い記事を見つけた (記事自体はちょっと前のだけど) 。それは、
「認知症予防は『万能』オリーブオイルで」
という記事だ。

認知症のような脳機能障害を引き起こすアルツハイマー病の原因の一つとして、主な症状として、アミロイドベータと呼ばれるタンパク質が脳内に蓄積してできるアミロイド斑が現れることが挙げられている。このアミロイド斑を減少させられれば、認知症を改善させられるのではと期待されているが、これには睡眠 (時間や質) が関係しているということが指摘されている (TVの健康番組でこの話をやっていた) 。また、脳内での細胞の「自食作用 (オートファジー) 」が細胞内のアミロイドベータの細胞外への排出に関与しているという研究報告もあるようだ。

そして、今回の記事では、地中海料理によく使われるエクストラバージンオリーブオイル (果実を搾って濾過しただけで、化学処理を行わないオリーブオイル) が「脳の掃除」効果があるかもしれないという。研究を行ったのは米テンプル大学の研究チームで、彼らはアルツハイマー病の遺伝子を組み込んだマウスを使った実験を行なった。その結果、エクストラバージンオリーブオイルを豊富に含んだ餌を与えられたマウスは、オリーブオイルを与えられていないマウスに比べて、記憶力と学習能力を調べる認知機能テストではるかに好成績を収めたという。そしてそのマウスの脳組織を調べた結果、オリーブオイルを与えられたマウスはアミロイド斑が少なく、ニューロン (神経細胞) の見た目や機能も大きく違っていたという。

さらに、シナプス (ニューロン同士の結合部) もよく保たれていて、「オートファジー (自食作用) 」も活性化していたという。オートファジーの活動低下はアルツハイマー病発症に関連があるとみられていて、それを予防する仕組みを突き止めれば、治療法の開発に役立つと期待されている。
研究チームの次の目標は、アルツハイマー病が進行したマウスをにオリーブオイルを与えて、病気の進行を阻止し、回復に向かわせる効果があるかどうかを調べることだという。

日本では、かつてのイタ飯ブームや、最近では美容と健康にいいと注目されて需要ば伸びているが、さらに認知症にも効くということが証明されれば、この天然オイルの需要がさらに増えるかもしれない。

Date: 2017/09/09
Title: 最強クラス「Xクラス」の太陽フレアが発生 - 地球への影響は?
Category: 太陽
Keywords: 太陽フレア、コロナ質量放出


TVやネットのニュースなどで報じられているけど、6日に太陽表面での爆発現象「太陽フレア」が発生した。NASAのサイトによると、最初に発生したのは6日5:10(米東部夏時間、日本時間6日18:10)で、その後8:02(米東部夏時間、日本時間6日21:02)にはより大きな爆発が起こったようだ。太陽フレアの規模は放出されたX線の最大強度による5段階の等級(A,B,C,M,X)で表されるが、今回のフレアは最大級の「Xクラス」で、1回目は X2.2、2回目は X9.3 だった(それぞれX1の2.2倍と9.3倍だ)。その後、7日にも M7.3 と X1.3 クラスのフレアが発生したようだ(M1はX1の1/10)。

太陽フレアに伴い、コロナ質量放出(CME)と呼ばれるエネルギーの大きな荷電粒子が大量に放出されるが、これが地球に到達するのは、当初8日午後3時から9日午前0時頃とみられていた。しかし、爆発の規模が予想以上に大きかったため、荷電粒子の到達が6時間ほど早まったようだ。これが地球に到達すると、オーロラが発生したり、磁気嵐によって送電網へのダメージ(大規模停電)や人工衛星(GPSの誤差が大きくなる)、無線通信への大規模な障害が懸念されるが、TVのニュースでは一部で障害も発生しているようだ。
今のところ大規模な障害は発生していないようだが、今後2、3日は影響が出る可能性があるようだ。

Xクラスの太陽フレアはちょうど3年前の2014年9月にも発生しているが(この時の規模は X1.6 クラス)、この時は大規模な障害は発生していたかったと記憶しているが、今回も杞憂に終わればいいけど…。

関連記事はこちら。
毎日新聞の記事:
https://mainichi.jp/articles/20170908/k00/00e/040/221000c
NASAの記事:
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2017/active-region-on-sun-continues-to-emits-solar-flares
NOAA SPACE WEATHER PREDICTION CENTER::
http://www.swpc.noaa.gov/

Date: 2017/08/19
Title:世界で最も恐ろしい生物 - 蚊
Category: 生物
Keywords: 最も恐ろしい生物、死者数、蚊、感染症


ネットのニュースに張ってあるリンクを辿っていたら、興味深い記事に出くわした (記事自体は2年前のものだけど) 。

このところ、国内のあちこちでヒアリが見つかってニュースになっている。大部分は中国などから貨物船で運ばれてきたコンテナの中や港の敷地内で発見されているが、最近では内陸部でも発見されていて、この先、どんどん広がって国内に定着してしまうのではないかと危惧される。
ヒアリはアルカロイド系の毒と強力な針を持ち、刺されると激しい痛みを覚え、水疱状に腫れるとされている。場合によってはアレルギー反応の中でも、特にアナフィラキシーショックを起こすこともあるという (アメリカでは死亡例もあるようだ) 。

さて、ヒアリの話はさておき、今回見つけた記事の話だが、それは「世界で最も恐ろしい生物」についての話だ。この記事の元になったのは、マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏のブログで、2014年4月25日に書かれた " The Deadliest Animal in the World " というタイトルのブログ記事だ。

「地球上で最も危険な生物は? サメ? ヘビ? 人間?」という書き出しで始まるこのブログによると、この問いの答えは、危険をどう定義するかによるし、彼自身は、映画『ジョーズ』を観て以来、サメが一番危険と思っていたようだ。しかし、毎年何人の人間が死んでいるかという基準で判断すると、その答えはサメでも、ヘビでも、人間でもない。
それは「蚊」だ。
ブログにはどの動物によって一年間に何人の人間が殺されているか、ランキングが掲載されている。ちなみに、ゲイツ氏が一番危険だと考えていたサメによる死者は年間10人で、トップ10にも入っていない。


世界で最も危険な生物ランキング
[gatesnote - The Deadliest Animal in the World より]
それではトップ5を挙げてみよう。

第5位 - 淡水カタツムリ、サシガメ、ツェツェバエ … 各々年間10,000人

淡水カタツムリ (淡水の巻貝) は住血球虫症を引き起こす寄生虫を媒介している。WHOによると、世界77カ国で2億人以上が感染しているとされる。
サシガメはシャーガス病と呼ばれる感染症を媒介している。
ツェツェバエはアフリカ睡眠病の病原体である寄生性原虫トリパノソーマを媒介している。この病気は病状が進行すると睡眠周期が乱れて朦朧とした状態になり、さらには昏睡して死に至る疾患。サハラ以南のアフリカの風土病で、感染者は5万から7万人と推定されている。

第4位 - イヌ … 年間25,000人

え? あの可愛いワンちゃんが…と思う人もいるかもしれない。
それじゃ、獰猛なイヌが人を噛み殺しているのでは?
いえいえ。人が噛み殺されているわけではないのです。
これは狂犬病の話です。狂犬病ウィルスに感染したイヌに噛まれて、人がウィルスに感染し、狂犬病を発病して世界中でこれだけの人が亡くなっているのだ。
日本では飼い犬への狂犬病ワクチンの予防接種が義務付けられているので、日本国内でイヌの狂犬病発生はないが、このような国は世界では珍しく、他にはイギリスなど数少ない国だけだ。なので、外国に旅行に行った時に、日本にいる時と同じ感覚でイヌに触れると危険なのだ。実際に、過去に外国旅行中にイヌに噛まれ、帰国後に発病して亡くなった例が何件かある。
狂犬病は現時点では有効な治療法は確立されておらず、ワクチン接種を受けずに発病した場合、致死率はほぼ100%と言われる恐ろしい病気なのだ。

第3位 - ヘビ … 年間50,000人

毒ヘビに噛まれて年間にこれだけの人が亡くなっているのだ。日本にも本土にはマムシとヤマカガシがいるし、奄美以南にはハブがいる。噛まれたら速やかに処置可能な医療機関で治療する必要がある。日本ではヘビに噛まれて死亡する人は年間数人から数十人ほどといわれているが、世界ではこれほどの人が亡くなっているのだ。

第2位 - ヒト … 年間475,000人

ここにきて殺された人数が桁違いに増えている。戦争やテロ、殺人事件など、人間による人間の殺戮はなくならないなぁ…。この死者数は人類は攻撃的な生物なのだということを思い知らされる数字だ。

第1位 - 蚊 … 年間725,000人

ダントツの1位は蚊だ。
蚊は世界で約2,500種が存在し、ヒトや動物の血を吸って、種によってはいろんな病気を媒介する。蚊が媒介する感染症でまず思い浮かぶのはマラリアだ。マラリアはエイズ (HIV) 、結核と並んで世界3大感染症といわれていて、WHOによれば2015年には年間約2億人が感染し、そのうち429,000人が亡くなっている。
その他にも蚊が媒介する病気として知られているのは、デング熱、日本脳炎が思い浮かぶ。デング熱は何年か前に日本での感染が見つかり、大変な騒ぎになったのは記憶に新しい。日本脳炎は1960年代頃からワクチン接種が行われた結果、国内での発症は劇的に減少したが、WHOによれば東南アジア、西太平洋諸島を中心に、68,000人が感染し、2万人前後が亡くなっているとされる。

このように、世界中で多くに人が感染し、命を奪っている病気を媒介する「蚊」。世界で最も恐ろしい生物たる所以がここにあるのだ。

関連記事はこちら。
毎日新聞の記事:https://mainichi.jp/premier/health/articles/20150925/med/00m/010/003000c
ビル・ゲイツ氏のブログ:https://www.gatesnotes.com/Health/Most-Lethal-Animal-Mosquito-Week

Date: 2017/07/30
Title: 「最大の動物が最速でない」理由を解明か?
Category: 生物
Keywords: 動物、走る速度、体のサイズ


ネットのニュースをチェックしていたら、面白いニュースに出くわした。それは、
「最大の動物が最速でない」理由を解明か、研究
という記事だ。

地球上の動物の走る速さは、体が大きいほど歩幅が大きくなるので速く走れると考える人もいるかもしれない。例えば、地上最大の動物であるアフリカゾウの最高速度は時速 40 km だが、これは人類最速の男ウサイン・ボルトの走る速さより速い (100 m を 9.6 秒で走った場合、時速 37.5 km だ) 。しかし、ゾウより小さな中間の大きさの体をしているチーターは時速 100 km を優に超える速度で走ることができるでの、体が大きい動物が必ずしも最も速い速度で走ることができるわけではないというのは、よく知られた事実だ。

今回米科学誌「ネイチャー・エコロジー・アンド・エボリューション (Nature Ecology and Evolution) 」に論文を発表したのは、ドイツ統合生物多様性研究センター (German Centre for Integrative Biodiversity Research) の生物学者のミリアム・ヒルト (Myriam Hirt) 氏を中心とした研究チームで、彼らは動物の動く速度を予測する新たなモデルを構築した。そのモデルを使えば、ショウジョウバエからシロナガスクジラまで、動物の速度の限界を90%の精度で予測でき、陸上、空中、水中の動物に関わらず、最小の動物でもなく、最大の動物でもなく、その中間の大きさの動物が、最大の速度で走る理由を明らかにした。

単純に考えると、速い速度で走るには大きな筋力が必要と思われるが、彼らのモデルによれば、筋力だけでは最高速度は決まらず、筋肉に蓄積された加速時に利用可能なエネルギー量と、加速時間によって決まるという。体が小さすぎると、そもそも筋肉組織の量が足りないため、速く走ることができない。逆に大きすぎると、質量 (体重) が過剰になるので、最高速度に達するまで長い時間がかかる。加速の局面では、筋肉が無酸素的に働く必要があるが、そこで利用可能な筋肉に蓄積されたエネルギー量が限られている。大きな動物は加速時間が長くなるため、最高速度に達するまでに筋肉から供給される無酸素性エネルギーを使い果たしてしまうからだ。そのため、体が大きくなりすぎると逆に最高速度が低下してしまうのだ。

研究チームは、軟体動物からクジラまで、飛行動物も含む474種 (体重 30 μg から 100 トンまで) のデータと彼らのモデルのアウトプットを比較した結果、動物の大きさが中型の域を超えると急激に低下するという彼らの予測には、良好な適合性が認められたという。そして、陸上ではチーター、空中ではハヤブサ、水中ではマカジキのような中間規模の体の大きさが、筋力とエネルギー出力との間で最高速度を出すのに最適であることが示されたのだ。
「今回の発表の興味深い点は、彼らのモデルが陸上、空中、水中のいずれの動物にも同じようによく当てはまることだ」と、別の研究者らはコメントしている。

さらに、今回の研究では、現存する野生動物だけでなく、恐竜のようなすでに絶滅した動物の最高速度も予測している。この結果から、興味ある次の疑問にも答えを出している。

「我々はティラノサウルスから逃げ切れるか?」

地球上に存在した最大級の肉食恐竜であるティラノサウルスの最高速度は、長い間古生物学者の間で論争の的となってきていて、これまでの推定では時速 18 km から 54 km とかなり幅があるものだった。しかし、今回の研究による予測では、ティラノサウルスの最高速度は時速 27 km 前後という結果が出ている。これはティラノサウルス (体長 12 m ほど) よりはるかに小さいヴェロキラプトル (体長 2 m ほど) の最高速度 55 km の半分ほどしかない。そうすると、ティラノサウルスの最高速度はウサイン・ボルトの最高速度時速 37 km より 10 km ほど遅いことになり、足の速い人ならばティラノサウルスから逃げ切れそうだ。

ティラノサウルスが思ったほど足が速くないのは、古生物学者にとっては、とりたてて驚く結果ではないという (ティラノサウルス・ファンにとっては見過ごせないことかもしれないけど…) 。
このことは別の研究でも示されていて、英マンチェスター大学の古生物学者ウィリアム・セラーズ氏らの研究チームは、ティラノサウルスの約7トンという体重と骨の力学的性質を合わせた新しいモデルを開発し、そのモデルで骨にかかる応力を考慮すると、走っている時には骨はある程度まで負荷に耐えられるが、それを超えると骨が砕けてしまうという。つまり、ティラノサウルスは白亜紀の恐竜たちの中では、どちらかというと「優秀なアスリートではなかった」ということが示されたのだ。

では、古生物学者ではない僕らのような門外漢が、ティラノサウルが速いと思い込んでいるのは何故なのか?
それは映画の影響のようだ。
映画『ジュラシックパーク』の中で、ティラノサウルスがジープを追いかけているシーンがあるが、ジープが高速で逃げているとしたら、それはありえない話なのだ。ギアが1速になっていれば別だが、そうなると、「ギアが1速になっているじゃないか! シフトアップせんかい!」とツッコミを入れたくなるようなシーンなのだ。

関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:http://www.afpbb.com/articles/-/3136125
ナショナルグラフィックの記事(1):http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/071900273/
ナショナルグラフィックの記事(2):http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/072000049/
Nature Ecology & Evolution の記事:http://www.natureasia.com/ja-jp/natecolevol/pr-highlights/12038
Nature Ecology & Evolution の論文 (原文) :https://www.nature.com/articles/s41559-017-0241-4

Date: 2017/07/22
Title: 不思議な数 ナルシシスト数とは?
Category: 数学
Keywords: ナルシシスト数


ネットのクイズをやっていたら、回答が「ナルシシスト数」というのに出くわした。
僕は迂闊にもナルシシスト数というのを知らなかった (大学時代も含めて、数学の時間に習った記憶もないなぁ…) 。
なので、調べて見た。

そもそもナルシシスト数 (Narcissistic Number) とは、一体どういう数なのか?

\(n\) 桁の正の整数 \(N\) について、その各桁の数の \(n\) 乗の和が元の数 \(N\) に等しくなるとき、その数 \(N\) をナルシシスト数という。具体的には次のような数だ。

(1) 1桁の数の場合
この場合は \(n = 1\) で、\(N^1 = N\) となるので、\(N\) が1桁の数の場合、すべての1桁の数
(\(N = 1,\,2,\,3,\,4,\,5,\,6,\,7,\,8,\,9\)) はナルシシスト数だ。これは簡単だ。

(2) 2桁の数の場合
2桁のナルシシスト数は存在しない。

(3) 3桁の数の場合
3桁のナルシシスト数は 153、370、371、407 の4つだ。
実際に計算してみると、
\(N = 153:1^3 + 5^3 + 3^3 = 1 + 125 + 27 = 153\)
\(N = 370:3^3 + 7^3 + 0^3 = 27 + 343 + 0 = 370\)
\(N = 371:3^3 + 7^3 + 1^3 = 27 + 343 + 1 = 371\)
\(N = 407:4^3 + 0^3 + 7^3 = 64 + 0 + 343 = 407\)

(4) 4桁の数の場合
4桁のナルシシスト数は 1634、8208、9474 の3つしかないのだ。
これも実際に計算してみると、
\(N = 1634:1^4 + 6^4 + 3^4 + 4^4 = 1 + 1296 + 81 + 256 = 1634\)
\(N = 8208:8^4 + 2^4 + 0^4 + 8^4 = 4096 + 16 + 0 + 4096 = 8208\)
\(N = 9474:9^4 + 4^4 + 7^4 + 4^4 = 6561 + 256 + 2401 + 256 = 9474\)

とまぁ、こんな風になるのだ。4桁の数までは Excel を使ってガンバって計算しようという気になるけど、5桁以上となるとさすがに計算する気になれない (プログラムを組めば計算できるだろうけど) 。

一体ナルシシスト数はどのくらい存在するのかというと、0を除けば全部で87個存在し、そのうち最大の数は39桁の数

\(115132219018763992565095597973971522401\)

だそうだ (詳細は以下のサイトを見てください) 。
Wolfram Math World:http://mathworld.wolfram.com/NarcissisticNumber.html

それでは、ナルシシスト数が有限個しかないということはどのように証明されるのか?

そこで、\(n\) 桁の数 \(N\) を考える。
数 \(N\) の各桁の \(n\) 乗の和は最大で
\begin{align} 9^n + 9^n + \cdots + 9^n = n9^n \end{align} また、\(N\) は \(n\) 桁の数なので、
\begin{align} N \geq 10^{n-1} \end{align} したがって、\(N\) がナルシシスト数ならば
\begin{align} n9^n \geq 10^{n-1} \end{align} となることが必要だが、これは \(n \leqq 60\) の場合に成立する。つまり、どんなに大きくても60桁以下 (実際には最大で39桁) の数なので、ナルシシスト数は有限個しか存在しないのだ。

上の不等式が \(n \leqq 60\) の場合にしか成立しないことは、多項式と指数関数の極限について次のことが成り立つことを使えば理解できる。
\begin{align} r \geq 0,\, a > 1 \end{align} のとき、以下が成り立つ。
\begin{align} \lim_{x \to \infty} \frac{a^x}{x^r} = \infty \, , \, \lim_{x \to \infty} \frac{x^r}{a^x} = 0 \end{align} 上の不等式を変形して、左辺と右辺の比をとると、
\begin{align} r_n = \frac{(10/9)^{n-1}}{9n} \end{align} となるが、これの \(n \to \infty\) の極限をとると、
\begin{align} \lim_{n \to \infty}\frac{(10/9)^{n-1}}{9n} = \infty \end{align}
となって発散してしまう。つまり、\(n\) がある値を超えて大きくなると分子の指数関数が分母より大きくなってしまい、\(r_n \leqq 1\) を満たさなくなるのだ。それでは、実際に \(n\) がいくつ以上であれば \(r_n \leqq 1\) を満たさなくなるのか、横軸に \(n\) 、縦軸に \(r_n\) をとってグラフを書いてみると、左の図のようになる。

このグラフから、\(n\) が 60 を超えると \(r_n\) が急激に大きくなることがわかる。つまり、\(r_n \leqq 1\) を満たすためには \(n \leqq 60\) でなければならないのだ。

ところで、この不思議な数ナルシシスト数は一体何の役に立つのか?
数学的には特に深い意義はなさそうだし…。
数学のお遊びのようなものかな。
ナルシシスト数の「ナルシシスト (narcissist) 」はナルシシズム (narcissism;自己愛、自己陶酔、うぬぼれ) を呈する人という意味だが、これを見つけた人は数学的に自己陶酔したとことから、ナルシシスト数と呼ばれるようになったのかな?(個人的見解ですが)

関連記事はこちら。
高校数学の美しい物語:http://mathtrain.jp/narcissistic
Wolfram Math World:http://mathworld.wolfram.com/NarcissisticNumber.html

Date: 2017/06/25
Title: 重力マイクロレンズ 太陽以外の星で初観測
Category: 物理
Keywords: 一般相対性理論、重力マイクロレンズ、初観測


久しぶりに AFPBB News をチェックしていたら、興味深い記事を見つけた。それは、
『光が曲がる「重力マイクロレンズ」 太陽以外の星で初観測 研究』
という記事だ。

今から100年ほど前にアインシュタインが発表した一般相対性理論は、非常に質量の大きい物体があると、その重力によって周りの空間が歪められ、その物体の側を通る光の経路が曲がるということを予言していた。これはつまり、質量の大きな物体の周りの空間曲がることでレンズの役目を果たすということを示しているわけだ (これを「重力レンズ効果」というのだ) 。実際、1919年、英国の天文学者アーサー・エディントン卿が、アフリカ西海岸のギニー湾に浮かぶプリンシペ島に遠征して、同年5月29日の皆既日食を観測したところ、この時彼が撮影した太陽の近傍に見える星の位置が、本来の位置からわずかにずれて写っていたことがわかった。このことは、太陽の重力場がレンズの役目をして、太陽の側を通った光の経路が曲げられるという一般相対性理論の予言を裏付けるものとなった。このニュースは世界中を駆け巡り、アインシュタインの名前が一躍有名になるきっかけとなったのだ。

しかし、アインシュタイン自身は、この現象を直接観測することは太陽以外の恒星では不可能と考えていたようだ (恒星どうしが離れているので、重力レンズ効果を直接的に観測できる見込みは全くないと論文でも記していたようだ) 。というのも、当時はまだ太陽系外の遠方の星を高精度で観測する手段がなく、遠方の星からの光が、手前にある星の重力でわずかに曲げられるのを検出できなかったからで、研究者たちは、1990年にハッブル宇宙望遠鏡が打ち上げられ、それが実現するまで100年もの間待たなければならなかった。

米宇宙望遠鏡科学研究所の研究者を中心とした研究チームが発表した今回の研究では、遠方にある星の前を別の星が通過するとき、遠方にある星からの光がどの位曲げられるかで、前方にある星の質量を見積もることができるという現象を、ハッブル宇宙望遠鏡を用いて初めて観測することに成功したというものだ。


[Credits: NASA, ESA, and A. Feild (STScI)]
観測した星は、地球から17光年離れたところにある太陽に6番目に近い星「スタイン2051 B (Stein 2051 B)」と呼ばれる白色矮星で、星の年齢は約27億年と見積もられている。白色矮星というのは、質量が太陽の3倍以内の恒星が水素の核融合反応を終えた残骸だ。研究チームは、遠方の星の前を横切っているこの白色矮星のそばを通った遠方の星からの光が曲げられて、本来の位置からずれて観測される現象を詳細に観測した。その結果、白色矮星が最も近づいた時で、そのずれは角度にしてわずか 2 ミリ秒だった。この僅かなズレは、例えて言えば、2400 km 離れたとことから10円玉の上を這っているアリを観測するようなもので、1919年にエディントン卿が観測した値 (1.6 秒角) より 1/1000 も小さい値だ。

この角度のズレの測定値から計算した白色矮星の質量は太陽の質量の 68% で、白色矮星の質量についての理論ともマッチしているという。白色矮星の質量には理論的な上限があり、1935年にインド生まれのアメリカの天体物理学者スブラマニアン・チャンドラセカール (Subrahmanyan Chandrasekhar, 1910 - 1995) によって初めて提唱されたもので、「チャンドラセカール限界 (Chandrasekhar Limit) 」と呼ばれている。

今回の成果は、他の方法では簡単には測定できない天体の質量を求める新たなツールを提供し、燃え尽きた星の構造と組成についての理論に新たな知見をもたらすものだという。研究者たちは、今後は、プロキシマ・ケンタウリのような太陽系に最も近い星で、同様の観測を計画しているようだ。今後の結果も期待されるのだ。

関連記事はこちら。 AFPBB Newsの記事:
http://www.afpbb.com/articles/-/3131260
NASAの記事:
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2017/hubble-astronomers-develop-a-new-use-for-a-century-old-relativity-experiment
宇宙望遠鏡科学研究所のニュースリリース:
http://hubblesite.org/news_release/news/2017-25

Date: 2017/06/11
Title: ストロベリームーンはなぜ赤っぽく見えるか?
Category: 太陽系
Keywords: 月、ストロベリームーン、色


6月9日は満月で、しかも赤みがかって見えるので「ストロベリームーン」と言われているらしい。

では、なぜ赤みがかって見えるのか?
簡単な説明を試みてみよう。

まずは、日の出、日の入りと同じように、月の出入りの時は、月からの光は南中の時 (月の中心が子午線を東から西に横切る時。この時、月の高度がもっとも高くなる) に比べて、地平線に対してより斜めから光がやってくる。そうすると、月からの光は大気に入射して僕らの目に届くまでの間に、より斜めになった分だけ空気中を長い距離を通らなければならない (下図) 。

moon_light
その間に、空気中の光の波長より小さいサイズの微粒子によって、波長の短い青い光 (波長約 470 nm) は散乱されてしまって、散乱されにくい波長の長い黄色 (波長約 580 nm) や橙 (波長約 610 nm) 、赤色 (波長約 700 nm) の光だけが目に届く [1][2] 。そのため、黄色っぽい (場合によっては赤っぽい) 色に見えるのだが、これは夕日が赤く見えるのと同じ現象だ。でも、これは夏至の時期だけでなく、いつでも起こることだ (実際に、何ヶ月か前、西の空に赤くなった月を見たことがある) 。これだけでは、夏至の時期に満月が少し赤みがかって見える説明にはならないし、満月でなくても起こることだ。

その次に考えなければならないのは、地軸の傾きと月の軌道傾斜角だ (以下、簡単のため、夏至の日に満月となった場合だけを考える) 。

moon_altitude
右の図のように、地軸は地球の公転面の法線 (公転面に対して垂直な線) に対して 23.4° 傾いている。東京の緯度は北緯 35.7° (東京都庁のある場所) なので、単純に考えると、夏至の日の満月の南中高度は 90° - 23.4° - 35.7° = 30.9° になる (満月の時は月は太陽と反対側にあるので太陽とは逆に高度は低くなる) と思われるかもしれない。しかし、ことはそんな単純ではなく、黄道面 (=地球の公転軌道面) に対して月の軌道は若干傾いていて、しかも 18.6 年周期で黄道面に対する月の軌道傾斜角は -5.1° から +5.1° まで変動するのだ。このことを考慮に入れると、夏至の日の満月の南中高度は年によって 25.8° から 36.0° まで変動するのだ。実際、2017年6月9日23:00の満月の高度は 30° ちょっとだったようだ。このように、夏至の時期の月の南中高度は 30° 前後と低く、月の出から月の入りまで空の低い位置をとおるため、他の時期より月の光は空気中をより長い距離をとおって僕たちの目に届くことになるので、いつもよりは黄色っぽかったり (場合によっては赤っぽく) 見えるのだ。

moon02
実際にはどのように見えたかというと、肉眼では微妙に黄色っぽいかな、という程度でした。でも、写真に撮ったらグレーにしか写らなかった (左の写真) 。

ところで、冬至の時期、春分と秋分の日の満月の南中高度は、冬至では 72.6° ~ 82.8° 、春分と秋分の日は夏至と冬至の中間で 49.2° ~ 59.4° となる。冬至の時期の南中の頃は、ほとんど真上を見上げないと月は見えないということだ。

関連記事はこちら。
国立天文台の暦Wikiの月の南中高度のページ:
http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/B7EEA4CEBDD0C6FEA4EAA4C8C6EEC3E62FC6EEC3E6B9E2C5D9.html


[1] 光の波長 (可視光線の波長はおおよそ 400 ~ 800 nm) より小さいサイズの微粒子によって光が散乱される現象をレイリー散乱という。これは太陽光が大気によって散乱されることで、空が青く見える現象を説明した英国の物理学者レイリー卿 (1842 - 1919) にちなんでつけられたのだ。
[2] 1 nm は 1ナノメートルと読む。ナノは10億分の1を表しているので、400ナノメートルは10億分の400メートル、つまり1万分の4ミリメートルだ。

Date: 2017/04/23
Title: 地球から40光年離れたところにスーパーアース発見
Category: 宇宙
Keywords: 太陽系外惑星、スーパーアース、LHS 1140b、生命存在の可能性


ネットのニュースをチェックしていたら、気になるニュースを見つけた(テレビのニュースでもやっていたけど)。それは、
「地球の40光年先にスーパーアース発見、生命体の証拠確認に有望視」
という記事だ。

ちょっと前に、地球に最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリ (Proxima Centauri) の周りを地球サイズの惑星が発見され、さらに地球から40光年離れた恒星系トラピスト1 (TRAPPIST-1) に地球に似た惑星が発見された。それらの惑星はハビタブルゾーン (habitable zone; 生命居住可能領域、ゴルディロックス・ゾーンともいう) にあり、液体の水が存在する可能性があるという記事を見つけ、ブログにも書いたが、またもや似たような発見があったようだ。


主星の赤色矮星の周りを公転する
太陽系外惑星 LHS 1140b のイメージ画像
[Image Credit: M. Weiss/CfA]
今回発見された惑星もトラピスト1と同じ距離 - 地球から40光年離れたところにあるが、場所は異なっていて、海の怪物「ケートス (Cetus) 」をかたどった「くじら座」にあるようだ (トラピスト1は水瓶座の方向) 。主星は「LHS 1140」と呼ばれる太陽の 1/5 ほどの大きさの小さな赤色矮星で、温度もずっと低い。その周りを今回発見された「LHS 1140b」と名付けられた惑星が回っている。

天文学者の研究チームは、チリにある望遠鏡を使って、惑星が恒星の前を横切るときに主星がわずかに減光する様子を観測した。この方法は恒星面通過 (トランジット法) と呼ばれる系外惑星を検出する方法として用いられている方法の一つなのだ。

観測の結果、LHS 1140b の直径は地球の約1.4倍で、25日で主星の周りを回っていて、主星とこの惑星との間の距離は太陽と地球の間の距離の 1/10 ほどしかなく、誕生したのは50億年ほど前であることがわかったという。主星と LHS 1140b の間の距離が非常に近いことから、これが太陽系の話であれば、惑星の表面は焦土と化し、大気や表層水は全て剥ぎ取られてしまうところだが、今回見つかった LHS 1140b では、主星が小さな赤色矮星で表面温度が低く、惑星が主星から受け取る光の量は、地球が太陽から受け取る量の半分ほどしかないため、惑星は表面が適度な温度になるハビタブル・ゾーン内にあるようだ。
また、LHS 1140b の重力がどの程度主星を引っ張っているかを観測した結果、LHS 1140b の質量は地球の約7倍であることがわかったという。このことは、この惑星はガス惑星ではなく、おそらく高密度の鉄のコアを持つ岩石質の惑星であることを示唆している。
これらのことから、この「スーパーアース (Super Earth、巨大地球型惑星) 」LHS 1140b の表面には液体の水が存在できる環境で、生命が存在する可能性が有望視されているのだ。

最近、太陽系外に、地球によく似たハビタブル・ゾーンにあり、生命存在の可能性が示唆されている惑星に発見が相次いでいるが、研究者によれば、これまでに発見された惑星はどれも、本当の意味で地球に似ているとは言いがたかったが、今回発見された LHS 1140b は観測しやすく、生命生存に適した条件を備えている可能性が高く、大きな期待を寄せているという。

今後、計画されているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、巨大マゼラン望遠鏡、欧州超大型望遠鏡などの最先端の大型観測装置を使って、惑星の大気を観測して、生命存在を示す最初の証拠が示されるかもしれないと期待されている。今後の観測に期待したい。

関連記事、サイトはこちら。
AFPBB Newsの記事:
http://www.afpbb.com/articles/-/3125723
ナショナルジオグラフィックの記事:
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/042000152/
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの記事:
https://www.cfa.harvard.edu/news/potentially-habitable-super-earth-prime-target-atmospheric-study
MITの記事:
http://news.mit.edu/2017/another-new-potentially-habitable-planet-discovered-0421

Date: 2017/04/16
Title: 土星の衛星エンケラドスで水素分子が検出された - 生命誕生の条件
Category: 太陽系
Keywords: 土星、衛星、エンケラドス、水素分子


年くらい前に、NASA の土星探査機「カッシーニ (Cassini) 」が土星の第2衛星「エンケラドス (Enceladus) 」を観測したデータから、エンケラドスの表面を覆っている氷の下が液体の海で覆われていることが水がわかったと発表したことをブログに書いていたが、その後エンケラドスの上空 48 km にまで接近して、エンケラドスの表面の氷の割れ目から噴出している水蒸気のプルーム (水柱) を観測した結果、プルームから水素分子が検出されたという。

これまで、エンケラドスでは水蒸気プルームが噴き出していることから、氷の下にある海の海底で、熱水化学反応が起きていると考えられてきた。観測の結果から、プルームの約 98% は水、約 1% が水素で、残りは二酸化炭素、メタン、アンモニアを含む分子の混合物だという。今回、検出が困難とされてきた水素が検出されたことから、エンケラドスは生命を維持できる可能性があることを示しているという。

ではなぜ水素が検出されることが生命存在可能性につながるのかというと、こういうことだ。仮に微生物が存在する場合、その微生物は水素と水の中に溶け込んだ二酸化炭素を反応させて、エネルギーを得ることができるからだ。副産物としてメタンを生成するこの化学反応は、地球上の生命の根源として重要なものなのだ。エンケラドスでまだ生命は見つかっていないが、少なくとも”食糧源”は見つかっている。研究者によれば「それは微生物にとってキャンディー・ストアのようなもの」だそうだ。

エンケラドスは太陽系内で地球以外で微生物のような生命が存在する可能性の高い星の一つに数えられてきて、他には火星、木星の衛星イオとエウロパ、土星の衛星タイタンなどが候補に挙がっているが、今回の観測結果から、生命存在可能な条件を示していることに関して、太陽系内でエウロパとともに最上位に躍り出たようだ。

YouTube に NASA のビデオが公開されていた。これです。


関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:
http://www.afpbb.com/articles/-/3125084
NASA の記事:
https://www.nasa.gov/press-release/nasa-missions-provide-new-insights-into-ocean-worlds-in-our-solar-system
Science の記事:
http://www.sciencemag.org/news/2017/04/food-microbes-abundant-enceladus

Date: 2017/03/25
Title: ネアンデルタール人は鎮痛剤を使用していた?
Category: 古人類
Keywords: ネアンデルタール人、歯石、細菌、病気治療、鎮痛作用


Web 版のナショナルジオグラフィックを見ていたら、興味深い記事を見つけた。それは、
「ネアンデルタール人が鎮痛剤、歯石分析で検出」
という記事だ (AFPBB News でも同じような記事を見つけた) 。

それによると、ベルギーとスペインで発見されたネアンデルタール人の化石に付着していた歯石から研究者たちが採取した動物と植物と細菌のDNAを抽出して分析したところ、興味深い結果が得られたという。

まずは、ネアンデルタール人の食生活についてだが、ベルギーのネアンデルタール人の歯石からは、野生のヒツジとケブカサイ (1万年ほど前に絶滅したサイの仲間で、マンモスとともに氷河期を代表する動物) のDNAが確認され、彼らの食生活が肉食に偏っていたことが示された。一方のスペインのネアンデルタール人の歯石からは、コケや松の実、キノコなどが確認され、彼らが菜食中心の食生活を送っていたことがわかった。

次に、微生物に関してはさらに興味深い結果が得られたという。オーストラリアのアデレード大学の研究チームは、ネアンデルタール人の歯石のマイクロバイオーム (体内などの特定の環境にいる微生物のまとまり) からDNAを抽出したところ、彼らがどんな病気にかかり、どんな薬で治療していたかがわかったという。
例えば、スペインのエル・シドロン洞窟で暮らしていたネアンデルタール人の個体からは、歯周病の病原菌が見つかった (ナショナルジオグラフィックの記事によると、Methanobrevibacter oralis という古細菌の亜種) 。さらにポプラの DNA も見つかっていて、これは、ポプラがサリチル酸 (アスピリンの有効成分) を含んでいるため、おそらく鎮痛作用を求めて採取していたのだろいうと推測されている。
また、下痢と吐き気の病原菌 (Enterocytozoon bieneusi) も見つかっているが、それと同時に、アオカビの一種の DNA も見つかっていて、治療のための抗生物質の素として摂取していた可能性があるという。
世界初の抗生物質は、1928年に英国の細菌学者アレキサンダー・フレミングによって発見されたが、それより4万年以上も前に、ネアンデルタール人は薬用植物の持つ抗炎症作用や鎮痛作用を知っていて、自己治療を行なっていたと考えられるのだ。

古代人の歯石を調べて、彼らの暮らしについての手がかりにするというアイデアはこれが初めてではなく、実は何十年も前からあったようだ (今回の論文の共著者の一人は1980年代からこの手法に取り組んでいたようだ) 。しかし、古代人の歯石に隠された秘密をしっかりと読み取れるようになったのは、強力な顕微鏡検査手法と、遺伝学的な分析が正確にできるようになったことが大きい。

実は、今回の研究結果にあるような、ネアンデルタール人が肉も野菜も食べ、薬草を病気の治療に利用していたことは自体は新しい発見ではなく、今回の結果は、以前からわかっていたことが改めて確認されただけだという。
では、今回の研究結果の本当の新発見はなんだったのかというと、肉食系のネアンデルタール人と草食系のネアンデルタール人ではマイクロバイオームは違っていて、現代人のそれとも異なっていることだとそうだ。そしてこの違いはそれぞれのグループが食べていたものの違いによるものかもしれないという。

ただし、ネアンデルタール人はともかくとして、現代人に関して、食べ物でマイクロバイオームがどう変わるか調べるのは、非常に難しそうだ。何百万人に何ヶ月も同じ食べ物を食べ続けて協力してもらわなければならないし。しかし、1カ所に定住し、そこで手に入れられるだけの食物を摂取していたネアンデルタール人のを基準にすることで、何がマイクロバイオームを変えたのかがわかるという。つまり、マイクロバイオームを研究することで、食生活の変化が人間社会にどのような影響を与えたのか、さらには食生活がもたらす問題の対処法を見つけるのに役立てられると期待されている。

研究チームはさらに、歯周病を引き起こした古細菌 Methanobrevibacter の亜種の全ゲノムの塩基配列を決定したという (これは配列が明らかになった微生物のゲノムでは最古のものだそうだ) 。分析の結果、今回のネアンデルタール人にいたこの細菌は約12万5000年前に生じたものであることがわかったそうで、この時代は、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が交雑していたと考えられている時期だという。

この細菌は唾液の交換で人から人に伝えられることがわかっていて、このことから、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は唾液の交換を伴う接触をしていたことを示唆している。口腔内の微生物は、キスをしたり (まぁ、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は交雑していたくらいだから、キスぐらいもしたんだろうな、なんてことを想像してしまうけど…) 、食べ物を分け合ったりすることで伝えられる。つまり、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は仲良く暮らしていた根拠の一つになると考えらるという。これは、ネアンデルタール人が原始的で凶暴で、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の交雑が暴力的に行われたという従来の考えを覆すことにもなるのだ (そういえば、昔読んだヒトとネアンデルタール人を描いた本も、ネアンデルタール人を凶暴な原始人のように描いていたような気がする。何年も前のことなので記憶が曖昧だけど…) 。

何はともあれ、歯石に残されたたった細菌を調べることでこれだけのことがわかるというのは、驚くべきことだ。その当時は、現代のような歯石の原因になる歯垢を取り除く歯磨き粉なんかなかった。もし、彼らが食後にきちんと歯磨きをしていたら、今回の研究で示されたことはわからなかったかもしれない。

関連記事、サイトはこちら。
ナショナルジオグラフィック:
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/031000092/
AFPBB News:
http://www.afpbb.com/articles/-/3120730
ベルギー王立自然科学研究所の記事:
https://www.naturalsciences.be/en/news/item/6679/
Nature の論文 (概要):
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature21674.html

Date: 2017/03/02
Title: 地球から40光年の恒星系 TRAPPIST-1 に地球と似た7つの惑星見つかる
Category: 宇宙
Keywords: 恒星系、TRAPPIST-1、系外惑星


ネットのニュースをチェックしていたら面白い記事を見つけた (この話はTVのニュースでもやっていた) 。それは
「NASA、地球に似た7惑星発見 水存在の可能性」
という記事だ。

米航空宇宙局 (NASA) は、ベルギーのリエージュ大学 (University of Liège) との共同研究で、太陽系外に地球によく似た惑星を7個発見したと発表した。その場所とは、水瓶座の方向に地球から約40光年離れた「トラピスト1 (TRAPPIST-1) 」と呼ばれる恒星系だ。この恒星の周りを回っている、大きさが地球の 0.76~1.76 倍の惑星が7個も見つかったのだ。観測はヨーロッパ南天天文台 (European Southern Observatory;ESO) の超大型望遠鏡 (Very Large Telescope;VLT) と NASA のスピッツァー宇宙望遠鏡 (Spitzer Space Telescope) で行われたもので、主星のトラピスト1は超低温の赤色矮星とみられる非常に暗い星で、大きさは木星より少し大きい位で、質量は太陽の8%ほどしかないという。

TRAPPIST-1系のイメージ
Credits: NASA/JPL-Caltech
研究チームは、望遠鏡で惑星が恒星トラピスト1を横切った時、トラピスト1からの光が減光する様子を詳細に観測して、7個の惑星が恒星の周りを回っているのを見つけ、惑星の大きさや軌道の大きさを見積もったのだ。7個の惑星は内側から「TRAPPIST-1b、c、d、e、f、g、h」と名付けられ、惑星の密度の測定結果からは、そのうち6個は岩石からできているようだが (最も遠い h は氷の惑星とみられている) 、恒星からの距離は非常に近く、太陽から水星までの距離よりはるかに短いという。そのうちより内側にある b、c、d は恒星に近すぎて水が液体として存在するには温度が高すぎるようだが、恒星は暗くて温度の低いため、恒星から近い距離にもあるにもかかわらず、より外側にある e、f、g はハビタブルゾーン (habitable zone; 生命居住可能領域) にあることがわかったという。つまり、この3つの惑星には水が液体で存在する (海がある) 可能性があるということだ。

ところで、ハビタブルゾーンに惑星が存在し、液体の海が存在する可能性があるということは、大方の人が次に期待するのが「生命が存在するのか?」ということだろう。しかし、現時点ではその点についてはわからない。現段階では「液体の海があるかも…」といっているだけだからだ。大気の組成など、まだまだ調べなければならないことが多い。今後、ハッブル宇宙望遠鏡や、新しく設置される予定の欧州超大型望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (James Webb Space Telescope) での観測も予定されているようで、これらの観測に期待しよう。

ネット上では、「生命が存在する可能性があるかもという話はもういい」「生命がいたという話をしてほしい」というようなコメントがあるようだが、そういう気持ちもわからないではないけど、それが確認できるようになるのはまだまだ時間がかかる話だ。今回の話は望遠鏡で太陽系外の恒星系を観測した結果なので、「地球によく似た惑星に液体の海があるかも」という話にしかならないのは当然のことだ。人類のように高等な文明を持つまでに進化した異星人がいるかどうかは、仮にいたとして、それを確認するすべは次の3つ位だと思う。

  1. 彼らが発した電波信号を受信する(1997年公開のジョディー・フォスターが主演した映画『コンタクト』のように)。
  2. こちらから送った電波信号を相手が受け取って返事が返ってくるのを待つ(往復80年かかるし、返事が帰ってくる保証はないけど)。
  3. この惑星まで出かけていく(ものすごく時間がかかるが…)。でも彼らが「どんなやつらか」は、会ってみないとわからない。
異星人がいるかどうかはさておき、生命が存在する可能性については、まずはその惑星を詳細に観測して、生命の存在に必要不可欠な三要素とされる、液体の水、有機物、熱エネルギーが全て存在するという証拠を地道に見つけていくしかないと思うのだ。

YouTube に NASA のビデオが公開されていた。


関連記事はこちら。
日経電子版の記事:
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGG22H1W_S7A220C1EA1000/
AFPBB Newsの記事:
http://www.afpbb.com/articles/-/3118936
NASA のプレスリリース:
https://www.nasa.gov/press-release/nasa-telescope-reveals-largest-batch-of-earth-size-habitable-zone-planets-around
ESO の関連サイト:
http://www.eso.org/public/news/eso1706/
ルギー・リエージュ大学の関連サイト:
http://thema.ulg.ac.be/spatial/en/trappist-1-2/

Date: 2017/02/12
Title: 光合成をする電池で 地球温暖化をストップ…か?
Category: エネルギー
Keywords: 光エネルギー、人工光合成、電池、地球温暖化


ちょっと前のNewsweekだけど、こんな議事が載っていた。
『光合成をする電池 温暖化をストップ』

植物は太陽などの光エネルギーを使って、水と大気中の二酸化炭素 (CO2) から炭水化物や酸素を生み出しているけど、植物の持つこの光合成という機能を人工的に作り出す「人工光合成」によって、貯蔵可能なエネルギーを生成する技術が、地球温暖化を食い止める救世主になるかもしれないと期待されているそうだ。

米イリノイ大学シカゴ校 (The University of Illinois at Chicago: UIC) の科学者たちは、昨年、人工光合成の電池の開発に成功したという。従来の化石燃料を使った発電では、エネルギーを生み出す一方、温室効果ガスを排出するという持続不可能で一方通行なものだ。しかし、この新しい電池は、太陽光を使って大気中の CO2 を燃料 (炭化水素) に生まれ変わらせて再利用するというものだ。この技術は日光を使うという点では太陽光発電と同じだが、決定的に違うのは植物のように大気中の CO2 を利用することだ (ただし、植物とは違い酸素は生み出さない) 。さらに、これらの電池を人工の「木の葉」として発電所で利用すれば、エネルギー密度の高い燃料を効率的に生産することができる。生成された合成ガスは直接燃焼させることもできるし、ディーゼルやその他の炭化水素燃料に変換することもできるという。

CO2 を燃料に変換するという点では、従来でも貴金属を触媒とした方法があったが、UIC が開発した電池は、新しい触媒としてナノ構造化合物のセレン化タングステン (WSe2) を使用したもので、貴金属を触媒とした従来のものより1000倍も反応が速く進み、価格も20分の1で済むという。

研究者によれば、この新技術は太陽光発電所のような大規模の施設だけでなく、小規模な施設でも活用されるべきで、将来的には、大気の大部分が CO2 で構成されている火星で、もし火星に水があることがわかれば、この新技術が役立つかもしれないという。

この UIC の研究には、全米科学財団 (NFS) と米エネルギー省が資金提供していて、NFS はこの研究を高く評価しているという。地球温暖化に懐疑的なドナルド・トランプ新大統領も、この技術は認めざるを得ないだろうと記事は結んでいる。

関連記事、サイトはこちら。
UIC の記事:
https://news.uic.edu/breakthrough-solar-cell-captures-co2-and-sunlight-produces-burnable-fuel

Date: 2017/02/05
Title: 静止気象衛星「ひまわり9号」が撮影した美しい地球の画像
Category: 気象
Keywords: 静止気象衛星、ひまわり9号、画像


先日、気象庁が昨年11月2日に打ち上げられた静止気象衛星「ひまわり9号」が地球の画像の取得に成功し、その画像を公開された。

気象庁のホームページによると、2014年10月7日に打ち上げられ、2015年7月7日から運用が開始された「ひまわり8号」と同じく、「ひまわり9号」も東経 140.7 度の赤道上約 35,800 km の静止軌道上にあり、3月から待機運用を開始し、その後8号と交代して2022年から2028年まで運用する計画だという。

ひまわり8号と9号は、基本的に同じ仕様の気象衛星で兄弟機なんだが、ネットのニュース記事によると、9号は緑色をより人間が見た色に近づける画像作成技術と、大気分子によって太陽光が散乱される影響を除去する技術によって、現在運用中の「ひまわり8号」の可視3バンド合成カラー画像より鮮明な画像になっているという。

実際に初画像どうしを比べてみると、たしかに9号の画像の方がより明るく鮮明な画像になっている。


ひまわり8号が撮影した地球の画像
[気象庁のホームページより]

ひまわり9号が撮影した地球の画像
[気象庁のホームページより]


関連記事、サイトはこちら。
ネットのニュース記事:
https://news.biglobe.ne.jp/domestic/0124/blnews_170124_2560856696.html
気象庁のホームページ (ひまわり9号の初画像) :
http://www.jma-net.go.jp/sat/data/web89/himawari9_first_image.html

Date: 2017/01/14
Title: 月の起源についての新たな説 - 複数衝突説は定説を覆すか?
Category: 太陽系
Keywords: 月形成、起源、複数衝突説


ネットのニュースをチェックしていたら、次のニュースに出くわした。
『月の起源、「巨大衝突」ではなかった? 定説覆す論文発表』

月の起源といえば、今では「巨大衝突 (ジャイアント・インパクト) 説」が最有力候補とされているが、それを覆す説が発表されたそうだ。

以前ブログにも書いたけど、巨大衝突説は1970年頃から提唱され始めたもので、今から約45億年前に、誕生間もない原始地球に火星サイズの惑星が衝突し、その時破壊された破片と、地球からえぐり取られたマントル物質が再集積して月が形成されたという説だ。
しかしその「巨大衝突説」も次のような矛盾を抱えている。それは、巨大衝突によって月が形成されたのであれば、月の成分の5分の1は地球由来のもので、残りの5分の4は衝突した惑星由来のものということになる。しかし、月の石の分析によって地球と月の物質の組成はほぼ同一であることがわかっている。そのため、この矛盾に研究者は長らく困惑してきたのだ。

今回、この巨大衝突説を覆す説を発表したのは、イスラエルのワイツマン科学研究所 (Weizmann Institute of Science) の研究チームで、それによると、1回の大きな衝突ではなく、小さな衝突が繰り返されたとした方が、月の形成をより自然に説明できるとしているようだ。
彼らは火星より小さな微惑星と原始地球との衝突を再現した800ものパターンにも及ぶコンピューター・シミュレーションを行った。その結果、微惑星が衝突するたびにその残骸の輪が原始地球の周りに形成され、その後それらが合体して数々の小さな月が形成される。このようにして形成された小さな月が合体していき、最終的に単一の月を形成したと考えられるという。
この複数衝突説では、単独の衝突より多くの物質を原始地球からえぐり出すため、小衛星の成分は地球のそれに近くなるという。研究チームによると、月の形成ににはこのような衝突が約20回必要だったと結論づけているようだ。
最後に、研究チームは、今回のシミュレーションで形成された小さな月が、どのように合体してして現在の月を形成したかを理解しようと、さらにシミュレーションを続けているという。

この「複数衝突説」の方が、従来の「巨大衝突説」に比べて月の形成をより自然に説明できるとしているようだが、この説は発表されたばかりだし、今後どのような論争を生んでいくのか、さらには受け入れられていくのかどうか注視してくことにしよう。

ワイツマン科学研究所のWebサイトには、この複数衝突説を説明する動画があり、 YouTube でも見られます。
これです。


関連記事はこちら。
AFPBB News の記事:
http://www.afpbb.com/articles/-/3113531
Nature Geoscience の論文 (Abstract):
http://www.nature.com/ngeo/journal/vaop/ncurrent/full/ngeo2866.html
Nature Geoscience の補足説明:
http://www.nature.com/ngeo/journal/vaop/ncurrent/extref/ngeo2866-s1.pdf
ワイツマン科学研究所の記事:
http://wis-wander.weizmann.ac.il/space-physics/multiple-impact-origin-moon

Date: 2017/01/03
Title: 3秒ルール すぐに拾えばOKか?
Category: 食品・衛生
Keywords: 食べ物、床に落下、3秒 (5秒) ルール、細菌付着


年末に読み終わった Newsweek を整理していて、面白い記事を見つけた。それは
『すぐに拾えばOK? 「5秒ルール」の真実』
という記事だ (そういえば、こんな記事があったなということを思い出した) 。

俗に「食べ物をうっかり落としても3秒以内だったらOK」というけれど (日本では”3秒ルール”だが、記事はアメリカでの話なので”5秒ルール”になっている) 、本当に大丈夫なのかということを記事では検証している。アメリカでのある調査によれば、回答者の87%が食べ物を床に落としても、すぐに拾って食べる、あるいは実際に食べたことがあると答えたそうだ (日本での調査は見つけられなかった) 。

この3秒ルール (5秒ルール) は科学的に見て正しいのだろうか?

記事によると、米クレムソン大学の研究者らによる2007年の調査では、カーペットと木製の床とタイルの床にそれぞれソーセージとパンを落として、ネズミチフス菌 (食中毒の原因になるサルモネラ菌の一種) がどの位付着するかを、時間別に調べる実験を行ったところ、ネズミチフス菌の付着は食べ物が床に落ちた瞬間から始まり、床に落ちていた時間が長くなるほど、付着する細菌も増加するという。

つまり、「床に落としたら即アウト」ということで、3秒ルール (5秒ルール) は間違っているわけだ。
これに対して、即拾えば付着する細菌は少ないじゃないかという人がいるかもしれないけど、すでに細菌が付着していることには変わりはない。まぁ、すぐに拾い上げれば付着する細菌は少ないという意味では正しいという意見もあるかもしればいが (記事ではそうなっていてるし、この「短時間で拾い上げれば付着する細菌が少ない」という実験結果は、英アストン大学による2014年の研究でも裏付けられているようだ) 。

さらに興味深い研究結果がある。2016年9月に米ラトガース大学が行なった研究によると、木材、ステンレス、タイル、カーペットの4種類の床の上にバターを塗ったパンやスイカ、グミなどの食材を落として、それぞれ1秒、5秒、30秒、5分間置いた時の細菌の付着状況を調べた。その結果、食べ物を床に落とした直後から細菌の付着が始まるという、これまでの研究結果を裏付ける結果を得たようだ。

その一方で、床のタイプや食べ物の種類が、拾うまでの時間と同等かそれ以上に細菌の付着状況を左右することがわかったそうだ。床のタイプでは、最も細菌が付着しやすいのはステンレスで、最も付着しにくいのはカーペットだったという (これは意外な結果だ) 。食べ物の種類では、スイカのような水分が多い食材ほど細菌が付着しやすいことがわかったそうだ (これは納得できる結果だ) 。

しかし、これらの研究は床に食べ物を落としたらすぐに細菌が付着するということだけで、僕も含めて専門外の人が最も知りたい疑問には答えていない。その疑問とは「床に落とした食べ物を食べても大丈夫か?」ということだ。この疑問に答えるには、普通の家庭の床にどんな細菌が潜んでいるかということを知る必要がある。

この点に答える研究はあまりなされていないようだが、1970年代に21世帯を調査した古い研究結果があるようだ。それによると、汚いイメージがあるトイレの床は、家庭内の他の場所と大差なく、最も細菌が多いのはキッチンのシンクの中だったという (ただし、無害な細菌も多かったという) 。さらにオフィス環境を調べた2005年の研究では、床が意外と清潔で、じゅうたん張りの床と空気中の汚染状況を比較したところ、床の方が細菌が少なかったという (しかし、これらの結果ついては掃除の仕方や頻度によるのではという疑問がある) 。

これらの結果から、記事は次のように結んでいる。
「5秒ルールは信用しても良さそうだ。そもそもこのルールがこれほど浸透しているのは、落としたものを拾って食べた人の大半がおなかを壊さなかったということなのだから」

確かにそのとおりだと思う。
日本でも”3秒ルール”が定着しているのは、落とした食べ物をすぐに拾って食べても、おなかを壊さなかった人が大半だったからだろう (ちゃんとしたデータは持っていないけど) 。
でも、床に落としたものを拾って食べるかなぁ?
僕だったらさすがに食べる気にはなれないなぁ。ましてや記事は欧米の話で、日本と違って靴を脱がない文化なので、土足で歩き回っている床の上に落としたものだし、絶対に食べないと思う。
まぁ、ちゃんと拭いたテーブルの上に落としたものだったら、ものによってはすぐに拾って食べるけど… (テーブルの上だって、TVの某CMのように「除菌しないと細菌がいっぱい」と心配する人もいるかもしれないけど) 。