かがくのつまみ食い 2021

サイエンス関連のトピックスを集めてみました。このページは2021年に書いたトピックスです。

 

Date: 2021/11/27
Title: 7 は”孤独”な数か? ― 2から10までの間ならね
Category: 数学
Keywords: お友だちの数、孤独な数


1を除く自然数を考える。

いきなり自然数全体を考えても難しいので、まずは10までの数を考える。

つまり、2から10までの数のうち、ある数が他の数を割り切ったり、他の数で割り切れたりする場合、これらの数のグループを「お友だち」の数と定義しよう。この場合、7だけがお友だちがおらず「孤独」な数になる。


ここで、1と自分自身以外では割り切れない数は素数なので、これは素数のことかと思った人もいるかもしれないが、「他の数を割ることができる」という条件がつくと、素数のうち2, 3, 5は例外だ。具体的に書くと、


① 全ての偶数は2で割り切れる。→ 2, 4, 6, 8, 10 は「お友だち」だ。

② 6と9は3で割り切れる。→ 3, 6, 9 は「お友だち」だ。

③ 4は2で割り切れるし、8は4で割り切れる。→ 2, 4, 8 は「お友だち」だ。

④ 5については、10は5で割り切れる。→ 5, 10 は「お友だち」だ。

⑤ 6は2と3で割り切れる。→ 2, 3, 6 は「お友だち」だ。

⑥ 8は2と4で割り切れる。→ 2, 4, 8 は「お友だち」だ。

⑦ 9は3で割り切れる。→ 3, 9 は「お友だち」だ。

⑧ 10は2と5で割り切れる。→ 2, 5, 10 は「お友だち」だ。


と、7以外の数は他の数のうち少なくとも1つは「お友だち」がいることになる。しかし、7には「お友だち」がいない。つまり、「7は孤独」なのだ。


これはあくまでも2から10までの数の話だ。10を超えると素数だけが候補になる。そこで、少し範囲を広げて20までの数を考える。

まず、11と13にも「お友だち」がいない「孤独な」数だ。しかし14はこれまで孤独だった7で割り切れるので、ここで7に「お友だち」ができることになる。他には17と19も孤独な数だ。

さらに30まで範囲を広げると、23と29が「孤独な」数であることがわかる。しかし、それまで孤独だった11と13にはそれぞれ22と26という「お友だち」ができる。


どんどん範囲を広げていくと、それまで「孤独」だった素数にもまず ”素数×2” という「お友だち」ができるし、そのうちさらに”3倍”、”5倍”と大きな「お友だち」の数が現れる。つまり、どんなに大きな素数であっても、じっと待っていればそのうち「お友だち」が現れるのだ。これは無限に続いていくことになる。

Date: 2021/10/31
Title: 数字であそぼー
Category: 数学
Keywords: 計算、遊び


とある本を読んでいて、計算のお遊びのような問題がいくつか出てきたので、紹介してみようと思う。 (ブログのネタがないときの”数学ネタ”だ)


[1] 10が二つ、4が二つある。どんな順番でも良いので、これらを全部使って、足したり、引いたり、掛けたり、割ったりして、答えを24にするにはどうすれば良いか?


(答え)\(\rm 10\times10=100 \, \rightarrow \, 100-4=96 \, \rightarrow \, 96 \div 4 =24\)


[2] 7が二つ、3が二つある。この4つの数字を使って、同じように24を作るには?


(答え)\(\rm \frac{3}{7}+3=\frac{24}{7} \, \rightarrow \, \frac{24}{7}\times7=24\)


[3] 1以外の数は、逆に並べた数を加えていくと、やがては回文のような数となる。例えば、

(1) \(38+83=121\)

(2) \(139+931=1070 \, \rightarrow \, 1070+0701=1771\)

(3) \(48,017+71,084=119,101\)

\(\quad\quad \rightarrow \, 119,101+101,911=221,012\)

\(\quad\quad \rightarrow \, 221,012+210,122=431,134\)


pic20211031.png

次の場合は24段階を要する。

(4) \(89 \rightarrow 8,813,200,023,188\)

(詳細は右の表を参照してください)


[4] 回文的な数の並びには、こんなものもある。

(1) \(21,978 \times 4 = 87,912\)

(2) \(10,989 \times 9 = 989,01\)

2つの式をつづけているものもある。

(3) \(24+3=27 \, \rightarrow \, 72=3 \times 24\)

(4) \(47+2=49 \, \rightarrow \, 94=2 \times 47\)

(5) \(497+2=499 \, \rightarrow \, 994=2 \times 497\)


[5] 素数とはその数と1以外では割り切れない数のことで、無限にある。その特色は、2 と 3 は別として、どれも 1 を加えるか引くかすれば、6 で割り切れる。例えば、20 未満の素数で言えば、1, 2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19 だが、1, 2, 3 を除けば、

(1) \(5 \, \rightarrow \, 5+1=6\)

(2) \(7 \, \rightarrow \, 7-1=6\)

(3) \(11 \, \rightarrow \, 11+1=12\)

(4) \(13 \ \rightarrow \, 13-1=12\)

(5) \(17 \, \rightarrow \, 17+1=18\)

(6) \(19 \, \rightarrow \, 19-1=18\)


という具合だ。


また面白そうなのを見つけたら、紹介しようと思う。


つづく。

Date: 2021/09/23
Title: 100年来の謎「宇宙線の起源」の解明に光がさす
Category: 物理
Keywords: 宇宙線、起源、ガンマ線、超新星残骸


ネットのニュースをチェックしていたら、気になる記事を見つけた。それは、

『100年来の謎「宇宙線の起源」が解明される』

という記事だ。


僕は学生時代(何十年も前の話だが)、研究室で高エネルギー宇宙線(1次粒子)の解析をやっていたんだが、その頃はまだ宇宙線の起源や加速機構については解明されていなかった。それがついに解明されたというのだから驚きだ。


発表したのは名古屋大学の研究チームで、その起源は超新星爆発にあるという。以前から超新星爆発が起源だろうとは考えられてきたが、それがついに明らかにされたのだ。



超新星残骸の一例(カシオペア座A)
[NASA/JPL-Caltech/O. Krause (Steward Observatory),
Public domain, via Wikimedia Commons]

ここで、宇宙線についてザックリ復習しておこう(昔勉強したことを思い出す意味でも)。


宇宙線の研究は、今から100年ほど前の20世紀初頭に始まった。ことの発端は、検電器に蓄えられていた電荷が、自然放電して少しずつなくなっていくことであった。当初は地球の大地からの放射線の影響で検電器の周りの空気がイオン化され、それによって放電が起こると解釈されていた。ところが、海の上でもエッフェル塔の頂上での測定でも同じような結果となり、原因を大地に求めることができなくなった。


そこで、オーストリア生まれの物理学者ヘス(Victor Franz Hess、1883-1964)らは、1912年から1919年ごろにかけて気球を飛ばして高空での電離の様子を調べた。その結果、電離は高度が高くなるにつれて増加することがわかり、放射線が上空からやってきて、それによって電離が起こっていると解釈された。そして、この大気の上空からやってくる放射線は極めて高い透過力を持っていて、地球大気の外、つまり宇宙空間からやってきていると結論づけられた。このようにして地球の外から来る放射線、つまり宇宙線の存在が1920年代半ばにはほぼ確かめられた。この功績によってヘスは1936年のノーベル物理学賞を受賞したのだ。


宇宙線は大別すると2種類に分けられる。ひとつは、地球の外からやってくるもので、1次宇宙線と呼ばれている。これに対して、1次宇宙線が地球大気に入射したときに空気との相互作用で様々な2次粒子が作られる。これらは総称して2次宇宙線と呼ばれている。そして、宇宙線には2つの側面がある。一つは1次宇宙線が宇宙のどこでつくられ、どのようにして高いエネルギーを獲得したかという天体物理学的な側面だ。もう一つは、1次宇宙線と大気の相互作用によってつくられる2次宇宙線を研究する原子核・素粒子物理学的な側面だ。ただ、現在は原子核・素粒子物理学の研究は加速器に取って代わられている(加速器でも実現できない超高エネルギー領域の研究は残っていると思うが…)。今回話題になっているのは、1次宇宙線の起源に関するもので、天体物理学としての側面だ。


1次宇宙線の主な成分は陽子(約90%)で、この陽子に対して \(\alpha\) 粒子(ヘリウム原子核)は約10%、さらに炭素、酸素、鉄などの重い原子核が含まれている。また、これらの粒子のほかに、X線、\(\gamma\) 線のような高エネルギーの光子、さらには高エネルギーの電子(宇宙線陽子の1/100ほど)やニュートリノも含まれ、これらを総称して宇宙線と呼んでいるのだ(なので、”宇宙線”という名前の固有の粒子が存在するわけではない)。


宇宙線のエネルギーは \(10^9\,\rm eV\)(10億電子ボルト)から、高いものでは \(10^{20}\,\rm eV\)(100,000,000,000,000,000,000 電子ボルト)を超えている。これは現在世界最大の加速器であるCERN(欧州合同原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)で作り出されるエネルギー(重心系衝突エネルギー)\(\rm 13\,TeV = 1.3 \times 10^{13}\,eV \) より7桁以上も上回るエネルギーだが、エネルギースペクトル(エネルギー分布)はエネルギーの冪乗 \(E^{-\alpha}\,(\alpha \sim 3)\) で近似されるので、エネルギーの高い粒子ほど地球に降り注ぐ粒子の数は激減する。また、銀河系空間には磁場が存在するため、荷電粒子である宇宙線の軌道が曲げられる。したがって、宇宙線がやってきた方向を望遠鏡で覗いて見ても、宇宙線の源を特定することができない。


このように宇宙線は非常に高いエネルギーを持っているので、ほとんど光速に近い速度で宇宙空間を飛び回っているんだが、宇宙線の源はどこで、どのように加速されているのかが長い間謎だったのだ。


その後、2008年にNASAによって打ち上げられたフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡による観測で、「IC 443」と「W44」という2つの超新星残骸について2008年から2012年までの観測データの解析から、宇宙線陽子や原子核が周囲のガスと衝突して生成される中性パイ中間子が崩壊してガンマ線が放出されていることが確認され、宇宙線陽子成分の発生源が超新星残骸であることが特定されていた。ただ、ガンマ線は宇宙線電子からも生成されるため、これらがどの程度の割合で超新星残骸で生成されるのかはよく分かっていなかったようだ。


それでは、今回、宇宙線の起源の解明はどのようにしてなされたのだろうか?


研究チームは、ヘス望遠鏡(HESS telescope)と呼ばれるガンマ線望遠鏡による超新星残骸「RX J1713.7−3946(以後 RXJ1713)」からのガンマ線観測データを独自開発の新たな解析手法を用いて詳細に分析した。観測対象として「RXJ1713」が選ばれたのは、ガンマ線で最も明るい超新星残骸で、宇宙線起源の最有力候補として注目されていたからだ。


ガンマ線は陽子起源と電子起源の2つの過程でつくられる。陽子起源では、宇宙線陽子が星間ガスに含まれる星間陽子(水素原子や水素分子)と衝突してパイ中間子がつくられ、そのうち中性パイ中間子が崩壊することでガンマ線(光子)が生成される(\(\pi^0 \rightarrow 2\gamma\))。一方の電子起源では、高エネルギーの宇宙線電子が低エネルギーの光子(マイクロ波など)と衝突し、散乱することで、光子がよりエネルギーの高いガンマ線に変化することでつくられる(逆コンプトン散乱)。そして独自開発した解析手法を用いて、この2つの起源のガンマ線を分離することに成功し、全ガンマ線のうち70%が陽子起源、30%が電子起源であることが導かれた。このことが、宇宙線陽子の起源が超新星爆発にあることの決定的な証拠となったと、研究チームは結論づけている。


proton_gamma-ray
宇宙線陽子によってガンマ線が生成されるメカニズムの模式図
inverse compton scattering
宇宙線電子によってガンマ線が生成されるムカニズムの模式図


今回の研究で、100年来の謎であった宇宙線陽子の起源が超新星残骸にあることが示されたことで、同じような手法が他の超新星にも適用され、宇宙線研究に新たな時代が開かれるのだろう。それによって、新たな発見がなされることを期待したい。


関連記事はこちら。

sorae の記事:

https://sorae.info/astronomy/20210831-cosmic-rays.html

AstroArts の記事:

https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/12160_cosmicray

名古屋大学のプレスリリース:

https://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20210823_sci.pdf

国立天文台の記事:

https://sci.nao.ac.jp/main/highlights/20210823

Date: 2021/08/05
Title: 「スーパームーン」という言葉はあるのに、「スーパーサン」という言葉がないのはなぜ?
Category: 太陽系
Keywords: 太陽、地球、月、軌道、離心率、視直径、スーパームーン


ネットのニュースをチェックしていて次の記事を見つけた。

『「スーパームーン」はあるのに「スーパーサン」がないのはなぜ? 鍵は円と楕円のちがい』


地球や月の軌道は楕円軌道(地球や月に限らず、惑星や衛星の軌道は一般的に楕円軌道だ)なので、近点と遠点(地球の軌道の場合は近日点・遠日点、月の軌道の場合は近地点・遠地点)を通過するとき、地球から見た太陽や月の見かけの大きさは変わる。


月の場合は近地点を通過するときに満月や新月となる場合、「スーパームーン」と呼ばれ時々話題になるが(逆に遠地点の時の満月/新月は「ミニマムムーン」とか「マイクロムーン」と呼ばれる)、太陽の場合は地球が近日点を通過するときでも「スーパーサン」とは言わない。この違いは何なのか?

それは地球と月の軌道の離心率が違うからだ(soraeの記事のタイトルは「円と楕円の違い」となっているが、正確には「離心率の違い」とすべきでは?)。

もっとも、夜月を見ても、近地点の時と遠地点の時の月の見かけの大きさの違いを実感することはないが。ましてや、昼間に太陽を直視することはないので(日食メガネのような専用のグラスや遮光板などを使わないと、目を痛めたり失明する危険がある)、ふつうは近日点と遠日点の時の太陽の大きさの違いなど気にかけることはないが。


楕円軌道の長半径を \(a\) 、短半径を \(b\) とすると、離心率は

\begin{align} e=\sqrt{1-(b/a)^2} \end{align}

で表される。楕円軌道の場合は \(0 < e < 1\) で、離心率が小さいほど円軌道に近くなり、大きくなると細長い楕円軌道になる [1]。

そして、地球の軌道の離心率は 0.0167、それに対して月の軌道の離心率は 0.0554 と地球の軌道の離心率の 3.3 倍も大きい。 とは言っても、どちらの離心率も小さい値なので、地球の軌道も月の軌道も楕円軌道とはいっても限りなく円に近い楕円軌道なので、円軌道と差はごくわずかだ。


試しに軌道長半径を 1 として地球と月の軌道を重ね合わせるたものが下のグラフだ。グラフからわかるように、二つの軌道がほとんど重なって、違いがわからない(左下の図)。さらに、スケールを変えて描いてみてやっと違いが見えてくる(右下の図)。両者の違いはこれほとわずかなものなのだ。


earth_moon_orbit1
軌道長半径を 1 として地球と月の軌道を重ね合わせるたもの (1)
earth_moon_orbit2
軌道長半径を 1 として地球と月の軌道を重ね合わせるたもの (2)
x軸とy軸のスケールが異なることに注意。
図では比較のために円も描いてある。


次に、太陽と月の見かけの大きさだが、一般的には天体の見かけの直径を天球上の角度で表した視直径で表す。天体の真の半径を \(r\)、天体までの距離を \(d\)、視半径を \(\theta\) とすると、\(\sin\theta = r/d\) なので、視直径はその2倍の \(2\theta\) となる。ただし、\(\theta \ll 1\) なので \(\sin\theta \simeq \theta\) と近似でき、視直径は \(2\theta \simeq 2r/d\) と表すことができる。そこで、実際に数値を当てはめてみると、


(1) 太陽の視直径

太陽の半径は \(r_s = 6.9551 \times 10^5\, \rm km\) 、近日点距離は \(d_{sp} = 1.471 \times 10^8 \,\rm km\) 、遠日点距離は \(d_{sa} = 1.521 \times 10^8 \,\rm km\) なので、近日点と遠日点での太陽の視直径はそれぞれ \(2\theta_{sp} = 0.00946 \,\rm rad\) 、\(2\theta_{sa} = 0.00915 \,\rm rad\) となる。また、遠日点での視直径に対する近日点での視直径の比は \(\theta_{sp} / \theta_{sa} = 1.034\) 。つまり、近日点と遠日点での太陽の見かけの大きさの差は3%強ほどしかなく、明るさの違いは約7%弱でしかないのだ。


(2) 月の視直径

月の半径は \(r_m = 1,738\,\rm km\) 、近地点距離は \(d_{mp} = 363,304\,\rm km\) 、遠地点距離は \(d_{ma} = 405,495\,\rm km\) なので、近地点と遠地点での月の視直径はそれぞれ \(2\theta_{mp} = 0.00957,\rm rad\) 、\(2\theta_{ma} = 0.00857\,\rm rad\) となる(これらの値を見れば、地球から見た太陽と月の見かけの大きさがほぼ等しいことがわかる)。また、遠地点での視直径に対する近地点の視直径の比は \(\theta_{mp} / \theta_{ma} = 1.117\) 。つまり、近地点と遠地点での月の見かけの大きさの違いは12%ほどになり、明るさの違いは25%近くにもなるのだ。


試しに近日点/近地点と遠日点/遠地点での太陽と月の見かけの大きさの違いをグラフで描いてみると、その違いがよくわかる。


sun's apparent diameter
近日点と遠日点での太陽の見かけの大きさの比較
moon's apparent diameter
近地点と遠地点での月の見かけの大きさの比較


なので、スーパームーンは注目されニュースでも報道されるが、スーパーサン(そういう言葉が使われることはないが)は注目すらされないのだ。


関連記事はこちら。

sorae の記事:

https://sorae.info/astronomy/20210730-supermoon-sun.html

NASA Astronomy Picture of the Day:

https://apod.nasa.gov/apod/ap210708.html


[1] 一般的に円錐曲線の離心率は原点と焦点のずれを表していて、\(e = 0\) の場合は円、\(0 < e < 1\) の場合は楕円、\(e = 1\) の場合は放物線、\(e > 1\) の場合は双極線となる。

Date: 2021/07/22
Title: 「1729」という数字とは? - ハーディ・ラマヌジャン数
Category: 数学
Keywords: ハーディ・ラマヌジャン数、タクシー数


久しぶりに数学の話題を。

「1729」という数字を見て、何を想像するか?


1729年!

歴史好きな人はこう答えるかもしれない。1729年は日本では享保14年。8代将軍徳川吉宗の時代だ。吉宗の時代といえば享保の改革が有名だが、享保の改革が行われた時期は1716年(享保元年)から1735年(享保20年)(1745年とする説もあるようだ)にかけてなので、1729年はその真っ只中ということになる。ただ、1729年に大きな出来事があったかというと、その時代の略年譜には出てこないようだ(調べた限りでは)。

海外に目を転じてみても、1729年には目立った出来事はなかったようだ。強いてあげれば、ロシアの女帝エカチェリーナ2世が生まれた年ということかな?


さて、本題に入るとしよう。本題は数学の話だ。

数学の話と言っても、「1729は自然数または整数において、1728の次で1730の前の数である」と当たり前なことを言ってしまうと、話はそれで終わってしまう。

今回は、ハーディ・ラマヌジャン数またはタクシー数と呼ばれている数字についての話だ。

1729は2つの自然数の立方数で次のように表される。

\begin{align} \rm 1729=1^3+12^3=9^3+10^3 \end{align} このように2通りの2つの自然数の立方数、すなわち \begin{align} N=A^3+B^3=C^3+D^3 \end{align}

で表される最小の数が1729で、これをハーディ・ラマヌジャン数というのだ。


ここで、名前の由来となっているハーディとラマヌジャンについて少し書いてみよう。ハーディ(ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ(Godfrey Harold Hardy、1877-1947))はイギリスの数学者で、ラマヌジャン(シュリニヴァーサ・ラマヌジャン(Srinivasa Aiyengar Ramanujan、1887-1920))はインドの数学者だ。


ハーディは1877年にイギリスで生まれ、ケンブリッジ大学を卒業。その後、オックスフォード大学で教えたのち、母校ケンブリッジ大学教授となる。解析学や整数論で大きな業績を残し、生涯で300を超える論文を発表し、数々の賞を受賞している。そのため、ニュートン以降大陸に大きく遅れをとっていたイギリスの純粋数学を挽回させたと言われている。その一方で、生物学にも貢献しており、集団遺伝学における対立遺伝子の遺伝子頻度に関する法則を発見した。この法則は、ドイツの医師ウィルヘルム・ワインベルクも彼とは独立に発見しており、発見者二人の名前をとって「ハーディ・ワインベルクの法則」と呼ばれている。


Ghhardy@72
ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ
[Unknown author, Public domain,
via Wikimedia Commons]
Srinivasa Ramanujan - OPC - 1
シュリニヴァーサ・ラマヌジャン
[Unknown author, Public domain,
via Wikimedia Commons]


一方のラマヌジャンは1887年に現在の南インド、タミル・ナードゥ州(当時はイギリス領インド帝国)に生まれた。彼の家は極貧のバラモン階級の家庭で(バラモンはカーストの最高位の階級だが、”極貧のバラモン”って一体何だ?)、幼少期より徹底したヒンドゥー教の宗教教育を受けていたようだ(参照した記事によっては、商人の子として生まれたとするものもある)。高校での成績はあまり良くなく、高等数学の正式な教育は受けていなかった。しかし15歳のときにイギリスの数学者ジョージ・カーが1866年に書いた『純粋数学要覧(Synopsis of Pure Mathematics)』という数学の公式集に出会い、数学に没頭するようになる。


その後彼は奨学金を得てマドラス(現チェンナイ)にあるパッチャイヤッパル大学に入学したが、数学に没頭するあまり他の科目の授業には出席しなくなり、奨学金も打ち切られて学位を取得することなく退学に追い込まれてしまった。それでも数学の研究をやめることはなく、仕事をしながら研究を行っていたようだ。周囲の勧めもあり、イギリスの何人かの教授に自分の研究の成果を記した手紙を送ったが、ことごとく無視されてしまった。しかし、ハーディだけはラマヌジャンの才能を見抜き、彼をケンブリッジ大学に招いたのだ。こうして彼は1914年に渡英してハーディーと共同研究を行うようになったのだが、イギリスでの生活に馴染むことができず、やがて病気を患って帰国し、1920年に32歳という若さで亡くなった。


ラマヌジャンの業績としては、渡英後に発表した40編の論文のほかに、渡英前に数学的発見を記したノート、帰国後に記されたノートが残っているが、彼は大学で系統的な数学教育を受けておらず、「証明」という概念を持っていなかった。そのため、彼が発見した定理をハーディが証明するという方法をとっていたようで、その後も多くの数学者の協力で証明が続けられてきたが、その作業が完了したのが彼の死後57年も経った1997年のことだった。さらに彼が記したノートの全文の出版が完了したのは2018年のことだった(つい最近じゃないか!)。


ところで、ハーディ・ラマヌジャン数が別名「タクシー数」と呼ばれるのは、次の逸話からきているのだ。 病気を患って療養所に入っていたラマヌジャンのもとに、ハーディが見舞いに来た。そのとき、ハーディは「乗ってきたタクシーのナンバーが1729だった。たいして特徴のない数字だよ。」と言ったところ、ラマヌジャンは「そんなことはありません。とても興味深い数字です。それは2通りの2つの立方数の和で表される最小の数です。」と応じたという。つまり、\(1729 = 1^3+12^3=9^3+10^3\) で、\(1729\) は \(N=A^3+B^3=C^3+D^3\) という形で表すことのできる数 \(N\) のうち最小の数ということを即座に指摘したのだ。


ちなみに、ハーディは100点満点で数学者をランク付けしていて、ハーディ自身は25点、リトルウッド(John Edensor Littlewood, 1885-1977、イギリスの数学者)は30点、ヒルベルト(David Hilbert, 1862-1943、ドイツの数学者)は80点、ラマヌジャンは100点だったそうだ。ハーディは多くの業績を残しているにもかかわらず、謙遜して25点をつけたのに対して、ラマヌジャンに対しては満点と、ハーディが如何にラマヌジャンのことを高く評価していたのかがわかるエピソードだ。


関連記事はこちら。

サイエンス365daysの記事:

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/78216

Date: 2021/06/26
Title: ベテルギウス「大減光」の原因を解明か? - 最新の研究成果
Category: 宇宙
Keywords: オリオン座、赤色超巨星、ベテルギウス、大減光、スターダスト


2019年10月から2020年3月にかけて「大減光」が観測され、超新星爆発の予兆ではないかと話題になった、オリオン座の赤色超巨星ベテルギウスだが、ネットの記事によると、この大減光の原因について、新たな研究成果が発表されたようだ。


発表したのは、Miguel Montargès氏(パリ天文台/ルーヴェン・カトリック大学)率いる研究チームで、ヨーロッパ南天天文台(European Southern Observatory: ESO)が運営しているパラナル天文台(Paranal Observatory)にある超大型望遠鏡(Very Large Telescope: VLT、4台の口径8.2mの望遠鏡によって構成される)の観測装置「SPHERE」(Spectro-Polarimetric High-contrast Exoplanet REsearch instrument:分光偏光高コントラスト系外惑星研究機器)およびVLTの4台の望遠鏡を組み合わせた干渉計「GRAVITY」を使って、2019年12月から2020年3月にかけて撮影された画像データを解析した。彼らによると、減光中のベテルギウスは南半球の可視光での明るさが通常の10分の1まで暗くなったという。その後4月にはベテルギウスは元の明るさに戻っている。


eso2109b.jpg
[超大型望遠鏡(VLT)の観測装置「SPHERE」を
使って撮影されたベテルギウスの画像]
Credit: ESO/M. Montargès et al.

そして、彼らの研究によると、ベテルギウスの大減光のシナリオは次のようなものだ。


(1) まず、ベテルギウスから大きなガスの塊が放出されて、表面から遠ざかる。

(2) 続いて、ベテルギウスの表面(光球)の温度が局所的に低下する。

(3) 局所的な温度の低下は、放出されたガスの温度低下をまねき、それによって凝縮したガスから固体の塵が形成される。

(4) この塵が集まってできた雲が地球から見たベテルギウスの一部を隠した。そのため、地球からはベテルギウスの大減光として観測された。


今回の研究を率いたMontargès氏らによると、今回の観測で、いわゆるスターダスト(星屑あるいは宇宙塵)の形成を直接”目撃した”。そして、彼らが”目撃した”放出された塵は、地球型惑星や生命の構成材料になりうる、としている。


ベテルギウスの大減光をめぐっては、超新星爆発の予兆ではないかと巷では話題になっていた。我々の銀河系(天の川銀河)では、17世紀以降超新星爆発は観測されておらず(1604年のケプラーによって発見された超新星SN1604(ケプラーの超新星ともいう)が銀河系で観測された最後の超新星だ)、超新星に至る過程については、まだよくわかっていないこともある。しかし、今回の研究結果は、ベテルギウスの大減光は、星がその劇的な運命に向かう初期の兆候ではないことを示しているという。


今後の展望としては、研究チームは、ESOで現在建設中の超大型望遠鏡( Extremely Large Telescope: ELT、口径39mの次世代超大型望遠鏡で、初めて望遠鏡に光を入れる「ファーストライト」は2025年の予定)に期待を寄せているようだ。彼らによると、

  • ELTの比類のなき空間解像度により、ベテルギウスを驚くほど詳細に直接画像化することを可能する。
  • さらに、表面を高解像度で直接撮像できる赤色超巨星のサンプルを大幅に増やし、これらの巨大な星の謎を解明するのにさらに役立つ。

としている。


ELTが稼働を開始したら、どのような研究成果が出てくるか、その時が楽しみだな。


関連記事・論文はこちら。

sorae の記事:

https://sorae.info/astronomy/20210617-betelgeuse.html

ESO の記事:

https://www.eso.org/public/news/eso2109/

Nature に掲載された論文(概要):

https://www.nature.com/articles/s41586-021-03546-8

Date: 2021/05/08
Title: 「反物質」を精密測定 - 宇宙の謎解明へ新手法
Category: 物理
Keywords: 反物質、精密測定、レーザー冷却、ドップラー冷却


ちょっと前の記事だけど、興味深い記事を見つけた。それは
「反物質」を精密測定 宇宙の謎解明へ新手法 国際チーム
という記事だ。


僕らの体や周りの物体は原子でできている。その原子は、中心に原子核があり、その周りを電子が回っている。さらに原子核は陽子と中性子でできている(さらに突き詰めていいくと、陽子や中性子は3個のクォークで構成されているんだが、ここでは細かく言及はしない)。


ここに1個の陽子があるとする。陽子は \(\rm +1\) の電荷を持っていて [1] 、質量は約 \(\rm 1\,GeV/c^2\) [2]、スピンは \(\rm 1/2\) [3] の粒子だ。これに対して質量やスピンは同じだが、電荷の符号が反対の粒子が存在する。その粒子を「反粒子」と呼んでいて、陽子の例で言えば、陽子の反粒子「反陽子」の質量とスピンは陽子と同じだが、電荷は \(\rm -1\) となる。電子についても反粒子(「陽電子」という)が存在し、電子の電荷 \(\rm -1\) に対して陽電子の電荷は \(\rm +1\) だ。なお、電子(及び陽電子)の質量は \(\rm 511\,keV/c^2\) [4] 、スピンは \(\rm 1/2\) だ。


ここで水素原子を考える。水素は中心に1個の陽子があり、その周りを電子が1個まわっている。これに対して、中心に1個の反陽子があり、その周りを1個の陽電子がまわっているものを考えることができ、「反水素」と呼んでいる。このように反粒子で構成されている物質を「反物質」と呼んでいるのだ。


物質(粒子)と反物質(反粒子)が出会うと対消滅を起こして光子(ガンマ線)に変換される。例えば、電子と陽電子(静止エネルギーはそれぞれ \(\rm 511\,keV\))が出会うと、それぞれの静止エネルギーと運動エネルギーの和に等しい光子に変換される。電子と陽電子がもともと大きな運動エネルギーを持たない場合、運動量保存の法則から、2つの光子が等しいエネルギー(\(\rm 511\,keV\))を持って反対方向に放出される。このような対消滅の具体例として、ナトリウムの放射性同位体ナトリウム22(\(\rm ^{22}Na\))がある。\(\rm ^{22}Na\) の原子核が \(\beta^+\) 崩壊をすると、原子核中の陽子が陽電子を放出して中性子に変わる。この陽電子と原子核の周りにある電子が対消滅を起こして2個の光子に変換される(それぞれの光子のエネルギーは \(\rm 511\,keV\)) [5] 。


今から138億年前、宇宙はビッグバンによって誕生したが、その時物質と反物質は同じ数だけ作られたとされているが、現在の宇宙には反物質はほとんど存在しない。僕らの周りの世界も物質だけで反物質は存在しない。
では、なぜ反物質は消滅して物質だけの世界になったのか?
これが大きな問題で、これを解決するのが物理学の大きな課題の一つなのだ。


その課題に挑戦しているのが、カナダのブリティッシュコロンビア大学などの国際研究チームで、反水素原子を人工的に作り出して、レーザー冷却によって反水素原子の動きを極低温で制御する実験に初めて成功したという。


ここで、レーザー冷却とはどのようなものなのか?
ザックリと説明すると、以下のようなものだ。


光の粒子である光子は質量を持たないが、運動量は持っている [6] 。原子にレーザー光を照射すると、原子と光子が衝突した時の光子の運動量変化に起因する圧力(放射圧、または光圧ともいう)を原子は受けることになる。原子は通常運動しているので、原子からみた光の波長はドップラー効果によって変化する。原子の運動方向(つまり正面)から向かってくる光の波長は短くなり(青方偏移)、逆に後ろから照射されると光の波長は長くなる(赤方偏移)。ここで、照射するレーザー光の波長が原子が吸収する波長よりやや長波長側に調節されているとする。静止した原子は吸収波長に合致しない光は吸収しない。まず、光源から遠ざかる方向に運動している原子にとって、光の波長はさらに波長が長くなっているように見えるので、原子は光子を吸収しない。一方、光源の方向に運動している原子にとって(つまり原子と光子が正面衝突する)、光の波長は原子の吸収波長に合致した場合、原子は光子を吸収して減速する(原子は光子の運動量と同じ分だけの運動量を失う)。すると、電子が基底状態からより高いエネルギー準位に移って原子は励起状態となる。励起された原子は光子を再放出するが、その方向はランダムなため、その際の多くの原子にわたる正味の運動量は変化しない。結局は原子が光子を吸収した時の運動量変化がだけが残り、原子は減速されることになる。これは一次元での話だが、三次元空間の各軸について同時に行うことができ、三次元的に原子の運動量を減らす、すなわち冷却することができる。このようにレーザー冷却のうちドップラー効果を利用した方法はドップラー冷却とも呼ばれる。

レーザー冷却が最初に示されたのは40年以上も前のことだが、その間、固体物理学・凝縮系物理学に多くのブレークスルーをもたらしてきた。しかし、この技術はまだ反物質には利用されてこなかった。


今回論文を発表した研究者たちは、波長 121.6 nm の狭い線幅のライマン\(\alpha\)パルスレーザーを使って、反水素原子の 1S-2P 遷移を起こさせることで(励起させて)、磁気トラップに閉じ込めた反水素原子をドップラー冷却させた。実験は CERN(欧州合同原子核研究機構)の ALPHA-2(Antihydrogen Laser Physics Apparatus)実験装置を使って行われた。これは第2世代(そのため”-2”がついている)の反水素トラッピング実験装置だ。


実験の結果、研究チームは、波長が長い赤い方に波長を調整した(振動数を小さくした)一次元のレーザー冷却によって、反水素原子の横方向(\(z\)方向)の速度だけでなく、縦方向(\(x,y\)方向)の速度も減少したことを観測した。これは一次元のレーザー照射で三次元のレーザー冷却が実現していることを意味している。そして、横方向の運動エネルギーの中央値が1桁以上減少し、かなりの反水素原子群がマイクロ電子ボルト以下の横方向の運動エネルギーを達成しているのを観測している。 さらに彼らは、243.1 nm のレーザー光で誘起した反水素原子の 1S-2S 遷移のスペクトル幅を調べた分光実験でも、一次元のレーザー照射によって3次元レーザー冷却が起こっていて、レーザー冷却したとき(つまり反水素原子の速度が減速されたとき)のスペクトル線幅が、レーザー冷却しない場合のおよそ4分の1であることを観測している。


論文の著者らによると、今回実証されたレーザー冷却の手法を応用することによって、反物質研究に広範囲にわたる影響を及ぼす。より局所的で高密度の、より冷たい反水素原子のサンプルは、進行中の実験における反水素の分光学的および重力的研究を劇的に改善する。さらに、レーザー光によって反物質原子の動きを操作する実証された能力は、反原子泉、反原子干渉計、反物質分子の作成など、将来の実験に画期的な機会を提供する可能性がある、としている。


反水素原子は現代物理学の基本的枠組みに挑戦する機会を与える。つまり、反水素原子の性質とよく研究されている水素原子の性質を高い精度で比較することで、CPT対称性 [7] とアインシュタインの等価原理 [8] — それぞれ、場の量子論と一般相対性理論を支えている — を検証することが可能になる。そのためには、可能な限り低い運動エネルギーの反水素原子を準備することが重要になる。


反水素原子に、普通の水素原子とは異なる未知の性質が見つかれば、宇宙から反物質が消えた謎の解明につながる可能性がある。反物質の謎の解明は、僕らの宇宙の認識を根本的に変えるかもしれない。
今後の研究の進展に注目したい。


関連記事・論文はこちら。

産経新聞(電子版)の記事:

https://www.sankei.com/life/news/210401/lif2104010001-n1.html

Nature に掲載された論文:

https://www.nature.com/articles/s41586-021-03289-6

Nature の関連記事:

https://www.nature.com/articles/d41586-021-00786-6

CERN の記事:

https://home.cern/news/press-release/experiments/alpha-cools-antimatter-using-laser-light-first-time


[1] 電気素量 \(e\) を単位としている。電気素量は \(e = 1.6 \times 10^{-19} \rm C\) という値だ。


[2] より正確には陽子の質量は \(m_p = 938\,\rm MeV/c^2\) という値になる。素粒子の質量は静止エネルギーで表すのが普通だが、\(\rm kg\) で表すと \(m_p = 1.67 \times 10^{-27}\,\rm kg\) という値になる。


[3] スピンは粒子が持つ固有の角運動量でスピン角運動量ともいう。歴史的には粒子の「自転」のようなものだと捉えられてきたが、現在ではこの解釈は正しいとは考えられていない。ちなみに、半整数のスピンを持つ粒子をフェルミ粒子(フェルミオン)、整数スピンを持つ粒子をボース粒子(ボソン)という。


[4] 電子の質量を \(\rm kg\) で表すと \(m_e = 9.11 \times 10^{-31}\,\rm kg\) という値になる。


[5] \(\beta^+\) 崩壊は正の \(\beta\) 崩壊、または陽電子崩壊ともいい、陽子が陽電子と電子ニュートリノを放出して中性子に変わる現象で、一般的には陽子過剰な原子核(安定同位体より中性子が少ない核種)で発生する。反応式で書くと、 \begin{align} \rm p^+ \rightarrow n + e^+ + \nu_e \end{align} となる。これが原子核内で起こると、原子番号が一つ小さい元素に変化する。例えば、ナトリウム22の例で言うと、\(\rm ^{22}Na \rightarrow ^{22}Ne\) つまり、ナトリウム22(半減期約2.6年)がネオン22(安定同位体)に変わる。


[6] 振動数 \(\nu\) の光子のエネルギー \(\varepsilon\) と運動量 \(p\) は次のように表される。 \begin{align} \varepsilon = h\nu\,\,,\,\,p=\frac{h\nu}{c} \end{align} ここで、\(h\) はプランク定数、\(c\) は真空中の光の速度。


[7] 素粒子物理学の標準理論の基本的な対称性で、C(Charge)は電荷の変換(粒子と反粒子の入れ替え)、P(Parity)は空間を反転した変換(鏡に映した世界)、T(Time)は時間を反転した変換(時間を遡る)で、これらを3つの変換を同時に行っても、物理法則(方程式)が区別できないとき、CPT対称性が保たれている。水素原子と反水素原子の性質に違いが見つかれば、CPT対称性が破れていることになる。


[8] 局所的な領域では、運動による加速度と重力加速度が区別できないという原理。アインシュタインはこれを基本原理にして一般相対性理論を構築した。

Date: 2021/03/27
Title: 太陽活動が大幅に低下したマウンダー極小期には前触れがあった?
Category: 太陽系
Keywords: 太陽活動、マウンダー極小期、前触れ


ネットのニュースを検索していたら、興味深い記事を見つけた。

それは、太陽活動が大きく低下したマウンダー極小期に関する記事だ。


太陽はおよそ11年周期で変化する活動周期があることが知られているけど、それに加えて数百年から数千年の時間スケールで変動する長期的な変動周期も存在することが分かっている。さらに、そのような長期変動に関連して、数百年に一度、数十年にわたって太陽活動が低下することが知られている。


過去の太陽活動を調べる指標として、樹木の年輪に含まれている炭素の放射性同位体である炭素14(\(\rm ^{14}C\))や、氷床コアに含まれているベリリウムの放射性同位体であるベリリウム10(\(\rm ^{10}Be\))などが用いられる。これらの放射性同位体は、宇宙線生成核種と呼ばれ、宇宙線が地球の大気に入射したとき、窒素や酸素と衝突したときに生成される。炭素14は大気循環を経て樹木の年輪に取り込まれ、ベリリウム10は降雪などによって落下して氷床に取り込まれる。太陽活動が低下すると、太陽の磁場や太陽風が弱まる。そうすると、太陽系外から飛来する宇宙線(銀河宇宙線:主に陽子などの高エネルギーの荷電粒子)が地球に到達しやすくなる。つまり、炭素14やベリリウム10が多かった時期は、太陽活動が弱まっていたと推測されるのだ。そして、これらの核種の変動を調べた結果、過去1000年間では太陽活動の大きな低下が5回発生したことが示されているという。


また、太陽活動が変動すると太陽表面の黒点数も変動することが知られていて、活動が活発になってくると黒点が増加し、逆に活動が低下していくと黒点が減少する。


そして、17世紀半ばから18世紀初め頃に太陽活動が大きく低下した時期がある。「マウンダー極小期(Maunder Minimum: 1645-1715)」と呼ばれる期間で、望遠鏡による観測で太陽黒点数が大きく減少したことが知られている。太陽活動が低下すれば、地球に入射する放射エネルギーが減少して、気温の低下を招くことになる。この時期、ヨーロッパや北米などでは、冬は著しい極寒となり、夏は全然夏らしくない年が続いたという。その頃のロンドンでは冬になるとテムズ川が頻繁に凍結し、凍りついた川にはテントが並べられ、市民はアイススケートなどの娯楽を楽しんだという(冬の気温が上昇した1814年以降は川は凍結することはなくなった)。それだけではない。作物を育てる耕地面積や耕作期間が減少し、ヨーロッパでは繰り返し飢饉をもたらした。栄養と日照不足は人々の健康状態を悪化させ、1665年にはロンドンで、1720年にはフランスのマルセイユでペストが流行した。[1]


このような人間活動にも大きな影響を与える太陽活動の長期的低下は、今後も発生する可能性があると考えられていて、太陽活動の歴史を詳細に明らかにすることで、活動低下のメカニズムの解明、そして予測手法の確立は重要な課題となっている。


今回発表された武蔵野美術大学、山形大学、千葉大学、弘前大学の研究チームによる研究は、このような背景を受けてなされたもので、研究対象としてマウンダー極小期が選ばれたのは、活動低下の規模が大きく、さらに望遠鏡による黒点の観測データが充実しているからだ。望遠鏡が発明されたのは1608年で、ガリレオが望遠鏡を使って太陽の黒点の観測をしたのは1610年のことだった。それから35年後の1645年頃からマウンダー極小期が始まった。


そこで、発生直前の11年周期を詳細に分析することで、太陽活動の低下のプロセスに迫ることにしたという。11年周期の長さは、太陽内部の対流層での「子午面循環 [2]」の速度とも関係していることが示唆されていて、その変化の詳細を捉えることができれば、太陽内部の循環が活動低下に果たす役割を明らかにすることができるという。


過去の太陽活動は、樹木の年輪に含まれる炭素14や極域で採取される氷床コアに含まれるベリリウム10の濃度の変動から間接的に調べることができる。ただし、どちらにも長所や短所があり、炭素14の場合は、大気中で変動の振幅が弱められる欠点がある。特に11年周期のような短い周期を扱う場合、その影響が顕著で、詳細に復元することが困難だったという。その一方で、年輪は氷床コアに比べて、正確な年代軸で太陽活動を明らかにすることができるという強みもある。


そこで、今回の研究では、山形大学所有の加速器質量分析計のシステム改良と重複測定を行うことで、炭素14の分析精度を高めたという。それと同時に、炭素14の変動から黒点数の11年周期変動の詳細情報を抽出する手法が探られ、その結果、測定精度を従来の4倍に高めることに成功したという。また、11年周期の1サイクルごとの長さを精密に復元することにも成功したという。


そして、奈良県室生時から採取されたスギ(樹齢382年)と伊勢神宮スギ(樹齢439年)の年輪を用いた研究で、樹木年輪に含まれる炭素14の濃度データを用いて過去の太陽活動を復元した結果、17世紀中頃から70年間にわたって続いた太陽活動の低下(マウンダー極小期)の直前に、通常であれば約11年周期の示す太陽活動周期が、最長で16年に延びていたこと、また、活動の低下が40年程度の準備期間を経て緩やかに発生していたことが明らかにされた。


今回の研究では、炭素14を高精度で分析することで、太陽活動の11年周期について詳細な情報を得ることが可能であることが明らかにされた。樹木年輪や氷床コアだけでなく、堆積物などを用いた研究も進んでいて、これらを相補的に用いることで、今後、太陽活動の低下や回復の物理メカニズムについて、より一層理解が深まることが期待されているようだ。


ところで、現在の太陽活動についてはどうかというと、1996年から始まった「サイクル23」は長さが12年4か月に延びて以来、やや低調な傾向を示しているという。2009年1月に始まり2020年に終わった「サイクル24」は顕著な延びは示さなかったそうだが、今年始まったばかりの「サイクル25」の動向によっては、更なる活動低下が起こる可能性もあり、今後も注視していく必要があるという。


太陽活動が低下したり活発化したりすると、地球にも影響を及ぼし、さらには僕らの生活にも影響を及ぼすため、太陽活動の動向は気がかりではある。今後の研究結果にも注目していこう。


う〜ん、今回は文章ばかりになってしまった。


関連記事はこちら。

マイナビニュースの記事:

https://news.mynavi.jp/article/20210311-1797262/

sorae の記事:

https://sorae.info/astronomy/20210311-maunder-minimum.html

AstroArts の記事:

http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/11895_cycle

武蔵野美術大学プレスリリース資料:

https://www.musabi.ac.jp/wp-content/uploads/2021/03/pr_20210310_1.pdf


[1] 1665年にロンドンでペストが流行したため、ニュートンは一時的に故郷のウールスソープに戻り、そこで微分積分法や万有引力の法則の発見につながったのだ。


[2] 太陽内部のうち、中心から 0.7~1.0 太陽半径のところにある電離した水素プラズマの対流層に存在する子午面内の循環流のことを子午面循環という。子午面循環は地球大気でも見られ、赤道から極(北極または南極)までの間を、緯線に沿っていくつかに区切り、その領域内を空気が対流している。

Date: 2021/02/28
Title: NASAの火星探査車「パーサヴィアランス」火星に着陸
Category: 太陽系
Keywords: 火星、探査車、地球外生命、痕跡


米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「パーサヴィアランス(Perseverance)」(パーシビアランスとする記事もある)が、2月18日午後(日本時間19日午前)、火星への着陸に成功し、火星の新たな”住人”(生身の住人ではないが)が1台増えたことになる。火星表面を自動走行して火星を探査する火星探査車としてはこれで5台目で、すべてNASAが送り込んだものだ。


今回のミッションの大きな目的は、火星の土の中から微生物が確かに存在した痕跡を見つけ、地球外生命の証拠を見つけ出すことだ。つまり、昔から言われてきた大きな疑問「地球以外に生命体はいないのか?」に直接的な答えを出すことだ。

Perseverance and ingenuity
[パーサヴィアランスとインジェニュイティのイラスト]
Credit: NASA/JPL-Caltech, Public domain,
via Wikimedia Commons

ここで、火星探査について少し振り返ってみよう。


これまで火星探査を行っているのは、アメリカ、ロシア(旧ソ連時代も含む)、ヨーロッパ(欧州宇宙機関:ESA)、日本、中国だ(他にも計画中のものや進行中のものがあるようだ)。この中で多くの予算や人員を注ぎ込んできたのはアメリカと旧ソ連だ。最初に火星への着陸に成功したのは、1971年に当時のソ連が打ち上げたマルス3号だった(ほぼ同時に打ち上げられたマルス2号は火星着陸に失敗)。しかし、着陸後20秒ほどで通信が途絶し、火星の探査は失敗に終わった(その後、1973年に打ち上げられたマルス6号も、火星への着陸に成功したが、着陸後すぐに通信途絶)。そして、着陸機や探査車を火星に着陸させ、探査を行ったのは今のところアメリカのみだ。


アメリカで最初に火星着陸に成功したのは、NASAが1975年に打ち上げられたバイキング(Viking)1号と2号だ。バイキング1号と2号の着陸機はともに1976年に火星に着陸後、火星地表の鮮明が画像を送信し、人類は初めて火星の地表から眺めた景色を目にすることになった。


次に火星着陸に成功したのは、1996年に打ち上げられたマーズ・パスファインダー(Mars Pathfinder)で、1997年に火星のエリーズ渓谷に着陸した後、着陸機に格納された探査車「ソジャーナ」によって着陸地点周辺を探査。探査車にはカメラのほかに様々な観測機器が搭載され、地表の画像だけでなく、磁力、気温、気圧などの他に、岩石に含まれる元素分析も行われた。


その後、2000年代になると、2003年6月10日および7月7日に2機の無人火星探査車が打ち上げられた。このミッションはマーズ・エクスプロレーション・ローバー(Mars Exploration Rover: MER)と呼ばれ、2機の探査車はそれぞれ「スピリット(Spirit): MER-A」、「オポチュニティ(Opportunity): MER-B」と名付けられ、それぞれ2004年1月3日および1月25日に火星に着陸した。着陸の方式は、エアバッグを使って着陸の衝撃を吸収して着陸させるやり方だ。”双子の姉妹”のようなこの2機の探査車は、まるでSF映画に出てくるような自走式ロボットのような外見がとても目を惹くものだった。着陸地点は、スピリットは「グセフ・クレーター」、オポチュニティは「メリディアニ平原」だ。そしてミッションの目的は、火星の地質を調査し、岩石や土壌の分析することで、かつて火星に水が存在したことを証明することだった。


NASA Mars Rover
[オポチュニティのイラスト]
Credit: NASA/JPL/Cornell University, Maas Digital LLC,
Public domain, via Wikimedia Commons

”双子の姉”スピリットは火星着陸後、2009年に車輪が砂地にはまって動けなくなるまで、火星表面を 8 km 近く走行しながら探査を行った。その後は定点観測を続けていたが、ついに2010年3月22日に通信が途絶し、およそ6年にわたる火星表面での活動に終止符を打った(運用終了は2011年5月24日)。この間、スピリットは、拾いあげた岩石が火山岩の一種である玄武岩であることを突き止め、さらに別の岩では、この岩が複数回水にさらされたことを発見した。


他方、”双子の妹”オポチュニティは、火星着陸後”精力的に”火星表面を走行し、様々な地質学的調査を行った。2015年3月24日には走行距離がフルマラソンと同じ 42.195 km に達した。そして2018年6月10日に通信が途絶するまでの実に約14年間にわたって活動を続けた(運用終了は2019年2月14日)。この間、まず着陸地点の土壌や岩石を分析した結果、ジャロサイトという鉄の硫酸鉛鉱物、さらにはヘマタイト(赤鉄鉱)が存在することが明らかになり、過去に水が存在した証拠であると考えられるようになった。その後、オポチュニティは太古の隕石衝突でできたクレーター周辺部の岩石を分析した結果、水による作用でできるスメクタイトと呼ばれる粘土鉱物を発見した。


このように、スピリットとオポチュニティは、火星にはかつて水が存在したと考えられる証拠を発見してきたのだ。


スピリット、オポチュニティに続いて、火星に降り立ったのは「キュリオシティ(Curiosity)」だ。これはNASAの火星探査ミッション、マーズ・サイエンス・ラボラトリー(Mars Science Laboratory: MSL)に搭載された火星探査車(ローバー)だ。このミッションの目的は、過去および現在の火星に、生命や生命活動の痕跡、生命が存在しうる環境があった(ある)証拠を見つけることだ。


PIA16239 High-Resolution Self-Portrait by Curiosity Rover Arm Camera square
[火星上のキュリオシティ]
Credit:NASA/JPL-Caltech/Malin Space Science
SystemsDerivative work including grading,
distortion correction, minor local adjustments, crop
and rendering from tiff-file: Julian Herzog,
Public domain, via Wikimedia Commons

キュリオシティは2011年11月26日に打ち上げられ、2012年8月6日にゲールクレーター内の山のふもとに着陸した。降下・着陸の方式は、まず火星大気突入後はキュリオシティを格納したエアロシェルの空気ブレーキで減速し、その後パラシュートを開いてさらに減速。高度約1.8km、速度約100m/sの時点で降下ステージを切り離してロケット噴射で減速し、最後はスカイクレーンでキュリオシティを吊り下げて軟着陸させた(着陸後、スカイクレーンは飛び去って、離れた場所に落下)。


キュリオシティは着陸後、現在もなお運用が続けられているが、その間、2013年にはイエローナイフ湾と呼ばれる、かつて川が流れていたか湖底だった場所から採取した岩石を分析したところ、生命の材料となりうる有機分子を構成する主要な元素を発見した。さらに2018年にはゲールクレーターのかつて湖底だったとみられる場所から採取した約30億年前の堆積岩からも有機分子を発見した。同時に火星の大気中にあるメタンの量が季節に応じて変動することも発見した。


有機分子の存在は生命活動と関連があるが、非生物学的なプロセスでも生成されるので、これらの発見が即「生命がいた」ということにはならないが、今後も新たな証拠を求めて探査を続けていく必要があるのだ。


以上、これまでの火星探査についてざっとみてきた。そして、いよいよ今回着陸に成功した「パーサヴィアランス」の番だ。パーサヴィアランスはNASAの火星探査ミッション、マーズ2020の火星探査車で、2020年7月30日に打ち上げられ、2021年2月18日に火星の「ジェゼロ・クレーター」に着陸した。着陸のシステムは先代のキュリオシティと同様に、ヒートシールド、パラシュート、スカイクレーンが用いられた。今回はパラシュートでの減速、スカイクレーンで吊り下げられた着陸の様子が映像で公開され、さらに着陸後、搭載されたマイクで収録した音も公開された。人類が初めて聞く「火星の音」だ。



[Perseverance Rover’s Descent and Touchdown on Mars (Official NASA Video)]

パーサヴィアランスは今後、過去に生命が存在する環境があったのか、また過去に存在したかもしれない生命の証拠や痕跡を探す旅に出かける。採取した岩石や土壌のサンプルは、将来のサンプルリターン・ミッションに備えてサンプルチューブに詰めて、火星表面に置いていくことになっている。それに加えて、パサヴィアランスには「インジェニュイティ(Ingenuity;創意工夫)」と名付けられた小型ヘリコプターが格納されていて、火星での飛行試験が行われる予定だ。


NASAの火星探査車(マーズ・ローバー)は、「ソジャーナ(アメリカの女性公民権運動家ソジャーナ・トゥルースにちなむ)」に始まり、「スピリット(情熱)」、「オポチュニティ(好機)」、「キュリオシティ(好奇心)」とつづき、今回は「パーサヴィアランス(不屈の精神)」だ。名前の通り「不屈の精神」で探査をして、世界中の人が驚くような発見をしてくれることを期待したい。


関連記事・サイトはこちら

日経電子版の記事:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN18EBQ0Y1A210C2000000/

ナショナルジオグラフィックの記事(1):

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/021900084/

ナショナルジオグラフィックの記事(2):

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/022500093/

NASA・パーサヴィアランスの公式サイト:

https://mars.nasa.gov/mars2020/

Date: 2021/01/31
Title: 今年の節分は2月2日
Category: 天文
Keywords: 暦、立春、節分、黄道、太陽黄経


この前年が明けたと思ったら、明日で1月も終わりだ。あぁ、歳をとってくると、月日が流れるのが速いこと!


明日から2月が始まるが、2月といえば節分だ。普通節分といえば2月3日だと答える人が多いと思うが、節分の日は2月3日に固定されているわけではなく、今年の節分は2月2日なのだ。節分が2月3日ではないのは1984年(昭和59年)の2月4日以来の37年ぶりで、2月2日になるのは1897年(明治30年)以来の実に124年ぶりのことなのだ。


では、なぜ節分の日がこのようにずれたりするのかということなんだが、その前に節分とは何かということについて。


「節分」とは各季節の始まりの日(立春、立夏、立秋、立冬)の前日を指す雑節の一つで、節分とは「季節を分ける」ということも意味しているそうだ。4つの季節を分けていた節分も、そのうち(江戸時代以降とされる)立春の前日だけが残ったとされているようだ。そして、節分の日がずれるということは、そもそも立春の日が変動するからなのだ。


それでは、立春の日はどのように変動するのかというと、こういうことだ。


地球は太陽の周りを1年かけて回っている。地球の自転軸(地軸)は地球の公転軌道面に対して垂直ではなく傾いているので(地軸の傾きは23.4°)、地球が軌道上のどの位置にいるかによって季節が変わってくる。そこで、1年の太陽の黄道上の動きを視経度15°ごとに24等分し、その分割点を含む日に季節を表したものが二十四節気で、立春もその一つなのだ。黄道を基準にした座標系である太陽黄経が0°の時が春分、90°が夏至、180°が秋分、270°が冬至で、立春は315°だ。そして、分点(春分、秋分)や至点(夏至、冬至)などから出発して元に戻ってくるまでの周期が1太陽年だ。


sun-earth
太陽に対する地球の分点(春分、秋分)や至点(夏至、冬至)での位置(概略図)


暦の上では1年は365日(閏年は366日)だが、地球の運動による季節の巡り、つまり1太陽年が真の1年というわけなのだ。そして、1太陽年は365.242189日=365日+5.8時間となるのだ。この6時間弱という余分な時間のために、二十四節気の時刻が年々遅くなっていくが、4年経つとそのずれがほぼ1日分になるので、閏年を設けることでだいたい元の状態にもどしているのだ。なので、閏年の2月29日より後の二十四節気の時刻は4年前より少し早くなり、立春の時刻は2020年は2月4日18時03分なのに対して、2021年では2月3日23時59分となるのだ(4年前の2017年は2月4日0時34分)。


このような理屈で立春の日が決まるので、1985年以降2月4日に納まっていた立春の日が今年(2021年)は2月3日に移動することになったので、その前日である節分も2月2日に移ったというわけなのだ。


さらに来年以降の立春はどうなるのかというと、2022年〜2024はまた2月4日(したがって節分は2月3日)に戻り、2025年に再び2月3日(節分は2月2日)となるのだ。このようなパターン(年を4で割ったときの余りが1の年の立春は2月3日で、それ以外は2月4日)が2056年まで続くのだ。


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国立天文台の暦に関するサイト:

https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/topics/html/topics2021_2.html

https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/topics/html/topics2012_2.html

https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/yoko/2021/rekiyou212.html

https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/B5A8C0E12FB5A8C0E1A4CEA4E1A4B0A4EAA4CEBCFEB4FC.html